成年後見制度は、認知症などを理由に判断能力が低下している人へ法律行為のサポートをするための制度です。
将来に備え利用を検討しているものの、司法書士などの専門家に代行を依頼すると数十万円程度の費用がかかるため、利用にハードルを感じている人もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、成年後見制度の手続きを、自分でする方法について解説します。
本記事を読めば、成年後見制度を利用するための手順や、申し立てる際の注意点などを確認することが可能です。
まず成年後見制度は2種類あることを把握しておきましょう。
状況に合わせて利用できる制度が異なるため、どちらを利用するべきか事前に確認が必要です。
法定後見制度は、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分な人に対し、本人の権利を法律的に支援し保護するための制度です。
判断能力の状態に応じて、後見・保佐・補助の3つの区分があり、それぞれ裁判所によって選任された成年後見人・保佐人・補助人が支援をおこないます。
任意後見制度との最も大きな違いは、判断能力がすでに低下している状態から制度を利用する点にあります。
将来に備えて後見人を選んでおきたいという場合は、任意後見制度の利用を検討しましょう。
任意後見制度は、将来的に判断能力が低下したときに備えて、判断能力が低下した際の後見人を選任しておく制度です。
認知症の発症初期などで意思能力が残っていると判断される場合は、認知症発症後でも自分で任意後見人を選任できます。
法定後見制度との最も大きな違いは判断能力が低下する前に後見契約を結ぶ点と、後見人を本人が選べる点にあります。
また成年後見制度と異なり、任意後見制度では後見人に契約取消権がない点は注意しなくてはなりません。
任意後見制度では、被後見人が不要な契約を結んでしまった場合に、後見人がそれを取り消すことはできないのです。
成年後見制度は以下の条件に当てはまる人が申し立てをおこなえます。
成年後見制度の手続きは後見を受ける本人でも申し立てることが可能です。
本人以外では配偶者や親族の方でも申し立てることが可能です。
なお、親族が申し立てる場合は4親等以内であることが条件であり、子や孫、父母や祖父母などはもちろん、いとこや甥、姪などでも申し立てることができます。
本人や親族以外には検察官などが申し立てられるほか、すでに任意後見が登記されている場合は任意後見人などもおこなうことができます。
自分で法定後見開始の審判を申し立てる場合は以下の手順で進めていきます。
まずは後見人の候補者探しや必要書類の準備をおこないます。
申し立てに必要な書類は以下のとおりです。
必要書類 | 入手方法 |
申し立て書類一式 ・後見開始申立書 ・申立事情説明書 ・親族関係図 ・財産目録 ・収支状況報告書 ・後見人等候補者事情説明書 ・親族の同意書 |
家庭裁判所の窓口もしくはWebサイトからダウンロード |
本人に関する資料 ・身体障害者手帳・精神障害者手帳など、本人の健康状態がわかるもの ・年金額決定通知書・確定申告書・給与明細など収入がわかるもの ・納税通知書や健康保険料の通知書など支出がわかるもの |
それぞれ本人が受領しているものを用意する |
戸籍謄本 ・本人のもの ・後見人の候補者のもの |
各市区町村の役所もしくはコンビニなどでの発行 |
住民票 ・本人のもの ・後見人の候補者のもの |
各市区町村の役所もしくはコンビニなどでの発行 |
後見登記されていないことの証明書 ・本人 |
法務局本局 |
成年後見が必要なことを証明できる医師の診断書、診断書附票 | 病院など |
愛の手帳の写し ※本人が知的障害である場合のみ |
必要書類がそろったら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所にて申し立てをおこないます。
申し立ての際は、手続きや郵送費用として収入印紙や郵便切手を準備する必要があるので忘れずに購入しておきましょう。
費用内訳 | 金額 |
収入印紙(申し立て用) | 800円分 |
収入印紙(登記用) | 2,600円分 |
郵便切手 | 家庭裁判所による |
鑑定費用 | 必要な場合がある |
申し立てが無事受理されると以下の手順で審理がおこなわれます。
まずは申立人および後見人の候補者が、裁判所の職員から面接を受けます。
面接では申し立てに至った背景や本人の状況を確認されます。
面接は平日の指定された日時におこなわれ、所要時間は1~2時間程度です。
申立人および後見人の候補者と面接をおこなったのち、裁判官が必要と判断した場合は後見制度を利用する本人との面接がおこなわれる場合があります。
なお、申請書類の状況などから後見制度を利用する要件を満たしていることに疑いがない場合は、面接が省略されることもあります。
