遺産相続が必要な際に相続人全員で遺産の分割について協議することを、遺産分割協議といいます。
遺産分割協議をおこなうためには、相続する遺産の調査をおこなったり、相続人全員で協議をおこなう必要があったりするため、なかなかスムーズに開催できないことがあります。
ただ、そもそも遺産分割協議はいつまでにおこなうべきなのでしょうか?
本記事では、遺産分割協議の期限について解説します。
遺産分割協議をおこなう際の流れや、スムーズに進まない場合の対処法についても解説しているのであわせて参考にしてください。
結論からお伝えすると、遺産分割協議には期限はありません。
相続開始から何年経っていたとしても遺産分割協議は可能です。
しかし、遺産分割協議そのものに期限はなくても、関連する手続きに期限が定められているため、なるべく早いうちに遺産分割協議をおこなう必要があります。
本記事では遺産分割協議に関するさまざまな手続きについて解説します。
あらかじめ確認したうえで、遺産分割協議のタイミングについて検討しましょう。
特別受益や寄与分の主張をおこなうなら、相続開始後から10年以内におこなう必要があります。
特別受益とは、生計の資本等の名目で一部の相続人のみに故人が生前贈与をおこなっていた財産のことを指し、特別受益があることを主張することで、その分を相続財産の計算に反映させることが可能となります。
また、寄与分とは故人の財産の維持や増加に貢献した人がいる場合、その貢献を考慮して相続財産の計算に反映させることが可能な制度のことを指します。
特別受益や寄与分について正しく加味したうえで遺産分割をおこなうことで、不公平な相続を防ぐことができます。
なお、特別受益や寄与分の主張の期限は、2023年4月1日の民法改正にともない施行されました。
2023年4月1日以前の相続にもルールは適用されますが、施行日から5年以内に期限を迎える場合は猶予期間とされています。
つまり、2028年3月末までは相続開始から10年を過ぎてしまっていたとしても特別受益や寄与分を主張することができるということになります。
相続税の申告期限は、相続の発生(故人が亡くなったこと)を知ってから10ヵ月以内と定められています。
以下では、相続税の申告期限に間に合わない場合の対処法やデメリットについて解説します。
相続税を考慮した場合、遺産分割協議を必ず、相続発生を知った日から10か月以内にしないといけない訳ではありません。
遺産分割協議が相続税の申告期限までに終わらない場合でも、取り急ぎ未分割のままで相続税の申告と納税をおこなうことは可能です。
なお、この際の納税額は民法で定められた法定相続分として、相続されたことを前提に決定します。
法定相続分とは、相続人が複数人いる場合に被相続人との関係性から定められた相続割合のことを指します。
相続財産を被相続人の配偶者・子ども・親・兄弟などがそれぞれどのくらい相続することができるかはあらかじめ定められており、遺産分割協議が満足におこなえない場合はこの基準を参考にします。
人によっては最終的に受け取った相続財産にみあわない納税が必要になることもありますが、分割協議を改めておこなったのちに、再度分割内容を前提として更正の申告をすることで還付を受けることができます。
反対に、法定相続分よりも多く取得した相続人は修正申告をおこない、追加で納税をしなければならない場合もあります。
相続税の申告期限に間に合わない場合のデメリットとしては、加算税や延滞税などのペナルティが科せられる点や、相続税を軽減できる控除や特例制度を利用できない点が挙げられます。
以下では、それぞれについて詳細に解説します。
相続税の申告期限に遅れてしまった場合は無申告加算税が追加で科せられます。
また、納税期限に遅れてしまった場合、延滞税が追加で科せられます。
相続税の申告がおこなえていなければ納税もできていないはずであるため、これらの追徴税は同時に科せられてしまいます。
無申告加算税は、納付すべき税額に税率をかけて計算することで納税額が確定します。
無申告加算税の税率は50万円までは15%、50万円を超える税額に対しては20%が基本です。
ただし、期限後に自主的に申告をした場合は5%まで軽減されます。
延滞税は、納税されていない金額と納税がされていない期間に応じて計算をおこないます。
そのため、納税が遅れれば遅れるほど増えてしまう仕組みです。
