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遺言書の無効確認が難しい理由を徹底解説|認められた事例も紹介

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被相続人の死後、遺言書の内容を確認したところ、明らかに特定人物に有利な遺言書が作成されていたり、認知症などが原因で遺言書に被相続人の意思が反映されていない疑いが生じたりすることが判明するケースが少なくありません。

このような事案では、遺言書の有効性を争うために、遺言無効確認訴訟などの法的措置が有効です。

遺言書の内容が無効であると法的に確定すれば、当該遺言に基づく遺産分割や相続、贈与などを防止できます。

しかし、さまざまな法律紛争のなかで、遺言無効確認訴訟は難しい案件に位置付けられているのが実情です。

直接交渉、調停、訴訟に至る手続きで有利な解決に至るには、遺言無効を根拠付ける証拠を丁寧に収集しなければいけません。

そこで本記事では、遺言書の無効確認が難しいとされる理由、遺言無効確認が実際に認められた具体例などについてわかりやすく解説します。

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遺言書が無効になる可能性がある場合

早速ですが、遺言書が無効になる可能性があるケースにはどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは、自筆証書遺言と公正証書遺言それぞれにおいて、遺言書が無効になる可能性がある事例について具体的に解説します。

自筆証書遺言が無効になる10のケース

自筆証書遺言とは、遺言者本人が自筆で遺言書を作成する遺言方式のことです。

ただし、「本人が自筆で遺言書を作成する」といっても、自筆証書遺言の書式については民法で厳格なルールが定められています(民法第968条第1項)。

ここでは、自筆証書遺言が無効になる10のケースを紹介します。

1.自筆されていない

自筆証書遺言をするには、遺言者本人が、遺言書の全文・日付・氏名を自筆する必要があります。

(自筆証書遺言)

第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

引用元:民法|e-Gov法令検索

なお、2019年の民法(相続法)改正にともない、遺言書に添付する財産目録については自筆だけではなく、パソコン入力や代筆での作成が可能となりました。

これは、財産目録の記入量が膨大、かつ記入内容が複雑になることが多く、記入ミスが原因で遺言書の内容が正確に実現されないおそれがあるからです。

(自筆証書遺言)

第九百六十八条

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

引用元:民法|e-Gov法令検索

とはいえ、自筆以外の方法による作成が認められているのは財産目録に限られ、遺言書の全文・日付・氏名については現行民法でも自筆による作成が義務付けられています。

そのため、これらの項目について自筆ではない箇所があると自筆証書遺言とは認められず、無効と扱われます

2.作成日が記載されていない

自筆証書遺言が有効なものと扱われるには、遺言書内に「遺言書の作成日」が明示されている必要があります。

そもそも作成日が記載されていない場合や、作成日が特定できない場合には、有効な自筆証書遺言とは扱われないため注意が必要です。

有効な「作成日」の記載例

・〇年〇月〇日

・〇年〇月末日

・遺言者の満〇歳の誕生日

無効な「作成日」の記載例

・日付の記載がない場合

・〇年〇月吉日

・遺言者の満〇歳の結婚記念日

なお、自筆証書遺言の作成日は客観的に特定できてさえいれば法的な問題は生じることはないものの、遺言書作成日はカレンダーに記載のとおり書くことが望ましいでしょう。

3.署名・押印がない

自筆証書遺言が有効なものと扱われるには、氏名を自署して印を押す必要があります。

ですから、署名・押印のいずれかを欠く自筆証書遺言は法的に有効なものと扱われません。

まず、自筆証書遺言に記入する氏名は「戸籍上の氏名」を記載するのが一般的です。

ただし、芸名・通称・ニックネームなどを記載したとしても、遺言者を特定できていれば有効なものとして扱われます。

もっとも、余程の事情がない限り「戸籍上の氏名」を記載しておくのが無難でしょう。

また、遺言書に押印がない場合も無効になるため注意が必要です。

認印や拇印の捺印でも有効な自筆証書遺言と扱われますが、後日のトラブルを防止するのであれば、市区町村役場に登録した実印を使用するのが望ましいでしょう。

なお、自筆証書遺言は代筆による署名や代理人による押印は一切認められていないため注意しましょう。

4.間違った方法で訂正している

中には、自筆証書遺言を作成後に内容を変更・修正したいと希望するケースは少なくありません。

もっとも、自筆証書遺言の内容を加除その他の変更の方法は以下のように定められています。

民法で指定された方法で加除・変更をしなければ、無効となるため注意が必要です。

(自筆証書遺言)

