成年後見人は、成年被後見人の契約行為や財産管理を代理・代行してくれるので、被後見人の判断力が低下した場合でも、不要な契約を結ぶことがなく、被後見人の財産を守ることができます。
しかし、成年後見人の選任について、具体的な手続の流れや必要書類、手続にかかる費用はあまり知られていないため、以下の疑問や不安も多いのではないでしょうか。
- 成年後見人を選任するときは、どのような手続きが必要?
- 成年後見人を選任すると、その費用はいくらかかる?
- 成年後見人は、いったい何をしてくれるの?
- 成年後見人を被後見人が自分で選ぶことはできる?
成年後見人が選任されるためには、成年被後見人が居住する住所地を管轄する家庭裁判所に対し、成年後見人選任の申立て手続をおこなうことが必要です。
成年後見人選任の申立てから実際に成年後見人が選任されるまで(後見開始まで)の間には一定期間があります。
また、成年後見制度自体、任意後見と法定後見に分かれています。そこで、どちらの制度もよく理解しておくとよいでしょう。
この記事では、成年後見人を選任するときの手続きや、必要書類と費用をわかりやすく解説しますので、参考にしていただければと思います。
成年後見制度の利用を検討中のあなたへ
法定後見制度を利用したいけれど、成年後見人をどう選べばいいんだろう...と悩んでいませんか?
結論からいうと、成年後見人は法律行為や財産管理に対応できる人を選びましょう。
成年後見人にふさわしい人がいない、または対立などにより手続きが進まない恐れがある方は弁護士に相談するのをおすすめします。
弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得ることができます。
- そもそも成年後見制度がベストな選択かどうか相談できる
- 弁護士に依頼する際の費用について相談できる
- 依頼すると、弁護士を法定後見人に推薦できる
- 依頼すると、法的視点から意見がもらえ、対立を最大限に防げる
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成年後見制度の基礎知識
成年後見制度を利用すると、判断力が低下した成年被後見人に成年後見人が付いてくれるので、以下のサポートを受けられます。
- 身上監護:本人の生活や療養・看護などに関する法律行為の支援
- 財産管理:本人の預貯金や不動産などの管理
成年後見人は、被後見人本人にとって必要な契約だけを結び、預貯金や不動産を適切に管理するので、認知症になっても詐欺被害に遭うことがなく、財産の流出を防止できます。
なお、成年後見制度には、以下の任意後見と法定後見があり、サポートを受ける被後見人の状態によって、どちらかを選択することになります。
任意後見制度
任意後見制度とは、自分の判断能力があるうちに成年後見人を選んでおく制度です。
自分で後見人を選べるので、相性のよい親族や信頼できる専門家に依頼するとよいでしょう。
任意後見制度を利用するときは家庭裁判所へ申し立てますが、後見人の職務開始は被後見人の判断力が低下したときとなり、任意成年が開始したタイミングと同時に、任意後見監督人も選任されます。
なお、任意後見人を選任するときは、公正証書を用いた任意後見契約が必要になります。
また、成年後見人と異なり、任意後見人には契約取消権がなく、被後見人が不要な契約を結んでも契約の取消し等をおこなえないため、本人保護に不十分となる点が存する点を注意してください。
法定後見制度
法定後見制度とは、家庭裁判所が選任した後見人や保佐人などにより、判断力が低下した人を以下のようにサポートする制度です。
- 補助:判断力が不十分な方を補助人がサポート
- 保佐:判断力が著しく不十分な方を保佐人がサポート
- 後見:判断力がまったくない方を後見人がサポート
補助人と保佐人の権限として、被補助人・被保佐人に関する特定の行為に対する同意権、取消権があります。
後見人の権限として、被後見人が締結した契約に対する同意権と取消権の外、広範な代理権が与えられているので、被後見人が不必要な契約を結んでも解除して、被後見人を守る措置を取ることができます。
ご自身で後見人を選んでおきたいときは、お元気なうちに任意後見制度を利用して任意後見人を選任するほうがよいでしょう。
自分で成年後見人を選任する手続き
成年後見制度を利用する場合、自分で任意後見人の選任手続きをおこなうか、ご家族が法定後見人の選任を申し立てることになります。
どちらも必要書類や手続きの流れが異なるので、以下を参考にしてください。
任意後見人の選任手続き
任意後見人を選任するときは、以下の流れで手続きを進めます。
契約内容が重要になるので、誰を任意後見人にするか、どこまで財産管理してもらうかなど、ご家族を交えて話し合うようにしてください。
任意後見受任者の決定
任意後見制度を利用する場合、将来、本人の後見業務をおこなってくれる任意後見業務の受任者を決定します。
任意後見受任者は、親族・友人を選任しても構いませんが、法律行為や財産管理に対応できるかどうか慎重に検討してください。
