相続手続きを進めるためには、相続人全員が揃っていなければいけません。
行方不明の相続人がいる場合の対処法として、失踪宣告という制度があります。
失踪宣告とは、行方不明などで生死不明の人について、法律に則って死亡したものとみなす制度のことです。
失踪宣告を利用すれば相続手続きを進められる可能性がありますが、場合によっては別の方法を選んだほうがよいケースもあります。
自分の場合はどうするべきなのか、この記事を読んで押さえておきましょう。
本記事では、失踪宣告の申請条件や手続きの流れ、失踪宣告を取り消したい場合の対応や、失踪宣告が向いていないケースの対処法などを解説します。
相続人が行方不明でお悩みの方へ
相続が発生したものの、相続人が行方不明で、遺産分割協議ができない...と悩んでいませんか?
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相続人が行方不明の場合は「失踪宣告」で対処できる
相続人が行方不明の場合、失踪宣告をすることで、その相続人抜きで遺産分割協議を進めることができます。
まずは、失踪宣告について詳しく解説します。
失踪宣告とは「生死不明の相続人を死亡扱いにする手続き」のこと
失踪宣告とは、生死不明の人について、家庭裁判所が「法律上は死亡したもの」とみなす制度のことです。
家庭裁判所に失踪宣告を出してもらうためには、失踪者と利害関係のある人が申し立てをしなければなりません。
たとえば、相続人Aの生死が不明で相続手続きができないというケースで、ほかの相続人が家庭裁判所に失踪宣告を申し立てて認められた場合、「Aは死亡したもの」として扱われます。
その場合、Aを除いた相続人達で遺産分割協議を始めることができます。
第三十条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪そうの宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
引用元:民法第30条
第三十一条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
引用元:民法第31条
失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類がある
失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があり、それぞれ失踪宣告の申し立てができる条件が異なります。
ここでは、それぞれの特徴や違いを解説します。
普通失踪とは
普通失踪とは、民法第30条第1項で規定されている失踪のことです。
たとえば、家出や蒸発などをして連絡がつかなくなり、生死不明の状態になったケースが該当します。
普通失踪の場合、「最後に生存確認できた日から数えて7年」を過ぎていれば、失踪宣告の申し立てができます。
失踪宣告の申し立てが認められると、失踪者は「上記の7年を経過した日に死亡したもの」とみなされます。
特別失踪とは
特別失踪とは、民法第30条第2項で規定されている失踪のことです。
たとえば、海難事故・山岳遭難・自然災害などの危難によって連絡がつかなくなり、生死不明の状態になったケースが該当します。
特別失踪の場合、「上記の危難が去った日から数えて1年」を過ぎていれば、失踪宣告の申し立てができます。
失踪宣告の申し立てが認められると、対象者は「上記の危難が去った時点で死亡したもの」とみなされます。
失踪宣告に似た「死亡認定」という手続きもある
死亡認定とは「災害などによって死亡したことは確実だが遺体を発見できない」というような場合に、調査をおこなった官公庁が死亡を認定して「戸籍上は死亡したもの」と推定する制度のことです。
死亡したことは確認できていないが死亡したものとして扱う、という点は失踪宣告と同じです。
しかし、失踪宣告の場合は死亡を認定する機関が家庭裁判所であるのに対して、死亡認定の場合は警察などの官公庁という点で異なります。
ほかにも、失踪宣告の場合は「死亡したものとみなす」であるのに対して、死亡認定の場合は「死亡したものと推定する」という点なども異なります。
なお、失踪者の生存が確認された場合、失踪宣告では取り消しのために審判手続きが必要ですが、死亡認定では生存の事実を証明するだけで済みます。
失踪宣告をすべきケース
ここでは、失踪宣告をすべきケースについて解説します。
相続開始時に行方不明の相続人がいる場合
「被相続人が死亡して遺言書がない」という場合は、遺産分割協議をおこなって分配方法を決めることになります。
しかし、遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があり、1人でも欠けていると無効になります。
行方不明の相続人がいると、いつまで経っても遺産分割協議を始められず、相続手続きが進みません。
このような場合は、失踪宣告をすることで、失踪者を除いて相続手続きを進められるようになります。
