家族信託とは、認知症などの場合に備えて、自分の財産を管理・運用する権限を家族に与える制度のことです。
家族信託のメリットは、似たような制度に比べて手軽に利用でき、費用も安く抑えられることが挙げられます。
ただし、手続きが複雑な場合には、弁護士や司法書士などに依頼する必要があります。
その場合には、コンサルティング料がかかるため、ある程度費用が高額になるでしょう。
本記事では、具体的な項目別に、家族信託にかかる費用を解説します。
できるだけ費用を抑える方法についても解説しますので、これから家族信託の利用を考えている人はぜひ参考にしてみてください。
家族信託とは、認知症などで自身の財産を管理・運用できなくなった場合に備えて、家族に財産の管理・運用を託す仕組みのことです。
家族信託は、委託者、受託者、受益者の3者間でおこなわれます。
たとえば、高齢の親(委託者)の収益不動産の管理・運用を息子(受託者)がおこなえるようにし、その不動産の管理・運用で手に入れた利益を親(受益者)に受け取らせるといったことが考えられます。
似たような制度の成年後見制度に比べると、使い勝手がよく、費用も抑えやすいなどのメリットがあります。
成年後見制度とは、知的障害や精神障害、認知症などにより自分一人で物事を決めることに不安や心配のある人に向け、契約の手続きを援助する制度です。
制度の利用の際には家庭裁判所に申立ての手続きが必要なほか、裁判所によって決定した成年後見人に対し、報酬を支払わなければなりません。
家族信託をおこなう場合には、一般的に以下のような費用が必要になります。
【家族信託をする場合に必要な費用の内訳】
項目 |
費用 |
|
最低限必要な費用 |
戸籍謄本の手数料 |
450円 |
印鑑証明書の手数料 |
300円 |
|
公正証書の作成費用 |
5,000円~ |
|
信託口口座の開設費用 |
5万~10万円程度 ※各金融機関によって異なる |
|
信託契約書に貼る収入印紙 |
1通あたり200円 |
|
不動産がある場合に必要な費用 |
登記事項証明書の手数料 |
書面請求:600円 オンライン・郵送:500円 オンライン・窓口交付:480円 |
固定資産税評価証明書の手数料 |
300円 |
|
登録免許税 |
土地:不動産の価額の0.3% 建物:不動産の価額の0.4% |
|
専門家に頼る場合に必要な費用 |
コンサルティング料 |
信託財産の評価額×1%程度 (最低30万円程度) |
司法書士手数料(登記代行費用) |
10万円程度 |
|
受益者代理人や信託監督人を設定する場合に必要な費用 |
月額1万円程度 |
この章では、家族信託の手続きにかかる費用と内訳について解説します。
公正証書とは、公証役場の公証人によって作成される公文書のことです。
通常、家族信託に必要な信託口口座を開設するためには、公正証書による信託契約書が必要になります。
公正証書の作成費用は、以下のように信託財産の価額によって異なります。
また、確定日付の付与、執行文の付与、送達証明などのオプションを付ける場合には、別途、手数料を支払うことになります。
【公正証書の作成費用の一覧】
区分 |
手数料 |
100万円以下 |
5,000円 |
100万円超200万円以下 |
7,000円 |
200万円超500万円以下 |
1万1,000円 |
500万円超1,000万円以下 |
1万7,000円 |
1,000万円超3,000万円以下 |
2万3,000円 |
3,000万円超5,000万円以下 |
2万9,000円 |
5,000万円超1億円以下 |
4万3,000円 |
1億円超3億円以下 |
4万3,000円+1万3,000円(5,000万円ごと) |
3億円超10億円以下 |
9万5,000円+1万1,000円(5,000万円ごと) |
10億円超 |
24万9,000円+8,000円(5,000万円ごと) |
【公正証書のオプションの種類と費用】
区分 |
手数料 |
確定日付の付与 |
1通あたり700円 |
執行文の付与 |
1,700円 |
正本・謄本の送達 |
1,400円 |
送達証明 |
250円 |
正本・謄本の送達 |
1枚あたり250円 |
閲覧 |
1回につき200円 |
登録免許税とは、不動産などの登記手続きをする際に納める税金のことです。
家族信託の場合は不動産の信託登記が必要になり、不動産の課税価額に応じた登録免許税を納めることになります。
ここでいう課税価格とは、固定資産税評価額をいいます。
土地と建物の登録免許税の金額は、それぞれ以下のように計算します。
【土地と建物の登録免許税の計算方法】
項目 |
費用 |
土地の登録免許税 |
不動産の課税価額×税率0.3%(※) |
建物の登録免許税 |
不動産の課税価額×税率0.4% |
※本来の税率は0.4%ですが、2026年3月31日まで軽減税率が適用されます
弁護士や司法書士に家族信託の設計などを依頼する場合、コンサルティング料を支払う必要があります。
コンサルティング料は事務所によって異なりますが、一般的には金額の目安は以下のとおりです。
信託評価額 |
費用 |
1億円以下の部分 |
信託財産の評価額×1%(最低でも30万円) |
1億円超3億円以下の部分 |
信託財産の評価額×0.5% |
