遺産分割協議書は、遺産相続の内容を相続人間で話し合い、合意した内容を記載した書面のことをいいます。
遺産分割協議書は銀行口座や不動産などの名義変更に用いられたり、税金の申告の際に使われたりします。
本記事では、遺産分割協議書の提出先について詳しく解説をおこないます。
遺産分割協議書の提出が不要なケースや、遺産分割協議書の作成にあたっての注意点についても解説をしているのでぜひ参考にしてください。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果、相続人全員が納得し合意した内容がまとめられた書類です。
遺産分割協議書には遺産分割の方法と相続人それぞれの取得割合が記載されており、相続人全員が合意したことを証明するため署名および押印がおこなわれています。
なお、遺産分割協議書に記載された内容を変更するためには相続人全員の合意が必要です。
相続人単独では協議書の内容を変更することはできません。
また、遺産分割協議書は遺産相続にあたって必ず必要というわけではなく、遺言書どおりに遺産を分割するケースや法定相続分のまま遺産分割をおこない、相続人が協力して登記や預金解約の手続きをおこなうのであれば作成は不要です。
一方で、遺言書に記載されていなかった財産が発覚したケースやそもそも遺言書がないケース、法定相続分とは異なる遺産分割をおこなう場合などには作成が必要です。
遺産分割協議書は、遺産相続の際のさまざまな手続きの際に用いることが可能です。
以下では、遺産分割協議書の主な提出先と遺産分割協議書が必要になる理由について解説します。
提出先 |
遺産分割協議書の提出が必要となるケース |
税務署 |
相続税を申告する必要があるとき |
銀行 |
被相続人名義の預金口座があるとき |
法務局 |
被相続人名義の不動産があるとき |
証券会社 |
被相続人名義の上場株式、投資信託等があるとき |
運輸支局 |
被相続人名義の普通自動車があるとき |
遺産相続をおこなうに伴って相続税の申告が必要になるケースがあります。
相続税は財産を相続する際に課される税金で、相続した財産に応じて、相続税の有無や課される金額が異なるため、どのくらいの財産を相続したか示すために遺産分割協議書の提出が必要となります。
相続税を申告する際は税務署に対して、相続税の申告書や本人確認書類、遺産分割協議書などの必要書類をあわせて提出します。
ただし、相続税申告をおこなうからといって、すべての場合に遺産分割協議書が必要なわけではありません。
相続税について不安がある人は弁護士や税理士に相談しましょう。
銀行が被相続人の死亡を確認すると、遺産分割確定前に一部の相続人による勝手な引き出しなどがおこなわれないようにすることを目的に預金口座の凍結をおこないます。
口座の凍結後、口座の名義変更や解約をおこなうためには、遺産分割協議書の提出をおこない、自身が被相続人の預貯金を相続したことを示す必要があります。
なお、預金口座の名義変更に遺産分割協議書が必ず求められるわけではありませんが、その場合相続人全ての署名・押印がされた相続届を求められることがあるため、遺産分割協議書を作成して提出するほうが手間がありません。
被相続人が亡くなり、被相続人が所有していた不動産を相続する場合、不動産の登記簿に記載されている名義を変更する必要があります。
この手続きのことを相続登記といい、相続登記の際には遺産分割協議書が必要となります。
なお、相続登記の手続きは不動産の所在地を管轄している法務局にておこなう必要があります。
遺産分割協議書は株式や投資信託の名義変更の際にも提出が求められます。
ただし、有価証券の種類によって手続きをおこなう場所が異なるため注意してください。
なお、上場株式の場合、被相続人が亡くなったのちに受け取る権利があったにもかかわらず、受け取れていなかった配当金がある場合があります。
これを未受領配当金といい、株式とは別途相続手続きをおこなわなければならない可能性があるので、手続きの際にあわせて確認しておきましょう。
普通自動車の名義変更をおこなう場合、遺産分割協議書が必要になることがあります。
遺産分割協議書が必要になるかどうかは、自動車の査定額によって異なります。
査定額が100万円を超える場合、遺産分割協議書の提出は必ずおこなわなければいけません。
一方で、査定額が100万円を下回る場合は、遺産分割協議書の代わりに遺産分割協議成立申立書という簡易的な書類を提出することも可能です。
なお、軽自動車を相続する場合は遺産分割協議書の提出は不要です。
