相続放棄を検討している方のなかには、生命保険金を受け取れるのか心配な方も多いのではないでしょうか。
相続放棄をしても生命保険金は受け取ることができますが、生命保険金の受取人が誰になっているか、また被保険者の債務状況によっても異なります。
本記事では、相続放棄をしても生命保険金を受け取れるケース・受け取れないケースや、生命保険金の受け取りでかかる税金について解説します。
相続放棄を検討中の方へ
相続放棄を検討しているけど、生命保険金を受け取れるか心配で悩んでいませんか?
結論からいうと、生命保険金は相続放棄をしても受け取ることができます。しかし、相続放棄は財産調査をしたうえでおこなわないと損をしてしまう可能性があるため、一度弁護士に相談しておくとよいでしょう。
弁護士に相談・依頼することで以下のようなメリットを得ることができます。
- 相続放棄をすべきか判断できる
- 相続放棄後の生命保険金の受け取りが可能かわかる
- 相続放棄の手続き方法がわかる
- 依頼すれば、期限内の相続放棄手続きを任せられる
ベンナビ相続では、相続放棄を得意とする弁護士をお住まいの地域から探すことができます。無料相談はもちろん、電話相談やオンライン相談に対応している弁護士も多数掲載しているので、まずはお気軽にご相談ください。
相続放棄をしても生命保険を受け取れる理由
相続放棄をしても生命保険を受け取れる理由は、生命保険は亡くなった方の財産でなく保険の受取人の財産として扱われるからです。
たとえば、夫が契約した生命保険の受取人が妻に指定されている場合は、生命保険の保険金は妻の固有財産になります。
生命保険の保険金は亡くなった方の財産ではないので、相続放棄をしても保険受取人の保険金を受け取る権利はなくなりません。
そのため、もし亡くなった生命保険の契約者に借金がある状況であったとしても、相続放棄をすればその負の財産を抱えずに生命保険の保険金だけを受け取れます。
また、保険金を借金の返済に充てる必要もありません。
受取人が亡くなった方の場合は例外
生命保険の受取人が亡くなった方に指定されている状況においては、生命保険は亡くなった方の財産として扱われます。
そのため、相続放棄をすると保険金の受け取りが認められません。
亡くなった方が受取人に設定されることが多い生命保険金には、以下のようなものがあります。
終身払いの終身保険など、老後のための貯蓄を兼ねている生命保険の場合、契約者本人が受取人に指定されているケースも少なくないので注意しましょう。
相続放棄をしても生命保険が受け取れるかは、生命保険の受取人が亡くなった方であるかどうかで判断できます。
生命保険契約者の相続放棄を検討する場合は必ず受取人が誰に指定されているかを確認するようにしましょう。
生命保険の解約返戻金は被相続人の債権者が差し押さえられる
生命保険金は、受取人が亡くなった方以外の場合、相続放棄をしたとしても相続人が受け取ることができます。
そして、債務の返済に充てる必要もありません。
しかし、亡くなった方が借金を抱えていて返済できていない場合、債権者からすると「生命保険金があるのに自分にはお金が返ってこない」という状況になり、不公平感を感じてしまいます。
そのため、債権者は一定の条件のもと、借金を抱えている方が亡くなる前に生命保険を解約し、解約返戻金を差し押さえることができます。
この場合は、相続放棄をするかどうかに関わらず、相続人が生命保険金を受け取ることができなくなることを覚えておきましょう。
相続放棄をした際の生命保険の税金
相続放棄をしたとしても、生命保険金を受け取ることはできます。
しかし、生命保険金を受け取る際に相続税が発生する可能性があります。
ただし、生命保険金には非課税枠が設けられていることに加えて、相続税にも基礎控除額が設定されているため、相続税が発生しないケースもあるでしょう。
ここでは、生命保険金の受け取りの際に知っておきたい税金の非課税枠や基礎控除額について解説します。
相続放棄をすると生命保険の非課税枠は適用外になる
生命保険には保険金の受取人ひとりに対して500万円の非課税枠が設定されています。
たとえば、保険金が5,000万円でふたりの受取人が指定されている場合だと、4,000万円(5,000万円-1,000万円)が課税対象になります。
生命保険は残された遺族の生活を保障するためのサービスなので、遺族の負担を少しでも軽減するため、このような非課税枠が設けられました。
ただし、相続放棄をすると非課税枠は適用外となってしまうのでご注意ください。
上記の条件だと保険金5,000万円の全てが相続税の対象となります。
相続放棄をしても基礎控除は受けられる
相続税には基礎控除という非課税枠が設けられています。
相続放棄をして生命保険の非課税枠が対象外になったとしても、保険金の全額がそのまま課税対象の扱いを受けるわけではありません。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万×相続人」です。
そのため、保険金を含めた相続財産が3,600万円以下であれば、保険金を受け取ったとしても、税金を支払う必要はありません。
生命保険の税金の計算例
生命保険金を受け取る際、受け取った金額が非課税枠や基礎控除額を上回る場合は、相続税が発生します。
相続税は、非課税枠や基礎控除額を考慮したあとの課税対象額に応じた税率を用いて計算します。
課税対象額ごとの税率は、以下のとおりです。
課税額
|
税率
|
控除額
|
1,000万円以下
|
10%
|
なし
|
3,000万円以下
|
15%
|
50万円
|
5,000万円以下
|
20%
|
200万円
|
1億円以下
|
30%
|
700万円
|
2億円以下
|
40%
|
1,700万円
|
3億円以下
|
45%
|
2,700万円
|
6億円以下
|
50%
|
4,200万円
|
6億円以上
|
55%
|
7,200万円
|
ここでは、生命保険金を受け取った場合の相続税の計算方法について、具体的な例を用いて解説します。
