成年後見制度の利用を検討している方の中には、手続きにかかる費用や弁護士などの専門家に支払う費用が気になる方も多いでしょう。
しかし、成年後見制度の利用で発生する費用は、利用する成年後見制度の種類や、依頼先の専門家によって異なります。
成年後見制度の利用では、具体的に以下のような費用がかかります。
成年後見制度の利用でかかる主な費用
- 申立て費用
- 弁護士・司法書士へ支払う費用
- 後見人への報酬
- 公正証書の作成費用
- 任意後見監督人への報酬
- 任意後見人への報酬
本記事では、成年後見人制度を利用する際に発生する費用や、司法書士・弁護士に依頼した場合の費用などについて詳しく解説します。
成年後見制度にかかる費用でお悩みの方へ
成年後見制度で、親や自身の認知症に備えたいと思っていても、どれくらい費用がかかるかわからず悩んでいませんか?
成年後見人制度における弁護士への成年後見人の申立て依頼費用は15万〜25万円程度ですが、実際の料金体系は依頼する法律事務所によって異なります。
具体的な費用を知るためにも一度弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼することで以下のようなメリットを得ることができます。
- 成年後見制度の利用にかかる具体的な費用がわかる
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この記事に記載の情報は2024年11月13日時点のものです
成年後見制度についての基本知識
成年後見制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」に大きく分けられます。
それぞれの違いと成年後見人の基礎知識について詳しく説明します。
法定後見制度とは
法定後見制度は、認知症・精神の障がい・知的障がいなどにより、ものごとを判断する能力が十分でない方を対象として、家庭裁判所が本人の権利を守る支援者を選び、支援する制度です。
法定後見制度では、誰を後見人にするかは、家庭裁判所が選びます。
後見人には、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家を選ぶ場合と、親族を選ぶ場合があります。
また最近では、法人後見や市民後見人が選ばれるケースもあります。
法定後見制度は、本人の能力に応じて後見・保佐・補助の3つの類型に分かれます。
3つの類型のうちどれに該当するかは、家庭裁判所が判断します。
後見
「後見」類型は、日常的にものごとを正確に判断するのが難しい方が該当します。
ほぼ全ての契約や手続きを、後見人がおこないます。
保佐
「保佐」類型は、重要な契約や手続きについての判断を手助けする必要がある方が該当します。
保佐が開始されると、不動産の売買や借金など、重要な契約や手続きをしようとする場合には、保佐人の同意が必要になります。
また、保佐人は家庭裁判所が保佐人に与えた権限の範囲内で、本人を手助けしたり、契約などを代行したりします。
補助
「補助」類型は、本人でも判断をすることができなくはないが、手助けをしてあげたほうがよい方が該当します。
補助人は、家庭裁判所が補助人に与えた権限の範囲内で、本人を手助けしたり、代行したりします。
ただし、この権限の範囲は、保佐人より狭くなります。
いずれの類型でも、制度を利用する場合には家庭裁判所に「後見(また保佐・補助)開始の申立て」をおこなう必要があり、必要な手数料は類型によって異なります。
また親族以外が後見人に就任する場合、原則として、後見人の報酬が発生します。
任意後見制度とは
任意後見制度は、本人の判断能力が低下する前に、あらかじめ任意後見人の候補者と任意後見契約を結んでおき、本人の能力が低下した時点で任意後見人の職務が始まるという制度です。
任意後見人の権限は、任意後見契約の中で決めます。
なお、任意後見制度では、保佐や補助の類型はありません。
任意後見の場合、契約書作成時点、契約発動時点(後見監督人の選任時点)、任意後見人の活動中の、それぞれの場面で費用が発生します。
成年後見人(法定後見)の選任申立てにかかる費用
まずは成年後見人(法定後見)の申立て費用について解説します。
かかる費用の項目は、以下のとおりです(参考:東京家庭裁判所)。
費用項目
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金額
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申立手数料
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800円
*保佐・補助の場合、代理権・同意権の申立てをする場合はそれぞれ800円
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登記手数料
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2,600円
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登記されていないことの証明書の発行手数料
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300円
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切手代
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後見申立て:4,000円
保佐・補助申立て:5,000円(裁判所によって異なる)
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診断書作成費用
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数千円程度(病院により異なります)
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住民票・戸籍の取得費用
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各数百円/部
