身近な家族が認知症になってしまったときのために、成年後見制度の利用を検討されていませんか。
成年後見制度とは、認知症や精神障害などで判断能力が十分と言えない方を保護する制度です。
成年後見制度では判断能力が十分でない人にかわり、家族などが後見人となり財産管理や身上看護をおこないます。
成年後見制度の利用を検討しているものの、「親族が成年後見人になることはできる?」「親族が成年後見人になるとどんなメリット・デメリットがあるの?」といった疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、親族が成年後見人になるメリット・デメリット、成年後見人になれないケース、成年後見人になる際の注意点などを解説します。
成年後見制度について気になっている方はぜひ参考にしてください。
親族でも成年後見人になることができます。
成年後見人制度には任意後見制度と法定後見制度の2つがあります。
任意後見制度とは、本人の判断能力があるうちに、将来判断力が不十分になったときにそなえ本人が後見人を選任しておく制度です。
一方、法定後見制度では、本人の判断能力が低下したあとに家庭裁判所が後見人を選任します。
任意後見制度の場合、基本的には被後見人本人が希望すれば親族でも成年後見人になることができます。
成年後見になるのに特別な資格は不要で、親族・友人・弁護士・司法書士・法人などがなれます。
ただし、本人が希望したからといって必ず成年後見人になれるわけではないので注意しましょう。
家庭裁判所が不適切と判断した場合や、後述する欠格事由に該当している場合は、成年後見人として認められないことがあります。
法定後見制度では、家庭裁判所が選任すれば親族も成年後見人になれます。
親族を後見人候補に指定することは可能ですが、最終的に後見人を選任するのは家庭裁判所です。
家庭裁判所が後見人に選任しても問題ないかを確認し、問題ないと判断されれば親族でも選任されます。
逆に、後見人にふさわしくないと判断された場合は後見人になることができません。
親族を後見人にしたいと思っても、希望が必ず通るわけではない点に留意しておきましょう。
家庭裁判所が後見人にふさわしくないと判断した場合、成年後見人になることができません。
ここからは、親族が成年後見人になれないケースを5つ紹介します。
後見人候補の親族とほかの親族が争っている場合、後見人になることができません。
後見人に選任してしまうと、争いがさらに激しくなってしまうおそれがあります。
法定後見制度を利用する場合、後見される人の法定相続人全員の同意書を提出するのが一般的です。
全員分の同意書を提出できない場合はトラブルが起きていると判断され、後見人として認められるのは難しいでしょう。
後見人候補の親族が欠格事由に該当する場合も後見人になれません。
欠格事由には以下の5つがあります。
上記のうちいずれかひとつでもあてはまれば、後見人として認められません。
上記の欠格事由に該当しなくても、家庭裁判所が不適切と判断した場合は後見人になることは難しいでしょう。
専門家を後見人にしたほうがよいと家庭裁判所が判断した場合も、親族が後見人になるのは難しいといえます。
専門家が後見人として適切であると、家庭裁判所に判断されやすい主なケースは以下のとおりです。
上記のケースでは後見行為の難易度が高くなるので、専門家がふさわしいと判断されることが多いでしょう。
後見人候補の親族に後見人としての義務を果たせる自信がなく、後見人になれないこともあります。
後見人になると、高度な文書を作成したり、厳重な財産管理をおこなったりする必要があります。
財務や税務に関する知識・経験がない人が、スムーズに対応するのは決して容易ではないでしょう。
また、時間がかかる作業も多いため、仕事が忙しくまとまった時間を確保できない人も後見人になるのは難しいといえます。
被後見人と親族の間に、相続に関する意見の食い違いがある場合も後見人として適切ではありません。
相続に関してお互いの意見が対立していると、利益相反となる可能性が高いでしょう。
利益が相反する親族が後見人になってしまったら、財産を適切に管理できないおそれがあるので、後見人にふさわしくないと判断されます。
実際のところ、誰が成年後見人になることが多いのか気になる方もいるでしょう。
