死因贈与とは、贈与者が亡くなった際に指定の財産を特定の人へ渡すことを約束した契約のことです。
死因贈与の場合、財産を渡したい人に確実に贈与でき、手続き自体も比較的手軽に済ませられるというのが大きな特徴です。
ただし、ほかにも財産を渡す方法として「遺贈」などもあり、どの手段が向いているのかは状況によっても異なります。
本記事では、死因贈与の特徴や遺贈との違い、メリット・デメリットや手続きの流れなどを解説します。
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死因贈与とは、贈与者が亡くなった際に指定の財産を特定の人へ渡すことを約束した契約のことです。
死因贈与は契約行為の一種で、贈与者が亡くなった際に贈与の効力が生じます。
なお、贈与者が存命中に財産を渡すことは「生前贈与」と呼びます。
ここでは、死因贈与の種類や成立条件などを解説します。
死因贈与は、大きく分けて「通常の死因贈与」と「負担付死因贈与」の2種類あります。
ここでは、それぞれの特徴や違いを解説します。
通常の死因贈与の場合、贈与者が存命中に受贈者と死因贈与契約を締結します。
契約を締結してから贈与者が亡くなるまでは、贈与の効力は発生しません。
贈与者が亡くなった場合には効力が発生し、契約内容に従って財産の譲渡がおこなわれます。
なお、通常の死因贈与では、原則として贈与者側の一方的な意思で撤回することも可能です。
負担付死因贈与も、基本的な部分は通常の死因贈与と共通しています。
通常の死因贈与との大きな違いは、負担付死因贈与では「受贈者が財産を受け取る代わりに義務・負担を負う」という点です。
負担内容の一例としては「貯金○○万円を贈与する代わりに、最後まで介護して面倒を見てほしい」「土地を贈与する代わりに、一部を無償で使わせてほしい」などがあります。
また、負担付死因贈与の場合、受贈者が一部でも負担を履行していれば、撤回がやむを得ない特段の事情がない限り、贈与者側の一方的な意思で撤回することはできません(最高裁判決 昭和57年4月30日|裁判所)。
たとえば「受贈者が介護の負担を課されていて、すでに贈与者の家に通って介護を始めていた」というようなケースでは、贈与者側の一方的な意思で撤回することは困難です。
死因贈与は、贈与者と受贈者がお互いに合意することで成立します。
たとえば、遺言で財産を渡す場合は「○○の土地は○○に譲る」などと書いて一方的に意思表示すれば成立しますが、死因贈与の場合は受贈者側の同意も必要です。
死因贈与では当事者双方が合意していればよいため、書面化せずに口約束でも成立します。
ただし、口約束だけで記録が残っていないと贈与後にトラブルに発展するおそれもあるため、死因贈与契約書を作成しておくのが一般的です。
死因贈与と混同されがちなものとして、遺贈というものがあります。
遺贈とは、遺贈者が遺言書を作成し、亡くなったあとに指定の財産を特定の人へ渡す方法のことです。
まず、死因贈与に関しては「贈与者が死亡した時点で効力が生じる贈与契約」であるのに対し、遺贈に関しては「遺言による贈与」であるという点で異なります。
ほかにも、主な違いをまとめると以下のとおりです。
死因贈与 |
遺贈 |
|
---|---|---|
当事者間の合意 |
必要 |
不要 |
書面が必要かどうか |
不要 |
必要 |
不動産取得税の税率 |
土地・住宅:3%(令和9年3月31日までの特例措置)、住宅以外の家屋:4% |
【法定相続人】非課税 【法定相続人以外】土地・住宅:3%、住宅以外の家屋:4% |
登録免許税の税率 |
2% |
【法定相続人】0.4% 【法定相続人以外】2% |
年齢制限の有無 |
贈与者:18歳以上 受贈者:制限なし |
遺贈者:15歳以上 受遺者:制限なし |
不動産の仮登記 |
可能 |
不可能 |
以下では、死因贈与と遺贈の違いについて項目ごとに解説します。
死因贈与では、生前のうちに贈与者と受贈者がお互いに合意している必要があります。
一方、遺贈の場合、当事者間の合意は必要ありません。
遺贈者が遺言書を作成し、財産の渡し方などを書いておくだけで成立します。
死因贈与に関しては、贈与者と受贈者がお互いに合意していれば成立するため、口約束だけで済ませることも可能です。
一方、遺贈は遺言書を作成して財産を贈与する方法であるため、遺言書の作成が必要です。
