再転相続(さいてんそうぞく)とは、相続人が被相続人の相続をするかしないかを選択しないまま死亡してしまった場合に発生する相続で、例えば祖父が死亡して父がその相続の手続きをしない間に死亡した結果、孫が祖父と父の相続をするというケースが分かりやすいかと思います。
再転相続による手続きは、連続した2つの相続についてそれぞれ対処が必要なことから、通常の相続よりも複雑になりがちです。
高齢化社会が進む現在、再転相続の事案が増える傾向にあるといわれているので、いざという場合に備えて知識を蓄えておくのは決して無駄ではありません。
今回は、再転相続の熟慮期間や相続放棄・承認の方法など知っておきたい基礎知識をご紹介いたします。
再転相続が起きてしまった方へ
再転相続による手続きは、連続した二つの相続にそれぞれ対処が必要になってきます。
また再転相続の相続放棄・承認は選択ができるケースとできないケースがあります。
基本的には、先の相続から順にひとつずつ片付けていけばいいのですが、協議が難航してなかなか進まないということもあるでしょう。
そのような場合には、弁護士に依頼する事がおすすめです。
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再転相続とは、本来の相続人が相続を承認または放棄する前に死亡した際に、本来の相続人(被再転相続人)の相続人(再転相続人)が自分の相続の権利とともに相続を承認または放棄する権利を引き継ぐことをいいます。
つまり、祖父が死亡し父が相続手続きをしている間に父が死亡して、孫が父の相続をするとともに、祖父から父への相続の権利を承継するのが再転相続です。
死亡した相続人の権利を更にその相続人が引き継ぐということで、再転相続は代襲相続と似ているため混乱しがちですが、相続人の順位や相続の個数が変わってくるので相続関係を正しく把握しなければなりません。
ここでは、再転相続の基礎知識をご紹介いたします。
代襲相続とは、相続人となるべき人が被相続人より先に亡くなったり欠格・廃除で相続できない状況になった場合に、相続人の子どもが代わりに相続人となることをいいます。
これに対して、再転相続は相続する・しないを決定する「熟慮期間」内に意思の決定をしないまま相続人が死亡してしまった場合に、その法定相続人がその相続に関する権利を引き継ぐことをいいます。
簡単にいえば、代襲相続は被相続人が死亡する前に相続人が死亡しており、再転相続の場合は被相続人が死亡した後で相続人が死亡しているということになります。
再転相続 |
代襲相続 |
|
死亡の順番 |
祖父(被相続人) |
父 |
相続の発生原因 |
熟慮期間内の相続人の死亡 |
相続人の死亡 |
相続人候補 |
第一順位:配偶者と子 |
第一順位:直系卑属(子や孫) |
相続の個数 |
2個 |
1個 |
両者の大きな違いは、再転相続の場合は2つの相続について手続きをする必要がありますが、代襲相続の場合は直近の相続1つのみ手続きが必要になるということです。
また配偶者の立ち位置も違っていて、代襲相続の場合は代襲相続人になることはできませんが、再転相続の場合は再転相続人に含まれます。
父A・母B・娘C・息子Dの4人家族がいたとして、災害で父Aと娘Cの遺体が見つかったけれど、どちらが先に亡くなったかはっきりしない場合があります。
このような場合、民法では「同時死亡の推定」として父と娘が同時に死亡したと推定され、お互いが相続人になり得ないと規定しています(民法32条の2)。
この条文に従うと、この場合は父の財産は母Bと息子Dが相続し、娘Cの財産は直系尊属である母Bが相続することになります。
別な例で、祖父E・父F・子Gがいたとして、祖父Eが自動車事故で死亡し、同じ日に父Fが登山中に遭難して死亡したものの死亡時刻が分からないといった場合にも、同時死亡の推定が適用されます。
このときFはEを相続できませんが、GがFを代襲相続してEの相続をすることになります。
また、GはFについても相続人となります。
相続をする際には相続をするかしないかを決める「熟慮期間」が定められており、相続人が自己のために相続のあったことを知ったときから3ヵ月間で相続を承認する(単純承認・限定承認)か、相続放棄するかを決めなければなりません(民法916条)。
熟慮期間を過ぎてしまうと相続を単純承認したものとみなされ、放棄などをすることが難しくなってしまうことから、この起算点が非常に重要視されています。