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鑑定費用
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10万~20万円
*鑑定を実施する場合のみ
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申立手数料:800円(収入印紙)
成年後見人(法定後見)を申し立てるための手数料です。
後見・保佐・補助共通で800円を収入印紙で納めます。
また保佐申立てや補助申立ての際に、代理権や同意権の付与も合わせて申し立てる場合、権利ごとに800円分の収入印紙が必要になります。
具体的な金額の例は、次のとおりです。
費用項目
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金額
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後見または保佐開始申立て
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800円
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保佐または補助開始申立て
+
代理権付与申立て
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1,600円
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保佐または補助開始申立て
+
同意権付与申立て
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1,600円
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保佐または補助開始申立て
+
代理権付与申立て
+
同意権付与申立て
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2,400円
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※保佐類型の場合、民法13条1項に列挙されているもの以外については、同意権を付与する場合に限り、申立手数料800円が必要になります。
登記費用手数料:2,600円(収入印紙)
後見・保佐・補助のいずれの類型の場合も、収入印紙2,600円が必要です。
登記されていないことの証明書発行手数料:300円(収入印紙)
本人がすでに成年後見制度を利用していないことを確認するため、登記されていないことの証明書を提出する必要があります。
成年後見制度を利用すると法務局で後見登記がおこなわれるので、後見登記がおこなわれていないことの証明書を取得することができます。
後見登記とは、被後見人と後見人の氏名や住所、後見人の権利の範囲などに関する内容を、正式に登録・開示するための手続きです。
登記されていないことの証明申請書は全国の法務局・地方法務局の窓口(戸籍課)で取得・申請可能です。ただし、法務局の支局・出張所では取得できません。
また郵送での申請も可能ですが、日本全国どこから申請する場合でも、東京法務局後見登録課におこないます。
登記されていないことの証明書を取得する際には300円の手数料がかかり、収入印紙で支払います。
残高証明書:1,000円程度(金融機関により異なる)
残高証明書は、金融機関の預貯金残高を証明する書類です。
被後見人の預貯金や有価証券の残高がわかる資料になります。
取得にかかる費用は金融機関によって異なりますが、おおむね1,000円程度が目安となります。
切手代:後見申立て4,000円、保佐・補助申立て5,000円(東京家裁の場合)
登記の属託や審判書の送付といった送達・送付費用として、切手代(予納郵便代)が必要になります。
各裁判所によって必要な金額が異なるため、各裁判所のホームページを確認するか、各裁判所に問い合わせてみましょう。
なお、東京家庭裁判所後見センターでは下記の費用を目安としています。
費用項目
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金額
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後見申立て
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4,000円
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保佐・補助申立て
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5,000円
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切手の組み合わせも指定されることがあるため、事前に裁判所に確認しましょう。
診断書等作成費用:数千円程度
成年後見人の申立てをおこなう場合、原則として主治医などが作成した診断書の提出が必要です。
診断書の書式は家庭裁判所のWebサイトに掲載されています。
なお、診断書の作成費用は医師・病院によって異なりますが、おおむね数千円から1万円程度です。
住民票・戸籍などの取得費用:約数百円
成年後見人の申立書には、裁判所が指定する住民票や戸籍謄本・抄本等を添付する必要があります。
一般的には、本人の戸籍謄本と本人・後見人候補者の住民票または戸籍附票の提出を求められます。
住民票や戸籍謄本・戸籍附票の発行手数料は1通につき数百円ですが、事案によってはかなりの数の戸籍を集めなければなりません。
場合によっては、数万円の費用を要する可能性があります。
また戸籍が遠方の自治体にある場合には、郵送での取り寄せ費用などが追加でかかります。
鑑定費用:10万~20万円程度
後見・保佐・補助・任意後見を開始するためには、精神上の障がいにより本人の判断能力(事理弁識能力)が低下している必要があります。
