被相続人が生きている間に子どもや孫などに財産を生前贈与することで、相続税を節税できます。
生前贈与をすると贈与税が課される可能性がありますが、贈与税には特例制度などもあり、最終的に税金がどのくらいかかるのかを考えて贈与する必要があります。
この記事では、孫に生前贈与をおこなうメリット・デメリットや贈与方法、特例制度などを解説します。
生前贈与について 弁護士に相談するメリットとは? |
生前贈与は、相続前に財産を減らすことで、節税効果が期待できるという大きなメリットがある一方、相続人の間におけるトラブル原因にもなりやすいです。
その点、弁護士は、相続トラブルを解決する立場にあるため、生前贈与絡みの案件も扱うことが多く、豊富な経験を元に「どのような策をとれば良いか」アドバイスをすることが可能です。
・生前贈与に関する相続トラブルを未然に防ぎたい ・生前贈与が絡んだ相続トラブルに悩んでいる
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孫に生前贈与をおこなう大きなメリットは「節税になる」という点ですが、節税になる理由としては主に2つあります。
1つ目の理由は、孫への生前贈与は「世代を一つ飛び越した贈与」であるからです。
通常、遺産は親から子ども、子どもから孫へ承継されるものですが、親から孫に生前贈与することで親から子どもへ承継する際にかかる相続税を節税できるというわけです。
なお、相続では親から孫へ遺贈(遺言による贈与)するという方法もありますが、この場合は相続税が2割増しになるため、生前贈与のほうが得策といえます。
2つ目の理由は、相続人ではない孫への生前贈与については「相続開始前3年以内の贈与財産は相続税の対象になる」という生前贈与加算の対象外になるからです。
相続税の課税対象となる財産が増えなければ、そのぶん節税につながるというわけです。
なお、2023年度税制改正により、2024年以降の贈与については「相続開始前3年以内」から「相続開始前7年以内」へと対象期間が延長されます。
もっとも、生前贈与加算の対象外になるのは、孫が相続人ではない場合です。
たとえば「すでに子どもが亡くなっていて孫が相続人になる場合」や「孫が遺贈を受ける場合」などは対象になるので注意が必要です。
孫に生前贈与をおこなうデメリットは「税務署に生前贈与と判断してもらうために一定の配慮が必要」という点です。
贈与税には年間110万円の非課税枠がありますが、それを活用するには、贈与契約書を作成して暦年贈与の証拠を残したり、贈与時期や金額などを毎年変えるなどの対策が必要です。
贈与税については相続税よりも税負担が大きくなる傾向にあり、生前贈与をする際は贈与税がかからないように注意する必要があります。
贈与税については「暦年課税」や「相続時精算課税制度」などの課税方式があります。
ここでは、暦年課税と相続時精算課税制度の特徴について解説します。
暦年課税では、1年間(1月1日~12月31日)で贈与された財産の合計額から基礎控除の110万円を引いたのち、残った金額に税率をかけて、さらに控除額を引いて算出します。
税率や控除額(基礎控除の110万円とは別物)は贈与内容に応じて決まり、式にすると下記のとおりです。
税率や控除額(基礎控除の110万円とは別物)は、以下のような「一般贈与財産」と「特例贈与財産」のどちらに該当するかによって決まります。
一般贈与財産と特例贈与財産の税率・控除額は以下のとおりです。
一般贈与財産 |
||
贈与財産の合計額から110万円を引いた額 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
- |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
3,000万円超 |
55% |
400万円 |
特例贈与財産 |
||
贈与財産の合計額から110万円を引いた額 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
- |
400万円以下 |
15% |
10万円 |
600万円以下 |
20% |
30万円 |
1,000万円以下 |
30% |
90万円 |
1,500万円以下 |
40% |
190万円 |
3,000万円以下 |
45% |
265万円 |
4,500万円以下 |
50% |
415万円 |
4,500万円超 |
55% |
640万円 |
ここでは、贈与財産の合計額を600万円と仮定した場合の算出方法を解説します。
相続時精算課税制度は、18歳以上の子どもや孫が、60歳以上の父母や祖父母から贈与されたときに選択できる課税方式です。
受贈者・贈与者ともに「贈与がおこなわれた年の1月1日時点」で各年齢要件を満たしていなければならず、贈与が2022年3月31日以前の場合は、受贈者である子どもや孫は20歳以上である必要があります。
相続時精算課税制度の控除額は2,500万円で、2,500万円を超えた部分は一律20%の税率がかかります。
なお、暦年課税とは違って毎年2,500万円まで非課税になるわけではなく、贈与者ごとに累計2,500万円までが非課税になります。
たとえば、相続時精算課税制度を選択してAから1,500万円の贈与を受け、翌年以降も同様にAから贈与を受ける場合は「2,500万円-1,500万円」で残った1,000万円が限度額となります。
