相続手続きをおこなっている際に相続人が亡くなり、新たな相続が発生してしまう状況が「数次相続」です。
数次相続が発生すると、遺産分割協議書の作成はさらに複雑になります。
頻繁に起こる状況ではないからこそ、実際に数次相続が発生すると相続人の多くが混乱に陥ってしまうのです。
本記事では、数次相続に関する基礎知識をはじめ、遺産分割協議書の作成方法や数次相続の流れ、手続きのポイントなどを解説します。
数次相続が発生した場合でも、遺産分割協議書を正確に作成しトラブルなく手続きを進めるための参考にしてください。
数次相続は、被相続人の相続手続きをおこなっているときに相続人が亡くなり、新たな相続が発生してしまった状況です。
ただでさえ複雑な相続が連鎖的に発生することから、遺産分割協議や相続登記は複雑さを増してしまいます。
特に、遺産分割協議では全法定相続人の同意が必要になるほか、相続登記では相続人全員の戸籍謄本が求められるため、スムーズに進めるのは困難です。
数次相続では、遺産分割協議書を一次相続と二次相続で別々に作成し、相続税申告では一次相続の義務が二次相続の相続人に引き継がれる点に注意が必要です。
数次相続についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
数次相続は、一つの相続が完了する前に次の相続が発生している状況を指します。
この複雑な状況になったケースでは、遺産分割協議書の作成方法にも特別な注意が必要です。
数次相続における遺産分割協議書は、相続人間での合意形成を明確にし、法的なトラブルを未然に防ぐための重要な文書です。
以下では、数次相続における遺産分割協議書の作成方法について解説します。
数次相続における遺産分割協議書の作成方法としては、主に2種類が挙げられます。
1つ目は、一次相続と二次相続の内容を一つの協議書にまとめて記載する方法です。
この方法で記載することで、相続が複数回にわたるケースであっても全体の遺産分割を一度に処理できるため、手続きを簡略化できる利点があります。
2つ目は、相続ごとに別々の遺産分割協議書を作成する方法です。
この方法で記載することで各相続の状況をより詳細に記録できるため、後の混乱を避けることができます。
数次相続における遺産分割協議書には、以下の内容を記載する必要があります。
数次相続の場合、特に注意すべきなのは一次相続と二次相続の被相続人の情報を明確に区別して記載することと、各相続における相続人の地位を正確に反映させることです。
ポイントをおさえて記載することで文書が法的な効力をもち、後の紛争を防ぐことができます。
遺産分割協議書の法的な有効性を確保するためには、相続人全員の署名と押印が不可欠です。
理由としては、文書に記載された分割方法に対して全相続人の同意があることを証明するためです。
特に数次相続のケースでは相続人が多いケースが珍しくないため、署名と押印は特に慎重に集める必要があります。
相続人全員の合意が文書化されることで、遺産分割に関する将来的なトラブルを防ぐことにつながります。
以下では、数次相続が発生した場合の遺産分割協議書の具体的なひな形を記載しています。
父親であるAが先に亡くなり、その後母親であるBも亡くなったケースを想定しています。
相続人となる子どもは長男であるCと次男であるDの2名です。
遺産分割協議書
本遺産分割協議書は、被相続人A(令和2年1月1日死亡)および被相続人B(令和3年2月1日死亡)の遺産について、下記のとおり遺産分割協議が成立したことを証するものである。
【被相続人情報】 被相続人A:生年月日 昭和40年5月5日、死亡日 令和2年1月1日、最後の住所 東京都渋谷区1-1-1 被相続人B(相続人兼被相続人):生年月日 昭和42年6月6日、死亡日 令和3年2月1日、最後の住所 東京都渋谷区1-1-1
【相続人情報】 長男C:住所 東京都目黒区2-2-2 次男D:住所 東京都世田谷区3-3-3
【遺産の内容と分割方法】 不動産(東京都渋谷区1-1-1に所在する土地及び建物)は、長男Cが相続する。 被相続人Aの預金(〇〇銀行口座番号1234567、残高1,000万円)は、長男Cと次男Dで各500万円ずつ分割相続する。 被相続人Bの預金(〇〇銀行口座番号7654321、残高2,000万円)は、長男Cと次男Dで各1,000万円ずつ分割相続する。
【署名及び押印】 本協議に基づき、遺産分割をおこなうことに相続人全員が合意した。 以下の相続人が署名及び押印する。
長男C(署名・押印) 次男D(署名・押印)
作成日:令和4年3月1日 |
数次相続のような複雑な状況では、遺産分割協議書の作成に際して特別な配慮が必要になります。
以下では、数次相続における遺産分割協議書を作成する際の流れを解説します。
数次相続の発生に伴い、最初におこなうべきなのは相続人と相続財産の正確な把握です。
相続人調査では一次相続の相続人だけでなく、その後に亡くなった二次相続の相続人も特定します。
相続人調査は、相続財産を誰がどのように引き継ぐかを決定するための基礎となる調査です。
また、相続財産調査では、不動産・預金・株式などの財産を明確にし、その価値を評価します。
ここで取得した情報は、後の遺産分割協議で重要な役割を果たします。
遺産分割協議は、相続人全員が参加する中でおこなわれます。