第九百六十八条

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

引用元:民法|e-Gov法令検索

自筆証書遺言の加除・変更・訂正の一般的な方法は以下のとおりです。

  1. 訂正箇所に二重線を引く
  2. 二重線をひいた箇所に訂正印を押印する(遺言書の署名に使った印鑑を使用)
  3. 訂正箇所の横に新たな文言を記入する
  4. 余白や遺言書の末尾に「〇行目を訂正」「〇行目に追記」「〇業目を△から◇に修正」などの説明文を記入する

所定の方式を遵守していなかったり、遺言者本人以外が加除・変更したりした場合は、遺言書そのものが無効となります。

たとえば、修正テープ・修正液で原文を消した場合や、黒マジックで塗りつぶしただけの場合には、合法的に加除・変更があったとは認められないため注意しましょう。

5.内容があいまいでわからない

遺言書は、被相続人の財産をどのように処分・相続させるのかを示す重要な文書です。

ですから、誰にどの財産を相続・遺贈するのかが不明確な文面の場合、被相続人の意思が確認できず、無効と扱われる可能性があります。

たとえば、どの銀行預金を「誰が、いくらずつ相続するのか」が明らかでない場合、不動産の地番・地目が記載されておらず相続対象の不動産を特定できない場合、遺贈相手がどこの誰かわからない場合には無効となります。

もっとも、遺言書の内容が一見すると不明確であったとしても、即座に無効と判断するのではなく、遺言書全体から被相続人の真意を合理的に解釈・探求して極力有効とするのが判例実務です(最判昭和30年5月10日、最判昭和58年3月18日、最判平成5年1月19日)。

6.共同で書かれていた

民法上、2名以上によって作成された共同遺言は禁止されています

なぜなら、相続関係が複雑になったり、自筆証書遺言の加除・変更や、撤回などが困難になりかねないからです。

(共同遺言の禁止)

第九百七十五条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

引用元:民法|e-Gov法令検索

たとえば、夫婦が同一の遺言書にそれぞれの意向を書き連ねて署名・押印をしたとしても、無効な自筆証書遺言と扱われます。

夫婦の意向を遺言書として残したいのなら、それぞれ単独で適法な自筆証書遺言を作成しなければいけません。

7.作成時に判断能力がなかった

遺言は、被相続人が自分自身の財産などについて最終的な意思を示すものです。

ですから、遺言を残す本人が遺言の内容を正確に理解したうえで、自分が死んだあとにどのような相続が生じるのかを把握していなければいけません。

そこで民法では、「遺言能力」について以下のルールを定めています。

(遺言能力)

第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

(中略)

第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

引用元:民法|e-Gov法令検索

まず、遺言者の年齢は一律で満15歳以上の必要があります。

これは、15歳未満の状態では遺言内容を正確に理解できない可能性が高いと考えられるためです。

次に、遺言能力が不十分な場合には、遺言は無効なものと扱われます。

遺言能力の有無は、精神上の障害の存否・程度、年齢、遺言書作成時前後の言動、遺言書作成に至る経緯、遺言書作成の動機、遺言の内容、相続人や受遺者と遺言者本人との関係など、諸般の事情が総合的に考慮されます。

たとえば、遺言者が認知症のケースでは認知症の程度だけではなく、自筆証書遺言作成時の本人の状況などが判断材料となります。

普段は物忘れがひどかったとしても、事理弁識能力が一時的に回復して医師2人以上の立会いがある状況で自筆証書遺言が作成された場合には、有効な遺言書として扱われます(民法第973条)。

そして、遺言能力がないと判断された場合には、自筆証書遺言は無効となります。

8.騙されたり脅されたりした状態で書かされた

詐欺や脅迫によって真意ではない自筆証書遺言を作成させられた場合や、遺言者本人が錯誤状態に陥って遺言書を作成した場合には、遺言書は無効となります。

ただし、詐欺・脅迫・錯誤を理由に遺言書の無効を主張するには、作成当時の状況を撮影した動画などの証拠や作成時の様子を目撃していた証人による証言が不可欠です。

9.偽造や変造をされた

遺言書の内容が第三者によって偽造・変造された場合も、遺言者本人の意思を反映したものではないとして無効となります。

自筆証書遺言に関して偽造・変造トラブルが発生した場合、遺言書の無効を主張するだけではなく、関与した人物を有印私文書偽造罪・有印私文書変造罪の容疑で刑事訴追する必要があります(刑法第159条)。