相続放棄をして生命保険金を受け取った場合の相続税の計算例
相続放棄をしたうえで生命保険金を受け取った場合は、非課税枠が適用されないため、基礎控除額のみを考慮して相続税を計算します。
ここでは、以下ふたつの条件を想定して、実際の相続税を計算してみましょう。
条件1
- 相続放棄:する
- 生命保険金:4,000万円
- 受取人:1人
課税対象額
|
4,000万円(保険金)-3,000万円+600万円(基礎控除)=400万円
|
相続税額
|
400万円(課税額)×10%=40万円
|
条件2
- 相続放棄:する
- 生命保険金:6,000万円
- 受取人:2人
課税対象額
|
6,000万円(保険金)-3,000万円+600万円×2(基礎控除)=1,800万円
|
相続税額
|
1,800万円(課税額)×15%-50万円=220万円
|
相続放棄をせずに生命保険金を受け取った場合の相続税の計算例
相続放棄をせずに生命保険金を受け取った場合は、非課税枠と基礎控除額の両方を考慮して相続税を計算します。
以下ふたつの条件を想定して、実際の相続税を計算してみましょう。
条件1
- 相続放棄:する
- 生命保険金:5,000万円
- 受取人:1人
課税対象額
|
5,000万円(保険金)-3,000万円+600万円(基礎控除)+500万円(非課税枠)=900万円
|
相続税額
|
900万円(課税額)×10%=90万円
|
条件2
- 相続放棄:する
- 生命保険金:6,000万円
- 受取人:2人
課税対象額
|
6,000万円(保険金)-3,000万円+600万円×2(基礎控除)+500万円×2(非課税枠)=800万円
|
相続税額
|
800万円(課税額)×10%=80万円
|
生命保険を受け取ったあとでも相続放棄はできる?
相続放棄の手続き期限は、相続が発生してから3ヵ月のため、場合によっては生命保険金の受け取りが先になることもあるでしょう。
生命保険金を受け取ったあとの相続放棄は、できるケースとできないケースがあります。ここでは、それぞれのケースについて解説します。
生命保険金を受け取ったあとにも相続放棄ができるケース
生命保険の受取人が亡くなった方以外であれば、生命保険は相続される財産に該当していないので、生命保険を受け取ったあとでも相続放棄をすることは可能です。
また、生命保険の受取人が指定されていない場合でも、相続人のそれぞれが保険金の請求する権利を持つ者として扱われます。
そのため、生命保険は財産には該当せず受け取ったあとでも相続放棄が認められます。
生命保険金を受け取ったあとに相続放棄ができないケース
生命保険の受取人が亡くなった方に指定されている場合は、生命保険は契約者の財産に該当するので、保険金を受け取ったあとに相続放棄することはできません。
また、亡くなった方の財産を一部でも消費してしまえば、相続を承認したもの(単純承認)と判断され、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用元:民法921条
生命保険の受け取りは上記民法の「相続財産の一部を処分したとき」に該当します。
原則として、相続を承認したと判断されたあとから、訂正はできません。
生命保険契約者の相続放棄を検討している場合は、必ず受取人が誰なのかを最初に確認するようにしましょう。
相続放棄を検討したほうがよい状況
生命保険金を受け取れる状況にある方のなかには、相続放棄をすべきかどうかで悩んでいる方もいるでしょう。
ここでは、相続放棄を検討すべき状況を解説します。
財産と借金の収支がマイナスである
遺産相続の際の財産調査の結果、明らかにマイナスの資産が多い場合には、相続放棄を検討したほうがよいでしょう。
貯金や不動産など目に見える財産は大きくても、あとから借金・売掛金・滞納金などの負債が発覚し、結果的に収支がマイナスになってしまうケースもありえます。
相続財産の確認は時間をかけて念入りにしておいたり、場合によっては専門家に頼ったりするのがよいでしょう。
ただし、相続放棄の手続きには被相続者(亡くなった方)の死亡を知ってから3ヵ月までという期限があるので、期限切れに注意してください。
被相続人(亡くなった方)が連帯保証人
相続では財産だけではなく、連帯保証人としての責任についても引き継ぐことになります。
仮に返済が終わっていない債務の連帯保証人となり、債務者本人が完済できなかった場合は、多額の債務を代わりに背負ってしまう可能性があります。
債務者本人を信頼するのが難しかったり保証額が多額で不安を感じたりする場合は、相続放棄を検討するほうがよいでしょう。
遺産相続による揉め事を回避したい
家族や親戚内であらかじめ相続に関しての取り決めをしていることは稀です。
遺言で遺産分配が指定されていないと、誰がどの遺産を相続するかで揉め事になるケースはとても多いといわれています。
また、遺言書が残っていたとしても、その内容に納得がいかずに争いになり、家庭裁判まで事態が発展してしまうことも珍しくありません。
そのような親族間での争いを避けるため、あえて相続放棄を選択するのも相続トラブルを回避する有効な手段のひとつです。
さいごに|相続放棄は手続き前に一度弁護士に相談を
生命保険の受取人が亡くなった方に指定されていなければ、生命保険は相続人の固有財産として扱われるため、相続放棄をしても保険金を受け取ることが可能です。
相続放棄をした場合、生命保険の非課税枠が利用できなくなる点はデメリットですが、保険金が3,600万円以下なら納税をする必要はありません。
基本的には、被保険者(亡くなった方)に借金がある場合には、相続放棄をしたほうが得になるケースが多くあります。
そのような状況であれば、迷うことなく相続放棄をして生命保険だけ受け取ることをおすすめします。
ただし、相続放棄はしっかりと財産調査をしたうえでおこなわないと、かえって損をする可能性があります。
相続放棄を検討している方は、事前に一度弁護士に相談するのがよいでしょう。