ただし、手続きの場所が運輸支局ではなく、軽自動車を相続した人の本拠を管理する軽自動車協会になることを覚えておきましょう。
ここでは、遺産分割協議書の提出が必要になるかどうかについて、相続財産別に紹介します。
電話加入権とは、NTT東日本もしくはNTT西日本の加入電話回線を契約する権利のことを指します。
携帯電話やスマートフォンが普及した今となっては、電話加入権を新規で取得しようという人は少ないかと思いますが、高齢の方は今でも電話加入権をもっている場合があり、相続の際に確認が必要な場合があります。
なお、電話加入権の名義変更をおこなう際に遺産分割協議書の提出は原則求められません。
ただし、被相続人の死亡が確認できる書類は必要となるので、手続きの際は注意してください。
ゴルフ会員権とは、特定のゴルフ場における会員としての権利を有している状態のことを指します。
ゴルフ会員権は預託金制で運営されていることが多く、会員権自体が価値をもっていると捉えられ、相続財産とみなされます。
なお、ゴルフ会員権を相続する際には遺産分割協議書の提出が必要です。
必要書類を揃え、対象のゴルフ場にて手続きをおこなうようにしましょう。
上場済みの株式の場合は証券会社にて手続きをおこなう必要がありますが、非上場株式の場合は株式を発行している会社にて名義変更の手続きをおこなう必要があります。
また、手続きの際に被相続人が死亡したことと自身が株式を相続により取得したことを示す必要があり、遺産分割協議書の提出も求められます。
被相続人が特許権を有しており、相続人がそれを引き継ぐ際には遺産分割協議書の提出が必要になることがあります。
特許権を複数の方で共有している場合など、手続きや提出書類が異なるケースもあるので、特許権の相続を検討している方は、特許庁が公表している以下の案内を参照してください。
遺産分割協議書の提出が求められる場面は数多くありますが、以下に挙げたようにそもそも遺産分割協議書の作成が不要なケースもあります。
被相続人が遺言書を残しており、遺言書の内容に記載されたまま遺産を分割する場合は遺産分割協議書の提出は不要となります。
ただし、提出先によっては遺言書の写しの提出を求められることがあるので、あらかじめ用意しておくとスムーズでしょう。
また、たとえ遺言書があったとしても、遺産分割協議をおこなった結果、遺言書の内容に従わずに遺産分割をおこなった場合は、遺産分割協議書が必要となります。
相続人が1人しかいない場合、その相続人が全ての財産を相続します。
そのため、遺産分割協議をおこなうプロセスが存在せず、遺産分割協議書の作成も不要になります。
相続人がひとりしかいないケースとしては、被相続人に子供や両親がおらず配偶者のみに相続するようなケースや、相続人が複数いたもののすでに亡くなっているケースが挙げられます。
また、相続放棄により相続人が1人になることもありますが、その場合も遺産分割協議書は不要です。
法定相続分とは民法にて定められている遺産相続の割合のことを指します。
法定相続分どおりに遺産を分割する場合、遺言書がなくても遺産分割協議書は不要になります。
不動産などの物理的に分割できない財産でも、共有持分を設定することで法定相続分による分割が可能です。
ただし、共有持分はのちのトラブルに発展する可能性もあるため、慎重な判断が必要といえます。
最後に遺産分割協議書の作成・提出に関するよくある質問とその回答を紹介します。
遺産分割協議書を提出する際には原本とコピーを用意するようにしてください。
手続きや名義変更などをおこなう際に遺産分割協議書を提出する場合、原本とコピーを用意しておくことで原本還付を受けられるようになり、原本の返却をしてもらうことが可能になります。
なお、遺産分割協議書は原則、相続人の人数分作成します。
遺産分割協議書を提出する際は、原本とコピーを両方提出することで、原本の返却をしてもらえる原本還付を受けられるようになります。
窓口で原本をコピーしてもらえることもありますが、スムーズに手続きを進めるためには、あらかじめコピーを用意しておくのが無難でしょう。
遺産相続に関する手続きや名義変更には、遺産分割協議書が求められることがほとんどです。
そのため、遺産相続が発生した場合は適切な形で遺産分割協議をおこない、法的な要件を満たした遺産分割協議書を必ず作るようにしましょう。
遺産分割協議や遺産分割協議書の作成に不安がある人は弁護士の助けを得るのもひとつの選択肢です。
本記事や弁護士からのアドバイスを参考に、遺産分割協議を円滑に進めましょう。
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