遺産分割協議書を自力で作成したいものの、どのような内容を記載すればいいのかわからないとお悩みの方はいませんか?
遺産分割協議書は相続後の各種手続きでよく用いられる重要な書類となるため、ミスのないように作成しなければなりません。
そこで本記事では、遺産分割協議書の概要や作成する必要がある場合・ない場合、具体的な記載事項について紹介します。
無料で利用できるテンプレートや例文も紹介するので、実際に作成する際のマニュアルとしてもぜひ参考にしてください。
そもそも遺産分割協議書とは、相続人の間でおこなわれた遺産分割協議の結果を記す書面のことです。
遺産分割協議には相続人全員が同意する必要があり、全員が同意した遺産の分配方法を協議書に記録します。
以下では、遺産分割協議書を作成すべき2つの理由について解説します。
相続が始まると、相続財産は一旦相続人全員の共有となり、遺産分割協議が終わるまでの間は、各相続人が自由に処分することができません。
そのため、不動産の相続登記をするときや、自動車の名義変更、相続税を申告する際には、すでに遺産分割協議が終わっていることを証明する必要があります。
遺産分割協議書は、作成が法律上義務付けられている書類ではありませんが、各種手続きで必要となるため、実質的に作成が必須な書面といえるのです。
遺産分割協議書は、協議の内容を書面に残すものですから、後々相続人同士で「言った・言わない」のトラブルが発生するのを防止するのにも役立ちます。
また、仮に協議内容に違反する相続人がでてきたとき(預金の使い込みなど)、遺産分割協議書があれば、弁護士などに相談する際に証拠のひとつにもなりえます。
遺産分割協議書には決まった形式はありませんが、書かなければならない項目はあります。
法的に有効な遺産分割協議書を作成するためにも、以下の文例や記載項目をしっかり確認するようにしてください。
まずはイメージを掴むため、遺産分割協議書の文例をみてみましょう。
ここではA4用紙1ページ程度に収まる分量となっていますが、記載項目が多く、複数ページにまたがる場合の対処法については後ほど詳しく解説します。
遺産分割協議書(①) 被相続人:アシロ一夫(②) 生年月日:昭和●年●月●日 死亡年月日:令和●年●月●日 本籍地:東京都新宿区西新宿×丁目×番×号 最後の住所地:東京都新宿区西新宿▲丁目▲番▲号 上記被相続人アシロ一夫の財産につき、相続人アシロ太郎、アシロ次郎は遺産分割協議をおこない、下記のとおり分割することで合意した。(③) 1.相続人アシロ太郎は次の財産を取得する (1)土地 所在 東京都新宿区西新宿▲丁目 地番 ▲番▲号 地目 宅地 地積 ▲▲▲.▲▲㎡ (2)建物 所在 東京都新宿区西新宿▲丁目▲番▲号 家屋番号 ▲番地▲号 種類 居宅 構造 鉄筋コンクリート造陸屋根2階建 床面積 1階 ▲▲▲.▲▲㎡ 2階 ▲▲▲.▲▲㎡ 2.相続人アシロ次郎は次の遺産を取得する (1)◯◯銀行 ◯◯支店 普通預金 ××××××× (2)◯◯証券 ◯◯支店 口座番号 ◯◯◯◯◯◯◯預かりの以下の株式 ◯◯株式会社 株式 100株(④) 3.本遺産分割協議書に記載のない遺産及び本遺産分割のあとに判明した遺産については、相続人アシロ次郎が相続する。(⑤) 以上のとおり、相続人による遺産分割協議が成立したので、これを証するため本協議書を2通作成し、各自1通ずつ保管する。 令和●年●月●日(⑥) 相続人(⑦) 住所 東京都新宿区西新宿▲丁目▲番▲号 氏名 アシロ太郎(実印) 相続人 住所 神奈川県横浜市◯◯×丁目×番×号 氏名 アシロ次郎(実印) |
次に、遺産分割協議書の記載項目について詳細をみていきましょう。
基本的な考え方としては、「誰が、どの財産を、どのように承継するのか」を明確にし、相続人全員の自筆署名と押印をしたのち、相続人全員分を作成して各自が保管するという点を押さえることが重要です。
記載事項 |
内容 |
①タイトル |
基本的に「遺産分割協議書」で構いません。 |
②被相続人についての情報 |
被相続人(亡くなった方)に関する情報を記載します。本籍地は戸籍謄本で、最後の居住地は住民票除票で確認できます。 |
➂相続人についての情報 |
相続人に関する情報を記述します。必ず「妻 ○○」のように続柄も記載します。住所は別途記載するため、ここで記載する必要はありません。 |
④相続財産についての情報 |
誰が、どの財産を、どのように承継するのかを記載します。品目によって記載すべき事項が異なるため、注意が必要です。 |
⑤あとで発覚した財産の取り扱い |
この項目が欠けていると、後日ほかの財産が発覚した場合に再度遺産分割協議が必要となってしまうため、必ず記載します。 |
⑥遺産分割協議成立日 |
遺産分割協議が成立した日、または遺産分割協議書に最後に署名押印した日を記載します。 |
⑦相続人の署名、押印 |
相続人全員の署名と、実印での押印が必要です。 |
遺産分割協議書の記載例・テンプレートについては、いくつかの省庁から無料で公開されています。
実際に中身を見てみるとわかるように、官公庁であっても記載方法は大きく異なるため、あまり形式に神経質になる必要はありません。