診断書などの資料で本人の弁識能力の程度が明らかにならない場合は、鑑定が実施されます。
そして、後見・保佐・補助・任意後見の開始が必要かどうか判断されることになります。
また、後見・保佐・補助のどの類型に当てはまるのか判断するために鑑定が実施されることもあります。
鑑定の実施は、裁判所が判断します。もし鑑定が必要な場合には、成年後見人の申立てをしたほうが裁判所に鑑定費用を納めます。
鑑定は、裁判所が医師に依頼をします。鑑定料は医師によって異なりますが、家庭裁判所の統計上は、ほとんどの事案で10~20万円の金額となっています。
弁護士・司法書士費用
弁護士・司法書士に成年後見人の選任申立てについて相談・依頼した場合の費用は、法律事務所や司法書士事務所によって異なります。
相談料については、無料にしている事務所から数千円程度の相談料を設定している事務所まであります。
また実際に申立てを依頼した場合には、数万円~数十万円の費用がかかります。費用の詳細については、各事務所に確認しましょう。
なお、成年後見人の選任申立て費用は、原則として申立人本人が支払うことになります。
被後見人の資産から必ず支払われるわけではないため、注意してください。
成年後見人に対して支払う費用
成年後見人は、後見業務について、報酬を請求することができます。
親族から選任された成年後見人も報酬を請求できますが、請求しないことも可能です。
成年後見人の報酬は、家庭裁判所が決定し、被後見人の資産から支払われます。
成年後見人の報酬の種類には、以下のようなものがあるとされます。
一般的な後見人の報酬
- 基本報酬:後見人の月々の業務に対する報酬
- 付加報酬:後見人が遺産分割などの業務をおこなった場合に発生する報酬
- 成年後見監督人の報酬:成年後見等監督人が選任されている場合、監督人にも報酬が発生します。
家庭裁判所は報酬について独自の基準を定めています。
そのため、報酬の金額について成年後見人自らが勝手に決めることはできません。
なお、報酬を請求するタイミングについては、年に一度の定期報告時や、被後見人の誕生月におこなうよう求める裁判所もあります。
各報酬の詳細については、以下のとおりです。
基本報酬
基本報酬とは、成年後見人が通常の後見事務をおこなった際に発生する報酬です。
現在の家庭裁判所の運用では、管理財産の額によって基本報酬の額を決めるというのが一般的です。
裁判所が基準を公表している場合もあり、たとえば、東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部では、以下の基準を公表しています。
管理財産の額
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基本報酬
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1,000万円未満
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月額2万円
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1000万~5,000万円
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月額3万~4万円
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5,000万円以上
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月額5万~6万円
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管理財産の金額に応じて、成年後見人への基本報酬が毎月2万〜6万円程度発生することになります。
また、この報酬に加えて、成年後見人が活動するにあたって、必要になった実費についても被後見人の負担となります。
付加報酬
付加報酬とは、通常の後見事務とは異なる特別な行為をおこなった場合に、支払われる報酬です。
どのような場合に付加報酬が発生するかは、家庭裁判所の裁量によって決まります。一般的には、遺産分割、訴訟対応、保険金請求など、通常の業務に加えて何らかの業務をおこなった場合に認定する運用になっています。
また、親族間の紛争を調整した場合、複雑な権利関係を調整した場合など、困難な案件と認められた場合にも付加報酬が認められる場合があります。
いくらの報酬を認めるかは、全て家庭裁判所の裁量で決定されますが、基本報酬額の50%の範囲内に設定されるのが一般的です。
成年後見人が特別な行為をおこなった場合には基本報酬に加えて、この報酬を後見人に支払うことになります。
成年後見監督人報酬
任意後見の場合は必ず、法定後見の場合は必要に応じて、家庭裁判所が成年後見監督人を選任します。
後見監督人(または保佐監督人・補助監督人・任意後見監督人)が選任された場合、原則として、後見監督人の報酬が発生します。
成年後見人への報酬と同じく、家庭裁判所の決定により、被後見人の資産から支払われます。
こちらも現在の運用では管理財産の金額によって費用が変動します。
東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部が公表している基準は、下記のとおりです。
管理財産の額
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基本報酬
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5,000万円未満
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月額1万~2万円
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5,000万円以上
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月額2.5万~3万円
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成年後見人の報酬に負担を感じた場合は?
