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法定後見人と任意後見人の違いは?法定相続人の権限や選任手続を解説

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このように、大切な家族の将来に不安を感じている人も少なくありません。

家族の財産と生活を守るための法的な制度が成年後見制度の、法定後見制度です。

法定後見制度を利用すると、家庭裁判所が選んだ「法定後見人」が、財産管理や必要な契約の締結などを、本人に代わってできるようになります。

この記事では、法定後見人の基礎知識や申立ての手続き、費用、メリット・デメリットもわかりやすく解説します。

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目次

法定後見制度とは?

法定後見制度は、家庭裁判所が選任した法定後見人が、大切な契約の締結や財産管理の代行ができる制度です。

認知症や精神障害などで判断力が衰えた人の生活や医療、看護などを法律面からサポートする役割を持ちます。

法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型にわかれます。

どの類型に該当するか、誰が法定後見人に選任されるかは、家庭裁判所が医師の診断書や本人との面談などをもとに判断されることを押さえておきましょう。

また法定後見人になるには、資格が必要なため、なりたいといっても必ず選任されるわけではないという注意点もあります。

ここでは、法定後見人になるための資格と、同じように考えられがちな法定後見人と任意後見人の違いについて解説します。

法定後見人になるための資格

法定後見人になるために、弁護士や司法書士といった特別な資格は必要ありません。

ただし誰でもなれるわけではなく、以下の後見人の欠格事由に該当する人は、法定後見人になれないと、民法第847条で定められています。

(後見人の欠格事由)

第八百四十七条

次に掲げる者は、後見人となることができない。

一 未成年者

二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人

三 破産者

四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族

五 行方の知れない者

引用元:民法|e-GOV法令検索

申立ての際に親族を候補者として挙げることはできますが、最終的に誰を後見人に選任するかを判断するのは家庭裁判所です。

本人の財産状況が複雑だったり、親族間で意見の対立があったりする場合は、弁護士や司法書士、社会福祉士などが選ばれます。

後見人の選任後、契約の取り消しや相続トラブルなどが発生する可能性があるなら、「ベンナビ相続」を活用して弁護士を選任候補にしましょう。

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法定後見人と任意後見人の違い

法定後見人は、本人の判断能力が低下した後に、近親者が家庭裁判所に申立てをおこない、家庭裁判所が後見人を選任します。

一方で任意後見人は、本人の判断能力が十分なうちに自分で任意後見人を選び、その人に任せる内容を公正証書に残すため、法定後見人とはまったく異なります。

法定後見人と任意後見人の主な違いは、以下表のとおりです。

項目 法定後見人 任意後見人
後見人を選任する人 家庭裁判所 本人
効力が発動するとき 後見開始審判の確定後 任意後見監督人選任の審判確定後
本人の同意の有無 不要 ※ 必要
後見人に認められる権限 ・財産に関する全ての法律行為 ※
・家庭裁判所が審判した特定行為 ※
任意後見契約書で定められた範囲
後見人が取り消せる行為 あり ※ なし