引用元:https://houmukyoku.moj.go.jp/shizuoka/page000001_00223.pdf
遺産分割協議書において最も重要ともいえる部分が、相続財産に関する項目です。
この項目では特に、誰が・どの財産を・どのように承継したのかを一見して明らかなように記載することが求められます。
以下では、遺産の種類に応じて具体的な記載方法と注意点を解説します。
【文例】 1.相続人アシロ太郎は、現金123万円を取得する。 2.相続人アシロ二郎は、次の遺産を取得する。 (1)〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇 (2)△△銀行 △△支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇 |
【NG例】 1.相続人アシロ太郎は、現金123万4千567円を取得する。 2.相続人アシロ二郎は、次の遺産を取得する。 (1)〇〇銀行の預金(口座番号〇〇〇〇)1234567円 (2)△△銀行の預金(口座番号△△△△)1234567円 |
現金に関しては、特に登記等の手続きが必要になるわけではないため、細かい金額を記入する必要はありません。
預貯金に関しては、銀行名・支店名・口座種別・口座番号は必ず記載しますが、口座内の細かい金額まで指定することはおすすめできません。
というのも、相続開始後の入出金や、利息などにより口座内残高が変更する可能性があり、修正の手間が生じてしまうためです。
【文例】 1.相続人アシロ太郎は、次の遺産を取得する。 (1)土地 所 在 〇〇区〇〇町〇丁目 地 番 〇番〇 地 目 宅地 地 積 〇〇.〇〇平方メートル 持分2分の1 (2)建物 所 在 〇〇区〇〇町〇丁目〇番地 家屋番号 〇〇 種 類 居宅 構 造 鉄筋コンクリート造3階建 床面積 1階 〇〇.〇〇平方メートル 2階 〇〇.〇〇平方メートル 持分2分の1 |
基本的に、登記簿記載のとおりに記載すれば問題ありません。
複数名で共有する場合には、共有持分の割合についても必ず記載しましょう。
【文例】 1.相続人アシロ太郎は、次の遺産を取得する。 (1)〇〇株式会社 普通株式 〇株 (2)〇〇証券〇〇支店(口座番号〇〇)預かりの以下の株式 〇〇株式会社 株式 〇株 (3)国債 第〇回利付国庫債券(10年) 額面〇〇円 |
株式を相続するときは、会社名と株式数を必ず記載します。
証券会社を通じて保有している場合には、証券会社名・支店名・口座番号・会社名・株式数を記載します。
なお、相続財産に株式が含まれる場合には、未受領の配当金がないかどうかも確認しましょう。
【文例】 1.相続人アシロ太郎は、次の遺産を取得する。 (1)普通乗用車1台 車 名 〇〇 登録番号 東京〇〇〇あ〇〇-〇〇 車体番号 第〇〇〇〇号 名義人 アシロ一夫 |
自動車を相続するときは、車検証や登録事項等証明書を参考に、車名・登録番号(ナンバー)・車体番号・名義人について記載します。
なお、自動車をローンで購入している場合には、所有者名義人が信販会社やディーラーになっている場合があります。
この場合、あくまで自動車の所有者は信販会社などであって、被相続人は使用者にすぎません。
そのため、ローンの支払い義務ごと相続して自動車を利用し続けたい場合には、まず当該信販会社などに連絡し、ローンを承継できるか確認しましょう。
【文例】 1.相続人アシロ太郎は、次のゴルフ会員権を取得する。 〇〇株式会社 〇〇カントリークラブ 預託金ゴルフ会員権 会員番号〇〇〇〇 |
ゴルフクラブなどの会員権は、有価証券に似た性質をもつ証券として、相続の対象となります。
遺産分割協議書に記載する際には、会社名・会員権の種類・会員番号などを記載し、預り金や出資金がある場合にはそちらも記載します。
【文例】 1.相続人全員は、次の負債につき、相続人アシロ二郎の承継した部分について、相続人アシロ太郎が免責的に引き受けることに合意した。 (1)平成〇年〇月〇日付金銭消費貸借に基づく借入金 債権者 〇〇銀行 残債務金 〇〇円 弁済期 〇年〇月〇日 利息 年率〇% |
借金などの債務は、相続の開始とともに相続人全員に対して相続分に応じて分割されるため、遺産分割協議の対象とはなりません。
もっとも、相続人全員の合意により、特定の相続人が債務を引き受けることは可能です。
ただし、これはあくまで相続人同士の、いわば内輪での決めごとにすぎず、債権者はどの相続人に対しても債務を履行するように請求できます。
債権者との関係でも債務の引受を主張するためには、債務引受について債権者の合意を得る必要があります。
相続財産に債務が含まれる場合は特にトラブルに発展する可能性が高く、遺産分割協議書への記載なども難しいため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
最後に、遺産分割協議書を作成するうえで注意すべきポイントについて解説します。
