精神疾患や認知症などによって判断能力が欠けている人がいる場合、成年後見制度を利用すれば、被後見人に代わって財産管理や身上保護などの対応を進めてもらえます。
しかし、なかには「成年後見人が被後見人の財産を使い込む」などのトラブルが起こることもあります。
実際に成年後見人との間でトラブルが生じ、どのように対処するべきなのか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
本記事では、成年後見人による代表的なトラブルやトラブルの回避方法、トラブル時の解決手段などを解説します。
成年後見人とのトラブルにお悩みの方へ
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結論からいうと、成年後見人とのトラブルでお悩みなら、弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼することで以下のようなメリットを得ることができます。
- 使い込まれた財産を取り戻す方法がわかる
- 成年後見人の解任に必要な証拠がわかる
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成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や精神障害などによって、判断能力が欠けているのが通常の状態となった方を保護するための制度です。
本人に代わって、財産を管理したり法律行為をおこなう後見人を選任することで、本人の日常生活の諸手続きや介護をサポートします。
成年後見人は、以下のことができます。
- 預貯金や有価証券の管理
- 自宅等の不動産の管理
- 医療機関への入院手続き
- 介護サービスの利用に関する契約
- 要介護認定の申請
- 遺産分割協議への参加
成年後見人を選任すれば、「財産管理を一任できる」「被後見人が締結した不利益な契約の取消しが可能になる」などのメリットが得られるようになります。
ただし、成年後見制度は、本人の権限や責任を広く他人に委任することになるため、不正やトラブルの原因となるケースも少なくありません。
成年後見人による不正・トラブルの現状
以下の図は、2024年4月に厚生労働省が発表した成年後見人などによる不正についての資料です。
引用元:成年後見制度の現状|厚生労働省
不正報告件数・被害額ともに年々減少しているものの、2023年に起きたトラブルは184件、被害総額は約7億円にものぼります。
成年後見人とのトラブル事例
ここでは、成年後見制度を利用した場合に起こりうるトラブルの事例について解説します。
成年後見人が財産を使い込む
成年後見人によるトラブルとしては、「後見人として選任された親族が財産を使い込んでしまう」というのが代表的です。
本来、成年後見人は適切に財産管理しなければならず、十分な責任感や判断能力が求められます。
しかし、なかには成年後見人としての意識が希薄だったり、「少しぐらいなら使っても大丈夫だろう」などと考えてしまったりしてトラブルに発展することもあります。
成年後見人による財産の使い込みについては、たとえ親族でも業務上横領として刑事罰が科される可能性があります。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
引用元:刑法253条
また、親族以外に成年後見人となった専門家が財産を使い込むトラブルも存在します。
実際のところ、成年後見人は親族以外の人が選任されるケースのほうが多く、2023年に選任された成年後見人の内訳は「親族が18.1%、親族以外が81.9%」となっています(成年後見関係事件の概況(令和5年1月~12月)|裁判所)。
引用元:成年後見関係事件の概況(令和5年1月~12月)|裁判所
上の図はどのような人が成年後見人として選任されたのかを示したものです。
親族以外の内訳としては司法書士が35.9%と最も多く、次いで弁護士が26.8%となっています。
大多数の専門家は適切に成年後見人としての業務を遂行しており、トラブルが発生するリスクは親族が成年後見人になる場合に比べ少ないといえます。
もっとも、専門家の成年後見人によって被後見人の財産が横領されるという事件も起きています。
成年後見人が報酬だけ受け取り仕事をしない
成年後見人が報酬だけ受け取り仕事をしないというトラブルも、よくある事例です。
成年後見人に選任されると、定期的に財産目録や収支報告書を作成し、裁判所に提出する必要があります。
そして、成年後見業務の対価として、被後見人の財産から報酬を受け取ります。
しかし、報酬を受け取りながらも、成年後見人がまともに仕事をしないケースがあるのです。
とはいえ、実際に成年後見人が仕事をしっかりしているのか確認することは難しく、仕事をしていないという疑いだけでは解任しにくいのが現状です。
どうしても解任したい理由がある場合には、まず弁護士に相談していただくことをおすすめします。
成年後見人を通じて親との面会を拒否される