また、遺言書を偽造・変造した人物が相続人・推定相続人の場合、欠格事由に該当するので相続関係から廃除するための手続きが必要です(民法第891条)。

10.内容が公序良俗に反する

自筆証書遺言の内容が公序良俗に反する場合、当該遺言書は無効となります(民法第90条)。

公序良俗違反に該当するか否かは、諸般の事情を総合的に考慮して決定されます。

一例として、「不倫相手に全財産を譲る」という趣旨の遺言書が残されていた場合、相続人は遺留分侵害額請求権を行使するだけではなく、公序良俗違反を理由に遺言書の無効確認をするのも選択肢のひとつとなるでしょう。

ただし、不倫相手へ遺贈する内容が他の相続人の権利を侵害するものではなく、愛人がもっぱら生計を助けるためのものであった場合、不倫相手への遺贈も有効であると判断されたケースも過去にはあります(最高裁昭和61年11月20日判決)。

公正証書遺言が無効になる2つのケース

公正証書遺言とは、公証役場の公証人が遺言書の作成手続きに関与する遺言方式のことです。

遺言者本人だけで作成可能な自筆証書遺言とは異なり、法的専門性を有する公証人が厳格な作成手続きに関与するため、法的安全性を確保した遺言書を作成することができる点がメリットといえるでしょう。

無効確認の対象になる可能性が低いものの、公正証書遺言の方式を選択したとしても、無効の疑いが生じる場合は少なからず存在します。

ここでは、公正証書遺言が無効になる2つのケースを紹介します。

1.不適格な人が証人になっていた

公正証書遺言を作成するときには、公証人に加えて、2人以上の証人の立会いが必要です(民法第969条第1号)。

そして、証人は誰でもよいというわけではなく、以下の欠格事由に該当する人物が証人として公正証書遺言の作成に立会ってしまうと、当該遺言書は無効と扱われます。

(証人及び立会人の欠格事由)

第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。

一 未成年者

二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族

三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

引用元:民法|e-Gov法令検索

公正証書遺言を作成するときに適した証人を自身で見つけられないときは、公証役場に紹介してもらったり、弁護士や司法書士に依頼したりするとよいでしょう。

2.作成時に遺言者の遺言能力がなかった

自筆証書遺言と同様、公正証書遺言作成時にも遺言者の遺言能力が必要です。

ただし、公正証書遺言の作成手続きでは「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること」「公証人が遺言者の口述を筆記して、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること」というステップが踏まれます。

つまり、公証人が遺言者の遺言能力の有無を確認する機会があるため、公正証書遺言については遺言能力の欠如が後から問題になる可能性は実務上極めて低いということです。

遺言書の無効確認が難しいとされる4つの理由

一般的に、遺言書の無効確認は立証の難易度が高い難しい訴訟であるといわれますが、それはなぜなのでしょうか。

ここでは、遺言書の無効確認が難しいとされる理由を4つ紹介します。

1.偽造や変造は筆跡鑑定だけでは判定できない

遺言書の内容が偽造・変造されたり、署名や日付欄が別人によって記載されたりした場合、当該遺言書は無効となります。

もっとも、偽造・変造を理由に遺言書の無効を主張するには客観的な証拠が必要ですが、筆跡鑑定だけでは偽造・変造を立証できないという難点があります。

というのも、筆跡鑑定は文字の特徴に注目して真偽を判断する方法ですが、第三者が遺言者本人の筆跡を真似て記載すると、偽造・変造を見破ることができないことがあるためです。

そもそも、偽造・変造を理由に遺言の無効確認をするときには、筆跡鑑定の結果だけではなく、遺言書を作成する動機や経緯、遺言書の内容に不自然さがあるか、など諸般の事情が総合的に考慮されます。

筆跡鑑定だけではなく、無効を立証するために必要な事情を細かく積み上げる必要があるので、無効確認訴訟は難しい紛争類型に位置付けられるといえるでしょう。

2.押印のある書類は法的効力が高い

自筆証書遺言の要件として「押印」が挙げられる関係で、遺言書の無効確認の難易度が高まります。

まず、遺言書に被相続人本人の印鑑が押されている時点で、社会通念上の経験則から、「遺言書の印鑑は本人の意思に基づいて押印された」ことが推定されます(一段目の推定)。

