親族が亡くなった際に、遺言書を保管していた場合や遺言書を見つけた場合は、遺言書の検認をおこなう必要があります。
遺言書の検認は、遺言書の偽造・変更を防止しその内容を確認するためにおこなわれ、手続きは遺言を残した人の最後の住所地の家庭裁判所でおこなわれます。
しかし被相続人の死後は何かと忙しいので、検認手続きをしないとどうなるか疑問に思っている方もいるでしょう。
そこで本記事では、遺言書の検認が必要なケースや遺言書を検認しないリスク、検認手続きの流れについて解説します。
本記事を読むことで、遺言書の検認をしないとどうなるかをイメージできるようになるでしょう。
遺言書を保管していたり、保管されていた遺言書を見つけたりした際には遺言書の検認が必要ですが、全てのケースにおいて検認をおこなわなくてはいけないわけではありません。
遺言書の形式や保管の方法によっては、遺言書の検認は不要となります。
遺言書の検認が必要かどうかは以下の表を参考に確認してください。
遺言書の種類
|
遺言書の概要・保管方法 | 検認の必要有無 | |
自筆証書遺言 |
遺言者自身が保管 | 遺言者自身が本文を記述し作成する遺言書で、遺言者が自分で保管する | 必要あり |
法務局で保管 |
遺言者自身が本文を記述し作成する遺言書で、法務局に保管を依頼する | 必要なし | |
公正証書遺言 |
公証役場にて証人立会いのもと、公証人によって作成される遺言書で、原本は公証役場に保存される | 必要なし | |
秘密証書遺言 |
遺言内容を秘密にしたままで公証役場にて遺言の存在だけを証明してもらう遺言書で、遺言者自身が持ち帰り保管する | 必要あり |
遺言者自身で保管していた自筆証書遺言や、秘密証書遺言を見つけた場合、遺言書の検認をおこなうことが必要です。
以下では遺言書の検認をおこなわない際に考えられる4つのリスクについて解説します。
遺言書の検認をおこなわないと、相続手続きを進められません。
被相続人の銀行口座や証券の名義変更や解約、相続登記などの相続手続きをおこなう場合、検認済証明書を提出しなくてはなりません。
検認済証明書は、文字通り遺言書の検認が完了したことを証明する書類です。
そのため遺言の検認が完了し、検認済証明書が発行されないと相続手続きをすすめられないことになります。
検認を受ける前に遺言書を開封すると、ほかの相続人から偽造・変造を疑われて相続トラブルに発展する可能性があります。
検認は遺言書が偽造・変造されていないことを証明するための手続きです。
その手続きをとばして遺言書を開封することで、ほかの相続人に不信感をもたれてしまう可能性があるのです。
自筆証書遺言を自宅で保管する場合や秘密証書遺言を選んだ場合は、検認をおこなわずに開封してしまうと違法行為とみなされます。
その結果、5万円以下の過料を科されることがあるのです。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
遺言書を見つけたのに、自分に不利な内容が書かれていたことから相続人が隠して検認しないといったケースがあります。
遺言書の隠匿は相続欠格事由のひとつなので、隠匿の事実が発覚するとその相続人は相続人としての地位をうしなうことになるのです。
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
(略)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
引用元:民法 | e-Gov法令検索
遺言書の検認がおこなわれなかった場合でも、遺言の内容が無効になるわけではありません。
また、遺言の中身を確認し、検認しないまま遺産分割協議をおこなうことも可能です。
そのうえで相続人全員が合意しさえすれば、遺言内容を無視して遺産分割をすることもできます。
しかし遺言書に従う場合や、相続人全員の合意がえられない場合などは検認をおこなわないと本項で紹介したリスクが生じるのです。
遺産分割をスムーズにすすめるためにも、被相続人の死後なるべく早めに検認をおこなうことが推奨,されます。
遺言書の検認手続きは以下の流れで進めていきます。
遺言者が亡くなり、遺言書を発見したら、検認の申し立てをするため以下の必要書類を用意します。
書類の準備ができたら、家庭裁判所に申し立てをおこないます。