なお、適切な形式で遺言書が作成されていない場合、遺贈が無効になることもあります。
死因贈与や遺贈で不動産を渡す場合、不動産取得税や登録免許税といった税金が発生します。
以下のように、死因贈与と遺贈では税率が異なります。
なお、不動産取得税については、令和9年3月31日までの特例措置として、土地・住宅を取得した場合の税率が3%に軽減されています。
財産を受け取る人 |
死因贈与 |
遺贈 |
---|---|---|
法定相続人 |
土地・住宅:3% 住宅以外の家屋:4% |
非課税 |
法定相続人以外 |
土地・住宅:3% 住宅以外の家屋:4% |
土地・住宅:3% 住宅以外の家屋:4% |
財産を受け取る人 |
死因贈与 |
遺贈 |
---|---|---|
法定相続人 |
2% |
0.4% |
法定相続人以外 |
2% |
2% |
遺贈の場合、財産を受け取る人が法定相続人であれば、死因贈与よりも税金の負担が軽く済みます。
死因贈与と遺贈では、以下のようにそれぞれ年齢制限が設けられています。
死因贈与 |
遺贈 |
|
---|---|---|
財産を渡す人 |
18歳以上 ※未成年者は親権者の同意が必要 |
15歳以上 |
財産を受け取る人 |
制限なし |
制限なし |
死因贈与は契約の一種であるため、財産を渡す側は18歳以上である必要があります。
18歳未満の未成年者に関しては、親権者による同意があれば可能です(民法第5条)。
一方、遺贈の場合は契約ではなく遺言書を作成して財産を渡すため、15歳以上である必要があります(民法第961条)。
不動産を死因贈与する場合、贈与者の存命中に始期付所有権移転仮登記という手続きが可能です。
始期付所有権移転仮登記をおこなうことで、登記簿には「贈与者が亡くなった際は所有権が受贈者に移行する」という旨が記載されるため、受贈者の権利を保護できます。
注意点として、あくまでも仮登記であるため、贈与者が亡くなった際は本登記をおこなう必要があります。
また、仮登記をした後に死因贈与を撤回した場合、仮登記の抹消登記手続には受贈者の協力が必要となります。
一方、遺贈の場合は死因贈与のような仮登記はできません。
死因贈与には、メリットだけでなくデメリットもあります。
ここでは、贈与者側と受贈者側のメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
贈与者の場合、主に以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット |
デメリット |
---|---|
・財産を渡したい人に確実に贈与できる ・基本的にいつでも撤回できる ・遺贈よりも手軽に手続きできる など |
・契約時に贈与内容が知られてしまう ・負担が履行された場合は、撤回がやむを得ない特段の事情がない限り撤回できない(負担付死因贈与の場合) ・受贈者から同意を得る必要がある など |
贈与者側の大きなメリットは、財産を渡したい人に確実に贈与できるという点です。
死因贈与は契約行為であるため、基本的に贈与者の死亡後は受贈者による放棄は認められず、ほかの人に財産が渡ってしまうこともありません。
ただし、死因贈与をおこなうには受贈者側の同意も得なければならないため、受贈者は契約時には「どのような財産が贈与されるのか」を知ることになります。
また、原則として贈与者側はいつでも撤回できますが、負担付死因贈与のケースでは撤回できない場合もあるため注意が必要です。
受贈者の場合、主に以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット |
デメリット |
---|---|
・事前に贈与内容がわかる ・負担を履行した場合は、撤回がやむを得ない特段の事情がない限り撤回されない(負担付死因贈与の場合) ・遺贈よりも手軽に手続きできる ・不動産の仮登記ができる など |
・遺留分侵害額請求される可能性がある ・登録免許税や不動産取得税の負担が大きい(法定相続人の場合) ・一方的に撤回される可能性がある ・贈与者から同意を得る必要がある など |
受贈者側の大きなメリットは、負担付死因贈与で一部でも負担を履行している場合、原則撤回されずに確実に財産を受け取れるという点です。
また、遺贈とは違って早い段階で贈与内容を知ることができるため、余裕をもって贈与後の計画を立てられるというのもメリットのひとつです。
