定年退職し、「子どもたちも家を巣立ったし、そろそろ終活をしておこう」と考えている方も多いのではないでしょうか。
ご自身が亡くなったあと、子どもたちに迷惑をかけないよう、確実な遺言を残しておこうと考える方も少なくありません。
そのためには、公正証書遺言が最良だと知り、作成方法などを調べている方もいるのではないでしょうか。
ただ、年金生活のためあまり費用をかけられないということで、費用をかけずに済む方法を知りたいと考えるのは当然です。
この記事では、公正証書遺言の費用と専門家に作成を依頼する場合の費用やメリット・デメリットついて解説します。
費用はかかりますが、公正証書遺言は自分で作ることもできます。
その場合、どのようなものが必要で、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
内訳項目は、以下のとおりです。
公正証書遺言の作成手数料は、公証人手数料令として法律で定められています。
(法律行為に係る証書の作成の手数料の原則)
第九条 法律行為に係る証書の作成についての手数料の額は、この政令に特別の定めがある場合を除き、別表の中欄に掲げる法律行為の目的の価額の区分に応じ、同表の下欄に定めるとおりとする。
この公証人手数料は全国一律であり、遺言に記載する財産の総額に応じて決められます。
そして、その手数料を公証人役場へ支払わなければなりません。
財産の総額ごとの具体的な金額は、以下のとおりです。
財産の合計金額 公証人手数料 ~100万円 5,000円 100万円~200万円 7,000円 200万円~500万円 1万1,000円 500万円~1,000万円 1万7,000円 1,000万円~3,000万円 2万3,000円 3,000万円~5,000万円 2万9,000円 5,000万円~1億円 4万3,000円 1億円~3億円 4万3,000円+5,000万円までごとに1万3,000円(超過額) 3億円~10億円 9万5,000円+5,000万円までごとに1万1,000円(超過額) 10億円~ 24万9,000円+5,000万円までごとに8,000円(超過額)
このほかに財産総額が1億円未満の場合には、遺産加算として1万1,000円が加算されます。
また、公正証書遺言の作成枚数によっては追加で謄本手数料がかかります。
公正証書遺言の作成には、証人2名に立ち会ってもらう必要があります。
証人を知人などに依頼した場合、費用は発生しませんが、専門家や公証人役場に依頼した場合には日当がかかります。
証人の日当(2名分) | 金額 |
---|---|
1名につき | 5,000円~1万5,000円 |
なお、未成年者や推定相続人とその配偶者、公証人の親族などは証人になれません。
適切な方が見つからない場合には、専門家や公証人役場に依頼したほうがよいでしょう。
公証人役場で遺言者本人が直接、公正証書遺言を作成する場合は日当や交通費は発生しません。
しかし病院に入院しているなど、なんらかの事情で公証人役場へ訪問できない場合には、公証人に出張してもらわなければなりません。
その場合には、以下のような費用が追加でかかります。
費用内訳 | 金額 |
---|---|
公証人手数料加算 | 公証人手数料の1.5倍 |
公証人の日当 | 1日2万0,000円(4時間以内:1万0,000円) |
交通費 | 実費 |
公証人の日当や交通費、公証人手数料の半分の金額が加算されることになります。
より大きな費用がかかることに注意しましょう。
公正証書遺言の作成には、内容によって公証人役場へ書類の提出が必要になる場合があります。
各必要書類の取得費用は、以下のとおりです。
必要書類 | 費用 |
---|---|
戸籍謄本 | 1通につき450円 |
印鑑証明書 | 1通につき300円 |
住民票 | 1通につき300円 |
評価証明書 | 不動産1物件につき300円 |
登記事項証明書 | 不動産1物件につき600円 |
おおむね1,000円以上の費用がかかるでしょう。
公正証書遺言の作成にかかる費用の計算方法は、以下のとおりです。
では、公正証書遺言の作成にかかる費用についてケース別に見ていきましょう。
配偶者1人に全財産6,000万円を相続させる場合の作成費用について見ていきます。
まず、配偶者1人に6,000万円を分ける場合の公証人手数料は、以下のとおりです。
配偶者:4万3,000円(5,000万円〜1億円) |
したがって、公証人手数料は4万3,000円です。
さらに、財産総額が1億円未満であることから、遺言加算として1万1,000円が加算されます。
その結果、公正証書遺言の作成費用は合計で5万4,000円になります。
相続財産6,000万円を配偶者に4,000万円、子ども1人に2,000万円を相続させる場合の作成費用について見ていきます。
配偶者に4,000万円、子ども一人に2,000万円と分ける場合の各相続分に対する公証人手数料は、以下のとおりです。
配偶者:2万9,000円(3,000万円〜5,000万円) 子ども:2万3,000円(1,000万円〜3,000万円) |
これらを合わせると、公証人手数料は5万2,000円です。
さらに、財産総額が1億円未満であることから、遺言加算として1万1,000円が加算されます。
その結果、公正証書遺言の作成費用は合計で6万3,000円になります。
相続財産6,000万円を配偶者に3,000万円、子ども3人に1,000万円ずつ分けて相続させる場合について見ていきます。
配偶者に3,000万円、子ども3人に1,000万円ずつ分ける場合の各相続人に対する公証人手数料は、以下のとおりです。
配偶者:2万3,000円(1,000万円〜3,000万円) 子ども:1万7,000円(500万円〜1,000万円) 子ども:1万7,000円(500万円〜1,000万円) 子ども:1万7,000円(500万円〜1,000万円) |
これらを合わせて、公証人手数料は7万4,000円です。
さらに、財産総額が1億円以下であることから、遺言加算として1万1,000円が加算されます。
その結果、公正証書遺言の作成費用は合計で8万5,000円となります。
公正証書遺言の作成を専門家に依頼する場合の費用は、専門家によって異なります。