面接は基本的に家庭裁判所でおこなわれますが、本人の状況によっては裁判所の職員が入院先の病院などに訪問しておこなわれます。
面接後、親族は後見制度の利用について意向を確認されます。
なお、申し立ての際に親族全員から同意書が提出されていれば、このステップは省略されることがあります。
申請時の診断書や面接の内容だけでは、本人の判断能力について判定しきれない場合、追加で医師による鑑定が求められることがあります。
もちろん、診断書の内容などから本人の判断能力の状況が判定できれば、鑑定は省略されます。
家庭裁判所は後見制度の利用について審理をおこない、その内容をもとに審判をおこないます。
無事後見の開始および成年後見人の選任が認められれば、審判書が成年後見人に送付されます。
もし、審判の内容に不服がある場合は、審判書の送付から2週間以内に即時抗告をおこなうことで申し立てが可能です。
審判書の内容に不服の申し立てをしなければ審判の内容が確定します。
また、それにあわせて審判の内容を登記する手続きがおこなわれます。
後見登記の手続は家庭裁判所から法務局へ自動的に依頼されるため、申立人や後見人が何かをする必要はありません。
2週間程度経つと後見登記が完了し、後見人に登記番号が通知されます。
そのあと、法務局で登記事項証明書を取得してください。
登記事項証明書は、本人の預金口座を解約する際など、後見人がおこなうさまざまな手続きの際に必要となります。
後見登記が完了したら後見人は後見人としての職務を開始します。
後見人はまず、被後見人の財産の一覧表である財産目録を作成します。
財産目録は審判の確定から1ヵ月以内に裁判所への提出が必要です。
任意後見制度の利用手続きを自分でする場合の手順は以下のとおりです。
まずは、将来任意後見人として自身を支えてくれることになる任意後見受任者を探します。
任意後見受任者は基本的に自由に選べるため、家族や親族、弁護士などの専門家などから信頼できる人に依頼するようにしましょう。
任意後見受任者が決まったら、任意後見の契約内容を話し合います。
自身の判断能力が低下した後にどのようなかたちで支援してもらうかをあらかじめすり合わせておくようにしましょう。
具体的には以下の観点を元に契約内容の話し合いをおこないます。
契約内容がまとまったら、公証役場にて公正証書で任意後見契約書を作成します。
公正証書は公証人が立会いのもとで作成する法的な書類のことを指し、任意後見契約書は公正証書で作成することが必要です。
なお、公正証書を作成するためには以下の書類が必要となります。
また費用もかかるのであらかじめ確認しておきましょう。
公正証書の作成に必要な書類は以下のとおりです。
必要書類 | 入手方法 |
印鑑登録証明書+実印 ・本人のもの ・任意後見受任者のもの ※運転免許証・マイナンバーカードなどの顔写真付き公的身分証明書+認印または実印でも代用が可能 |
各市区町村の役所もしくはコンビニなどでの発行 |
住民票 ・本人のもの ・任意後見受任者のもの |
各市区町村の役所もしくはコンビニなどでの発行 |
戸籍謄本または抄本 ・本人のもの |
各市区町村の役所もしくはコンビニなどでの発行 |
公正証書の作成にかかる費用は以下のとおりです。
費用内訳 | 金額 |
公正証書作成手数料 | 11,000円 ※本人が病床にあって公証人が出張する場合には、病床執務加算として5,500円追加 |
収入印紙 | 2,600円分 |
登記嘱託手数料 | 1,400円 |
郵送料 (法務局に登記申請をおこなう際に任意後見契約公正証書謄本を郵送するための書留料金) |
場合による |
正本謄本の作成手数料 | 証書一枚につき250円 |
任意後見契約書を作成し、任意後見契約が締結されると、公証人によって法務局へ成年後見登記の依頼がおこなわれます。
後見登記後は後見登記の内容を示す登記事項証明書を取得することができ、この証明書を用いることで任意後見受任者は自身がその立場にあることを示すことが可能です。
任意後見制度は任意後見受任者を定めただけでは実際の効力を発揮しません。
制度を利用する本人の判断能力が低下しはじめたら、家庭裁判所で手続きをおこない、任意後見監督人が選任される必要があります。
任意後見監督人は、任意後見人が後見人としての責務を適切におこなっているか管理監督する役割を担っている人です。
自身で選ぶことができた任意後見人(任意後見受任者)と異なり、任意後見監督人の選任は家庭裁判所によっておこなわれます。
なお、任意後見監督人を選任するためには以下の書類が必要となります。
また費用もかかるのであらかじめ確認しておきましょう。
任意後見監督人の選任に必要な書類は以下のとおりです。
必要書類 | 入手方法 |