次に私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定されるため(民事訴訟法第228条第4項)、被相続人本人の印鑑が押された遺言書は真正に成立したことが法的に推定されます(二段目の推定)。

つまり、遺言の無効確認を争うには、押印による「二段の推定」を覆すための証拠が要求されるということです。

そのため、遺言が無効であるとの判断を得るには丁寧な主張立証が必要となり、ほかの訴訟と比べて難易度が高いといえるでしょう。

3.公正証書は証拠能力が高い

遺言書の中でも、特に無効確認でその効力を争うのは難しいのが公正証書遺言です。

というのも、公正証書遺言は公証役場で厳格な作成手続きを経て作成されるため、類型的に「遺言者本人の真正な意思に基づいて作成されたもの」という強い推定が働くものだからです。

たとえば、自筆証書遺言なら遺言書作成時の遺言能力を争う余地があるかもしれませんが、公正証書遺言については公証人と2人以上の証人が、作成手続きに関与して遺言者本人に読み聞かせたり内容を確認させたりする現場を面前で確認しているため、遺言能力がなかったことを証明するのは相当難しいと考えられます。

4.遺言能力がないことの証明は複雑

遺言書作成時に遺言能力を欠く場合、遺言書は無効となります。

もっとも、作成時に遺言能力がなかったことを証明するのは容易ではありません。

というのも、遺言能力の有無を認定するときには、以下のような諸般の事情が総合的に考慮されるからです。

  • 遺言書作成時の精神上の障害の存否、精神疾患などの程度
  • 遺言内容の複雑性
  • 遺言内容の合理性
  • 遺言書を作成するに至った動機
  • 遺言者と相続人・受遺者との関係性

たとえば、遺言者本人が認知症を患っていたとしても、その事実だけで遺言能力がなかったことを証明することはできません。

遺言書作成当時の様子、作成当時の体調、遺言内容の複雑性などを総合的に考慮したうえで「遺言者本人の正常な判断に基づいて遺言書が作成されたか否か」が認定されます。

つまり、遺言書の無効確認を主張する側は、作成時において遺言能力がなかったことを示す事実を収集したうえで丁寧に主張立証しなければいけないということです。

ですから、遺言書作成時の動画などが存在しない状況で、遺言能力がなかったことを示す証拠を収集するのは相当難しいといえるでしょう。

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遺言書の無効確認が認められなかった裁判例

ここでは、遺言書の無効確認が認められなかった事例を紹介します。

遺言書の捏造疑惑が認められなかった事例

自筆証書遺言の有効性が争われた有名な事例として、京都の老舗カバンメーカーの相続トラブルが挙げられます。

時系列と事案の概要
  1. 2001年(平成13年)3月15日、前会長Aが死去。
  2. 顧問弁護士に預けられていた自筆証書遺言が開封される(【「第1の遺言書」1997年(平成9年)12月12日付で作成】Aの生前中から会社経営に関与していた三男Cに経営権を譲る、Aの生前中会社経営に関与していなかった長男Bには資産のみ相続させる)
  3. 2001年(平成13年)7月、長男Bが別の遺言書を持参(【「第2の遺言書」2000年(平成12年)3月9日付で作成】長男Bに会社経営権を譲る)
  4. 三男Cが「第2の遺言書」の無効確認を求めて提訴。無効を立証できる証拠が不足したため、「第2の遺言書」が有効だと判断される(三男Cが経営から退く、長男Aが経営権を取得)
  5. 三男Cの妻Dが「第2の遺言書」の無効確認を求めて提訴。「第2の遺言書」が無効との判断が下されて、「第1の遺言書」に基づいて三男C及び妻Dが経営に復帰

前後2つの遺言書の内容が抵触する場合、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条第1項)。

この民法のルールに従うと「第2の遺言書」が有効なものと扱われて、長男Bが経営権を取得することになってしまいます。

そこで、従来から会社経営に関与していた三男Cが「第2の遺言書」がねつ造されたものであることを理由に遺言無効確認訴訟を提起しました。

当初、三男Cが提起した遺言無効確認訴訟では「第2の遺言書」がねつ造されたことを示す根拠として、以下の事実が示されました。

  • 「第2の遺言書」作成当時、前会長Aは脳梗塞を患っており、遺言能力がなかった
  • 「第2の遺言書」に使用されていた前会長Aの印鑑が実印ではなく認印だった
  • 「第2の遺言書」に使用されていた印鑑で使用されていた文字が、前会長Aが普段使用していた旧字体ではなく新字体だった
  • 「第1の遺言書」は弁護士に預託されていたが、「第2の遺言書」は弁護士に預託されていなかった