ただし、通常の死因贈与では一方的に撤回されるおそれがあるほか、贈与者が亡くなった際に相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性もあります。
死因贈与の基本的な流れは以下のとおりです。
ここでは、死因贈与の手続き方法について解説します。
まずは「どの財産を贈与するのか」「どれだけ贈与するのか」などの贈与内容を決めます。
負担付死因贈与の場合は、負担・義務の内容も決めておく必要があります。
死因贈与は当事者双方の合意がなければ成立しないため、どちらかが一方的に決めるのではなく、お互いにしっかり話し合って決めましょう。
贈与内容が決まったら、死因贈与契約書を作成します。
死因贈与契約書は手書きでもパソコン(Wordなど)でも作成可能です。
特に決まった形式はありませんが、トラブル防止のためにも以下のポイントは押さえておきましょう。
以下では、ケースごとの死因贈与契約書の記載例を紹介します。
不動産を死因贈与する場合、死因贈与契約書の記載例は以下のとおりです。
負担付死因贈与の場合、死因贈与契約書の記載例は以下のとおりです。
不動産を死因贈与する場合は、始期付所有権移転仮登記をおこないましょう。
原則として、仮登記の義務者である「贈与者」と、仮登記の権利者である「受贈者」が共同で法務局に必要書類を提出して登記申請する必要があります。
ただし、贈与者が承諾している場合は受贈者だけでも申請でき、その際は贈与者の承諾書(印鑑証明書付)か公正証書による死因贈与契約書が必要です。
死因贈与の注意点として、なかには効力が無効になってしまうこともあります。
ここでは、どのような場合に無効になるのか解説します。
受遺者のほうが先に亡くなってしまった場合、基本的に死因贈与の効力は発生しません。
民法第554条により、死因贈与では遺贈の規定が適用されることになりますが、民法第994条1項では「遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定められています。
したがって、このようなケースでは死因贈与は無効となり、もしほかに財産を渡したい人が見つかった場合は、新たに死因贈与契約を締結することになります。
贈与者が遺言書を作成しており、遺言内容が死因贈与の内容と異なる場合、「その遺言書がいつ作成されたのか」がポイントとなります。
遺言書が死因贈与契約の前に作成されたものであれば死因贈与は有効となりますが、死因贈与契約のあとに作成されたものであれば死因贈与の効力は発生しません。
ここでは、死因贈与に関するよくある質問について解説します。
原則として、死因贈与は贈与者側の一方的な意思で撤回できます。
ただし、負担付死因贈与に関しては、受贈者が一部でも負担を履行している場合は原則撤回できません。
死因贈与では当事者双方が合意していればよいため、書面化せずに口約束だけでも成立します。
ただし、死因贈与契約書を作成していない場合、死因贈与の事実を証明することが難しく、贈与者の死亡後にほかの相続人とトラブルに発展したりするおそれがあります。
死因贈与は遺留分侵害額請求の対象になります。
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障されている取り分のことです。
たとえば「父親・長男・次男」というケースで父親が亡くなり、父親と長男で交わしていた死因贈与契約書には「父親の遺産は全て長男に渡す」と書かれていたとします。
この場合、次男は長男に対して遺留分侵害額請求することができ、次男は自身の遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。
死因贈与は、確実に財産を渡したい相手がいる場合や、財産を渡す代わりに何らかのサポートを受けたい場合などには特に効果的です。
死因贈与なら、比較的手軽に手続きを済ませることができますが、なかには遺留分侵害額請求を受けたり、死因贈与契約書の作成に誤りがあったりしてトラブルになることもあります。
弁護士なら、死因贈与の手続きのアドバイスや死因贈与契約書の作成代行などを依頼できるほか、そもそも死因贈与が適しているかどうかも判断してくれます。
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