申立書 | 家庭裁判所の窓口もしくはWebサイトからダウンロード |
戸籍謄本 ・本人のもの |
各市区町村の役所もしくはコンビニなどでの発行 |
任意後見契約公正証書の写し | 公証役場にて発行 |
登記事項証明書 | 法務局へ請求 |
成年後見が必要なことを証明できる医師の診断書など | 病院など |
本人の財産がわかる資料 (不動産登記事項証明書、通帳の写し、残高証明書など) |
|
住民票または戸籍附票 ・任意後見監督人の候補者のもの(いる場合) |
各市区町村の役所もしくはコンビニなどでの発行 |
任意後見監督人の選任にかかる費用は以下のとおりです。
費用内訳 | 金額 |
収入印紙(申し立て用) | 800円分 |
収入印紙(登記用) | 1,400円分 |
郵便切手 | 場合による |
申し立てが完了したら、家庭裁判所にて審理がおこなわれ、任意後見監督人が選任されます。
任意後見監督人が選任されると、その内容が任意後見人に送付され、任意後見が開始されます。
また、任意後見の開始について家庭裁判所から法務局への依頼がおこなわれることで、後見登記の手続きが進められます。
任意後見監督人の選任をもって任意後見が始まります。
任意後見人は財産目録の作成や金融機関への届け出など、さまざまな業務を開始します。
成年後見制度の手続きは、前述したように複雑かつ多岐にわたります。
そのため、もし手続きに悩んでしまうようであれば以下の窓口に相談してみましょう。
家庭裁判所のWebサイトでは、成年後見制度に関する手続きについて説明していたり、手順に関する説明の動画を公開していたりします。
詳細は、被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所のWebサイトを確認ください。
また、家庭裁判所の窓口で必要な書類や手続きについて詳細な説明を受けることができます。
任意後見制度を利用するためには任意後見契約を公正証書にて作成する必要があります。
公正証書の作成は公証役場でしかおこなえないため、公証役場の窓口で任意後見制度について相談するのもひとつの選択肢といえます。
相談は無料で受けられますが、予約が必要になることがあるので、あらかじめ公証役場に確認のうえ利用を検討してください。
地域によっては高齢者や障害者の福祉支援の一環として、法定後見制度に関する相談窓口を設けている場合があります。
たとえば、東京都の中央区社会福祉協議会が運営している成年後見支援センター「すてっぷ中央」では、成年後見支援事業として、成年後見制度の利用に関する相談や申立書類の作成支援などをおこなっています。
窓口の有無や利用方法などについては各自治体によって異なるので、事前に確認のうえ利用してください。
Googleなどの検索サイトで「成年後見制度 地域名 相談」というキーワードで検索すると、お近くの相談窓口をみつけられるでしょう。
成年後見制度を自分でおこなう際には以下の3点に注意しましょう。
成年後見制度の手続きでは、書類の収集や作成など手間と時間がかかる数多くの作業をしなくてはなりません。
裁判所での審理などでも時間がかかるため、申し立てから早くても1ヵ月ほど、長いと半年近くの時間がかかることも頭に入れておきましょう。
手続きや書類の作成に際して十分な知識がない状態で対応すると、記入ミスや書類の不備などが発生する可能性があります。
このようなミスがあると修正や追加の手続きが必要です。
その結果、手続きが遅延し、想定よりも時間や労力がかかってしまうことが予想されます。
家族の判断能力が低下した際の備えとして取れる対処方法は成年後見制度以外にも存在します。
たとえば家族信託は、成年後見制度では難しい資産の積極的な運用をおこなえるほか、裁判所への申し立てが不要なので時間や労力を節約することが可能です。
ほかの制度と比べ、ご自身のケースで成年後見制度が最適か判断するのは簡単ではないでしょう。
どういった制度を選べばよいかわからない場合は、弁護士に相談してアドバイスを求めることをおすすめします。
成年後見制度の手続きは自分でおこなうことが可能です。
ただし、手続きや書類作成は多岐にわたり複雑であるため、簡単にできるものではないと認識しておきましょう。
また、状況によっては、そもそも成年後見制度以外の利用が適している場合もあります。
成年後見制度の手続きを自分でおこなうことが難しいと感じたら、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に相談することで法的な知見から制度の利用についてバックアップしてもらえるほか、書類作成や手続きの代行も可能です。
本記事や弁護士からのアドバイスをもとに成年後見制度の利用をすすめていきましょう。
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