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遺言無効確認請求訴訟とは?無効できるケースや裁判手続きの流れを解説

代表弁護士 野条 健人
監修記事
遺言無効確認請求訴訟とは?無効できるケースや裁判手続きの流れを解説
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遺言の内容に納得できずに、ほかの相続人と遺言の効力をめぐって争いになっていませんか?

相続人間で話し合いがまとまらない場合には、「遺言無効確認訴訟」を提起して遺言の効力を法的に争うことが可能です。

しかし、遺言無効確認訴訟をおこなうのは簡単ではなく、さまざまな法律知識や手続きが必要です。

そのため、訴訟を考えている方はまずは基本的な知識を押さえる必要があるでしょう。

そこで本記事では、遺言が無効となるケースや訴訟手続きの流れ、訴訟に要する期間や費用について詳しく解説します。

勝訴するためのポイントも紹介しているので、訴訟で遺言の無効を主張したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

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目次

遺言無効確認訴訟とは | 遺言が法的に無効であることを認めてもらう手続き

遺言無効確認訴訟とは、特定の遺言が法律上無効であることを裁判所に確認してもらうための手続きです。

遺言の作成に問題があった場合や遺言の内容に不備がある場合、相続人や利害関係者がこの訴訟を提起することで、遺言の効力を争うことができます。

遺言無効確認訴訟によって遺言が無効になり得るケース

遺言無効確認訴訟では、必ず遺言の無効が認められるわけではありません。

遺言が無効になるには、いくつかの条件があり、それらを満たしている必要があるのです。

具体的には、以下の8つのケースに該当すると、遺言が無効となる可能性があるので、遺言無効確認訴訟を提起する意義があるでしょう。

  • 遺言者に遺言能力がなかった場合
  • 法律で定められた様式で遺言書が作成されていない場合
  • 二人以上が共同で遺言書を作成していた場合
  • 詐欺・強迫によって遺言書が作成された場合
  • 遺言書の作成にあたって重大な錯誤があった場合
  • 遺言書の内容が公序良俗に反している場合
  • 【公正証書遺言/秘密証書遺言の場合】証人が不足していた場合
  • 遺言の撤回を取り消していた場合

それぞれのケースについて、具体例とともに解説します。

遺言者に遺言能力がなかった場合

遺言をするときに遺言者が遺言能力を有していなければ、遺言は無効になります。

遺言能力とは、遺言の内容を有効に作成できる能力をいいます。

たとえば、遺言の作成時に被相続人が以下のような状況であった場合、遺言能力がなかったと認められる可能性が高いでしょう。

  • 被相続人が遺言書作成時に認知症などの精神的障害があった。

法律で定められた様式で遺言書が作成されていない場合

遺言書は、自筆証書・公正証書・秘密証書のいずれかの方式で作成できますが、それぞれ定められた様式を満たしていなければなりません

たとえば、自筆証書遺言では遺言者が全文・日付・氏名を自署するほか、押印が必要です。

いずれかひとつでも欠けていれば、遺言書全体が無効となります。

そのほか、以下のように作成された遺言書については、様式や作成方法が適切ではないため、無効が認められる可能性が高いでしょう。

  • 遺言書を他人が作成していた、または遺言書に印鑑が欠けていた。

二人以上が共同で遺言書を作成していた場合

二人以上の人物が共同で、同じ証書に遺言をすることは認められていません。

遺言書は、作成したあとでも作成者の意思に基づいて内容を自由に撤回できますが、共同で遺言をした場合、遺言を撤回する自由が制限されてしまうからです。

たとえば、以下のように共同で遺言を作成した場合には、遺言書は無効となります。

  • 夫婦が共同で、同じ用紙に遺言を記載した。

詐欺・脅迫によって遺言書が作成された場合

詐欺または強迫によって作成された遺言は、取り消すことができます。

具体的には、以下のように作成された遺言書は無効になる可能性が高いでしょう。

  • 特定の相続人に脅されて、その相続人が有利となる内容の遺言書を作成した。

しかし、遺言者がすでに亡くなっている場合、相続人や利害関係者が詐欺・強迫の事実を立証することは難しいのが実情です。

そのため、詐欺や脅迫を主な根拠として遺言の無効を争うケースは少ないでしょう。

遺言書の作成にあたって重大な錯誤があった場合

遺言者が遺言を作成する際に「重大な錯誤」があった場合、遺言内容は遺言者の本当の意思を反映していないものとして、取り消すことが可能です。

重大な錯誤を含む遺言書とは、具体的に以下のようなものを指します。

  • 遺言者が自分の財産を特定の相続人に遺贈しようとした際、実際にはその財産が他の人のものであることに気づかなかった。

なお、詐欺・強迫と同様に、相続人や利害関係者が重大な錯誤の事実を立証することは難しいとされています。

遺言書の内容が公序良俗に反している場合

遺言の内容が社会の常識に照らして不適切であり、認めることができないようなものである場合、「公の秩序又は善良の良俗に反する法律行為」として、遺言が無効になることがあります。