これらの事実を前提としても、「第2の遺言書」の有効性を覆すことができず、三男Cが提起した遺言無効確認訴訟は敗訴、「第2の遺言書」が有効であるとの判断が下されました。

しかしその後、三男Cの妻Dが提起した「第2の遺言書」の遺言無効確認訴訟では、前訴の判断が覆されて、「第2の遺言書」がねつ造された無効なものであるとの判断が下されています。

なお、2つの裁判において遺言書の有効・無効の判断が分かれた理由は「筆跡鑑定」です。

1つ目の遺言無効確認訴訟で採用された警察OB鑑定書の筆跡鑑定では、「第2の遺言書」が有効だとの判断を導くために、自筆証書遺言内の文字を恣意的に選別して筆跡鑑定結果を操作していたと判断されました。

このように、遺言無効確認訴訟では筆跡鑑定の結果ひとつで遺言の有効性判断が分かれるため、無効確認を求める立場としては、相当難しいハードルをクリアしなければいけないといえます。

一方、遺言書を作成する側としては、死後に遺言書の有効性について過酷な相続争いが生じないよう、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を作成しておくべきだといえるでしょう。

遺言者が認知症であっても、その内容から無効とされなかった事例

本件は、認知症を患っていた遺言者が残した公正証書遺言の有効性が争われた事案です。

事案の概要(東京地判令和4年1月28日)
  1. 認知症を患っている遺言者Xが以下の内容の公正証書遺言を作成
    ・長期間無償で使用しているマンションの持ち分を子どもAに相続させる
    ・医師である子どもBに病院の土地である持ち分を相続させる
    ・その他預貯金などの流動資産、金融資産を子どもCに相続させる
  2. 配偶者YとABがCを相手に遺言無効確認訴訟を提起

遺言能力の有無を判断するときには、以下の事情を総合的に考慮するのが判例実務です。

  1. 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否・内容・程度:精神医学的疾患の存否、当該疾患がどのような疾患か、寛解があり得るか、具体的症状、重症度などの事実が考慮される
  2. 遺言内容そのものの複雑性:遺言内容が複雑であるほど、その内容を理解するために高度な精神能力・事理弁識能力が必要になる
  3. 遺言の動機・理由、遺言者と相続人や受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯:生前の人間関係などを踏まえると遺言書の内容があまりに不合理な場合には、遺言能力がなかったと判断されやすくなる

まず、本件の遺言者本人は、長谷川式簡易知能評価スケールによる検査結果が15点で、認知症の疑いを示す点数が出されていました。

ただし、即時想起、口頭指示は満点だったため、認知症による認知能力・事理弁識能力への影響は限定的だったと判断されました。

次に、本件の公正証書遺言は、遺言者が生前に述べていた内容どおりでした。

そのため、第三者の介入によって遺言内容が不正に歪められた可能性は低いと考えられます。

さらに、「マンションに長期間無償で居住していた子どもにはマンションの持ち分を」「医師の子どもには病院の敷地である土地の持ち分を」というように相続の内容が複雑ではなく、また、親心として十分理解できる内容であったことから、遺言者本人の真意に基づいて作成された可能性が高いと考えられます。

以上の事情を総合的に考慮した結果、本件の遺言無効確認訴訟では、遺言は有効なものであるとの判決が下されました。

遺言書の無効が認められた裁判例

ここでは、遺言書の無効確認が認められた裁判例を紹介します。

遺言書が自筆されたものと認められず、無効になった事例

本件は、自筆証書遺言の有効性が争われた事案です。

事案の概要(東京地判令和4年4月28日)

本件遺言者は、平成28年5月20日に「全てを姉に託す」という旨の公正証書遺言を作成していました。

ところが、令和元年10月18日付で「これまでの遺言は全て取り消す」旨の自筆証書遺言が作成されていたことが判明しました。

この経緯を踏まえて、遺言者の息子が当該自筆証書遺言の無効確認訴訟を提起し、公正証書遺言どおりの相続を求めました。

本件では、令和元年6月の段階で実施されたミニメンタルステート検査が7点であったこと、令和元年10月7日付の診断書において認知機能検査が実施不可との診断結果が下されたことから、自筆証書遺言作成時に、遺言者本人は認知機能検査が実施できないほど高度な知能低下状態であったことが認定されました。