3億円超5億円以下の部分 |
信託財産の評価額×0.3% |
5億円超10億円以下の部分 |
信託財産の評価額×0.2% |
10億円超の部分 |
信託財産の評価額×0.1% |
登記手続きは自力でもできますが、登記の専門家である司法書士に依頼するほうが一般的です。
司法書士に登記手続きを依頼した場合の報酬は、10万円前後が相場でしょう。
受益者代理人とは、受益者の権利を代理で行使でき、受託者に財産の管理・運用の指示ができる人のことです。
また信託監督人とは、受託者の財産管理方法が適切か、契約内容を順守しているかを監視する人のことです。
家族信託では、このような受益者代理人や信託監督人を設定することもできます。
受益者代理人や信託監督人を設定した場合、それぞれに月額1万円程度の報酬を支払うことになります。
この章では、家族信託にかかる費用を4つのケースでシミュレーションしましょう。
まずは、預金1,000万円を家族信託するケースです。
項目 |
費用 |
収入印紙 |
200円 |
公正証書の作成費用 |
2万3,000円 |
信託口口座の開設費用 |
5万円 |
その他書類の発行手数料など |
1万円 |
コンサルティング料 |
30万円 |
合計額 |
38万3,200円 |
預金だけの管理を任せる場合、登録免許税や登記代行費用などは不要です。
また、委託する財産額も小さいため、公正証書の作成費用やコンサルティング料も安めとなります。
もっともシンプルな家族信託の費用といえるでしょう。
次に、預金5,000万円を家族信託するケースです。
項目 |
費用 |
収入印紙 |
200円 |
公正証書の作成費用 |
2万9,000円 |
信託口口座の開設費用 |
5万円 |
その他書類の発行手数料など |
1万円 |
コンサルティング料 |
50万円 |
合計額 |
58万9,200円 |
預金5,000万円を家族信託するケースでは、預金1,000万円のケースと比べ、公正証書の作成手数料とコンサルティング料が高くなります。
財産の種類が同じ預金でも、信託財産が高額になれば、費用も高額になります。
続いて、預金2,000万円、土地3,000万円を家族信託するケースです。
項目 |
費用 |
収入印紙 |
200円 |
公正証書の作成費用 |
2万9,000円 |
信託口口座の開設費用 |
5万円 |
その他書類の発行手数料など |
1万円 |
登録免許税 |
9万円 |
登記代行費用 |
10万円 |
コンサルティング料 |
50万円 |
合計額 |
77万9,200円 |
預金2,000万円、土地3,000万円を家族信託するケースでは、信託財産に土地(不動産)が含まれるため登録免許税や登記代行費用などが必要になります。
預金5,000万円のケースと信託財産の合計額は同じであっても、不動産を含むケースのほうが、家族信託にかかる費用は高額になります。
最後に、預金5,000万円、土地3,000万円、建物2,000万円のケースです。
項目 |
費用 |
収入印紙 |
200円 |
公正証書の作成費用 |
4万3,000円 |
信託口口座の開設費用 |
5万円 |
その他書類の発行手数料など |
1万円 |
登録免許税 |
17万円(土地:9万円、建物:8万円) |
登記代行費用 |
10万円 |
コンサルティング料 |
100万円 |
合計額 |
137万3,200円 |
預金5,000万円、土地3,000万円、建物2,000万円のケースでは、公正証書の作成費用、コンサルティング料、登録免許税などが、ほかのケースに比べて高くなります。
そのため、費用の合計額も4つのケースの中では最も高額になります。
この章では、家族信託にかかる費用をできる限り抑えるためのポイントについて説明します。
家族信託の費用を抑えたいなら、できる限り信託財産を少なくすることをおすすめします。
前述したシミュレーションでもわかるとおり、信託財産が高額になるほど費用の負担も大きくなります。
また、土地や建物などを信託財産とする場合は、登録免許税や登記代行費用などが必要になります。
そこで、信託財産に含める預金を少なくしたり、不動産以外の財産を含めたりすることをおすすめします。
これによりコンサルティング料や登録免許税、登記代行費用などの負担を軽減することができるでしょう。
家族信託契約書を私文書のままにしておく方法も考えられます。
公正証書には法的に強い証拠力がありますが、その分、作成するのに数万円程度の費用がかかります。
一方、私文書は公正証書ほど効力が強くありませんが、その分、数百円程度で作成することが可能です。
親族の関係性が良好な場合などであれば、確定日付の付与だけで対応できるケースもあります。
公正証書のほうがおすすめではありますが、私文書のままにすることを検討してみるのもよいでしょう。
家族信託の手続きを自力でおこなうことで、費用を節約できます。
弁護士や司法書士に依頼する場合、コンサルティング料や登記代行費用などを負担する必要があります。
しかし、これらの手続きを全て自力でおこなえば、数十万円程度は安く済ませることが可能です。
ただし、この場合は、法律や契約、登記、税制などに関する詳しい知識が必要になります。
契約や手続きに間違いがあった場合、法的なトラブルに巻き込まれるリスクがあるので注意しましょう。
