遺留分に関する法が改正され、2019年7月1日以降に発生する相続には新しい制度が適用されています。
遺留分が侵害された場合には、相手を特定して任意交渉、調停申し立て、それでも解決が難しければ訴訟を提起しなければなりません。
遺留分制度は非常に複雑かつ時効の心配もあるため、弁護士に依頼してしっかり計画を立てて進めていくことが大変重要です。
この記事では、これから遺留分の請求をしていく方のために、
などを、改正前の制度と比較を交えつつ、わかりやすく解説します。
この記事を読むことで遺留分制度の基本的な知識を理解できます。
あなたの遺留分の権利を守るためにも、ぜひ役立ててください。
遺留分侵害額請求をするために、前もって確認しておくべきことは、以下の3点です。
以下で、実際に遺留分侵害額を請求する手続きについて解説します。
ほかの相続人と比べ不平等な相続だったとしても、自らの遺留分が侵害されていなかったら、遺留分侵害額請求権を行使することはできません。
まずは自分の遺留分がいくらなのか、確認してみましょう。
以下の記事では、自らの遺留分がどれくらいなのか、相続の条件を入力することで確認ができます。
自分の遺留分を確認して、実際に遺留分が侵害されていれば、遺留分侵害額を請求できます。
遺留分侵害額を請求する相手方は、以下の3つのパターンです。
ただし、請求する相手が被相続者の愛人など相続人以外の第三者であり、遺言によって特定されていなければ、請求が非常に困難になることがあります。
遺留分侵害額請求は、まずは話し合いで解決を目指しましょう。
しかし遺留分の請求は、相手の相続分を減らすことになるので、当事者同士の話し合いが難航することがほとんどです。
話し合いでまとまらない場合は、調停か訴訟を申し立てましょう。
調停か訴訟かによって管轄裁判所が違います。
調停は家庭裁判所、訴訟は請求する額によって地方裁判所または簡易裁判所が管轄します。
調停は、家庭裁判所の裁判官および調停委員を仲介とした相手との話し合いです。
話し合いで解決しない場合は審判には移行せず、調停不成立で終了です。
調停不成立となった場合は、改めて訴訟提起をして、最初からやり直すことになります。
親子関係や相続などは「家庭に関する事件」として、訴訟提起前に調停での話し合いを経なければなりません。(家事事件手続法第257条)
遺留分侵害額請求は「身分関係を争う事項」ではなく金銭請求です。
そのため、極端に感情的な対立があるなど、最初から「互譲の精神による話し合い」が期待できないことが明らかな場合には、調停を経ずに訴訟提起することも可能です。
2019年からの法改正により、遺留分の請求が金銭債権となりました。
そのため、民事訴訟法による金銭債権の訴訟管轄が適用され、原告の住所地を管轄する裁判所にも訴訟提起できるようになりました(民事訴訟法第5条1号)。
遺留分侵害額訴訟は、地方で被相続人と同居していた相続人に対して都市部に居住する相続人が請求するケースが多くあります。
今回の改正で原告の住所地が管轄に加わることで、より柔軟に申し立てられるようになりました。
遺留分侵害額請求調停(権利の形成) |
遺留分侵害額請求訴訟(金銭請求) |
|
---|---|---|
担当裁判所 |
家庭裁判所 |
・訴額140万円を超える=地方裁判所 ・訴額140万円以下=簡易裁判所 |
管轄 |
・相手方の住所地 ・当事者が合意で決めた地 |
・被告の住所地 ・被相続人の最後の住所地 ・原告の住所地 |
その他 |
・申し立て時には侵害額の確定不要 ・当事者同士の話し合い ・まとまらなければ調停不成立で終了 ・不服なら訴訟提起 |
・訴額として侵害額を確定して提起 ・対立当事者の争い ・まとまらなければ裁判所が判決 ・不服なら控訴・上告 |
遺留分侵害額調停と似ている相続関係の手続きで、遺産分割調停があります。
遺産分割調停の場合、話し合いがまとまらなければ、自動的に審判に移行して裁判所からの審判で強制的に解決します。
しかし遺留分侵害額調停の場合、調停で解決できなければ審判には移行せず、調停不成立で終了です。
遺留分侵害額調停が不成立になってしまったら、今度は訴訟を提起しなければなりません。
2019年7月1日以降に開始した相続の遺留分の請求は、新しい法律が適用され、「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」となります。
旧法と新法の違いは、下記の表のとおりです。
遺留分侵害額請求(新法) |
遺留分減殺請求(旧法) |
|
---|---|---|
発生する権利 |
金銭請求権 |
現物返還請求権 |
不動産や不可分債権が対象の場合 |
対象額の金銭請求が可能 |
共有・準共有となる |
時効 |
・知ったときから1年以内に意思表示 ・意思表示から5年以内に請求 ・発生から10年で消滅時効 |