※…類型によって対象範囲が異なります。

法定後見人は、本人の財産や権利が保護されやすいメリットがありますが、後見人を自分で選べず、認められる権限も限られるのがデメリットです。

任意後見人は、自分で後見人を選べるのがメリットですが、本人の判断能力が認知症などで低下してからは利用できません。

また任意後見人には同意見や取消権がないため、たとえ本人が不要な契約を結んでも取り消しができないデメリットもあります。

本人の財産を確実に保全したいなら、法定後見制度を活用し、家庭裁判所に法定後見人を選任してもらう必要があります。

法定後見制度の3つの種類

法定後見制度は、支援を受ける本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分けられます。

どの類型に該当するかは、家庭裁判所が医師の診断書や鑑定の結果などをもとに、本人にとってどの程度の支援が適切かを総合的に判断して判断されます。

ここでは、3つの類型について解説するので、参考にしてください。

補助

「補助」は、財産の管理や処分を一応は自分でできるものの、財産を守るために誰かに援助してもらったほうがよい場合に利用できる制度です。

日常生活は問題なく送れるものの、重要な手続きや複雑な財産行為を、ひとりで決めるには不安がある、という人が対象となります。

申立てによって「支援が必要な行為」と家庭裁判所が認めた特定の行為についてのみ、補助人の同意や代理などのサポートが必須です。

不動産の購入や借金を繰り返してしまうなどの、本人が不安に感じる場面をピンポイントで支援できるため、いわばオーダーメイドの支援といえるでしょう。

保佐

ご本人の判断能力が著しく不十分な場合に利用されるのが「保佐」です。

日常的な買い物程度なら一人でできますが、不動産の売買や金銭の貸し借り、相続問題の処理などの重要な行為が、合理的な判断でできない人が対象です。

保佐の場合、不動産の売買や金銭の貸し借りなどの、民法第13条1項で定められた行為をするには、保佐人の「同意」が必要となります。

もし本人が保佐人の同意を得ずに上記の行為をしてしまっても、保佐人は、あとからその契約を取り消すことが可能です(取消権)。

取消権により、本人が不利益な契約を結んでしまうのを防げるため、本人の保護ができます。

後見

「後見」とは、本人の判断能力がまったくない場合に利用されます。

日常的な買いものも自分ではできず、誰かに代行してもらう必要のある、以下のような人が対象です。

① いわゆる植物状態にある方

② 通常は、日常の買い物も自分ではできず、誰かに代わってやっても らう必要がある方

③ ごく日常的な事柄(家族の名前、自分の居場所等)が分からなくな っている方

引用元:成年後見制度の利用をお考えの方へ|裁判所

自分で財産を管理したり、契約内容を理解して判断したりすることがほぼできないため、後見人が包括的に本人を代理して財産と生活を守ります。

後見人には、本人の身上監護や財産管理について、法律により代理権が付与されます。

なお、生活のほとんどを代理するからといって、本人の財産が後見人のものになるわけではないことに注意してください。

法定後見人の権限3つ

法定後見人は、適用された類型に応じて「補助人」「保佐人」「後見人」のいずれかで呼ばれ、その類型に応じて「同意権」「取消権」「代理権」という権限を持ちます。

法定後見人の権限3つ

ここでは、法定後見人の補助人・保佐人・後見人が持つ権限について、詳しく解説するのでぜひ参考にしてください。

補助人|特定の範囲のことについて、同意権・取消権・代理権(一部)を持つ

補助が適用されたときの法定後見人を「補助人」と呼びます。

補助人には「同意権」「取消権」「代理権」の3つの権限が与えられ、本人の支援をおこないます。

なお、同意権が付与された場合は、民法第13条1項に定める以下行為の一部に限るため、取消権を行使する際も同様の条件下で利用可能です。

(保佐人の同意を要する行為等)