たとえば、以下のような内容の遺言は無効になる可能性が高いでしょう。

  • 違法なビジネスや犯罪行為の資金・対価として遺産を譲るという内容の遺言を残した。

とはいえ、公序良俗に反している内容をあえて遺言書に記載する人はほとんどいないので、遺言無効確認訴訟の根拠とされるケースも多くはありません。

【公正証書遺言/秘密証書遺言の場合】証人が不足していた場合

公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する際には、二人以上の証人が立ち会う必要があります。

また、未成年者や相続人となる可能性のある人物、一定範囲内の親族は遺言書の証人における「欠格者」に該当するので、証人としては認められません。

以上のいずれかの条件を満たさない場合、遺言書は無効となります。

  • 証人が一人しかいなかった、または未成年者が証人となっていた。

遺言の撤回を取り消していた場合

遺言者は、いつでも遺言を撤回でき、撤回された範囲で効力を失います

しかし、撤回行為自体を取り消した場合、法律関係が複雑になってしまうので、失効した遺言の効力は元には戻りません。

つまり、「撤回の撤回」は認められていないのです。

とはいえ、遺言の撤回が錯誤や詐欺、強迫によっておこなわれた場合には、例外的に撤回された遺言の効力が復活します。

つまり、これらのケースでは「撤回の撤回」が認められるのですます。

具体例として、以下のケースでは遺言の効力は失われ、【第1遺言】は有効となりません。

  • 【第1遺言】2022年1月1日作成:「預貯金100万円を長男に相続させる。」
  • 【第2遺言】2023年1月1日作成:「2022年1月1日に作成した遺言を全て撤回する。」
  • 【第3遺言】2024年1月1日作成:「2023年1月1日に作成した遺言を全て撤回する。」

「遺言書の無効確認は難しい」といわれるのはなぜ?

「遺言書が無効となり得るケース」に該当したとしても、遺言無効確認訴訟で遺言の無効を立証するのは難しいといわれています。

その理由はさまざまありますが、ここでは主な理由を4つ紹介します。

公正証書遺言は特に証拠能力が高いため

遺言書のなかでも公正遺言証書は、民法第969条に定める厳格な手続きを経たうえで作成されます。

(公正証書遺言)

第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

一 証人二人以上の立会いがあること。

二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。

四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

引用元:民法|e-Gov 法令検索

公正証書遺言は、「遺言者の真正な意思に基づいて作成されたもの」と強く推定されるので、証拠能力がとくに高いのが特徴です。

そのため、公正証書の証拠能力を否定するのは非常に困難とされています。

筆跡鑑定のみで偽造や変造を判定することはできないため

遺言書の内容が偽造または変造されていた場合は遺言は無効になるので、客観的な証拠を提出して偽造または変造の事実を立証しなければなりません。

主な証拠としては、「筆跡鑑定」が挙げられますが、第三者が遺言者の筆跡を模倣していた場合、筆跡鑑定だけで見抜くことは難しくなります。

仮に筆跡鑑定で偽造や変造を判定できても、遺言が無効か判断する際は筆跡鑑定だけでなく、遺言書作成の動機や経緯、不自然な内容の有無などの事情も総合的に考慮されます

つまり、無効を立証するためには、筆跡鑑定以外の証拠や事情を積み上げる必要があるので、偽造や変造の事実の立証は難しいとされているのです。

遺言能力の有無は簡単に証明できないため

遺言書の作成時に遺言能力を欠いていた場合は遺言書は無効となりますが、その証明は容易ではありません。

なぜなら、遺言能力の有無は以下の要素を総合的に考慮して判断されるからです。

  • 遺言書作成時の精神上の障害の有無、内容、程度
  • 遺言時の年齢
  • 遺言内容の複雑性や合理性
  • 遺言書を作成するに至った経緯
  • 遺言者と相続人、受遺者との関係性