申し立て先は、遺言者が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所です。
郵送もしくは直接書類を提出することで申し立てがおこなえます。
家庭裁判所に検認の申し立てをおこなうと、ほかの相続人に検認期日の通知がおこなわれます。
相続人に検認を申し立てることを事前に伝えておくと、よりスムーズに手続きを進められるでしょう。
検認を申し立てることで、遺言書があると知らなかった相続人も、遺言書の存在を認識することになります。
検認期日を迎えたら家庭裁判所に出向き、検認に立ち会います。
検認では、相続人と裁判所の職員が立ち会い、遺言書の開封をおこないます。
なお、遺言書の検認には申立人の参加は必須となりますが、ほかの相続人は欠席することが可能です。
遺言書の検認に立ち会う際は以下の持ち物を忘れないようにしましょう。
遺言書の検認に立ち会ったら、遺言書を返還してもらい、検認済証明書を申請します。
検認済申請書は金融機関での口座解約手続きや不動産の相続登記などで必要となるため、忘れずに申請しましょう。
なお、ほかの相続人には検認済通知が送付されます。
ただし、この通知に遺言書の内容は記載されません。
検認期日に出席しなかった相続人が遺言内容を知りたい場合は、ほかの相続人に確認するなどの対応が必要です。
遺言書の検認自体には期限は定められていません。
しかし、遺言書の検認後におこなう可能性がある相続放棄の手続きや相続税の申告には、それぞれ3ヵ月以内・10ヵ月以内と期限が定められています。
そのため、遺言書の検認手続きは速やかにおこなうべきといえるでしょう。
なお、検認手続きには早くて数週間、長いと1ヵ月ほどの時間がかかるため、なるべく早く行動しはじめることをおすすめします。
最後に遺言書の検認手続きに関するよくある質問とその回答を紹介します。
遺言書を開封してしまった場合でも検認手続きは必要です。
検認をおこなうことで相続手続きに必要な検認済証明書が発行されるほか、相続人間のトラブルを避けることにも繋がります。
遺言書の検認は、あくまで遺言書自体の内容を確認しほかの相続人へ通知するための手続きです。
遺言書の法的効力を認める手続きではありません。
そのため検認をおこなったからといって、必ずしも遺言書とおりに遺産分割をする必要はないのです。
遺産相続において遺言書の内容を優先して遺産分割をおこなうことは多いですが、相続人全員の合意があれば検認済の遺言書であったとしても、その内容に従わず遺産分割の内容を決めることも可能です。
遺言書の検認には、申立人の参加は必須であるものの、ほかの相続人の参加は自由となります。
遺言書の検認を申し立てると相続人には検認期日が通知されますが、あくまでも検認がおこなわれる旨の通知だと認識しておきましょう。
遺言書の検認に立ち会わなくても大きなデメリットはありません。
ただし、開封された遺言の内容をいち早く確認したい場合は、検認に立ち会うことをおすすめします。
遺言書の検認の立ち会いについて、申立人は出席が義務付けられていますが、ほかの相続人に対しては弁護士の代理出席が可能です。
遺言書が複数あるのであれば、その全てに対して検認が必要です。
遺言書が複数ある場合、そのうちどれに効力があるか検認手続きの段階ではわかりません。
たとえば一番日付が新しい遺言書でも、内容に不備があり無効となってしまうこともありえるのです。
その遺言書には、相続財産の記載に漏れがある可能性も十分にあります。
そのため全ての遺言書を検認したうえで、どの遺言書に効力があるか確認する必要があるわけです。
遺言書の検認とは遺言の開封に裁判所の職員が立ち会い、遺言書の内容に偽造や変更がないことを証明するためにおこなわれる手続きです。
しかし、遺言書によっては不要な場合があったり、手続きの流れの中では注意しなければいけない点も数多くあったりします。
遺言書に関するトラブルや相続問題に関する悩みを抱えたら、弁護士に相談するのがおすすめです。
経験豊富な弁護士であれば、状況にあわせた最適なアドバイスを提供してくれるでしょう。
本記事や弁護士からのアドバイスをもとに、遺言書検認や相続手続きを進めましょう。
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