また、自筆証書遺言は「これまでの遺言は全て取り消す」というシンプルな内容ではあるものの、この内容の遺言書を作成するには、過去の遺言の意味内容や法的効力を全て理解している必要があります。

その点、重度の認知症状態にあった本件遺言者には、遺言書作成時点でこの内容を理解できるだけの判断能力は存在しなかったと推察されます。

さらに、遺言者本人と姉の娘・夫とは生前特に親しくしていたにもかかわらず、「全てを姉に託す」という公正証書遺言を全面的に取り消すとは考えにくいことから、第三者による介入・誘導によって自筆証書遺言が作成されたことが強く推認されると判断されました。

以上の理由から、本件では自筆証書遺言の無効確認を認める旨の判決が下されました。

遺言者の遺言能力と遺言内容をもとに、無効とした事例

本件は、公正証書遺言の有効性が争われた事案です。

事案の概要(東京高判平成25年3月6日)

本件の遺言者は、「全財産を妻に譲る」旨の自筆証書遺言を作成していました。

しかし、その後公正証書遺言を作り直し、そこには「全財産を妹に譲る」旨の内容が残されます。

そのため、自筆証書遺言と公正証書遺言の内容が大幅に変わっていることから、遺言無効確認訴訟が提起されるに至りました。

本件では、遺言者が自筆証書遺言の作成後に、難治性の退行期うつ病・認知症を発症しました。

そして、公正証書遺言作成時にもこれらの疾患に罹患していたことが判明しています。

また、自筆証書遺言と公正証書遺言ではその内容が大幅に変更されていること、被相続人の配偶者が存命中であるにもかかわらず「被相続人の妹のみに財産を相続させる」旨の遺言書に内容を変更する合理的な理由はないことから、被相続人が自分の意思で公正証書遺言を作り直したとは考えにくいです。

以上の理由から、本件では遺言者の遺言能力が否定されて、公正証書遺言の無効確認を認容する判決が下されました。

遺言書の無効確認請求をするなら弁護士に相談を

遺言書の内容に疑わしい点があったり、遺言書の内容に納得できなかったりするなら、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談することを強くおすすめします。

ここでは、遺言書の無効確認を検討している段階で弁護士へ相談するメリットを紹介します。

有効な証拠の収集方法についてアドバイスをもらえる

遺言の無効確認請求をするには、無効原因があることを立証しなければいけません

そのためには、遺言能力に問題があったことを示す客観的証拠、証言、筆跡鑑定、カルテなどの証拠を揃える必要があります。

相続トラブルを得意とする弁護士へ相談すれば、事案の状況や被相続人を取り巻く関係性を踏まえたうえで、遺言無効確認請求に役立つ証拠をピックアップや、有効な証拠収集方法についてアドバイスを提供してくれるでしょう。

調停や訴訟で、的確に主張してもらえる

遺言書の有効性に問題がある場合、相続人同士で解決策について話し合いをしたうえで、協議がまとまらないときには遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟という法的手続で紛争の解決を目指すことになります。

ただ、遺産相続問題は人間関係のトラブルが影響することが多く、当事者だけでは冷静に話し合いを進めて円滑な解決を目指すのは容易ではありません。

また、遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟では、自分たちに有利な材料を確実に用意する必要があります。

弁護士へ相談・依頼をすれば、交渉を代理してくれるので、遺産相続トラブルの早期解決を目指せます。

また、万が一調停・訴訟に紛争が発展したとしても、効果的に攻撃防御を尽くしてくれるので有利な解決を目指しやすいでしょう。

さいごに|遺言書の無効確認請求は弁護士に相談

遺言無効確認訴訟には時効は設けられていないので、実際に当該遺言書が執行されたあとでも、いつでも遺言書の効力を争うことができます

もっとも、遺言書作成時から時間が経過するほど証拠を収集するのが難しくなりますし、遺留分侵害額請求権には原則1年の期間制限が設けられているため、遺言書の有効性を争いたいときには、できるだけ早い段階で法的措置に踏み出すことが望ましいでしょう。

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この記事の監修者
葛南総合法律事務所
安藤 俊平 (千葉県弁護士会)
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ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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