被相続人が亡くなり、遺産分割協議をおこなう必要があるにもかかわらず、相続人のなかに連絡が取れない人がいるときは、どうすればよいのでしょうか。
1人でも連絡拒否している相続人がいる場合、相応の手続きを踏まなければ遺産相続ができません。
その場合、相続が複雑になるため、なんとか連絡を取って話し合いで解決するのが一番です。
なるべく揉めずに相続手続きを終わらせるには、どうすればよいのでしょうか。
本記事では、特定の相続人と連絡がつかない状態のデメリットや、連絡拒否をしている相続人と遺産分割協議を成立させるコツなどを解説します。
相続手続きを進めるにあたって、被相続人名義の預貯金口座の解約と払戻しや、不動産の名義変更をする際、遺言書がない場合は、遺産分割協議書の提出が求められます。
遺産分割協議書とは、遺産の分け方について、相続人全員が合意していることを証明するための重要な文書です。
相続人全員の合意が証明できなければ、一部の相続人だけが不当に利益を得るようなことにつながり、相続争いを引き起こしかねません。
そのため、銀行などは遺産分割協議書などで、相続人全員の合意を確認したうえで、手続きに応じることになっています。
遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印する必要があり、預金相続においては印鑑登録証明書も添付しなければなりません。
このように、相続人全員の協力がなければ、遺産分割協議書は作れず、相続手続きはできないのです。
そのため、もしも相続人の中に非協力的な方がいれば、遺産分割協議書への押印や印鑑登録証明書が得られず、相続手続きをスムーズに進めることができません。
相続を進めたいのに、ほかの相続人から連絡拒否をされている場合、どうすればよいのでしょうか。
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合い、遺産分割協議書を作成する必要があります。
遺産分割協議書は相続人全員の合意が必要であるため、連絡がつかない相続人がいる場合は、さまざまな手段を講じて、まずは連絡を試みることが重要です。
これまで連絡が取れていたにもかかわらず、遺産分割に関しては無視されているという場合もあれば、そもそも付き合いがなかったから連絡が取れないという場合もあるでしょう。
それぞれの状況に応じて、遺産分割協議をスムーズにおこなうための最適な方法は異なります。
手紙やメールで事情や状況を説明することはもちろん、郵便の記録が残る書留などの手段を選ぶことも大切です。
連絡先がわからない場合、まずは役所で連絡をしたい相続人の「戸籍の附票」を取得しましょう。
戸籍の附票を取得できるのは、その方の本籍地の市区町村窓口です。
戸籍の附票には最新の住所が記載されているので、最新の住所地がわかれば少なくとも手紙を出すことができるでしょう。
ただし、戸籍の附票を請求できるのは、戸籍に記載されている本人やその配偶者・父母・祖父母・子ども・孫などの直系家族のみで、兄弟姉妹や第三者が取得するためには一定の理由が必要となります。
手紙には、被相続人が亡くなって相続が発生したことや、遺産分割協議が必要なことなどを記して送りましょう。
手紙の内容としては、急な連絡でも相手が不快にならず、かつ理解しやすいような書き方を心がけるなど、十分な配慮が大切です。
このとき、相続手続きには期限があるため、いつまでに手紙の返事がほしいかを記載しておくのも重要です。
また、手紙だけで全てを理解してもらうことは難しい可能性もあるため、電話番号も記載し、電話での連絡を促すのもよいでしょう。
もし、連絡先はわかっているにもかかわらず、連絡を無視されているという状況であれば、本記事内「連絡拒否をする相続人との遺産分割協議を成立させるコツ」を参照してください。
被相続人の遺言書があり、どの財産を誰に譲るのかを指定している場合は、遺産分割協議をする必要はありません。
相続人全員に連絡をとる必要はなく、遺言書に基づいて手続きを進めることになります。
ただし、これはあくまでも遺言書が有効なものであることが前提となります。
また、遺言書のなかで相続人として指定されていない方であっても、遺留分が保証されている一定の法定相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合には、遺留分侵害相当額を分けなければいけません。
民法で定められている遺留分を請求できる相続人(遺留分権利者)とは、被相続人の配偶者と、子ども・両親などの直系卑属および直系尊属です(被相続人の兄弟姉妹は請求できません)。
一部の相続人に連絡拒否をされ、相続手続きができない場合、さまざまなデメリットが生じます。
相続手続きができない大きなデメリットとして、被相続人の財産を活用することができないことが挙げられます。
銀行が被相続人の死亡を把握すると、故人名義の口座は凍結されます。
預貯金の全額を引き出すには、相続人全員の合意を証明する必要があり、全員の協力が必要です。
被相続人の預貯金を相続する場合、解約や名義変更の手続きをしなければなりませんが、相続人のうち1人でも合意が得られなければ、これらの手続きをおこなうことができません。
相続手続きをしないまま10年が経過すると、休眠預金となるのが通常です。
また、銀行が統廃合などによってなくなったり、支店が閉店したりしている可能性もあります。