たとえば、遺言の内容が親族ではないまったくの他人や関係の薄い人物に全財産を譲るというものであれば、その時点で遺言者の判断能力に疑問が生じる可能性があります。

しかし、それだけでは遺言能力が欠如していたとは証明できず、さまざまな証拠を積み上げて、遺言能力を欠いていたことを立証しなければなりません

遺言書に関わらず押印された書類の法的能力は高いため

自筆公正証書遺言などの押印が必要な書類は「二段の推定」により、法的効力が高まります

二段の推定とは、書類などが真正に成立したかを証明するために用いられる考え方のことです。

具体的には、以下の推定が働きます。

  • 一段目の推定:「遺言に遺言者本人の印鑑が押されている」という事実から、印鑑は遺言者の意思に基づいて押されたものであると推定します(経験則に基づく推定)。
  • 二段目の推定:遺言に「本人または代理人の署名・押印」があることから、それが真正に成立したものと推定します。

二段の推定が働く場合、遺言の無効を主張する側がこれらの推定を覆さなければなりません。

具体的には、以下の事実をして反証します。

  • 一段目の推定の反証:文書の名義人の印章が第三者に盗用された、印鑑を第三者と共有していたなど
  • 二段目の推定の反証:契約書の内容を署名や捺印後に改ざんしていた、関係のない契約書と思い込ませて捺印させたなど

しかし、上記の事情を立証するのは難しいので、二段の推定を崩すためのハードルは高いといえるでしょう。

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遺言無効確認の訴えが認められた判例

遺言無効確認訴訟で訴えを立証するは難しいものの、実際に遺言の無効が認められた判例もあります。

ここでは、遺言の無効が認められた近年の判例を紹介しますので、参考にしてみてください。

作成日と押印日がずれていたことで、遺言書が無効とされた判例

本事案では、遺言の成立日(平成27年5月10日)と遺言書に記載の日付(平成27年4月13日)が異なることを理由に、遺言が無効となるかが争われました。

第一審(地裁)および控訴審(高裁)は、以下のとおり、遺言書に記載した日付が誤記であるとは認められないと認定し、遺言を無効と判断しました。

自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず,本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであった。

自筆証書である遺言書に記載された日付が真実遺言が成立した日の日付と相違しても,その記載された日付が誤記であること及び真実遺言が成立した日が上記遺言書の記載その他から容易に判明する場合には,上記の日付の誤りは遺言を無効とするものではないと解されるが,Aが本件遺言書に「平成27年5月10日」と記載する積もりで誤って「平成27年4月13日」と記載したとは認められず,また,真実遺言が成立した日が本件遺言書の記載その他から容易に判明するともいえない。

よって,本件遺言は,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから無効である。

引用元:平成31年(受)第427号,第428号遺言無効確認請求本訴,死因贈与契約存在確認等請求反訴事件|裁判所

被相続人の遺言能力が疑問視され公正証書遺言が無効とされた判例

本事案は、公正証書遺言の有効性が争われた事案です。

原告らの父は、平成29年2月13日に公正証書遺言を作成し、被告を遺言執行者に指定したあと、平成30年1月19日に亡くなりました。

しかし、遺言作成時に父の遺言能力が欠けていたとして、原告らが遺言無効確認請求を提起しました。

裁判所は、以下の点を指摘して、父は遺言作成時に遺言能力を欠いていたと認定し、遺言は無効であると判断しました。

  • 父が平成25年10月7日に実施した長谷川式認知症スケール(認知症検査)の結果は30点満点中12点で、やや重度の認知症に相当するものであった。
  • 平成27年9月18日の再検査の結果も15点で、認知機能の低下が継続していた。
  • 主治医の介護保険意見書には、「日常の意思決定には見守りが必要」と記載されていた。
  • 遺言の内容は複雑であり、当時の父が正確に理解できたとはいえない。

遺言無効確認訴訟を起こす際の基本的な流れ

遺言無効確認訴訟を提起すると、以下のような流れで手続きが進みます

  1. 相続人同士での話し合い
  2. 遺言無効確認調停の申立て
  3. 遺言無効訴訟の提起
  4. 審理
  5. 判決
  6. (控訴審・上告審)

それぞれの手順について、詳しく解説します。

1.相続人同士での話し合い

まずは、遺言書の内容に形式的な不備があるなど、遺言書が無効であることを他の相続人に説明し、遺産分割協議などで話し合うよう持ちかけてみましょう

しかし、遺言の効力については相続人同士で意見が対立しやすいため、交渉がまとまらないケースが多いです。その場合には、訴訟を提起しましょう。

2.遺言無効確認調停の申立て

遺言などの「家庭に関する事件」は、家庭の平和や親族間の健全な関係を保つため、いきなり訴訟を提起して争うのではなく、まずは当事者同士が話し合いによる解決を試みることが望ましいと考えられています。