第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

一 元本を領収し、又は利用すること。

二 借財又は保証をすること。

三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。

四 訴訟行為をすること。

五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。

六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。

七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。

八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。

九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

引用元:民法|e-GOV法令検索

同意権・取消権の権利を付与するには、本人の意思を尊重するため、本人からの同意を得てから申立てをする必要があります。

また、補助人には基本的に代理権がありませんが「代理権の付与」を申し立てて、代理権を付与すると審判が下されれば、代理権も付与されます。

保佐人|法律で定められたことに同意権・取消権・代理権(一部)を持つ

保佐が適用されたときの法定後見人を「保佐人」と呼びます。

与えられる権限は補助人と同様で、代理権も本人や審判の同意があれば利用可能です。

補助人は民法第13条1項の一部の行為に同意が必要でしたが、保佐人は民法第13条1項にある行為の全てに同意が必要です。

民法にない行為であっても、家庭裁判所から支援が必要であると認められれば、追加で行為を指定することもできます。

後見人|財産に関するほぼ全ての契約や手続きについて、代理権と取消権を持つ

本人に判断能力がほとんどないときに適用される法定後見人を「後見人」と呼びます。

後見人は、ご本人の財産に関するほぼ全ての法律行為について、包括的な「代理権」を持ちます。

つまり、預貯金の管理や介護サービスの契約、遺産分割協議への参加など、財産や法律に関わる手続きを本人に代わっておこなうことが可能です。

ただし、居住用の不動産を処分する場合は、家庭裁判所の許可が必要となるため、居住用不動産処分の許可の申立てをする必要があることを把握しておきましょう。

また日用品の購入など、日常生活に関する行為を除き、本人が単独でおこなった契約などは後から取り消せる取消権も付与されます。

3つの法定後見人のなかで、本人の財産と生活をもっとも包括的に保護できます。

法定後見人の役割

家庭裁判所によって選任された法定後見人は「財産管理」「身上監護」をおこない、定期的に「家庭裁判所に後見事務の報告」をおこなう必要があります。

ここでは、それぞれの役割について具体的に解説します。

財産管理

法定後見人は、本人の財産内容を把握し、対外的に明らかにするための財産目録を作成する役割があります。

財産目録は以下のような財産が該当します。

  • 預貯金
  • 生命保険
  • 株券
  • 不動産
  • 負債

たとえば、預貯金を記載するなら「金融機関名・支店名・口座番号・預貯金の種類・最新の残高」を通帳や証書ごとに列挙する必要があります。

財産目録の書式や記入例は、以下のページで確認可能です。

作成した財産目録は、原則年1回の定められた月に、法定後見人から自主的に家庭裁判所に報告しなければなりません。

必要な書類はほかにもあるため、詳しくは後述する「後見事務の報告」で解説します。

身上監護事務

法定後見人には、身上監護に関する法律行為をおこなう業務もあります。

身上監護に関する法律行為とは、本人の生活や健康、療養などに関する法律行為をおこなうことで、たとえば以下のような行為が挙げられます。

  • 本人の住居の確保および生活環境の整備
  • 施設などの入退所の契約
  • 本人の治療や入院などの手続き

なお、直接的な介護(食事の介助や入浴の手伝い)は、身上監護事務に含まれません。

家庭裁判所に後見事務の報告

法定後見人は、本人のためにどのような財産管理や身上監護事務をおこなったかについて、家庭裁判所に定期的に報告する義務があります。

報告は原則年1回と定められており、何月に報告するかは後見人に選任された際の通知に記載されています。

報告月になったら、速やかに以下の書類を家庭裁判所に送付してください。

  • 後見事務報告書
  • 財産目録
  • 預貯金通帳・証書のコピー
  • 本人収支表

定められた月に報告をおこなわない場合は、後見人としての任務を怠ったとして、後見人を解任される恐れがあります。

時期を忘れず、抜け漏れのない書類を確実に提出してください。

法定後見人の選任申立ての必要書類と費用

法定後見人の選任を申し立てるときに、必要な書類や費用を解説します。

不備があると審判が出るまでに余計な時間がかかってしまうため、抜けのないように注意してください。

必要書類

法定後見人の選任を申し立てるときは、以下の必要書類が必要です。

  • 後見・保佐・補助開始等申立書
  • 本人の戸籍謄本と住民票(発行から3ヵ月以内)
  • 成年後見人候補者の住民票または戸籍附票(発行から3ヵ月以内)
  • 本人の診断書
  • 本人情報シート写し
  • 本人の健康状態に関する資料
    (介護保険認定書、療育手帳、身体障害者手帳などの写し)
  • 成年後見人等の登記されていないことの証明書(発行から3ヵ月以内)
  • 本人の財産に関する書類(預貯金通帳の写し、不動産登記事項証明書など)
  • 本人の収支に関する資料
    (収入に関する資料の写し:年金額決定通知書、給与明細書、確定申告書等)
    (支出に関する資料の写し:施設利用料、入院費、納税証明書等)
  • 本人の健康状態に関する資料
    介護保険認定書、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳などの写し
  • 預貯金や有価証券などの証明書

なお、各家庭裁判所によって、提出書面が異なる場合があるため、申立時に管轄の家庭裁判所のWebサイトをご確認ください。

「成年後見人等の登記されていないことの証明書」は、法務局で取得可能です。

費用

法定後見人の選任を申し立てるときは、以下の費用がかかります。

  • 戸籍謄本や住民票などの取得費用:1枚あたり450円
  • 申立手数料:収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手:各裁判所によって異なる
  • 登記手数料:収入印紙2,600円分
  • 成年後見人の選任費用:8,000円程度
  • 鑑定が必要な場合:10万~20万円程度

成年後見人の選任費用は主に印紙代や郵便切手代です。

なお、弁護士や司法書士などに書類収集や家庭裁判所への申し立てを依頼した場合、法律事務所によりますが、目安としておおよそ15万~25万円程度の費用になるでしょう。

法定後見人を選任する流れを8ステップで解説

法定後見人を選任する流れ8ステップ

法定後見人が選任されるまでは、家庭裁判所への申し立てから後見開始までの2ヵ月程度かかります。

手続きの全体像を8ステップに分けて解説するので、参考にしてください。

①家庭裁判所への申し立て

必要書類が全て揃ったら、家庭裁判所の窓口へ直接提出、または郵送提出で法定後見人の選任を申し立てます。

申立てができる人は本人や4親等以内の親族に限られており、申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