なお、失踪宣告が認められた場合、失踪者の相続手続きも開始となります。
配偶者が行方不明で婚姻関係を解消したい場合
配偶者が死亡した場合は、特別な手続きを経ることなく婚姻関係が解消されます。
一方、配偶者が行方不明の場合は、婚姻関係が継続します。
このようなケースでは、失踪宣告をすることで婚姻関係が解消されます。
なお、配偶者が生死不明の状態になって3年以上経過していれば、裁判上の離婚事由となります。
この場合は、裁判所に離婚訴訟を提起することでも婚姻関係が解消されます。
死亡保険金を請求したい場合
死亡保険金は、被保険者が死亡した場合に受け取れるお金のことです。
失踪宣告が認められれば、「被保険者は死亡したもの」とみなされて、死亡保険金を受け取ることができます。
失踪宣告が向いていないケース
場合によっては失踪宣告が向いていないケースもあります。
以下のようなケースでは、ほかの手段で解決を図りましょう。
単に住所や連絡先を知らないだけの場合
「単に疎遠になっているだけ」「そもそも連絡先を知らない」というようなケースでは、まず住所を調査しましょう。
自分が法定相続人であれば、戸籍などの書類を取得して住所を調査できます。
行方不明だが生きている可能性が高い・行方不明になってから7年未満の場合
失踪宣告をするには「生死不明の状態から7年経っている」などの条件を満たしていなければなりません。
もし条件を満たしていない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人の選任」を申し立てましょう。
不在者財産管理人とは、行方不明になっている相続人の代わりに財産管理をする人のことです。
不在者財産管理人が選任されて申請手続きなどが完了すれば、行方不明者の代わりに相続手続きに参加できるようになります。
失踪宣告を申し立てる際の必要書類・費用
失踪宣告をするのに必要なものは以下のとおりです。
ただし、場合によっては追加書類の提出を求められることもあります。
【申し立ての必要書類】
- 家事審判申立書【ダウンロード】【記入例】
- 失踪者の戸籍謄本・戸籍附票
- 失踪を証明する資料(家出人届出受理証明書、失踪者宛ての手紙など)
- 申立人の利害関係を証明する資料(親族の場合は戸籍謄本)
【申し立ての費用】
- 収入印紙:800円
- 連絡用の郵便切手:5,000円程度(申立先の裁判所によって異なる)
- 官報広告料:5,000円程度(裁判所の指示を受けて支払う)
失踪宣告の申立人・申立先
失踪宣告の申し立てができるのは「失踪者と利害関係のある人」のみです。
たとえば、失踪者の配偶者・相続人になる人・財産管理人・受遺者などが該当します。
一方、債権者や失踪者の友人などは含まれません。
失踪宣告の申立先は、失踪者の最後の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。
裁判所の場所は【裁判所の管轄区域|裁判所】から確認できます。
失踪宣告を申し立てたあとの流れ
家庭裁判所に失踪宣告を申し立てた場合、以下のような流れで手続きが進められます。
- 失踪宣告の申し立て
- 審理(家庭裁判所の調査官による調査など)
- 公示催告
- 失踪宣告(普通失踪の場合は③から3ヵ月以上、特別失踪の場合は1ヵ月以上)
- 審判書謄本の送達・受領(①から6ヵ月程度)
- 確定(審判書謄本の受領日の翌日から数えて14日後)
- 失踪の届出(⑥の日を含めた10日以内)
- 除籍
上記のとおり、申し立て後は家庭裁判所にて聴き取りなどの調査がおこなわれたのち、裁判所の掲示板や機関紙にて「生存している場合は届出をするように」などと呼びかけがおこなわれます。
一定期間を過ぎても届出がなければ失踪宣告がおこなわれ、結果などを記載した「審判書謄本」という書類が申立人に送られます。
審判書謄本を受け取ったあとは家庭裁判所で「確定証明書」を取り寄せて、審判書謄本・確定証明書・印鑑を準備し、失踪者の本籍地または申立人の住所地の市区町村役場で失踪の届出をおこないます。
届出が受理されれば失踪者は除籍となります。
失踪宣告を取り消したい場合の対応
失踪者が生存していたり、失踪宣告とは違う時期に死亡していたりして失踪宣告を取り消したい場合は、失踪者本人または利害関係人が家庭裁判所に申し立てをすることで取り消すことができます。
第三十二条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
引用元:民法第32条
失踪宣告が取り消されても「善意でおこなわれた行為」は無効にならない
失踪宣告が取り消されても、それまでにおこなわれた「善意による行為」の効力には影響しません。
この場合の善意とは、「失踪者が生きていることを知らなかった」ということを意味します。
たとえば、失踪者Aについて失踪宣告がされ、配偶者であるBがAの不動産を相続したのち、第三者であるCに譲渡したと仮定します。