「せっかく遺産分割協議書を作成したのに、無効だと言われてしまった」という事態にならないためにも、しっかりと確認していきましょう。
遺産分割協議には全ての相続人が参加しなければならず、1人でも欠けた状態でおこなわれた協議(およびその結果)は無効となります。
相続人の1人が遺産分割協議の開催を請求した場合には、他の相続人はこれに応じなければならず、協議に応じない相続人がいる場合には、遺産分割調停や遺産分割審判といった法的強制力のある手続きに移行することも可能です。
ただし、必ずしも相続人全員が同じ場所に集まっておこなう必要はなく、電話やメールで順次各自の意思を伝え、内容をまとめたうえで相続人それぞれが遺産分割協議書に押印します。
とはいえ、電話やメールでの協議では齟齬が発生するおそれがあり、また、特に電話・口頭でのやり取りは「言った・言わない」のトラブルに発展する可能性が高いため、できる限り顔を合わせておこなうのが望ましいといえるでしょう。
遺産分割協議書の内容に誤りがあった場合、相続人の訂正印(実印)が必要となることがあります。
訂正部分が、相続人に関する情報であるとき(例:特定の相続人の住所に誤りがあった場合)は、訂正箇所に二重線を引き、二重線の上に当該相続人が訂正印を押します。
一方、訂正部分が被相続人・相続財産に関する情報であるときは、訂正箇所に二重線を引き、二重線の上に相続人全員分の訂正印を押します。
このとき、訂正箇所が小さい・相続人が多い等の理由により訂正印が重なり合ってしまう場合には、捨て印により対応します。
なお、重大な訂正箇所がある場合(相続人の追加など)には、再度遺産分割協議書を作成しなおし、全員の署名・実印押印を得るのが望ましいでしょう。
遺産分割協議書が複数枚に及ぶ場合、契印や割印があると安心です。
契印とは、遺産分割協議書の左右のページがまたがる部分(見開き部分)、または製本した場合には製本テープにまたがる部分に全員分の実印を押すことです。
割印は、遺産分割協議書をずらし、全てのページにまたがるように全員分の実印を押すことです。
契印や割印は、必ずしも必要なものではありませんが、これらが押されていると文書の改ざんが困難になるため、遺産分割協議書を金融機関などに持参する際の信頼性が高くなります。
遺産分割協議書が複数ページにわたり、厚みが出てしまった場合には、製本することをおすすめします。
厚くなった遺産分割協議書をホチキスで留めた場合、すべてのページに契印を押さねばならず、相続人が複数いる場合には大きな負担となってしまいます。
製本すれば、表表紙か裏表紙の製本テープ部分に1人1回押印すれば済み、綺麗に押印しやすくなります。
もちろん、製本により持ち運びや閲読が楽になる点もメリットといえます。
遺産分割協議書の作成は義務ではありません。
ここでは、どのようなときに遺産分割協議書の作成が必要な場合・不要な場合についてそれぞれ解説していきます。
遺産分割協議書の作成が必要となるのは、主に次のようなケースです。
民法の改正により、遺産分割協議の前であっても、各相続人は独自に一定額の払戻しを受けられるようになりました。
とはいえ、払戻し可能な金額には上限があったり、手続きに時間がかかったりするほか、他の相続人との間でトラブルにも発展しかねないため、遺産分割協議を経るまでは払戻しをしないほうが無難です。
遺産分割協議が終われば、各相続人は自身の相続分に応じた預貯金を引き出すことが可能ですが、その際に金融機関から遺産分割協議書の提出を求められることがあります。
トラブル防止という観点からいうと、遺言書がなく相続人が複数いる場合には、基本的に遺産分割協議書を作成するのが望ましいといえるでしょう。
遺産分割協議書の作成が不要なケースとしては、次のような場合が想定されます。
このような場合には、必ずしも遺産分割協議書を作成する必要はありません。
相続人が1人の場合(他の相続人が全員相続放棄した場合を含む)にはそもそも遺産分割協議自体が不要です。
遺言書の内容に従って遺産を分配する場合には、遺産分割協議書の作成は不要ですが、遺言書の種類によって手続き時の取り扱いが異なるため、注意が必要です。
公正証書遺言であれば、そのまま相続後の各種手続きに使えますが、自筆証書遺言の場合には家庭裁判所による検認手続きが必要となります。
遺産に預貯金が含まれるときであっても、法定相続人全員の協力があれば、遺産分割協議書なしで被相続人名義の口座を解約することは可能です。
ただし、複数の金融機関に預貯金口座がある場合には、解約のつど相続人全員の協力を得るのは煩雑であるため、やはり遺産分割協議書を作成したほうがスムーズに手続きをおこなえます。
今回は、遺産分割協議書の概要や、記載事項について具体的な例文を挙げて解説しました。
遺産分割協議書は、相続開始後のさまざまな手続きで提出を求められるものであり、相続人同士のトラブルを防止するためにも必要な書類です。
そのため、無理に自力で作成すると、かえってトラブルの種となってしまう可能性もあります。
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