成年後見人を通じて、被後見人である親との面会を拒否されるトラブルも散見されます。
成年後見人の選任申立ては、親族全員の同意がなくても手続きを進められます。
つまり、親族内の誰かが勝手に申請を出し、いつの間にか成年後見人が選任されているような状況も起こり得るのです。
仮に、対立している親族と関係の深い人物が後見人となった場合は、施設に入居している親との面会を拒否されるなど、嫌がらせを受けるおそれがあります。
成年後見人に本人の年金を管理される
成年後見人が選任されると、後見人は被後見人の財産を明確に区別して管理します。
そのため、配偶者であっても被相続人と共有管理していた年金を勝手に使うことができなくなります。
仮に被後見人の年金から生活費を捻出していたのであれば、その生活費をそのほかの収入でまかなう必要が出てきます。
成年後見人が年金を管理することで、本人以外の家族の生活が苦しくなってしまうケースがあります。
成年後見制度がひどいといわれる理由
成年後見制度がひどいといわれるのには、いくつかの理由があります。
そこで、主な理由を5つ紹介します。
1.後見人を必ず自分で選べるわけではない
後見人は、必ずしも申し立てた人が希望どおりに選べるわけではありません。
成年後見人の候補者を裁判所に伝えることはできますが、後見人を誰にするかの最終的な判断は裁判所がおこないます。
実際に、候補者として記載していた親族ではなく、弁護士や司法書士が成年後見人として選任されるケースは、よくある話です。
特に被後見人の財産が多い場合などは、親族が後見人となることは難しく、弁護士などの専門家が選任されるケースが一般的です。
2.被後見人が亡くなるまで後見人は原則解任できない
後見人は一度選任されると、原則として被後見人が亡くなるまで解任することは認められません。
希望した人物が選ばれず、選任された後見人が気に入らなかったとしても、不正行為などが見られない限り変更することはできないのです。
自由に選任・解任できないことは成年後見人を利用するうえで、大きなデメリットといえるでしょう。
3.後見人の選任申立てや後見開始後に費用がかかる
成年後見人を利用するには、費用がかかります。
後見人の選任申立てに少なくとも1万円ほどの実費がかかるほか、選任された後見人が弁護士や司法書士の場合には、被後見人の財産額に応じて、月額数万円の報酬を支払う必要があります。
被後見人が亡くなるまで報酬が発生することを考えると、大きな費用がかかることがわかるでしょう。
4.被後見人の財産を自由に使えなくなる
成年後見人が選任されると、被後見人の財産は自由に使えなくなります。
なぜなら、成年後見人が被後見人に代わって、財産を管理するようになるからです。
生活費や医療費、介護費用など、被後見人のためになること以外に財産を使えなくなります。
5.生前贈与をするのが難しくなる
成年後見人が選任されると、生前贈与をするのが難しくなります。
そもそも成年後見制度は、被後見人の財産の保護を主な目的としています。
しかし、生前贈与は、被後見人の財産を減らす行為です。
相続税対策として相続人にメリットがありますが、被後見人には利益がないので、生前贈与は制度上認められていません。
なお、不動産の運用や贈与なども、基本的には認められない点に注意しておきましょう。
成年後見人とのトラブルを回避するための方法
成年後見人とのトラブルを回避するためには、以下の制度を利用するのが有効です。
- 任意後見制度を利用する
- 後見制度支援信託を利用する
- 家族信託を利用する
ここでは、それぞれの制度内容について解説します。
1.任意後見制度を利用する
任意後見制度とは、病気や事故などによって判断能力が衰える前に、後見人になってもらう人を探して契約しておく制度です。
裁判所が後見人を選任する法定後見制度との違いは、以下のとおりです。
|
任意後見制度 |
法定後見制度 |
後見人を選任する時期 |
被後見人の判断能力が不十分になる前 |
被後見人の判断能力が不十分になったあと |
選任する主体 |
被後見人(本人) |
裁判所 |
委任の範囲 |
ある程度は自由に決められる |
法律で決められている |
任意後見制度の場合、被後見人が後見人になる人を選ぶことができるほか、代理行為の範囲を契約で決められるといった点がメリットといえるでしょう。
なお、代理行為には、「財産管理」と被後見人の日常生活や介護をサポートする「身上監護」が含まれます。
また、任意後見が開始されると、家庭裁判所によって選任された任意後見監督人が仕事状況などをチェックするため、不正などが起こりにくいというメリットもあります。
2.後見制度支援信託を利用する
後見制度支援信託とは、被後見人の財産のうち日常生活に必要な分だけを後見人が管理し、残りの財産については信託銀行などに預ける制度です。
信託銀行に預けたお金を払い戻したり、口座を解約したりするためには、裁判所によって発行された指示書が必要となります。
後見人による勝手な財産の使い込みを防止でき、預けたお金は元本保証されているので元本割れの心配もありません。