4親等以内の親族には、高祖父母、曽祖父母、祖父母、父母、子、孫、ひ孫、玄孫、兄弟姉妹、甥・姪、姪孫、おじ・おば、いとこ、大おじ・大おばが該当します。

必要書類は問い合わせや面接の際に確認することがあるので、申立人用と後見人候補者用のコピーを取るようにしてください。

②審理の開始

必要書類を提出したあとは、家庭裁判所の審理がスタートします。

審理によって補助・保佐・後見のいずれかが決まりますが、慎重な判断が必要になるため、1~2ヵ月はかかるつもりでいたほうがよいでしょう。

③申立人と後見人候補者の面接

家庭裁判所の審理が進むと、申立人と後見人候補者の面接がおこなわれます。

事前に申立人へ電話連絡が入るので、後見人候補者と日程を調整し、都合のよい日を選んでください。

また、面接では以下のような質問があるので、全て正確に回答しておきましょう。

  • 本人の判断力や生活状態
  • 本人の財産や収支状況
  • 本人の経歴や病歴
  • 親族間に争いがあるかどうか
  • 後見人候補者の経歴

書類と面接で後見人候補者の適性が判断できないときは、本人の家族へ電話で問い合わせが入る場合もあります。

④医師による鑑定

本人の判断能力は診断書をもとに審理されるため、基本的に医師の鑑定は実施しないケースが一般的です。

しかし、より正確に把握する必要があると判断された場合は、医師による精神鑑定がおこなわれる場合もあります。

鑑定が実施される場合、費用は申立人が一旦負担する必要があり、相場は5万円から10万円程度です。

⑤家庭裁判所の審判

これまでの情報を総合的に考慮し、裁判官が決定をくだします。

家庭裁判所の審判によって法定後見人が選任されると、審判書の謄本と審判確定書が本人・申立人・法定後見人へ送付されます。

2週間以内に不服申立てがなければ審判の確定となりますが、不服があるときは即時抗告の申し立てをおこない、高等裁判所に再審理してもらうことも可能です。

⑥法務局で後見登記する

家庭裁判所の審判が確定すると、後見の内容が公的に登録される「後見登記」がおこなわれます。

後見人は、登記完了後1〜2週間で登記内容を証明する「登記事項証明書」を取得できるようになります。

登記事項証明書は、後見人が金融機関で預金を引き出したり、役所で手続きしたりする際に、自分が正当な権限を持つ後見人であることを証明するための書類です。

登記事項証明書は、法務局で取得可能です。

⑦法定後見のスタート

法定後見がスタートすると、法定後見人は財産調査をおこない、1ヵ月以内に財産目録を作成して家庭裁判所へ提出する必要があります。

財産目録を提出したあとは、法定後見人が被後見人の預金引き出しや役場関係の手続きなどの代行をします。

財産目録の作成・提出や手続きなどを終えたあとは、日常的な財産管理や身上監護のスタートです。

後見人の職務は、本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで続く、責任の重い長期的な役割となります。

⑧法定後見人に報酬を支払う

法定後見人の報酬は管理財産の額によるため、決まった金額を支払うわけではありません。

およその報酬額は以下のとおりです。

  • 管理財産の額が1,000万円を超え、5,000万円以下の場合:月額3万円~4万円程度
  • 管理財産の額が5,000万円を超える場合:月額5万円~6万円程度