・知った時から1年以内に意思表示 ・発生から10年で消滅時効 |
対象財産 |
・相続人 ①10年以内の贈与 ②害意のある贈与 ・相続人 ①1年以内の贈与 ②害意のある贈与 |
・相続人 ①贈与 ②害意のある贈与 ・相続人以外 ①1年以内の贈与 ②②害意のある贈与 |
改正の主な目的は、次の3点です。(法制審議会 民法(相続関係)部会 第10回会議 議事録 )
今までは遺留分請求を受けると、対象物が一旦相続人同士の共有財産となっていましたが、法改正により相当額を金銭で清算するようになりました。
遺留分を請求する権利が金銭請求権に変わったため、金銭債権に適用される以下の条文が、遺留分侵害額請求にも適用されます。
このように、事業承継の円滑化、相続手続きの迅速化、また相続人同士の不公平の是正を目的として今回の法改正がなされました。
遺留分侵害額請求は意思表示によって行使します。
遺留分侵害額請求権は、短期消滅時効の規定が適用されるため、遺留分の侵害を知ったときから1年以内に意思表示をしなければなりません。
したがって口頭でのやり取りの場合だと、遺留分の侵害を訴えていたとしても、証明が難しいため時効が成立したと主張されることがあります。
このような事態を防ぐためには、内容証明郵便を発送することで意思表示をすることがおすすめです。
内容証明郵便とは、第三者である郵便局が送付日時、送付内容を証明するサービスです。
これにより時効の期限以内に意思表示をしていたことが明確になるため、相手が時効の成立を主張することができなくなります。
しかし内容証明郵便の場合、相手方が不在で受け取らなかったときには、意思表示はされていないと判断されてしまう可能性があります。
時効になるのを確実に防ぐためには、内容証明郵便と同時に特定記録付き郵便にて同じ内容を送っておくとよいでしょう。
特定記録付き郵便は相手方のポストに投函した日時を郵便局が証明するサービスなので、投函された時点で意思表示の効果が発生するからです。
遺留分侵害額請求は、裁判所を通さず話し合いで解決することができます。
しかし、調停で話し合うことは、以下のメリットがあります。
調停は、裁判所と裁判所が選任した中立の立場の調停委員が仲介となって、当事者同士が話し合う手続きです。
一方ずつ調停委員と裁判官の前で主張をすることで、相手方と直接対面せずに手続きを進めることができます。
相続はときに当事者間で感情的な対立が起こりやすくなってしまいます。
調停手続きで第三者を交えて話し合うことで、互いに冷静に話し合うことができるでしょう。
遺留分侵害額請求調停では、専門家に第三者として解決策や落としどころを提案してもらうこともできます。
遺留分侵害額請求は、特に不動産の価値評価を争って長期化することがよくあります。
調停で不動産や非上場株式の評価が争われる場合には、専門家である不動産鑑定士や公認会計士が家事調停委員として関与することが可能です。
専門家の関与によって、ある程度両者納得のいく解決策を提案してもらえるでしょう
調停には、訴訟に比べて比較的簡単に手続きができるというメリットもあります。
家庭裁判所のホームページに必要な雛形や、書類の一覧が全て掲載されていますので、書式内を埋めていくことで比較的簡単に申立書を作成することができます。
ただし、自分の主張を効率よく調停委員に伝え、調停を有利に進めていくためには、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
遺留分侵害額請求は調停で合意できなくても審判に移行しないため、不調になれば改めて訴訟提起して争うことになります。
解決に時間がかかるとそれだけ当事者にとっての負担が大きくなるため、話し合いでの合意が見込めない場合は早期に打ち切りを見極めることも大切です。
遺留分侵害額請求調停は、裁判所のホームページに申し立て方法が詳細に記載されています。
必要な書類と入手先は下記に載せています。
是非確認してください。
必要書類 |
入手先 |
---|---|
申立書及びその写し(相手方の数の通数) |
|
遺言書または遺言書の検認調書謄本のコピー(遺言書がある場合だけ) |
・自筆証書遺言の保管制度を用いている場合は法務局 ・公正証書遺言の場合は公証人役場で検索をかけることも可能 |
遺産に関する証明書(以下は一例) ①不動産の登記簿謄本〔登記事項証明書〕 ②固定資産評価証明 ③預貯金通帳のコピーまたは残高証 など |
①法務局 ②市町村の役所・役場(23区の場合は都税事務所) ③金融機関など |
被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、相続人全員の戸籍謄本 |
役所・役場 |
(相続人に被相続人の父母が含まれていて、かつ父母の片方が死亡している場合)その死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