それによって、預金口座を復活させる手続きに手間や時間を要することが予想されます。
なお、葬儀などでどうしてもお金が必要な場合は、預貯金の仮払い制度(相続預金の払戻し制度)を利用することで、一部の相続人によって一定額を引き出すことが可能です。
詳細については、預貯金のある各金融機関へお問い合わせください。
被相続人の財産として株式がある場合も、相続手続きをしなければ、株主所在不明だと判断され発行会社が買い取ってしまったり、売却されたりしてしまうこともあります。
いずれにしても、3年〜5年で権利が消滅するリスクがあるため、気をつけましょう。
相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に申告と納税をしなければなりません。
10ヵ月というと、余裕があるように思えますが、財産調査・相続税評価額の計算・遺産分割協議・相続税申告書の作成など、期限内におこなわなければならない手続きは数多くあります。
期限に間に合わなければ、延滞税や無申告加算税が加算されます。
相続税が減税あるいは免税される特例を活用することもできなくなるため、相続税が高くなってしまいます。
また、時間がないからと焦って手続きをしたために財産評価を間違えると、過少申告加算税が加算されるリスクもあります。
さらに、納税が先延ばしになることで財産を差し押さえられるおそれもあります。
被相続人の兄弟姉妹を除く一定の法定相続人には、遺留分が認められています。
遺留分は、一定の法定相続人が確実に相続できる遺産の取得割合です。
しかし、連絡が取れない相続人がいることで相続手続きが進まなければ、たとえ遺留分をもらえる立場であっても、もらうことができません。
また、遺留分が侵害されたときには侵害相手に対して返還請求が可能ですが、相続開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内が請求期限です。
また、たとえ遺留分の侵害を知らなかったとしても、相続開始日から10年後には遺留分侵害額請求権は除斥期間の経過により消滅します。
加えて、たとえ遺留分侵害請求権を行使したとしても、実際に支払い請求をおこなわなければ、5年で金銭債権の請求権が消滅してしまうため注意しましょう(2020年3月31日以前におこなわれた遺留分侵害額請求の時効期間は10年)。
遺産分割自体には期限はありません。
しかし、手続きをせずに放置しておくと、相続関係が複雑になる可能性が高くなります。
遺産分割協議には相続人全員の参加が必要ですが、相続人に重度の認知症があるなど判断能力がない場合は協議に参加することができません。
相続の権利を失うわけではないため、このような状況下で協議をおこなうためには、成年後見人など相続人の代理人を立てなければなりません。
また、相続登記の手続きを何年も放置し、相続人が亡くなれば、その子どもたちが新たに相続に関わることになります。
相続登記には相続人全員の合意が必要です。
そのため、時間を置くほど相続に関わる人が増え、手続きが煩雑になってしまいます。
遺産分割自体に期限がなくても、相続税の特例や控除を利用したい場合には、相続開始後10ヵ月以内におこなう必要があります。
たとえば、相続税には配偶者の税額軽減の制度があります。
配偶者の相続額が1億6,000万円以下もしくは法定相続分の範囲内なら相続税がかかりません。
また、小規模宅地の特例という制度もあります。
この制度を活用すれば、自宅や事業用地として使っていた宅地の相続税評価額を最大80%減額することができます。
遺産を受け取れる可能性があるにもかかわらず、どうして連絡を拒否する方がいるのでしょうか。
ここからは、遺産分割協議を成立させるためのコツをケース別に紹介します。
遺産分割協議は、全員の合意が必要です。
そのため、最も協議がまとまりやすいのは、直接話し合うことです。
しかし、これは遺産分割協議書の作成のために、相続人全員が同じ場に集まって話し合いをしなければならないというわけではありません。
相続人がそれぞれ離れた場所で暮らしているなど、全員が同じ場に集まって協議をすることが難しい場合は、コミュニケーションが取れれば、オンライン会議・電話・メール・手紙などによって協議をおこなうことも有効です。
その際、遺産分割協議書を作成し、協議結果を証拠として残す必要があります。
法定相続人全員参加のもと、適切に作成された遺産分割協議書は法的効力を有します。
相続人同士だけでは話がまとまらないときや、法的に問題がないか他の相続人への説明が必要な場合であれば、遺産分割協議の進行役を弁護士などの専門家に依頼するのもおすすめです。
とくに、相続人が忙しくて電話やメールで協議を進める場合には、あとから時間ができたときにやはり協議内容を変更したいと言い出す方がいないとも限りません。
そのような可能性がある場合は最初から専門家の力を借り法的に全員が納得できるよう、遺産分割協議を進めるのがよいでしょう。
そもそも、相続は一生のうちに何度も経験するものではないのが一般的でしょう。
そのため、連絡を無視している相続人は、相続手続きの必要性を理解していない場合があります。
そのようなケースでは、相続の手続きの必要性を伝えるとともに、相続の手続きをしないことによるデメリットを伝えることで、話し合いに応じてくれるというケースが少なくありません。