なお、法定後見人の業務を監督する後見監督人を設定した場合、以下の月額報酬が加算されます。

  • 管理財産の額が5,000万円以下:月額5,000円~2万円程度
  • 管理財産の額が5,000万円を超えるとき:月額2万5,000円~3万円程度

後見人の報酬は1年分をまとめて支払いますが、被後見人の財産から差し引くケースが一般的です。

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法定後見人を選任するメリット4つ

法定後見人を選任すると、4つのメリットを享受できます。

順番に解説していくので、参考にしてください。

①預貯金の管理ができる

法定後見人を選任すると、本人の預貯金を法的に管理できるようになります。

金融機関は、本人の判断能力が低下したと判断すると、詐欺被害を防ぐために預金口座を凍結し、家族でも預金の引き出しや解約ができません。

この状態になると、ご本人の生活費や医療費、介護費用を家族が立て替えなければならず、経済的な負担が大きくなってしまいます。

しかし、法定後見人が選任されると「登記事項証明書」と後見人の本人確認書類を金融機関に提示することで、代理人として口座の管理を引き継げます。

本人の預金から必要な費用を計画的に支払えるようになり、適正な財産管理ができるため、預貯金の流出防止が可能です。

②自宅の売却ができる

自宅を売却する場合、売主が重度の認知症になると売買契約ができません。

親が高齢になり、別居していた子どもが面倒を見るために引き取り、実家を売るケースが良くあります。注意点として、親本人の認知能力や判断力が低下していると、売却を委任する書類を作成したとしても、法的な効力が生じない可能性があります。

その場合、維持管理費や固定資産税が負担になる場合も多いでしょう。

そこで法定後見人を選任し、家庭裁判所に申立てて許可を得れば、居住用不動産を処分することができます。

自宅を売却できた場合、その代金を施設利用料や介護費用に充てられるため、将来にわたる安定した生活設計を立てることが可能になります。

③介護保険契約や老人ホームの入所手続ができる

本人の心身の状態に合わせて適切な介護サービスを利用したり、より安全な生活環境を整えるために施設への入所を検討したりする際にも、法定後見人は役立ちます。

介護サービス利用や施設入所には、必ず契約という法律行為が必要になりますが、本人に判断能力がなければ契約を結べません。

法定後見人は、この「身上監護」に関する権限に基づき、本人に代わって以下の契約手続を代理でおこなえます。

  • 要介護認定の申請・更新
  • 訪問介護やデイサービスなどの事業者との利用契約
  • 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの入所契約
  • 病院の入退院手続

財産管理だけでなく、本人が安心して生活するための環境を法的に整えることができる点も、この制度の重要なメリットです。

④遺産分割協議に参加できる

遺産分割協議も法律行為になるため、認知症の相続人がいるときは法定後見人が必要です。

相続が発生した際、相続人の中に判断能力が不十分な人がいると、遺産分割協議を進めることができません。

本人を除いて協議をまとめてしまうと、その遺産分割協議は法的に無効となってしまいます。

しかし、法定後見人がいれば、本人に代わって遺産分割協議に参加することが可能です。

法定後見人の参加がなかった場合、遺産分割協議は無効になるので注意しましょう。

相続が発生した際、法定後見人と被後見人が共に相続人であった場合、利益相反の状態となります。

法定後見人はそのまま遺産分割協議に参加できないため、法定後見人の代理として参加する特別代理人を選任する手続きが必須となります。

法定後見人を選任するデメリット3つ

法定後見制度は家族を守れる制度ですが、利用する際のデメリットも存在します。

制度を利用してから「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、事前にデメリットを正しく理解しておきましょう。