なお、後見制度支援信託は成年後見・未成年後見を対象としており、補佐や補助、任意後見では利用できない点に注意してください。
3.家族信託を利用する
家族信託とは、被後見人が信頼する親族に所有する財産の管理を任せる信託契約です。
信託契約では財産管理の方法を自由に設定でき、被後見人の意思をきちんと反映した内容にすることができます。
家族信託では、本人の判断能力が十分あるうちに、財産を管理・処分する「受託者」と、財産から生じる利益を受け取る「受益者」を設定します。
受託者に信頼できる家族を、受益者に被後見人を設定するケースが一般的です。
家族信託を活用すれば、被後見人の判断能力が低下したあとも、身近で信頼できる親族に財産の管理を任せられるため、お金を使い込まれるなどのトラブルを回避できるでしょう。
成年後見人とのトラブルが起きたときの解決方法
すでに成年後見人によるトラブルが起きている場合は、以下の4つの対応を検討しましょう。
1.成年後見人の解任を請求する
成年後見人については、以下の要件に当てはまる場合に解任請求できます(民法第846条)。
- 私的流用や横領などの不正な行為がおこなわれた場合
- 不適切な言動や、裁判所からの指示に従わない行為があった場合
- 病気や引っ越しなどにより成年後見人の業務をおこなえない場合
被後見人の親族であれば解任を請求でき、家庭裁判所にて申立てが認められれば解任となります。
2020年の申立件数は455件で、そのうち123件が認められています(第3表家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数―全家庭裁判所|裁判所)。
なお、成年後見制度の目的は被後見人の保護にあり、裁判所としても明確な理由がなければ動いてくれません。
解任申請する場合は、解任事由に当てはまる証拠を準備しておきましょう。
なにを集めればよいかわからない場合は、弁護士にアドバイスしてもらうことをおすすめします。
2.使い込んだ財産の返還を求める訴訟を起こす
成年後見人によって財産を使い込まれた場合は、不当利得返還請求や損害賠償請求などの訴訟を起こすという方法もあります。
しかし、訴訟を起こすには書類や証拠などを準備しなければならず、法律知識なども必要になります。
弁護士であれば依頼者の代理人として対応してくれて、法的視点からの的確な主張も望めます。
自力での対応が不安な場合は弁護士に依頼しましょう。
3.後見監督人の選任を求める
後見監督人とは、成年後見人がおこなう業務を監督する人物です。
被後見人の親族が家庭裁判所に対して、後見監督人の選任を申し立てることで、適切な人物が選ばれます。
成年後見人の事務を監督する第三者が現れることによって、成年後見人の職務是正が図れるでしょう。
4.依頼者見舞金制度を利用する
成年後見人の弁護士が被後見人の財産を不当に利用していた場合は、依頼者見舞金制度の利用を検討しましょう。
依頼者見舞金制度とは、弁護士が業務で預かっていたお金を横領した場合、日本弁護士連合会が被害者に見舞金を支給する制度です。
依頼者見舞金制度の詳細は、以下のとおりです。
支給対象(全て満たす必要あり) |
・依頼した弁護士に横領されて財産を失った人
・横領されたのが2017年4月1日以降であり、被害額が30万円を超えている
|
支給額 |
被害者一人あたり上限500万円まで
(具体的な支給額は、事情を考慮したうえで個別に判断)
|
申請方法 |
「依頼者見舞金支給申請書」を作成して提出 |
申請先 |
依頼した弁護士が所属している弁護士会 |
詳しくは、「依頼者見舞金制度について|日本弁護士連合会」を確認してください。
最後に|成年後見人とのトラブルでお悩みなら弁護士に相談を
成年後見人によるトラブルとしては、親族による財産の使い込みだけでなく、親族以外の弁護士や司法書士などによる被害も起きています。
トラブルを避けるためには、本人の判断能力が衰えてしまう前に任意後見制度や後見制度支援信託などの利用を検討することが大切です。
また、すでに成年後見人によるトラブルが起きている場合は、状況に応じて解任申請や訴訟などの対応を進めましょう。
その際は、弁護士のアドバイスやサポートを受けることで早期解決が望めます。
ベンナビ相続では成年後見に関する対応が得意な弁護士を掲載しているので、まずは相談してみることをおすすめします。
成年後見人とのトラブルにお悩みの方へ
成年後見人に財産を使い込まれて悩んでいませんか?
結論からいうと、成年後見人とのトラブルでお悩みなら、弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼することで以下のようなメリットを得ることができます。
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- 成年後見人の解任に必要な証拠がわかる
- 依頼すれば、訴訟手続きを任せられる
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