死亡した者の本籍を管轄する役所・役場 |
調停は、遺留分を侵害している相手方に対して申し立てます。
相続人全員を相手方とする必要はありません。
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書と相手方用の写しを提出します。
証拠類は裁判所分のみでかまいません。
また、金額を請求する調停ですが、申し立て時には請求金額を明示する必要はありません。
申し立て時には、「相手方は申し立て人に対し、遺留分侵害額相当額を支払うとの調停を求める」などと記載すればよく、金額は調停内で決めていくことができます。
家庭裁判所のチェックを通過すると、裁判所から相手に申立書の写しと調停期日呼び出し状が送付されます。
第一回目の調停期日は、申立人と裁判所の都合のみで調整されて相手方に通知が送られます。
以下が、調停の流れです。
厳密にこのとおりに進むわけではなく、あくまでモデルケースとなります。
調停期日で和解ができると、まとまった和解内容を裁判所書記官が調停調書にまとめます。
調書に記載する内容は以下のとおりです。
この調停調書には確定判決と同一の効力を持つため(家事事件手続法第268条1項)、内容が無視された場合は、強制執行の手続きをとることもできます。
調停が不成立となった場合、地方裁判所もしくは簡易裁判所に訴訟提起をしてまた一から争うことが必要です。
訴訟は、民事訴訟法などの法律で手続きに厳格なルールが定められています。
裁判上で主張しなかったことは争いのない事実とされたり、反論しないことで認めたことになったりします。
訴訟になると相手方も代理人を付けてくることが予想されます。
遺留分侵害額請求訴訟を提起する際には、相続問題に詳しい弁護士に依頼するようにしましょう。
訴訟は、原告の住所地(または相手方の住所地、被相続人の最後の住所地でも可)を管轄する地方裁判所もしくは簡易裁判所に提起することができます。
以下が訴訟の提起の際に必要なことです。
ただし、家庭裁判所の調停不成立証明書を添付し、2週間以内に訴訟提起することで、調停申し立て時に納めた収入印紙1200円分を手数料から差し引いてもらうことができます。
調停不成立となった場合は、訴訟提起に備えて家庭裁判所に申請し、不成立証明書を取得しておきましょう。
訴状が裁判所のチェックをとおると、裁判所から被告へ副本の送達と期日呼び出し状が送達されます。
その際、最初の期日は原告と裁判所のみで日程調整がされるため、被告の都合は考慮されません。
指定された日程が差し支える場合には、被告は答弁書を期日1週間前までに提出し、初回期日を擬制陳述(初回期日に出席し、答弁書を陳述したことにする)とすることも可能です。
主張書面、証拠書類を元に、裁判所が判決を下します。
判決書には支払うべき金額や判断理由、訴訟費用の負担割合のみ記載され、具体的な支払期限や振込先口座は記載されません。
どこの口座にいつまでに支払うかなどの方法は、判決後に双方が話し合いで決めることになります。
当事者が判決に納得いかない場合、双方ともに14日以内に控訴提起することが可能です。
14日以内に双方から控訴提起されなければ、判決は確定します。
遺留分侵害額請求は、専門家である弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
遺留分でよく問題となるのが不動産などの査定方法です。
相続手続きに経験豊富な弁護士を選ぶことで、双方に納得ができる合理的な金額を提示してもらうことができます。
弁護士に依頼することで、相手方との話し合いを、任意交渉から訴訟手続きまで一貫して任せることができます。
遺留分侵害額請求は相手との感情的なもつれを起こしやすい問題です。
相手との交渉を弁護士に一任できることで、係争中の精神的な負担を軽減することができるでしょう。
相続による権利関係の変動は早期に解決すべきという法律の趣旨により、時効が短く設定されています。
遺留分侵害額請求権は、1年以内に意思表示が必要です。
遺留分は評価額の算定で合意が得られなかったり、感情的なもつれから長期化することがあります。
弁護士に依頼することで、時効を逆算して迅速に手続きを進めてもらうことができるでしょう。
遺留分侵害額請求権は専門的な判断を要する問題をはらんでおり、タイムリミットもあります。
法律に知見のない方が一人で解決することは、非常に難しいでしょう。
弁護士に任せることで、以下のような問題を全てクリアすることができます。
ただし、遺留分侵害額請求は複雑な事件です。
依頼する際は、相続問題に詳しく、遺留分問題について知見のある弁護士選びが重要です。
自分に与えられた最低限の権利を守るために、相続問題に注力する弁護士に依頼しましょう。
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