大前提として、成年後見人の報酬は、被後見人の財産から支払われます。
そのため、被後見人の家族が負担することはありません。
万が一、成年後見人の報酬を支払うことで被後見人本人の生活が苦しくなるような場合には、家庭裁判所が裁量によって報酬額を下げることもあります。
また自治体によっては、成年後見人の報酬について助成制度を設けている場合があります。
被後見人の所得が低い場合に利用できる可能性があるため、詳しくは各自治体に問い合わせてみましょう。
成年後見人の申立て費用が支払えない場合の対処法
経済的に後見人の申立て費用が支払えない場合には、次の助成制度の利用を検討してみましょう。
法テラスを利用する
法テラスは、国民がいつでもどこでも法的なトラブルについて相談できる相談窓口です。
法テラスでは、成年後見制度の利用にかかる費用を支払う余裕がない場合に、費用を立て替える制度を設けています。
法テラスが定める資力(収入要件と資産要件)を満たし、審査に通過した方であれば、誰でも利用できます。
ただし、制度ごとに利用条件や立替金額の目安が異なるため、詳しく法テラスに問い合わせて確認することをおすすめします。
市区町村に相続する(成年後見制度利用支援事業の活用)
各市区町村では「成年後見制度利用支援事業」などの名称で、成年後見制度を利用するための助成制度を設けています。
この制度を利用することで、申立書の作成費用や成年後見人の報酬にかかる費用について助成を受けられるのです。
利用条件や支援の内容は、住んでいる市区町村によって異なります。
助成制度の詳しい内容について、一度確認してみるとよいでしょう。
成年後見人の費用に関する3つの注意点
成年後見制度の利用について考える場合には、以下のような注意点についても考慮する必要があります。
成年後見の注意点
- 本人が亡くなるまで報酬負担が続く
- 本人の財産を利用できなくなる
- 相続税対策が限られる
以下で、詳しく見ていきましょう。
1.本人が亡くなるまで報酬負担が続く
成年後見人の申立てにかかる費用は一時的なものですが、成年後見人への報酬については本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで支払わなければなりません。
このため、長期的な報酬負担が発生する可能性があります。
たとえば、毎月3万円の基本報酬を10年間支払い続けると、合計360万円の報酬負担が発生することになります。
付加報酬が発生すれば、さらに高額になることも考えられます。
このようにトータルで考えたときの費用負担は、かなり大きくなることが予想されます。
ただ、本人のために適切な財産管理等が行われるため、必要な負担といえます。
2.本人の財産を利用できなくなる
成年後見人による財産管理は、厳しくおこなわれます。
そのため、後見人が選任されたあとは、後見人以外は、本人の財産に関与できなくなることを、考えておかなくてはなりません。
被後見人の家族であったとしても、本人の財産を利用することが難しくなります。
成年後見制度における財産の利用は、基本的に直接的な利益が本人にある場合に限られます。
本人の利益に関係がない費用の支払いについては、本人の財産から支出することができないため、注意しましょう。
3.相続税対策が限られる
成年後見制度を利用すると、財産を減少する等の相続税対策が難しくなります。
なぜなら、本人の財産を減らす行為は、被後見人の利益にならないとして、基本的に認められないからです。
このため生前贈与や生命保険の加入、不動産の売却など、一般的に活用される相続税対策が限られます。
このような相続税対策を検討している場合には、成年後見制度の代わりに家族信託を活用することも検討してみましょう。
家族信託では、本人に代わって資産の有効活用をおこなえるため、相続税対策がスムーズに運びます。
家族信託は設定時にコストがかかりますが、弁護士への基本報酬は原則ありません(信託会社の信託報酬は発生します)。
したがって、結果として、成年後見制度より、費用が抑えられることもあるでしょう。
さいごに
成年後見人を利用する法定後見制度・任意後見制度・民事信託は、頼りになる制度ではありますが、いずれも万能ではありません。
そのため、事案に応じて、必要な制度を使い分ける必要があります。
場合によっては、複数の制度を併用することも考えられるでしょう。
本人が認知症などにより判断能力を失ってしまった場合の対策や障がいを持つお子様やご家族の今後のために、早いうちから適切な制度を利用する準備をしておくことが、結果的に余計な費用の支出を抑えることにつながります。
無料相談をおこなっている法律事務所・司法書士事務所も多数あります。
わからない点や迷っていることがあれば、早めに相談してみましょう。