延滞税の税率は年によって異なりますが、納税の期限の翌日から2ヵ月以上遅経つと税率が高くなるよう設定されているため、納税できていないことに気づいたら早めの対応をとる必要があります。
相続税には、税負担を大幅に軽減することができる控除や特例制度が存在します。
たとえば、小規模宅地等の特例では、一定の要件を満たす宅地の評価額を最大80%下げることが可能です。
しかし、これらの制度を活用するためには、相続税の納付期限までに遺産分割協議を終わらせたうえで申告の手続きを完了させる必要があります。
これらを活用するためには、遺産分割協議はなるべく早めにおこなうことが求められます。
相続財産に不動産が含まれる場合、相続登記をおこなう必要がある点から、3年以内に遺産分割協議をおこなわなければなりません。
以下では、遺産分割協議を3年以内におこなう必要がある理由や、期限までに間に合わない場合の対処法について詳しく解説します。
不動産を相続する際には相続登記をおこなう必要があります。
相続登記は、不動産の名義を故人から相続人に変える手続きのことを指します。
以前までは相続登記の期限は定められていませんでしたが、2024年4月1日に施行予定の民法改正によって、相続で不動産を取得することが確定したタイミングから3年以内に相続登記を必ずおこなわなければいけなくなりました。
なお、民法改正後に相続登記を3年以内におこなわなかった場合、罰則(10万円以下の過料)の対象となる可能性があります。
相続登記の期限までに遺産分割協議が終わらない場合は、相続人申告登記制度を利用することができます。
相続人申告登記制度を利用し、相続登記の申請期限(3年以内)に法務局に申請をおこなうことで、相続登記の申請義務を遺産分割協議が完了してから3年以内にまで延長することができます。
ただし、申請を二度にかけておこわなければいけない点などさまざまな手間も発生するため、遺産分割協議はなるべく早めに完了させることをおすすめします。
相続税や不動産の相続登記以外にも、相続に関する手続きにはさまざまなものがあります。
以下では、必要な手続きとそれぞれの期限について解説します。
相続人の選定や財産の調査をおこなったのち、相続には相続の方法を単純承認・相続放棄・限定承認のいずれから選びます。
単純承認は、故人の遺産を負債(借金)も含めて全て相続する方法です。
相続放棄や限定承認の申請をおこなわない場合、自動的に単純承認をしたものとみなされます。
相続する財産に借金などが含まれていないのであれば、焦って手続きをする必要はないでしょう。
一方で、相続する権利を放棄する相続放棄や、財産のうち一部のみ相続する限定承認をおこないたい場合は、自己のために相続の開始があったことを知ってから3ヵ月以内に申請手続きをおこなう必要があります。
相続財産にマイナスのものが含まれる場合や、あきらかに債務が超過している場合はなるべく早い対応が求められます。
準確定申告とは、被相続人の代わりに相続人が確定申告をおこなうことを指します。
純確定申告は相続人が相続開始を知った日の翌日から4ヵ月以内におこなう必要があり、期限を過ぎた場合は延滞税が発生してしまいます。
ただし、そもそも被相続人が確定申告をおこなう必要がなかった場合、準確定申告の手続きは不要です。
遺留分侵害額請求は、相続の開始および遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に行使する必要があります。
遺留分とは、法律によって定められた相続人が最低限相続できる財産のことを指します。
しかし、なかには遺留分を無視した遺言や生前贈与によって、本来得られる相続財産を得られていないケースが存在します。
このようなケースでは遺留分侵害額請求をおこなうことで、本来得られる財産を取り戻せる可能性があります。
被相続人が老齢基礎年金や障害基礎年金を受給しないまま死亡した場合、被保険者と生計を同一にしていた遺族へ死亡一時金が給付されます。
ただし、死亡一時金を受け取るためには請求が必要で、被相続人が亡くなってから2年以内と定められています。
死亡保険金の金額は保険料を納めた期間によって変わりますが、一般的には12万円~32万円程度です。
なお、死亡一時金を受け取るためには、年金を36ヵ月以上納めている必要があります。