再転相続の場合は、2つの相続の熟慮期間の起算点が「2つ目の相続があることを知った時」になります。
つまり再転相続で祖父から父・父から子への2つの相続があった場合は、子は祖父の相続についても父の相続についても父の死亡から3ヵ月以内に承認・放棄を決めればよいのです。
例えば祖父が2月1日に死亡し、父が4月1日に死亡して再転相続が発生したとします。
この場合、子が祖父の死亡を2月1日に知っていたとしても、熟慮期間の起算点は父が死亡したことを知った4月1日となり、その3ヵ月後の7月2日(※)までにそれぞれの相続の放棄・承認を決めることになります。
※民法での期限の数え方は、初日不算入が原則になります(民法140条)。
再転相続人は、2つの相続について承認・放棄の選択をすることになりますが、それぞれの相続の放棄ができる場合とできない場合があります。
ここでは、再転相続の相続放棄についてご説明いたします。
登場人物を祖父A、父B、子Cとすると、再転相続で子Cが承認・放棄を決める場合の組み合わせは下記のようになります。
<再転相続における子Cの選択肢>
祖父Aの財産
相続
相続
放棄
放棄
父Bの財産
相続
放棄
相続
放棄
選択ができるできない
できる
できない※
できる
できる
つまり、子Cに考えられる選択肢としては、
という4パターンに分かれます。
この4つのケースのうち、祖父Aの相続を承認して父Bの相続を放棄するという②の組み合わせを選択することはできません。
なぜなら、子CはAの相続を選択する権利をBから相続することになるため、Bの相続を放棄する選択をした時点でAの相続をする権利はなくなってしまうからです。
また③のケースで、祖父については多額の借金が明らかであったためすぐに相続放棄をしたものの、父の財産は相続するつもりで手続きをしないでいたら父の借金が発覚したというような場合は、熟慮期間内であれば父についての相続放棄をすることはできます。
手続きとしては、①、③の場合はそれぞれの相続について意思表示が必要ですが、④の場合に限り、父Bの相続放棄手続きをすれば自動的に祖父Aの相続も放棄したことになるため、改めてAの相続放棄手続きをする必要はありません。
①のケースでは、ABどちらの手続きを先にしても問題ありませんが、③④のように相続放棄をする場合は手続きの順序が問題になります。
<事案>
父Aが不動産を残し死亡しその子BCが相続人となった後で、BがAの相続を承認または放棄することなく死亡してBの子Dが相続人になりました。Bには借金があり、債権者EがAの不動産についてのBの相続持分2分の1に仮差押え登記をしていましたが、Dは再転相続人として、先にAの相続放棄をしたうえで、Bの相続も放棄しました。
そこで、CがEの仮差押えとその登記が無効であると主張して裁判を起こしたのがこの事件になります。
<判決の内容>
判決は、下記のような理由からCの主張を認めています。
DがAの相続を放棄することでBはAの相続人でなかったことになるため、Eの差押えは無効になるのでCが不動産の全部を相続することになります。
したがって、CはEの登記抹消を求める権利を有効に取得しているうえ、DがBを相続放棄したのでBの借金もDに引き継がれなくなりますから、結果としてBの借金を相続する人がいなくなるということです。
ただし、DはBを相続放棄した以上、Aの相続については一切権利を持たないということになり、これが上記ケース②の組み合わせを選べない理由の根拠となっています。
このように、相続放棄の際はその順序が重要になるため、不安な場合は専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄(と限定承認)は、家庭裁判所に相続放棄(or限定承認)の申述をおこなわなければなりません。
詳しくは、「相続放棄とは?期限や手続き方法と7つの注意点を解説」もご覧ください。
再転相続が発生した場合、遺産分割の手順も通常とは変わってきますし、登記や特別受益の判断も異なります。
ここでは、再転相続と遺産分割の関係を整理してみました。
再転相続では、前後の相続を別々に記載して遺産分割協議書を作成することになりますが、遺産分割協議中に再転相続が発生した場合、最初の相続と再転相続による相続人が全員同じ場合であれば、遺産分割協議を1つで済ませることができます(例:父A・母B・子CDで父Aが死亡し熟慮期間中に母Bが死亡した場合など)。