ここからは、成年後見人になることが多い人は誰なのか、データを基に解説します。
親族以外が成年後見人となるケースが多いといえるでしょう。
最高裁判所の「成年後見関係事件の概況ー令和4年1月〜12月ー」によると、親族以外が成年後見人となった割合は約80.9%にのぼります。
親族以外を選任したケースのなかでは、司法書士や弁護士、社会福祉士とした専門家を成年後見人に選任しているケースが多くなっています。
親族が後見人候補として指定された割合は全体の23.1%、親族が実際に後見人となった割合は全体の19.1%/あです。
全体的にみれば親族以外が後見人になることが多いものの、親族を候補に指定した場合はその大半において親族が後見人になっています。
2019年に、最高裁判所は「身近な親族を後見人に選任するのが望ましい」との考えを示しています。
現状は親族が成年後見人になるケースはまだ多くないものの、今後増えていくことが予想されるでしょう。
ただし、あくまで後見人にふさわしい親族が身近にいる場合に限ります。
全てのケースで必ず親族を後見人にしなければならないわけではありません。
ケースに応じて、適切な方を成年後見人に選任することが大切です。
ここからは、親族が後見人になるメリットを2つ紹介します。
信頼できる身近な親族が後見人になるため、安心して財産管理を任せられるでしょう。
親族以外が後見人になった場合、よく知らない人に財産を預けることに抵抗を感じたり、財産について口出しをされて嫌な思いをしたりする可能性があります。
身近な親族なら、後見される人の判断能力が低下する前の意思や考え方を知っている可能性が高いので、本人の意思を尊重しながら財産管理をしてくれるでしょう。
専門家が後見人になった場合、後見される人の財産から報酬を支払う必要があります。
報酬額に関する法律上の基準はありませんが、一般的には月2万円ほど支払うケースが多いようです。
預貯金や有価証券の財産額が大きい場合は月5〜6万円ほどになることもあるので、人によっては大きな負担になるでしょう。
親族が後見人になった場合も報酬を請求することはできますが、実際には無報酬で引き受けるケースがほとんどです。
財産額が少ない場合や、費用をできるだけかけたくない場合は親族を後見人にするとよいでしょう。
親族が後見人になるデメリットは、主に以下の2つです。
後見人になると、被後見人の財産を適正に管理したうえで、毎月の収支や財産管理の状況を家庭裁判所に年1回報告しなければなりません。
報告の際に必要な財産目録や収支状況報告書も作成する必要もあります。
報告した内容に間違いがあれば調査され、不適切な管理がされた場合などは、後見人を解任されることもあるのです。
このように後見人には、大きな負担がかかる点は注意しなくてはなりません。
ほかの親族との仲が悪いと、トラブルに発展するおそれがあるでしょう。
「後見人の立場を利用して財産を横領しているのではないか」と、あらぬ疑いをかけられることもあります。
親族とのトラブルで、後見人がストレスを抱えてしまう可能性があるのです。
親族間のトラブルが不安である場合は、弁護士などの専門家を後見人候補者として選ぶことも検討するとよいでしょう。
ここからは、親族が成年後見人になるときに注意すべきポイントを5つ紹介します。
一度成年後見人に選任されると、原則として途中で辞めることはできません。
家庭裁判所から解任や辞任が認められない限り、被後見人が亡くなるまで後見人としての義務を果たす必要があります。
「たいへんだから辞めたい」「自分の思い通りに財産を使えないのが嫌だ」「仕事が忙しい」といった理由では辞められないので注意しましょう。
居住用不動産などの重要な財産を処分する際は、家庭裁判所の許可が必要となります。
被後見人が不利益を被らないようにするためです。
「不動産を売却したい」「建物を賃貸に出したい」と思っても、手続きを勝手に進めてはいけません。
全ての財産を自由に扱えるわけではないので注意しましょう。
そのため積極的に財産を運用管理したい場合は、成年後見制度が必ずしも適しているとは言えません。
成年後見人には年1回、財産の収支や管理状況を家庭裁判所に報告する義務があります。
報告に必要な財産目録や収支状況報告書などを作成しなければならず、かなりの時間と労力がかかるでしょう。