被相続人がなくなってから2年が過ぎてしまうと、死亡一時金を受け取れなくなってしまうため、なるべく早めに確認をおこなうようにしましょう。
被相続人が生命保険に加入していた場合、指定されていた受取人は死亡保険金を受け取ることができます。
ただし、保険金の請求には被相続人が亡くなってから3年という期限があります。
被相続人の死後から3年経ってしまうと、保険金を受け取れなくなる可能性があるので注意が必要です。
被相続人が亡くなったことに伴い、遺された家族が生活に困らないように遺族年金が支給される場合があります。
ただし、遺族年金を受け取るためには、遺族による受給手続きが必要です。
遺族年金の手続き期限は5年と定められているため、期間を過ぎてしまわないよう注意が必要です。
遺産分割協議は、主に以下の流れで進行していきます。
まずは、被相続人の遺言書があるかどうかを確認する必要があります。
遺言書が見つかった場合、原則遺言書のとおりに遺産が分配されます。
遺言書に分割方法が記載されていた財産については、遺産分割協議の対象から除外する必要があります。
遺産分割をおこなうべきか、どの財産が遺産分割の対象となるかが遺言書によって異なるため、まずは遺言書の有無を必ず確認するようにしましょう。
なお、遺言書を探す際はタンスや金庫などを確認するほか、公証役場の「遺言検索システム」も利用するようにしてください。
公正証書遺言の形式で作成されていた場合、原本が公証役場にて保管されているので、遺言書を探す手間をなくすことができます。
遺産分割協議をおこなうためには、相続人全員が参加することが求められます。
そのため、遺産分割協議をおこなう前に参加すべき相続人を調査・把握しなければいけません。
相続人の確認方法としては、被相続人の戸籍資料から確認するのが確実です。
戸籍資料の取り寄せや確認を含め、相続人調査を弁護士に依頼するのもよい選択肢といえるでしょう。
遺産分割協議に向けて、相続財産を調査・把握することも求められます。
あとから把握が漏れていた遺産が見つかると、遺産分割協議を再度開催する必要があるため、丁寧に遺産の洗い出しをおこなわなくてはいけません。
相続財産の調査についても、遺産相続問題に長けた弁護士に依頼してしまうのも、選択肢のひとつといえます。
相続人と相続財産の調査をおこなったら、相続人全員参加のもと、遺産の分け方についての話し合いを開催します。なお、この話し合いのことを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議で遺産分割の内容に合意が成立したら、その内容を遺産分割協議書にまとめています。
遺産分割協議書を作成し、誰がどの遺産を相続するのか、あとから判明した遺産の取り扱いはどうするのかなどを、明文化することでのちにトラブルが発生するのを避けることにつながります。
遺産分割協議の実施はさまざまな手続きに関する問題であるため、速やかな合意が求められます。
とはいえ、財産の分割といったデリケートな問題を取り扱うため、なかなか協議がまとまらないこともよくあります。
遺産分割協議がスムーズに進まない場合は、以下の方法を検討してみましょう。
相続人のみの話し合いで遺産分割協議がまとまらない場合は、遺産分割調停の利用を検討してください。
遺産分割調停では、調停委員が中立的な立場から話し合いを進行し、相続人の希望の妥協点を見出していきます。
もし、調停でも合意が形成できなかった場合、審判に移行し裁判所の判断によって遺産分割が確定します。
遺産分割協議がスムーズに進まない場合は、弁護士に相談することもおすすめです。
弁護士に対応を依頼することで、代理人として遺産分割協議を任せることができるため、自分の希望を適切に主張できるようになるほか、相続人間で関係性が悪化することを避けられます。
また、遺産分割協議の前段階から弁護士に相談することもでき、相続人や相続財産の調査についてもサポートしてもらうことが可能です。
これまで紹介してきたように、遺産分割協議そのものには期限は定められていませんが、遺産相続に関するさまざまな手続きには期限が定められているものが多くあります。
そのため、遺産分割協議はなるべく早いうちから実施することを検討し、手続きをスムーズに進められるよう対応していきましょう。
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