ただし、2つの相続の相続人が違っている場合には、遺産分割協議を2つ一緒にすることはできませんし、分割協議書も2通作成しなければなりません。
例えば祖父Aが亡くなった場合、相続人は配偶者である祖母Bとその子CDになりますが、このうちCが死亡して再転相続人がその妻Eと子Fになった場合は、Aの相続についてはBDEFが、Cの相続についてはEFが相続人になるため、分割協議は2つ必要ということになります。
Aの遺産分割協議書にはBDEFの署名押印が、Cの遺産分割協議書にはEFの署名押印がそれぞれ必要です。
また相続人・相続財産の調査が間に合わなかったり、協議が難航しているなど、3ヵ月以内に放棄や限定承認を決めることができない場合は、家庭裁判所に申請して熟慮期間の延長をすることができます。
遺産分割での不動産相続に関しては、共同相続登記をした後で持分移転の相続登記をおこなうことになっています(実務上は先に遺産分割協議をまとめて共同相続登記を省略して持分移転の相続登記のみおこなうことも多いですが)。
再転相続の場合、2つの相続の相続人が共通であれば登記も1回の手続きで済みますが、そうでない場合は始めの相続の登記を行ってから次の相続の登記をおこなうことになります。
ただし例外として、最初の相続で不動産を取得する人が1名だけであれば、次の相続でその不動産を取得する相続人が2名以上でも、最初の相続登記を省略して最終的に不動産を取得する相続人名義に登記することができる場合があります(中間省略の相続登記)。
再転相続の場合、再転相続人または被再転相続人が被相続人から贈与等の利益を受けているときは、それが再転相続人にとっての特別受益に該当するかどうか、また特別受益として考慮されるかどうかが問題となります。
結論からいえば、特別受益かどうかの判断は、その相続における被相続人と相続人との身分関係によって大きく変わってきます。
そもそも特別受益というのは、相続人の中で被相続人から特別の利益を受けた人がいる場合に問題になるにすぎないので、被相続人との関係で法定相続人に含まれない血縁者への贈与は、原則として特別受益に該当しません(祖父から孫への贈与など)。
しかし、再転相続の場合は最初の相続では被相続人との関係で法定相続人に含まれなくとも、再転相続人となることによって最初の相続の法定相続人に含まれてしまうために、考え方がややこしくなってしまいます。
再転相続と特別受益の問題は、それぞれの相続で当該贈与がどのような意味合いを持つ贈与であるのかを実質的に判断していくことになるので、少し難しいかもしれません。
父Aが死亡し、母Bがその後に死亡したというケースで、主な財産が不動産しかなく、子C・D・Eがそれぞれの相続の遺産分割審判を提起し2つの審判が併合された事件です。
このとき、DはAとの関係でもBとの関係でもそれぞれ特別受益がありました。
Aの遺産は不動産とわずかな現金で、遺産分割協議が調う前に母Bが死亡し、このBがCへ不動産を全部相続させるという公正証書遺言を残していたため、C・D・Eで争いが生じたというわけです。
今回のケースでは、Bには遺産分割の済んでいないAの遺産くらいしかめぼしい財産がなかったので、高裁では「そもそもBには遺産と呼べるものがなく、Bの遺産分割は必要ないからDの特別受益云々も考える必要がない」という判断をしていますが、これに対して最高裁は「BはAの相続において相続分に応じた共有持分権という財産を得ているのだから、Bの遺産分割も必要になり、当然特別受益も考慮するべき」と判断して高裁に差し戻しています。
被相続人から相続人への贈与があった場合、相続分は特別受益が控除されたものになり、再転相続人は相続人の財産を承継するのだから、再転相続人と被相続人の関係においても、特別受益が控除された相続分になるといわざるを得ない、と判断しています。
再転相続は代襲相続と混同しやすいうえ、相続が増えることで相続人も増えてしまうことから、手続きも複雑なケースが多くあります。
基本的には先の相続から順にひとつひとつ片付けていけばよいのですが、協議が難航するような場合は早めに専門家に相談するのもおすすめです。
本記事が、少しでもお役に立てば幸いです。
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