ここでは、主な3つのデメリットについて解説します。

①手続きに時間がかかる

法定後見制度は、申立てから後見が開始されるまでに一定の時間がかかる点がデメリットの一つです。

家庭裁判所への申立てから後見人が活動開始できるまでには、スムーズに進んでも2ヵ月程度、場合によってはそれ以上の期間を要することがあります。

親族間で意見が対立したり本人の財産が複雑だったり、医師の鑑定が必要になったりするケースでは、審理が長引く傾向にあります。

制度の利用を検討する際は、この時間的な制約を理解し、資金が必要になる可能性が見えた段階で、なるべく早く弁護士や司法書士などに相談しましょう。

②法定後見人への報酬が負担になる可能性がある

法定後見人には、職務内容に応じて報酬を支払う必要があります。

報酬は本人の財産の中から支払われ、後見が終了する(ご本人が亡くなるか、判断能力が回復する)まで継続的に発生します。

家庭裁判所が定める報酬の目安は、管理する財産額に応じて月額2万円〜6万円程度です。

本人の資産状況によっては、報酬の支払いが大きな経済的負担となる可能性があります。

預貯金が少なく、年金収入の範囲内で生活している人の場合、後見人報酬の支払いが家計を圧迫しかねません。

ただし、自治体が報酬の一部または全部を助成する制度を設けている場合もあるため、最寄りの役場に助成制度の有無を確認してみるとよいでしょう。

③親族とトラブルになる可能性がある

法定後見制度の利用が、かえって親族間のトラブルの火種になるケースも少なくありません。

トラブルの典型的なパターンは、後見人の選任や財産管理の方針を巡る意見の対立です。

法定後見人は、家庭裁判所の監督下で、あくまで本人の利益のためだけに職務をおこなう義務があります。

たとえ親族であっても、その意向に常に従えるわけではありません。

「家族の想い」と「後見人としての法的義務」との間のズレが、感情的な対立を生みやすい構造になっています。

こうしたトラブルを防ぐためにも、申立てる前に親族間で十分に話し合い、制度について共通の理解を持っておくのが重要です。

法定後見人に関するよくある質問

最後に、法定後見制度に関して特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。

法定後見人を利用したい人が抱えがちな疑問の解消にお役立てください。

身上監護とは一体なんですか?

身上監護(しんじょうかんご)とは、本人の生活や健康、療養などに関する法律行為を、本人に代わっておこなうことです。

具体的には、介護施設への入退所やデイサービスの利用などに関する契約、本人の生活環境の整備などが身上監護にあたります。

身上監護は、あくまで「法律行為」を代理することであり、食事の介助や入浴の手伝い、掃除、洗濯といった介護そのものは含みません。

法定後見人は、ヘルパーや介護士の代わりを務めるわけではないことを押さえておきましょう。

法定後見人への報酬の支払い頻度は毎月ですか?

法定後見人への報酬は毎月支払うわけではありません。

年に1回、後見人が家庭裁判所に「報酬付与の申立て」をおこない、裁判所が決定した1年分の報酬額を本人の財産からまとめて支払います。

法定後見人が、勝手に報酬額を決めたり自由に財産から引き出したりすることはできないため、注意してください。

報酬を払わなかったら法定後見制度は終わりますか?

後見人の報酬が払えなくなっても、法定後見制度は終了しません。

本人の財産が不足したときは、以下の方法を検討してみましょう。

  • 家庭裁判所に費用負担命令を申し立てる
  • 各自治体の成年後見制度利用支援事業を利用する

費用負担命令の申し立てを家庭裁判所が認めると、本人以外の関係者へ後見人報酬を請求できます。

所得要件などを満たすと成年後見制度利用支援事業を利用できるので、市町村役場に相談してください。

後見期間が長期化すると、後見人報酬も高額になるため、本人がまだ元気であれば、ランニングコストがかからない家族信託も検討してみましょう。

法定後見人と任意後見人ではどちらが優先されますか?

原則として、本人の自己決定を尊重する「任意後見」が優先されます。

任意後見契約がすでに有効に成立している場合、家族が家庭裁判所に法定後見制度の申立てをしても、却下されてしまうので注意してください。

ただし家庭裁判所が、本人の利益を守るために必要であると判断すれば、例外的に法定後見制度が認められる場合もあります。

選任された法定後見人にやめてもらうことはできますか?

法定後見人の解任や変更は可能です。

ただし「後見人の財産管理方針が気に入らない」「親族の言うことを聞いてくれない」といった理由や、相性の問題で後見人をやめさせることはできません。

後見人を解任できるのは、民法第846条で定められた以下の場合に限られます。

  • 本人の財産を使い込んだり、横領したりした場合
  • 後見人としての職務を著しく怠慢している場合
  • 後見人自身が病気で職務遂行が困難になった場合
  • 本人との信頼関係が完全に破綻してしまった場合。

上記の事由がある場合、本人や親族、もしくは検察官の請求により、法定後見人を解任することができます。

まとめ|法定後見制度の利用に迷ったときは弁護士に相談を

法定後見制度は、認知症などで判断能力が不十分になったご家族の財産と生活を守るための、非常に強力で有効な法的手段です。

しかし、手続きは専門的で複雑なうえ、一度開始すると簡単にはやめられず、後見人には長期にわたる重い責任が伴います。

制度の利用には、書類の準備や家庭裁判所とのやりとりなど、複雑な行為をする必要があるため、負担に感じる場合は弁護士への相談も検討してみましょう。

弁護士は、法定後見人制度の複雑な申立手続の代行、親族間の意見調整などをサポートしてくれます。

お困りの方は、ぜひ一度「ベンナビ相続」で、法定後見制度に詳しい弁護士への無料相談を利用してみてください。

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この記事の監修者
金森総合法律事務所
金森 将也 (愛知県弁護士会)
23年以上のキャリアを持ち、高度な専門知識で安心のアドバイスを提供。「話しやすさ」と「的確な見通しの提示」を大切にしています。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

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