この章では、家族信託の相談を受け付けている専門家について詳しく解説します。
弁護士は、法律に関する専門家です。
家族信託においては、信託契約に関する相談や、家族信託契約書の作成などに対応してくれます。
また、信託契約に関するトラブルが発生した場合は、代理人として交渉や訴訟などをおこなってくれます。
家族信託に関するトラブルを解決したり、トラブルを予防したりしたい方に適しているといえるでしょう。
司法書士は、不動産登記や商業登記といった登記の専門家です。
司法書士も弁護士と同じで、信託契約に関する相談などに対応してくれます。
特に信託財産に土地や建物などの不動産がある場合には、その登記について詳しく相談ができます。
不動産登記について相談したい、成年後見制度も一緒に相談したいなどがあれば司法書士を選びましょう。
行政書士は、許認可の申請や契約書の作成などをおこなう書類作成の専門家です。
家族信託においては、家族信託契約書に関する相談や作成などをおこなうことができます。
ただし、行政書士は登記手続きができないので、登記手続きが必要な場合は司法書士に依頼しましょう。
税理士は、税務申告や税務相談などの税務の専門家です。
家族信託では贈与税、相続税、所得税などが課される可能性があるため注意が必要になります。
家族信託に伴う税金の相談がしたい方や確定申告をおこないたい方などは、税理士に相談をしましょう。
この章では、家族信託をおこなう際に注意すべき税金について詳しく解説します。
家族信託の委託者と受益者が同一人物の場合(自益信託)は、受益者が贈与税を負担することはありません。
一方「委託者:親、受益者:子ども」のように、委託者と受益者が別人の場合(他益信託)は、信託から得た利益が贈与として扱われます。
信託から得た利益などの合計額が、贈与税の基礎控除額(110万円)を上回った場合、その課税価格に応じて贈与税が課されることになるでしょう。
受益者が亡くなった場合、受益権(信託財産)は通常の相続と異なり、信託契約に従って移転することになります。
このときの受益権はみなし相続財産として扱われるため、相続税の課税対象に含めて計算する必要があります。
受益権を含めた相続財産の合計額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を上回った場合、その財産をもとに相続税の合計額を計算し、取得した相続財産の割合に応じて相続税が課されることになります。
家族信託では、受益者は自らの受益権を他人に売却することができます。
このときの受益権の売却に伴い得た利益は、譲渡所得税(法人の場合は法人税)の課税対象になります。
譲渡所得税は、売却に伴い得た利益から取得費などを引いて算出した課税譲渡所得金額に応じて納めます。
譲渡所得税は不動産の保有期間によって税率が異なる点や、譲渡する内容に応じた特別控除額が用意されています。
不動産を家族信託する場合には、固定資産税に注意する必要があります。
固定資産税の納税通知書は不動産の所有者に届くため、家族信託をしている場合は受託者のもとに送られます。
そのため、固定資産税の支払いは受託者がおこなわなければなりません。
ただし、信託契約で固定資産税を受益者の財産から支払えるように決めることも可能です。
不動産の家族信託をおこなう際には、「誰が固定資産税を負担するのか」まで決めておくことをおすすめします。
この章では、家族信託に関するよくある質問に回答します。
家族信託は、全ての人におすすめできる制度ではありません。
以下のようなケースでは、家族信託を利用するメリットが少ないといえます。
家族信託を利用すべきかどうか迷っている場合は、弁護士や司法書士などに相談することをおすすめします。
銀行で取り扱っている家族信託とは、商事信託という営利目的で資産を管理・運用する金融商品のことです。
一方、本記事の家族信託は、民事信託という自分や家族が資産を預かり管理・運用する仕組みを指します。
銀行によって提供内容は異なりますが、一般的には銀行(受託者)に信託金を預けて運用してもらい、その収益を受益者が受け取るというものになっています。
また、相続発生後は預かっていた信託金を受益者に交付することになります。
受託者が銀行である点と、信託財産が金銭に限られている点が、一般の家族信託との大きな違いといえるでしょう。
家族信託の場合は、原則として毎年支払う費用はありません。
ただし、以下のように手続きやトラブル解決をするために専門家に依頼する場合は、その依頼内容に応じて費用を支払う必要があるでしょう。
本記事では、家族信託の費用について詳しく解説してきました。
家族信託は、自分で手続きをおこなう場合にはそれほど費用はかかりません。
しかし、家族信託はあとからトラブルになる可能性もあるため、できる限り専門家に相談するほうが望ましいです。
家族信託に関する相談を受け付けている専門家には、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などがいます。
何について相談したいのかを十分整理してから、適した専門家に相談・依頼をすることをおすすめします。
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