相続人同士での話し合いがまとまらず、遺産分割調停の申し立てを検討している方はいませんか?
ほかの相続人が遠方に住んでいたり、相続人が複数人いるが、どこの裁判所に申し立てればよいのか悩んでいる方も多いと思います。
そこで本記事では、遺産分割調停の管轄を調べる方法や、相続人が複数いる場合の対処法、遠方に住んでいる場合の対処法についてわかりやすく解説します。
はじめに、遺産分割調停の管轄に関する基本的な知識や、具体的な管轄裁判所の調べ方について解説します。
遺産分割調停の管轄は、原則として、相手方の住所地を管轄する裁判所です。
遺産分割調停では、原則として当事者全員が裁判所に出頭する必要があるため、申立人や被相続人の住所地ではなく、あくまでも相手方の便宜を考慮することが原則となっています。
たとえば、申立人が東京都、被相続人が横浜市、相手方が大阪市に居住しているときは、原則として大阪市を管轄する大阪家庭裁判所が管轄裁判所となります。
遺産分割調停の管轄は、当事者全員の合意により自由に決めることもできます(家事事件手続法第245条第1項)。
この合意のことを「管轄合意」、合意により管轄として定められた裁判所を「合意管轄裁判所」といいます。
たとえば、申立人が東京都・相手方が大阪市に居住しているときに、それぞれに交通の便がよい名古屋家庭裁判所を合意管轄裁判所として定めることができます。
管轄合意によって合意管轄裁判所を定める場合には、当該裁判所に対し、管轄合意書という書面を提出する必要があります。
実務上は、管轄合意により合意管轄裁判所を決めることが難しい場面がよくあります。
というのも、そもそも遺産分割調停がおこなわれるケースでは相続人同士でのトラブルがすでに発生していることから話し合いが難しいことがあります。
加えて調停手続には時間を要することもあり、原則としてその都度出頭する必要があるため、自分の居住地を管轄する裁判所での調停を求める相続人が多いという実情があります。
相手方の住所地がわかっている場合、その地域を管轄する裁判所は裁判所のWebサイトから検索することが可能です。
なかには、「東京家庭裁判所立川支部」のように、地域によっては出張所や支部がある場合もあるため注意が必要です。
どうしても調べ方がわからないときは、最寄りの家庭裁判所に電話し、相手方の住所地を伝えることで管轄裁判所を調べてもらえます。
遺産分割調停では、相続人全員が当事者となるため、複数の相続人がいる場合にはその全員が調停の「相手方」となります。
このような場合、申立人としては、相手方の住所地を管轄する裁判所から選ぶことができます。
たとえば、申立人が東京都、相手方が横浜市・大阪市・福岡市に居住しているときは、申立人にとって都合のよい横浜家庭裁判所を選ぶことで、出頭時の交通費や移動時間などの負担を抑えられます。
ここでは、遺産分割調停の申し立てをしたいものの、相手方の住所地がわからず管轄の調査ができない場合の対処法を解説します。
前提として、相手方の住所を特定しなければ、遺産分割調停の申し立てはできません。
そもそも遺産分割調停とは、遺産に関する法定相続人全員の合意を促すためにおこなわれるため、法定相続人のうち1人でも調停に参加できない場合には調停合意をすることはできません。
相手方の住所がわからない場合であっても、住所地を調べる方法はあります。
たとえば、過去の住所が判明している場合には、その住所の住民票を取得して本籍地を明らかにし、住所の履歴が記載された戸籍附票を取得することで、現在の住所地を知ることが可能です。
また、被相続人の戸籍はわかっていれば、そこから辿っていくことも考えられます。
電話番号が判明している場合には、その電話番号を管理している事業者に対し、弁護士会または裁判所を通じて情報を開示するように請求できる場合もあります。
これらの手段を尽くしても相手方が行方不明である・生死不明であるという場合には、不在者管財人の選任や公示送達による遺産分割審判、または、失踪宣言という方法を検討する必要があります。
ただし、これらの方法は準備すべき書面も多く、自力で申し立てるのは難しいため、弁護士に手続きを依頼することをおすすめします。
ここまで解説したように、遺産分割調停は原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があり、およそ1ヵ月に1回、少なくとも合計5~6回ほどは直接出頭しなければなりません。
そのため、管轄裁判所が遠方にある場合には、時間的にも金銭的にも大きな負担となってしまいます。
以下では、管轄裁判所が遠方にある場合の対処法について詳しく解説します。
現在では、裁判所に電話会議システム・ウェブ会議システムが整備されてきており、管轄裁判所が遠方であっても電話やオンラインで調停に参加することが可能な場合もあります。
ただし、弁護士に依頼せず、自力で調停手続をおこなう場合には、裁判所の判断により出頭を求められる場合もあります。