費用はかかりますが、ご自身で作成するよりも正確な公正証書遺言を作成できるためおすすめです。
ここでは、以下の専門家に依頼する場合の費用について紹介します。
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼する場合、15万円~25万円程度の費用がかかります。
公正証書遺言の作成を一任できるだけでなく、相続後の手続きもおこなってくれますが、ほかの専門家と比較して費用は高額となっています。
公正証書遺言の作成を司法書士に依頼する場合、10万円~25万円程度の費用がかかります。
司法書士に依頼した場合も弁護士と同様に、別途費用はかかりますが、相続後の遺言執行手続きなどもおこなってくれます。
公正証書遺言の作成を司法書士に依頼する場合、10万円~20万円程度の費用がかかります。
行政書士に依頼する場合の費用相場は、司法書士とほぼ同じです。
ただ、行政書士は相続登記代行ができないため、相続後の手続きもおこなってもらいたい場合は別の専門家に依頼する必要があります。
公正証書遺言の作成を銀行に依頼する場合、150万円程度の費用がかかります。
多くの銀行や信託銀行では、遺言信託というサービスが用意されています。
遺言信託は、公正証書遺言の作成だけでなく、書類の保管や遺言執行などのさまざまな手続きをサポートしてくれるサービスです。
150万円という金額は公正証書遺言作成に限らず、そのほかのサポートも含めたものになります。
サービス内容は充実していますが、弁護士よりも費用は高額となっています。
公正証書遺言は証明力が高いなどメリットも多いですが、そのぶん費用もかかります。
そのため、せっかく費用をかけて専門家に依頼するのであれば、メリット・デメリットを把握したうえで依頼したいところです。
ここでは、公正証書遺言作成を各専門家に依頼するメリット・デメリットについて紹介します。
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼する場合のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
公正証書遺言を作成する場合、複雑な手続きが多く、必要書類の取得など負担も大きくなります。
弁護士に依頼することで、これらの手続きを全て一任できます。
また、公正証書遺言の作成には、証人2名の立ち会いが必要になります。
知人に依頼することも可能ですが、遺言書の内容や遺産を知られてしまうのは抵抗がある方がほとんどでしょう。
しかし、知人以外となると証人を2名も確保するのは難しいかと思います。
弁護士に依頼することで弁護士自身だけでなく、法律事務所の職員も証人になることが可能です。
弁護士であれば守秘義務もあり、遺言内容をだれにも知られたくないという場合には安心でしょう。
さらに、遺言執行者を弁護士に指定できるため、遺言執行をスムーズに進められます。
ただし、費用はほかの専門家と比較しても高額となっています。
公正証書遺言作成を司法書士に依頼する場合のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
司法書士は登記の専門家になるため、財産のなかに不動産がある場合は公正証書遺言の作成をスムーズにおこなえるでしょう。
戸籍謄本や登記事項証明書などの必要書類の準備も依頼できるので安心です。
相続後の手続きもおこなってもらえるものの、費用は行政書士よりはやや高額といえます。
公正証書遺言作成を行政書士に依頼する場合のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
基本的なサービス内容は、司法書士と変わりません。
行政書士の場合、一部の手続きのサポートだけでも依頼できるというのがメリットでしょう。
通常、「書類の準備は自分でおこない、財産状況などの調査のみお願いしたい」という場合、弁護士や司法書士だと対応してくれない可能性もあります。
しかし、行政書士であればそのような依頼にも、柔軟に対応してくれます。
費用も、ほかの専門家と比べると大幅に安く済むため、気軽に相談できるでしょう。
ただし、行政書士は業務範囲が広いため、全ての行政書士が相続分野に特化しているとは限りません。
場合によっては、公正証書遺言作成をスムーズに進められない可能性があるため注意が必要です。
また、行政書士は司法書士のように登記申請はできません。
相続に不動産が含まれている場合は行政書士だけでは全ての手続きを完了できないため、その場合はほかの専門家への依頼を検討しましょう。
公正証書遺言の作成を銀行に依頼する場合のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
銀行や信託銀行の遺言信託を利用することで、弁護士のアドバイスも受けられるため、確実な公正証書遺言の作成をおこなえます。
また、希望どおりの相続が実現するように細やかなサポートもしてくれ、遺言執行までスムーズに進められるでしょう。
ただ、銀行や信託銀行による遺言信託サービスは、専門家のなかで最も高額です。
そのぶん手厚いサポートを受けられますが、銀行に資産運用などを任せているという場合以外は、ほかの専門家への依頼を検討してもよいかもしれません。
遺言書は自分自身で作成することもできますが、改ざんや紛失などのトラブルが発生するケースも少なくありません。
それにより作成経緯等で争いが生じ相続人間の紛争を招く可能性もあります。
その点、公正証書遺言は費用はかかりますが、証明力の高い確実な遺言書を作成することができます。
専門家であれば、複雑な手続きを一任できたり、証人を探してくれたりと負担を軽減しながら公正証書遺言を作成できます。
それぞれの専門家にはメリット・デメリットがありますが、より確実に公正証書遺言を作成したい場合は、弁護士に相談するのもおすすめです。
ほかの専門家と比べて費用は少々高額にはなりますが、守秘義務によって遺言内容を厳守したうえで、遺言執行者としてスムーズな手続きを進めてくれます。
希望どおりの相続を実現するためにも、公正証書遺言を活用してトラブルのない遺言書を作成しましょう。
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