管理財産の額が大きいなど専門家の知識が必要と判断された場合、成年後見監督人が選任されることがある点も注意が必要です。
任意後見制度を使った場合は、必ず成年後見監督人が選任されます。
成年後見監督人とは、成年後見人の後見事務を監督する人のことで、弁護士や司法書士が選任される場合がほとんどです。
成年後見監督人が選任された場合、被後見人の重要な財産を処分する際に、裁判所だけでなく成年後見監督人の許可も必要となります。
なお成年後見監督人がついた場合、月1〜2万円ほどの報酬を支払わなければなりません。
「費用がかからないから」と親族を後見人に選任したとしても、成年後見監督人に対する報酬支払いが発生することがあるので注意しましょう。
同居する家族の後見人となった場合、家族であっても被後見人の財産と家計の管理は別々にしなくてはなりません。
成年後見人の役割は被後見人の財産を預かることなので、被後見人の財産を後見人のため以外に使うことはできないのです。
また仮に後見人本人のための支出であっても、家庭裁判所の許可が必要となることもあります。
そのため財産の管理は、それまでと比べ繁雑で負担が大きくなるでしょう。
成年後見人は必ずしも1人である必要はなく、複数選任することも可能です。
複数選任することで、後見事務を分担しておこなえるため、後見人1人あたりの負担を軽減できます。
また、専門家を選任すれば複雑な財産管理を任せられるので、財産をめぐるトラブルや家庭裁判所への報告時のミスを防ぐことも可能です。
一方、成年後見人が2人以上いる場合、法的な行為をおこなう際や契約を締結する際に成年後見人全員の合意が必要となります。
その分、成年後見人が1人のみの場合に比べ、時間や負担がかかってしまうリスクがある点は注意が必要です。
ここからは、任意後見制度・法定後見制度のそれぞれについて、親族が成年後見人になる方法を解説します。
任意後見制度は、後見される本人が、まだ後見が必要となる状態に至る前に、後見人(候補者)を選任する制度です。
本人から後見人(候補者)に選任してもらったら、任意後見契約の締結をおこないます。
本人と後見人候補の親族との間で任意後見契約を結びます。
お互いが合意したら契約書を公正証書として作成します。
締結した任意後見契約は、公証人の嘱託によって法務局に登記されます。
なお任意後見契約は、本人の判断能力が低下し、任意後見監督人が選任されたときから効力をもつので、契約締結後すぐに後見が始まるわけではありません。
後見人(候補者)は、契約の効力が生じるまでは「任意後見受任者」と呼ばれます。
本人の判断能力が低下してきたら、家庭裁判所に対し任意後見監督人選任の申し立てをおこないます。
任意後見監督人とは、任意後見人の後見事務を監督する人のことです。
申し立ては、本人(被後見人)・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者がおこなえます。
申立書・本人の戸籍謄本・任意後見契約公正証書の写しなどの書類が必要なので、準備のうえ手続きをしましょう。
申し立て後、任意後見監督人選任の審判がおこなわれます。
この審判によって任意後見監督人が選任されたあと、任意後見契約の効力が発生し任意後見がスタートします。
法定後見制度の場合、後見人になるには家庭裁判所に選任してもらう必要があります。
まずは法定後見の申立人を決めます。
一般的には、後見制度を利用する本人・四親等内の親族が申立人になることが多いでしょう。
申立人が決まったら、申し立てに必要な書類を準備します。
必要書類と書類の取り寄せ先は以下のとおりです。
必要書類 |
取り寄せ先 |
申立書 |
東京家庭裁判所・支部の窓口 (インターネットや郵送でも入手可能) |
申立事情説明書 |
|
親族関係図 |
|
本人の財産目録とその資料(不動産登記簿謄本、預貯金通帳のコピーなど) |
|
本人の収支状況報告書とその資料(領収書のコピーなど) |
|
後見人等候補者事情説明書 |
|
親族の同意書 |
|
本人の戸籍謄本・住民票 |
各自治体の役所・役場窓口 |
後見人等候補者の戸籍謄本・住民票 |
各自治体の役所・役場窓口 |
登記されていないことの証明書 |
東京法務局 |
診断書(成年後見用)、診断書付票 |
東京家庭裁判所・支部の窓口 (インターネットや郵送でも入手可能) |
愛の手帳の写し(本人に知的障害がある場合) |