また、2023年度税制改正により、2024年以降の贈与については、相続時精算課税制度に「毎年110万円の基礎控除」が追加されます。
「2,900万円の贈与を受けて相続時精算課税制度を選択した」と仮定した場合、計算式は以下のとおりです。
ここでは、子どもや孫への生前贈与を非課税でおこないたい場合に有効な特例制度について、それぞれの特徴やメリット・デメリットなどを解説します。
2022年1月1日から2023年12月31日までの期間、18歳以上(贈与が2022年3月31日以前の場合は20歳以上)の人が居住用の建物を取得・新築・増改築するための資金を直系尊属(父母や祖父母)から贈与されたときに利用できる特例です。
この特例の非課税限度額は、居住用の建物がどのような種類かによって異なります。
18歳以上50歳未満の人が、結婚費用や子どもの養育費として直系尊属(父母や祖父母)から贈与されたときに利用できる特例です。
非課税限度額は1,000万円で、結婚資金については300万円まで非課税です。
この特例を利用するためには口座開設や申告書の作成などが必要で、詳しくは下記の国税庁リンクを確認してください。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例について、対象となるのは以下のような費用です。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例のメリットは、最大1,000万円まで贈与税がかからないという点です。
特に贈与額が大きい場合は、贈与税の年間110万円の非課税枠を利用するよりも、結婚・子育て資金の一括贈与の特例を利用するほうが向いています。
デメリットとしては、もし贈与された金銭を使い切る前に受贈者が50歳になった場合、残高分には贈与税が課されるという点です。
ほかにも、贈与された金銭を使い切る前に贈与者が亡くなった場合には、残高分が相続税の課税対象となります。
教育資金の一括贈与の特例とは、直系尊属(父母や祖父母)が30歳未満の子どもや孫へ教育資金に充てるための金銭を一括で贈与したときに利用できる特例です。
非課税限度額は1,500万円で、学校以外の業者などに支払う場合については500万円まで非課税です。
教育資金の一括贈与の特例のメリットは、1,500万円まで贈与税がかからないという点です。
なお、ここでいう教育資金には、入学金や授業料のような学校などに直接支払う費用のほか、塾や習い事の月謝などの費用も含まれます。
デメリットとしては、受贈者が30歳になった際に契約終了となり、その時点で残高分があれば贈与税が課されるという点です。
ほかにも、贈与者が死亡したときに受贈者が23歳以上の場合、残高分があれば相続税の課税対象となります。
生命保険には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。
法定相続人とは、民法によって相続権が認められている人のことです。
たとえば「祖父母・父母・子ども2人」という家族構成で父が死亡した場合、法定相続人は母と子ども2人になります。
この場合、生命保険金の非課税枠は「500万円×3=1,500万円」です。
本来、生命保険金は「みなし相続財産」といって相続税の課税対象に含まれますが、非課税枠の適用がある場合は含まれません。
なお、非課税枠が適用されるのは、被相続人を契約者および被保険者、相続人を受取人とする契約形態の場合です。
ここでは生前贈与の注意点について解説します。
生前贈与については税務署から疑われることもあり、その際に生前贈与であることを主張するためにも贈与契約書を作成しておくのが効果的です。
もっとも、受贈者が幼児の場合は、親が代わりに贈与契約書にサインします。
その際、贈与された金銭は孫名義の口座に振り込み、預貯金には一切手を付けないことが大切です。
子どもが金銭を管理できる年齢に達したら口座の存在を知らせて、通帳や印鑑を預けて自身で管理させましょう。
たとえば「非課税枠を利用して毎年110万円を10年間贈与する」という場合、定期贈与とみなされて「贈与を始めた最初の年に1,100万円を贈与したもの」と判断されて多額の贈与税がかかる可能性があります。
そのような事態を避けるためには、贈与契約書を作成する・毎年贈与するものを変える・贈与時期や価額を変えるなどの工夫が必要です。
特別受益とは、被相続人による生前贈与や遺贈などの特別な利益のことで、特別受益を受けた人のことを特別受益者といいます。
相続人のなかに特別受益者がいる場合、特別受益を考慮せずに遺産分割すると、ほかの相続人との間に不公平が生じます。
そのため、特別受益の対象財産を相続財産に加算する「特別受益の持ち戻し」という手法で公平を図ります。
もっとも、特別受益者になるのは相続人であり、子どもが存命中の場合には孫は相続人にならないため、孫への生前贈与は特別受益にあたらないのが原則です。
しかし、「通常の生活費や教育費を孫に贈与している場合」や「贈与したお金を子どもの口座に振り込んで、子どもが自由に使える状態となっている場合」など、実質的には子どもに対する贈与と認められる場合には、子どもに対する特別受益と判断される可能性もあります。
生前贈与は、うまく利用することで税負担を抑えることができます。
対応を誤って贈与税や相続税などの負担が大きくならないように注意して、自分に合った方法を選択しましょう。
相続税についてお調べの方へ |
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