そのため、遺言無効確認については、まず家庭裁判所に家事調停を申立てしなければなりません。

調停では双方が十分に話し合い、互いに譲り合いながら円満かつ自主的な解決を目指します。

ただし、以下のような「事件を調停に付することが相当でない」場合には、家庭裁判所の判断により、調停を経ずに訴訟へ進むことも可能です。

  • 被告の所在が不明
  • 事前の交渉経緯から当事者が調停に出席しないことが明らか
  • 合意の成立がほぼ期待できない

調停を省略したい場合は、原告が上記のような事情を裁判所に明確に伝える必要があります。

3.遺言無効訴訟の提起

調停で合意に至らなかった場合、または事件を調整に付することが相当でないと認められた場合は、遺言無効確認訴訟を提起します。

原告は遺言の無効を主張する相続人となり、被告は遺言の有効性を主張する相続人、または遺言執行者が指定されている場合にはその執行者となります。

提起先は、被告の住所地や相続開始時における被相続人の住所地を管轄する裁判所です。

裁判所の種類は、以下の基準に基づき決定されます。

  • 調停を経て訴訟を提起する場合 原告の法定相続分に相当する遺産の価額が140万円を超える場合 → 地方裁判所 原告の法定相続分に相当する遺産の価額が140万円を超えない場合 → 簡易裁判所
  • 調停を経ずに訴訟を提起する場合→ 地方裁判所

訴訟を進めるにあたり、遺言書が無効であることを証明するための証拠をしっかりと準備し、適切な証拠をもとに訴訟を進めることで、遺言の無効を立証しやすくなります。

4.審理

訴訟が開始されると、通常は約1ヵ月ごとに原告と被告が交互に主張をおこない、証拠を提出します。

双方の主張と証拠が全て出揃ったあと、最終的に判決が下される流れです。

なお、審理中に裁判所から和解を提案されることもあります。

しかし、当事者間で感情的な対立が激しいケースが多いので、和解がまとまることはほぼありません

5.判決

審理の結果、遺言に無効な理由があると裁判所が判断した場合、遺言の無効を確認する判決が下されます

逆に、遺言に無効な理由がないと判断した場合、請求は棄却されます

6.控訴審・上告審

判決に不満がある場合、当事者は控訴して高等裁判所に再度の判断を求めることも可能です。

控訴審での判断に不満があれば、最高裁判所に上告できます

遺言無効確認請求訴訟で勝訴するには証拠集めが重要

遺言無効確認訴訟で遺言の無効を立証するのは難しいので、勝訴するためには証拠集めが非常に重要です。

ここから、具体的に集めるべき証拠について解説します。

遺言書の筆跡鑑定をおこなう

遺言書の筆跡が明らかに本人のものと異なる場合や、不自然な特徴が見られるときは、筆跡鑑定を依頼することが有効です。

専門の鑑定士による分析を受けることで、遺言書の筆跡が本人のものではない可能性が明らかになるかもしれません。

しかし、遺言者が日記や手紙、メモなどに書く際の筆跡は一定ではなく、状況によって書き方を変えている可能性があります。

また、筆跡の比較対象となる資料が作成された時期と、遺言書が作成された時期が離れている場合、加齢による影響で、筆圧や筆の運び、字の大きさや行間の取り方が変わることもあるでしょう。