上記のほか、書類のやりとりに必要な収入印紙・郵便切手と鑑定費用も用意しておきましょう。
申立書と必要書類を準備したら、家庭裁判所に提出しましょう。
家庭裁判所の窓口に直接提出するか、郵送でも提出できます。
申立先は後見制度を利用する本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
管轄の裁判所がわからない場合は、裁判所のホームページで確認しておきましょう。
家庭裁判所の調査官が本人や後見人候補者などと面談をし、本人の状況を確認します。
原則として家庭裁判所でおこなわれますが、本人が入院していたり歩行が難しかったりする場合は病院や自宅で面談することも可能です。
面談では、家庭裁判所の調査官が本人の判断能力をチェックします。
また、医師による精神状態の鑑定がおこなわれることもあります。
面談の内容や鑑定の結果を基に、家庭裁判所が後見人を選任します。
申し立ての際に後見人候補者を指定しますが、必ずしも候補者が後見人になるとは限りません。
また、財産状況が複雑である・親族間のトラブルが懸念されるなどのケースでは、後見監督人が選任されることもあります。
後見人の選任後、後見が開始されるのです。
成年後見人は、はじめに被後見人の財産や生活状況を調査したうえで、財産目録や年間収支予定表を作成します。
判断能力が低下した場合の財産管理を親族に任せたいなら、家族信託を利用するという選択肢もあります。
家族信託とは、自分の財産を信頼できる親族にあらかじめ託すことです。
通常、認知症などで判断能力が低下すると預金口座が凍結され、たとえ家族であってもお金を引き出せなくなります。
しかし、家族信託を利用すれば、将来判断能力が低下しても家族が代わりに管理・運用・処分をすることが可能です。
ここからは、家族信託のメリット・デメリットなどを成年後見制度と比較しながら解説します。
家族信託のメリットは、成年後見制度よりも財産を自由に管理できることです。
成年後見制度では本人の財産を減らす行為は認められないので、投資などリスクを伴う使い方はできません。
一方、家族信託なら家族が大きな裁量を持って財産を柔軟に管理できます。
成年後見制度では認められない行為でも、家族信託ならできる場合が多いでしょう。
また、成年後見制度は必ずしも親族が後見人になるとは限りませんが、家族信託なら確実に家族に財産を託すことができます。
成年後見制度のメリットは、親族が財産管理だけでなく身上監護、法律行為もおこなえることです。
家族信託は財産管理がメインの契約なので、たとえば老人ホームへの入居手続きや病院への入退院手続きなどの法律行為はおこなえません。
一方、後見人なら本人の生活に関する法律行為をおこなえます。
財産管理と法律行為の両方を親族に任せたい場合は、成年後見制度を使うとよいでしょう。
また、複雑な財産管理や高度な法律行為を専門家に一任できる点も、成年後見制度の利点といえます。
以下のようなケースでは、家族信託が向いているでしょう。
成年後見制度では、専門家が後見人や後見監督人となった場合に報酬の支払いが発生します。
一方、家族信託なら受託者などの報酬を定めなければ、信託契約時の専門家への手数料や、その他の登記費用などを除いては、報酬を支払う必要がないので、コストを安く済ませることができる可能性もあります。
成年後見制度が適しているのは、主に以下のようなケースです。
家族信託よりも幅広い行為を任せたいなら、成年後見制度が適しているといえます。
また、家族信託は本人の判断能力が低下してからは契約できないので、すでに本人が認知症を患っている場合は法定後見制度を利用するしかありません。
親族が後見人になることで、本人が安心感を得られる・費用を抑えられるといったメリットがありますが、親族の負担が大きくなってしまうというデメリットもあります。
「親族にできるだけ負担をかけたくない」という場合、弁護士や司法書士などの専門家を後見人に選任するのもひとつの手です。
また、家族が自由に財産を管理できるようにしたいなら、家族信託を検討するのもよいでしょう。
誰を後見人にすべきか、どの制度を使うべきかについては、家族とじっくり相談して決めることが大切です。
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