後見業務がスタートしたあとは、後見事務の負担が始まるので、親族や友人に適任者がいない場合、弁護士や司法書士に任意後見受任者を依頼することも検討しましょう。
>成年後見人を弁護士に依頼すべきケースについて知る
後見契約の決定
任意後見業務の受任者が決まったあとは、任意後見契約を決定します。
任意後見契約を決めるときは、何をサポートしてもらいたいか、どの範囲まで財産管理を任せたいかなど、以下に挙げたような内容を具体的に定めてください。
- 日常的な生活や介護・医療などに関すること
- 財産管理や処分に関すること
- 任意後見人の権限
- 任意後見人の報酬
認知症や要介護状態になったとき、自宅で生活を続けるか、施設へ入所するかなど、ご自身が希望する方法も決めておくとよいでしょう。
なお、任意後見契約は公正証書にしなければならないので、この段階はあくまで原案です。
必要書類の準備と公正証書の作成
任意後見契約は、公正証書を作成することが法律上義務付けられているので、後見契約の原案が決まったら、公証役場に公正証書の作成を依頼してください。
任意後見契約を公正証書にするときは、以下に挙げた書類の外、公証人に対する作成手数料の支払いも必要になります。
- 任意後見契約の原案
- 被後見人になる人の戸籍謄本と住民票
- 被後見人になる人の実印と発行後3ヵ月以内の印鑑証明書
- 任意後見受任者の実印と発行後3ヵ月以内の印鑑証明書
- 被後見人になる人と任意後見受任者の本人確認書類
- 公証人の基本手数料:1万1,000円
- 登記嘱託手数料:1,400円
- 収入印紙:2,600円分
公正証書の作成日までに、公証人と数度打ち合わせをおこない、公証役場での任意後見契約書の作成日を決定します。
なお、公証人への手数料の支払方法は、現金または銀行振込みに限定されていましたが、令和4年4月1日よりクレジットカード払いも可能となっています。
任意後見人の登記
任意後見人は法務局で登記しなければなりませんが、登記申請は公証人がおこなってくれるので、自分で手続きする必要はありません。
法務局の繁忙具合によりますが、概ね2~3週間程度で登記事項証明書が作成されるので、任意後見人が設定されたことの証明資料になります。
任意後見監督人の選任
本人が認知症を発症したときは、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立ててください。
申立てできる人は、本人や任意後見受任者、または4親等内の親族に限られており、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ以下の書類を提出します。
- 任意後見監督人選任申立書
- 本人の財産目録や財産の詳細資料
- 本人の事情説明書
- 任意後見受任者の事情説明書
- 親族関係図
- 収支状況報告書
- 任意後見契約の公正証書の写し
- 本人の戸籍謄本と住民票
- 後見登記事項証明書と後見登記されていないことの証明書:法務局本局で取得
- 成年後見用の診断書
任意後見監督人選任申立書などの書類は家庭裁判所の窓口、または裁判所のホームページで入手してください。
また、任意後見監督人を選任する際は、以下の費用がかかります。
- 鑑定費用:鑑定が必要な場合は10万~20万円程度
- 申立用の収入印紙:800円分
- 登記用の収入印紙:1,400円分
- 郵便切手:2,500~3,500円程度円分
郵便切手は家庭裁判所ごとに異なるので、事前に確認してください。
【参考】
任意後見制度の申し立てに必要な書類(裁判所)
申立てにかかる費用・後見人等の報酬について 東京家庭裁判所後見センター(裁判所)
裁判所
任意後見のスタート
本人が認知症となり、任意後見監督人も選任されると、任意後見人の業務がスタートします。
なお、任意後見人に著しい非行があるなど、正当な理由があれば解任も可能ですが、解任請求できる人は被後見人や任意後見監督人、または親族や検察官に限られています。
法定後見人の選任手続き
法定後見人を選任するときは、以下の流れで手続きを進めます。
必要書類の準備
まずは、法定後見人の申し立てに必要な書類を準備します。
申し立ての必要書類は以下のとおりです。
- 後見開始申立書
- 本人の戸籍謄本と住民票
- 成年(法定)後見用の診断書
- ご本人についての照会書:本人の経歴や財産などを記入
- 親族関係図
- 後見登記されていないことの証明書:法務局本局で取得
- (不動産を所有している場合には)不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書
- (預貯金等の資産をお持ちの場合には)預貯金の残高証明や有価証券口座の証明等、各種資産の証明書
- (法定)後見人候補者の住民票と照会書:候補者がいる場合
- 収入印紙:3,400円分程度
- 郵便切手:3,200~5,000円分程度
申立用の書類一式は裁判所のホームページに掲載されているので、記載例と一緒にダウンロードしておくとよいでしょう。
必要な郵便切手は家庭裁判所に確認してください。
【参考】成年後見等の申立てに必要な書類等(裁判所)
家庭裁判所への申立て