この場合、のちにAの生存が確認されたりして失踪宣告が取り消されたとしても、失踪者の生存を知らずに譲渡がおこなわれていれば権利などは移転したままとなります。
なお、基本的には「当事者双方が善意であること」が求められます(大審院 昭和13年2月7日判決|Westlaw Japan 文献番号1938WLJPCA02076002)。
当事者双方の善意が求められる理由としては、失踪者の財産が知らない間に他人が取得するという点から、失踪者の保護に重点が置かれているためです。
学説上は争いがありますが、少なくとも相手方には善意が要求されると考えてよいでしょう。
上記のような財産移転のほかには、「失踪者の配偶者が再婚したのち、失踪者の生存が確認されたりして失踪宣告が取り消された」というケースもあるでしょう。
このようなケースでも、失踪者の生存を知らずに再婚していれば、基本的に前婚が復活するようなことはありません。
一方、再婚当事者のどちらかまたは双方が知っていた場合には、前婚が復活して重婚状態になる可能性があります(民法第770条1項、民法第732条、民法第744条)。
失踪宣告について知っておくべき注意点
ここでは、失踪宣告に関する注意点を解説します。
失踪宣告後に失踪者が生きていた場合の相続財産の扱い
失踪宣告後に失踪者の生存が確認された場合は、失踪宣告を取り消すように家庭裁判所に申し立てをすれば取り消されます。
その際に問題となるのは、たとえ失踪宣告が取り消されても全ての相続財産を元に戻すのは難しいという点です。
前述のとおり、失踪宣告を取り消す前におこなわれた善意による行為については無効にならず、もし失踪宣告を前提とした遺産分割で利益を得た者がいたとしても、返還義務を負うのは現に利益を受けている限度においてのみです。
ただし、当事者の「悪意」によってなされた財産処分については、効果を及ぼすことができます。
取得した相続財産は返還する義務がある
失踪宣告が取り消された場合、ほかの相続人は取得した財産を返還する義務があります。
ただし、その際の返還義務の範囲は「利益を受ける限度に限られる」とされています(民法第32条2項)。
利益を受ける限度というのは、現存利益の範囲を意味しています。
たとえば、ギャンブルなどで浪費してしまった場合は返還する必要はありませんが、生活費に充てた場合は、その分浮いたであろう金銭的利益があることから、この部分については返還義務を負うことになります。
なお、悪意者については民法第32条2項の適用は否定され、不当利得の規定である民法第704条が適用されると解されます。
失踪宣告された人の死亡一時金の扱い
死亡一時金は、以下のような場合に支払われます。
死亡一時金は、国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36月以上ある方が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けることなく亡くなったときは、その方と生計を同じくしていた遺族(①配偶者②子③父母④孫⑤祖父母⑥兄弟姉妹の中で優先順位が高い方)が受けることができます。請求期限は、死亡日の翌日から2年以内となっています。ただし、その方の死亡により遺族基礎年金を受けることのできる遺族がいる場合は支給されません。
引用元:失踪宣告を受けた者の「死亡一時金」の請求期間の取扱いについて|厚生労働省
かつては、「失踪宣告をして死亡とみなされた日の翌日から2年以内に請求があった場合」に支給されていました。
しかし、現在では「失踪宣告の審判の確定日の翌日から2年以内に請求があった場合」に支給されます。
死亡一時金の受け取りに必要な手続き
死亡一時金を受け取るためには、「国民年金死亡一時金請求書」を作成したのち、戸籍謄本や住民票のコピーなどを準備して、住所地の市区町村役場・年金事務所・年金相談センターなどの窓口に提出します。
詳しい手続きについては「死亡一時金を受けるとき|日本年金機構」をご確認ください。
なお、遺族年金ついては「失踪宣告をして死亡とみなされた日の翌日から5年」という時効があります。
なるべく速やかに手続きを進めましょう。
失踪宣告後の生命保険の扱い
失踪宣告がおこなわれると、法律上は死亡したという扱いになるため保険金の支払い条件を満たしています。
ただし、失踪宣告をするまでは、保険の契約が失効してしまわないように保険料を支払い続ける必要があります。
まとめ
相続人が行方不明になっており、生死不明の状態が長期間続いている場合は失踪宣告が有効です。
失踪宣告では書類などを準備する必要がありますが、申し立てが認められれば相続手続きを進めることができます。
もし自力での手続きが不安な場合は、弁護士の力を借りましょう。
弁護士であれば、手続きの進め方をアドバイスしてくれたり、代理人として遺産分割協議を進めてもらうこともできます。
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