そのような相続人には、まず相続手続きを放置することによるデメリットも伝えましょう。
また、無視し続けると遺産分割調停をするしかなくなり、お互いが家庭裁判所に出頭しなければならないなど、複雑で面倒な手続きを取らざるを得ないことを説明するとよいでしょう。
相続に関する連絡に応じない理由として、分割内容に納得ができないというケースも少なくありません。
実際、被相続人への貢献度によって財産を多めに取得できる寄与分が法的に認められています。
寄与分として、ほかの相続人よりも相続財産を多く分けてもらえるのは、被相続人の財産増加や維持に貢献した場合です。
寄与行為の一例としては、次のとおりです。
分割内容に納得ができないという場合、その方が寄与分について不満を募らせていることが考えられます。
被相続人が遺言書を作成している場合、遺言内容に則って分配するのが通常です。
しかし、介護をしてもらって助かったという事実があるのなら、該当する相続人の事情を考慮しながら遺産分割協議を進めるのも、遺産分割協議を成立させるうえで重要だといえるでしょう。
なお、実際に寄与分や特別寄与料の請求を検討する場合には、弁護士などの専門家への相談・依頼をおすすめします。
自分たちで、連絡拒否をしている相続人に接触しようと思っても、一向に返事が来なかったり、会う機会を設けられない場合は、次のような対策を検討しましょう。
ほかの相続人と連絡が取れない場合は、弁護士に依頼して弁護士から連絡するのがおすすめです。
親族などの相続人からの連絡は無視しても、弁護士からの連絡であれば応答するという方は少なくありません。
弁護士は法的問題解決の専門家であるため、調停や審判などを依頼するべきだと考えている方も多いかもしれません。
しかし、弁護士は交渉の専門家でもあります。
相続手続きを代理することはもちろん、弁護士から書面による連絡の催促だけをおこなうことも可能です。
弁護士から連絡をしても、返事が来ないこともあります。
その際は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
調停とは、家庭裁判所において運営されている、話し合いによる紛争解決を目的とした制度です。
裁判官に加え、一般市民から選ばれた調停委員2名以上が仲介し、調停室でテーブルを囲んで話し合いを実施します。専門的な内容の場合には、専門家が調停員になることもあります。
家庭裁判所が調停期日を決定すれば、申し立てから2~3週間程度で、申立人や相手方を含む相続人全員に郵送で通知書が送付されます。
調停当日は、基本的に相続人全員が参加しなければなりません。相続人が遠方の場合は、裁判所が対応していれば、電話やウェブ会議を利用した調停の形式もあります。
正当な理由なく欠席すれば、5万円以下の過料を支払わなければならないおそれがあります。
実際に過料が科されるケースは稀ではあるものの、一定の効果があると考えられます。
加えて、遺産分割調停に欠席した場合、自身の主張をする機会をなくしてしまいます。
無断で欠席した場合は、事実上、調停委員の心象を悪くすることもあるため、連絡を無視し続けることのデメリットを伝えると効果的でしょう。
もし、特定の相続人が家庭裁判所からの呼び出し状にも応じない場合や、欠席などが続いた場合には、遺産分割審判へ移行します。
遺産分割審判は、各相続人がそれぞれ意見を主張し、審判官が遺産分割の方法を最終的に判断するため、相続人全員が参加しなくても成立させることが可能です。
連絡がつかない相続人がいるときに、やってはいけないことや注意したいことについて確認しておきましょう。
遺産分割協議は、相続人全員が参加する必要があります。
そのため、一部の相続人が協議に参加していない状態で遺産分割協議書を作成しても無効となります。
また、了承なく不参加の相続人の署名や押印をするのは、トラブルの元です。
勝手に署名や押印をされていたとなれば信頼関係が損なわれるだけでなく、文書偽造行為になりかねず、相続人間の大きな争いに発展しかねません。
協議に参加できなかった相続人は、家庭裁判所に対して調停を申し立てることもできますし、無効確認請求訴訟へと進む可能性もあります。
連絡が取れない相続人を抜きにして遺産分割協議をおこなってはいけないとはいえ、参加したがらない相続人を無理やり参加させることもまた、トラブルの元になり得ます。
遺産分割協議に参加するよう強引に誘うと印象が悪くなり、遺産分割案を拒否されるリスクがあります。
自分たちで相続に関する文書を送る場合であっても、弁護士から連絡の催促を通知する場合であっても、伝え方には十分注意しましょう。
1人でも連絡拒否をしている相続人がいると、思うように相続手続きが進められず、ケースによっては調停の申し立てが必要となる可能性もあります。
連絡拒否をしている相続人との間で、なるべく大きなトラブルになることを避けるには、弁護士への相談がおすすめです。
弁護士は、訴訟などの対応だけでなく、大きな争いに発展しないための交渉のプロでもあり、できる限り穏便かつスムーズに解決する手段を取ってくれるでしょう。
無料相談を受け付けている法律事務所も数多くあるので、ほかの相続人に連絡を拒まれて悩んでいる場合には、一度相続に強い弁護士に相談してみましょう。
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