必要書類が揃ったら、家庭裁判所へ提出して法定後見人の選任を申し立てます。
法定後見申立てをおこなえる方は、本人または4親等以内の親族に限られており、申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所になります。なお、申し立ては郵送でも構いません。
手続きが進むと家庭裁判所からの問い合わせや面接が入るので、申立書及び添付資料の一式は、コピーして手元に残しておきましょう。
審理の開始
法定後見人選任を申し立てた後より、家庭裁判所による審理がおこなわれます。
審理とは、提出された成年後見申立書の書類一式から、本人の認知症レベルや生活状況などを確認して、法定後見人の選任が必要か否か、補助・保佐・後見のいずれになるかを審理判断する手続です。
法定後見人が選任されることは、被後見人本人の生活に直接の影響を生じるので、慎重に審理されるので、審理に概ね2ヵ月ほどかかることが多いです。
申立人と後見人候補者の面接
家庭裁判所の審理がスタートしたあとで、審理員による申立人の面接がおこなわれます。
法定後見人候補者も面接の対象になりますが、基本的には申立人へ面接日の連絡が入るので、都合のよい日を調整してください。
また、面接では以下の内容を聞かれることがあるので、申立て時に提出した書類の写しを準備して、正確に回答できるようにしておきましょう。
- 本人の判断力や生活状態
- 本人の財産や収支状況
- 本人の経歴や病歴
- 親族間に争いがあるかどうか
- 後見人候補者の経歴
なお、家庭裁判所が必要と認めた場合、親族間の紛争や後見人候補者の適性について、被後見人本人の家族へ確認を求める場合もあります。
医師による医学鑑定
本人の判断力は、家庭裁判所へ提出した診断書などの資料をもとに審理されますが、書面だけで正確な判断をおこなえない場合、家庭裁判所が医学鑑定を指示するケースもあります。
基本的には、かかりつけ医が判断力を鑑定しますが、状況によっては家庭裁判所が指定した専門医の鑑定が実施されることもあるでしょう。
家庭裁判所の審判
家庭裁判所の審判で後見開始の審判が下され、このときに法定後見人も選任されます。
審判が下ると、審判書の謄本と審判確定書が本人・申立人・法定後見人へ送付され、2週間以内に不服申立てがなければこの審判が確定します。
なお、この審判に不服があるときは、即時抗告という手続きで高等裁判所に再び審理してもらうことが可能です。
法定後見人の登記
家庭裁判所から嘱託登記の連絡を受けた法務局が法定後見人の登記手続をおこなうため、法定後見人が自分で登記手続を申請する必要は有りません。
ただし、登記内容に変更があったときは自分で手続する必要があります。被後見人の住所地が変わったときや被後見人が死亡したときは、必ず、変更登記申請をおこなってください。
法定後見のスタート
家庭裁判所の審判が確定すると法定後見もスタートしますが、法定後見人は選任から1ヵ月以内に財産目録を作成して、家庭裁判所へ提出する必要があります。
被後見人本人の財産すべてを調査するので、家族の協力もあるとよいと思われます。
法定後見人が選任されるまでの期間
法定後見制度の場合、法定後見人が選任されるまでの期間は早くて1~2ヵ月程度です。
ただし、法定後見人の必要性をめぐって親族間の対立があったり、慎重な医学鑑定が必要になったりすると、半年近くかかるケースもあるでしょう。
もし親族間での対立が込み入ってしまい、なかなか手続きが進まないなどの事情がある場合は、弁護士などの専門家に相談してください。
法定後見人の選任申し立てにかかる費用
法定後見人を自分で申し立てるとコストは抑えられますが、必要書類の準備に対応できず、専門家に依頼するケースも少なくありません。
自分で申し立てをおこなうか、専門家に依頼するか迷ったときは、以下の費用を参考にしてください。
自分で申し立てる場合
任意後見監督人の選任や法定後見人の選任を自分で申し立てる場合、以下のような費用がかかります。
【任意後見制度】
- 戸籍謄本や住民票などの取得費用:2,000~3,000円程度
- 公証役場に支払う費用:1万5,000円程度
- 任意後見監督人の選任費用:5,400円
- 鑑定が必要な場合:10万~20万円程度
【法定後見制度】
- 戸籍謄本や住民票などの取得費用:2,000~3,000円程度
- 成年後見人の選任費用:8,000円程度
- 鑑定が必要な場合:10万~20万円程度
医師の鑑定が不要であれば、任意後見制度は2万3,000円程度、法定後見制度は1万2,000円程度の費用になるでしょう。
>成年後見人の費用について詳しく知る
専門家に申し立てを依頼した場合
弁護士や司法書士に成年後見人の申し立てを依頼した場合、概ね15万~25万円程度の費用がかかります。
あくまでも目安なので、財産の種類や取得する書類の部数などが多いときは、30万円近くになるケースもあるでしょう。
また、公証役場や家庭裁判所へ出向いたときは、交通費や日当も発生します。
専門家に申し立てを依頼するときは、報酬体系をよく確認しておきましょう。
>成年後見人の報酬について詳しく知る
成年後見人はどんな人が選任される?