また、ウェブ会議の方法による調停はまだまだ導入されて時間が経過しておらず、現時点では基本的に代理人がいる事件についてのみ利用されているに留まります。
ただ、そうであっても、遠方の事件などでは当事者が居住する場所の近くの代理人事務所へ行くことで調停に参加することができるなど、大きなメリットがあります。
そのため、遠方での遺産分割調停の対応に関しては、弁護士に相談するのが良いでしょう。
遺産分割調停には本人が出頭することが原則となっていますが、弁護士が代理人についている場合には、弁護士だけが出頭することもできます。
この点、司法書士は調停期日の代理人となることはできないため注意が必要です。
ただし、遠方の裁判所への出頭を弁護士に代理してもらうと、出張手当などが高額になる可能性もあるため、前記のようなウェブによる調停や電話での調停に対応している弁護士を探すことを検討するのもひとつの方法となります。
管轄裁判所が遠方にある場合でも、特別な事情がある場合には、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所での調停が認められる場合があります。
このように、本来別の裁判所が管轄になっている案件について、申し立てを受けた裁判所が自ら調停・審判をおこなうことを「自庁処理」といいます。
ただし、あくまで相手方の居住地を管轄する裁判所でおこなわれるのが原則であり、「遠方で出頭が面倒」といった事情では自庁処理は認められません。
たとえば、介護や育児の関係で出頭が難しい、病気やけがが原因で長距離の移動が困難、金銭的に困窮しており遠方に出頭できないといった具体的な理由があり、係る点を証明する証拠がある場合に例外的に認められるものです。
なお、申立人が自庁処理を上申した場合、相手方に対する事情聴取もおこなわれますので、ここで反対意見が出て、自庁処理が認められない可能性もあります。
ここでは、遺産分割「審判」に関する基本的な知識や、管轄裁判所の考え方について解説します。
遺産分割調停は、基本的には相続人当事者が中心となって、裁判所で調停員を交えておこなわれる話し合いです。
そのため、遺産分割調停では当事者のうち一人でも反対意見を述べている場合には調停不成立となります。
一方、遺産分割審判は裁判官が間に入り、当事者の言い分を聴いたうえで、具体的な分割方法について裁判官が最終的な決定を下すものです。
たとえば、離婚手続きなどではまず調停を申し立て、調停不成立の場合に初めて審判がおこなわれますが、遺産分割に関しては法律上、最初から審判の申し立てをすることも可能です。
もっとも、実務的には調停を経ずに遺産分割審判の申し立てをすると、裁判所の職権で調停に付されることとなっていますので、基本的には調停を申し立てることから検討すべきことになります。
遺産分割審判の管轄裁判所は、遺産分割調停から審判に移行した場合と、最初から審判を申し立てた場合とで異なる裁判所で審理される可能性があります。
以下では、それぞれの具体的な管轄について解説します。
遺産分割調停が不成立に終わり、審判に移行した場合には、審判の管轄は原則として相続開始地または合意管轄裁判所となっているため、これらの裁判所に移送されることになります。
もっとも、事情によって、調停を管轄していた裁判所がそのまま審判も管轄することもあります。
遺産分割調停を経ずに審判を申し立てた場合、管轄は原則として相続開始地、すなわち被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
遺産分割調停の管轄が相手方の住所地を管轄する家庭裁判所であった点と異なるため、注意が必要です。
遺産分割調停の場合と同様に、相続人全員の合意により管轄裁判所を決めることもできます。
この場合にも、「管轄合意書」を提出する必要があるため、注意してください。
遺産分割審判は、調停とは異なり、当事者の一方が欠席してもそのまま審理が続けられます。
ただし、欠席すると相手方の主張を全面的に認めたことになる危険もあるため、できれば管轄合意により出頭しやすい地域の裁判所を管轄裁判所とするのが望ましいでしょう。
本記事では、遺産分割調停・審判の概要や管轄について解説しました。
遺産分割調停の管轄は、原則として『相手方』の住所地を管轄する裁判所であり、複数名の相続人がいる場合には申立人がその中から選ぶことも、当事者全員の合意により特定の場所を管轄裁判所とすることも可能です。
一方、遺産分割審判の管轄は原則として被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所ですが、調停から移行した場合には調停と同じ裁判所が審理することもありますし、当事者全員が合意した場合には特定の裁判所が管轄になることもあります。
管轄について不安がある方は、最寄りの家庭裁判所に問い合わせるか、弁護士に手続きを依頼するとよいでしょう。
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