数次相続では、一次相続の相続人と二次相続の相続人の両方が参加する必要があり、協議では各相続人の相続分や財産の分配方法について合意を目指します。
遺産分割協議は相続人間の合意形成を目的としており、必要に応じて複数回にわたっておこなわれることもあることが特徴です。
合意に至らないケースでは、調停や裁判といった法的手続きを検討することになります。
遺産分割協議が成立したら、その内容を遺産分割協議書に記載します。
数次相続では、一次相続と二次相続を明確に区別し、それぞれの相続人の情報と分割内容を正確に記載することが重要です。
遺産分割協議書に記載される内容には、被相続人の情報をはじめ、相続人の情報、分割される財産の詳細、相続人の署名や押印などが含まれます。
遺産分割協議書は、将来的な紛争を防ぐための重要な証拠となります。
不動産を相続する際には、相続登記をおこなう必要があります。
数次相続では、一次相続と二次相続それぞれで相続登記をおこなうことが一般的です。
適切な手続きを踏むことで、不動産の所有権移転を正式に記録します。
相続登記は不動産の正式な所有者を明確にするために必要な手続きであり、将来的なトラブルを避けるためにも重要です。
相続税の申告は、相続発生から10カ月以内におこなわなければなりません。
数次相続では、一次相続と二次相続それぞれの相続税申告をおこないます。
相続税の計算には、相続財産の評価額や法定相続分などが影響します。
また、数次相続の場合は相続税の計算が複雑になる可能性が高いため、税理士などの専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
数次相続では、通常の相続手続きに加えて特有の課題が生じます。
以下では、数次相続における相続登記の省略可能性と相続税の控除・特例制度に焦点を当てて解説します。
相続登記では、原則として被相続人から相続人への所有権移転を登記する必要があります。
しかし、数次相続では中間の相続人を経由せずに直接最終の相続人への中間省略登記が認められるケースがあります。
条件としては、以下のとおりです。
中間省略登記を利用することで、登記手続きの簡素化と登録免許税の節約が可能になります。
相続税における控除や特例制度の適用条件や控除額は、相続の具体的な状況によって異なります。
以下に、主な制度の概要とその適用条件や控除額について説明します。
控除・特例 |
適用条件・控除額等 |
基礎控除 |
適用条件:すべての相続人に適用される 控除額:3,000万円+(600万円×法定相続人数) |
相次相続控除 |
適用条件:前の相続から10年以内に再度相続が発生した場合 控除額:前回の相続で支払った相続税額に基づき計算され、控除額は具体的な前回の税額と新たな相続財産の価値によって異なる |
小規模宅地等の特例 |
適用条件:被相続人の居住用または事業用の宅地。 控除額:宅地の評価額の50%~80%が減額される |
配偶者控除 |
適用条件:配偶者が相続する場合 控除額:最大1億6,000万円までの相続財産が非課税となる |
障害者控除 |
適用条件:障害をもつ相続人が相続する場合 控除額:障害の程度に応じて最大750万円の追加控除が適用される |
生命保険金・退職金 の非課税枠 |
適用条件:被相続人から相続人に支払われる生命保険金や退職金に適用 控除額:生命保険金と退職金を合わせて最大500万円×法定相続人数まで非課税となる |
教育資金の一括贈与の特例 |
適用条件:子や孫への教育資金として一括で贈与した場合 控除額:1人あたり最大1,500万円まで 贈与税が非課税となる |
数次相続が発生した場合、一次相続と二次相続それぞれについて相続放棄をおこなうことが可能です。
ただし、相続放棄には以下のようなパターンがあり、それぞれに適用されるルールが異なります。
一次相続のみ放棄 |
相続人が一次相続についてのみ放棄を選択し、二次相続は承認するケースです。 この場合、一次相続に関連する財産および負債は承継せず、二次相続については通常通り相続手続きをおこないます。 |
二次相続のみ放棄 |
法的には、一度相続を承認した後の相続放棄は認められていません。 したがって、一次相続を承認し、その後発生した二次相続を放棄することは原則としてできません。 |
一次相続・二次相続を同時に放棄 |
一次相続の発生後、相続手続きをおこなっていない状態で二次相続が発生した場合、相続人は一次相続と二次相続の両方を同時に放棄することが可能です。 一次相続および二次相続から生じるすべての財産と負債の承継を避けることができます。 |
数次相続における遺産分割協議書の作成は、適切な理解だけでなく正確な手順での手続きが求められます。
本記事では、数次相続の際に遭遇する可能性のあるトラブルをはじめ、遺産分割協議書の書き方や相続手続きの進め方について解説しました。
数次相続における遺産分割協議書には、相続人の明確化、財産の詳細な分配、そして全相続人の合意が必要です。
不明点があるときや手続きの進め方に不安があるときは、弁護士に相談することをおすすめします。
専門家の助けを借りることで、数次相続に関する疑問や不安を解消し、スムーズな手続きが可能になります
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