成年後見制度では後見人候補者を推薦できますが、不正防止の観点から親族は却下されることが多く、弁護士が成年後見人に選任されるケースが多いです。
親族や知人のサポートを受けたいときは、被後見人本人との関係性が良好で、不正防止に資する方を推薦しましょう。
また、欠格事由がある人は成年後見人になれないので、以下を参考にしてください。
成年後見人に選任される可能性がある人
以下の条件を満たす方は成年後見人に選任されやすいといえます。
- 成年後見制度の仕組みや必要性を十分に理解していること
- 財産管理に責任を持てること
- 家族に反対者がいないこと
- 被後見人の近くに住んでいること
- 車や住宅ローン以外の借金がないこと
- 候補者の年齢が若いこと
- 事務処理などの実務能力が高いこと
成年後見人は、被後見人の財産を適正に管理し、家庭裁判所に対する定期の収支報告もおこなうので、常識的な金銭感覚や実務能力が求められます。
また、高齢の候補者は、候補者本人に認知症リスクが潜在するので、親族を推薦するときには比較的若年の人がよいでしょう。
成年後見人になれない人
成年後見人に資格は必要ありませんが、以下の欠格事由に該当する人は後見人になれません。
- 未成年者や破産者
- 本人を相手に裁判を起こした人およびその配偶者と直系血族
- 家庭裁判所で解任された法定代理人や保佐人および補助人
- 行方がわからない人
破産者の情報は官報にしか掲載されないので、成年後見人の欠格事由に気付かないケースがあります。候補者の経歴もきちんと調べておきたいときは、弁護士に相談してみましょう。
>成年後見人の資格について詳しく知る
成年後見人を選任するときの注意点
成年後見人選任の申立てをおこなうときには、以下の注意事項を理解しておきましょう。
- 成年後見人の報酬が発生する
- 相性の悪い成年後見人が選任されることもある
- 柔軟な財産管理や相続対策はできない
- 原則として途中でやめられない
成年後見人の業務がスタートすると、管理する財産の額や後見業務の内容により、月額2万~6万円程度の後見人報酬が発生します。
次に、本人の財産は後見人によって保全されるため、生前贈与などの相続対策はできなくなるでしょう。
また、相性の悪い成年後見人はご本人やご家族にとってストレスになりますが、著しい非行がない限り、成年後見人の交代は認められません。
成年後見人は、原則として後見業務を途中で終えられないので、後見期間が長期化しても後見人報酬を支払える資力を有するか、事前に検討しておくことが必要です。
まとめ|成年後見人の選任に困ったときは弁護士に相談を
成年後見人の申立てには必要書類が多く、その準備だけでも1ヵ月や2ヵ月程度かかるケースが少なくありません。
また、成年後見制度は、被後見人が亡くなるまで続くことが多く、成年後見人の報酬を支払えるだけの資力を有するか否か、事前に検討しておくことが必要です。
成年後見人の選任手続に対応できないときや、成年後見制度がベストな選択か迷ったときは、1人で悩まず弁護士へ相談してみましょう。
成年後見制度の利用を検討中のあなたへ
法定後見制度を利用したいけれど、成年後見人をどう選べばいいんだろう...と悩んでいませんか?
結論からいうと、成年後見人は法律行為や財産管理に対応できる人を選びましょう。
成年後見人にふさわしい人がいない、または対立などにより手続きが進まない恐れがある方は弁護士に相談するのをおすすめします。
弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得ることができます。
- そもそも成年後見制度がベストな選択かどうか相談できる
- 弁護士に依頼する際の費用について相談できる
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