そのため、筆跡鑑定だけでは、証明力に限界があるとされています。

筆跡鑑定のほかにも、以下のような証拠を収集するのがおすすめです。

  • 手帳や日記
  • メモ
  • 手紙
  • 金融機関との契約書の控えや保険契約書
  • 不動産取引に関する書類などが含まれます。

遺言能力の欠如を示す証拠書類を集める

遺言能力について争う場合、遺言書を作成した時点の遺言者の認知状態がわかる資料を用意しましょう

具体的には、以下のような証拠書類を収集するのがおすすめです。

  • 医師の診断書
  • カルテ
  • 看護記録
  • 要介護認定結果通知書
  • 認知症検査の結果

遺言無効確認請求訴訟後にやるべきこと

訴訟で勝訴または敗訴になっても、当事者間の問題が全て解決するわけではありません。

訴訟に加えて、訴訟後の対応も重要です。

ここでは、勝訴または敗訴後にやるべき事項を解説します。

遺言書が有効と判断された場合|遺留分侵害額請求を検討する

訴訟で敗訴し、遺言書が有効と判断された場合には、遺言にもとづき相続人に遺産が分割されることになります。

しかし、遺産の分割内容によっては、「遺留分」が確保されていない相続人がいるかもしれません。

遺留分とは、法律上保障されている最低限の遺産取得分のことで、遺留分が侵害されている兄弟姉妹以外の相続人は、他の相続人に対して遺留分侵害額請求ができます

なお、遺留分侵害額請求権には「相続の事実と遺留分を侵害する事実を知ってから1年」という時効があります。

そのため、遺言無効確認訴訟を提起する際に、あわせて「仮に遺言書が有効と判断された場合には、予備的に遺留分侵害額請求をおこなう」旨も主張しておくのがおすすめです。

遺言書が無効と判断された場合|遺産分割協議を進める

訴訟で勝訴し、遺言書が無効と判断された場合でも、遺産の分割方法が決まるわけではないので、当事者間で「遺産分割協議」を進める必要があります

協議で合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。

調停で解決しなければ、審判へ移行します。

遺言無効確認請求訴訟にかかる裁判費用・期間

ここでは、遺言無効確認訴訟をする場合の裁判費用と期間について、確認しましょう。

裁判費用|訴額によって変動する

遺言無効確認訴訟を提起する際に必要な裁判費用は、主に裁判所に支払う手数料と郵便切手の2つです。

いずれも、原告が負担します。

①手数料

手数料は、遺言が無効と認められた場合に、原告が得る権利の価値(訴額)に基づいて決定されます。

訴額の計算方法は遺言内容に応じて変わりますが、基本的には「法定相続分から、遺言によって指定された相続分を引いた額」で算出されます。

訴額に対応する手数料の額については、裁判所が公開している早見表の「訴えの提起」欄で確認することができます

たとえば、訴額が300万円であれば手数料は2万円となります。

②郵便切手

郵便切手は、数千円分程度を納付するのが一般的です。

必要な金額は裁判所ごとに異なるため、事前に確認しておきましょう。

期間|数年以上を要するケースも多い

遺言無効確認訴訟は必要書類の収集に加え、事前調査や訴訟の審理が必要となると、思った以上に時間がかかることが多いです。

なお、訴訟の各プロセスに要する期間の目安は以下のとおりです。

場合によっては数年以上を要するケースもあるので、相応の覚悟が必要でしょう。

  • 訴訟準備(必要書類の収集など):数ヵ月程度
  • 第一審(審理がメイン):1~2年程度
  • 控訴審:半年~1年程度
  • 上告審:半年程度

遺言無効確認請求訴訟の必要書類

原告が訴訟を提起する際には、訴状に加えて、以下の書類を裁判所に提出します。

  • 遺言書
  • 財産内容を証明する書類(登記事項証明書、通帳の写しなど)
  • 相続開始および相続人の範囲を証明する戸籍謄本
  • 相続関係図

訴訟が進む中で、遺言書が無効であるという主張を記載した書面や、その主張を裏付けるための証拠も提出する必要が生じます。

遺言無効確認請求訴訟を弁護士に依頼した場合の費用相場

遺言無効確認請求訴訟の弁護士費用は、弁護士や法律事務所の料金体系により異なりますが、相場は以下のとおりです。

  • 着手金:30万円~50万円程度
  • 報酬金:50万円~100万円程度

合計:80万円~150万円程度

なお、審理が長期間にわたる場合には、費用が高額になることがあります。

また、遺言無効が確定したあとに遺産分割交渉や調停・審判の手続きを弁護士に依頼する場合は、別途追加費用が発生することに留意してください。

遺言無効確認訴訟に関してよくある質問

ここでは、遺言無効確認訴訟に関してよくある質問をまとめました。

似たような疑問をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。

公正証書遺言に対しても訴訟の提起は可能?

公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、信頼性が高いとされています。

しかし、以下のような場合には、公正証書遺言であっても無効と判断されることがあります

  • 遺言者に遺言能力がなかったと認められる場合
  • 遺言の口授(くじゅ)がおこなわれなかった場合
  • 立ち会った証人が欠格者だった場合
  • 遺言者の意思と遺言の内容に食い違い(錯誤)があった場合
  • 遺言の内容が公序良俗に反する場合

遺言の有効性に疑問がある場合には、訴訟の提起を検討しましょう。

遺言無効確認訴訟は自分でもできる?

個人でも、遺言無効確認訴訟の提起は可能です。

ただし、遺言無効確認訴訟を進めるにあたっては、単に遺言が無効であると主張するだけではなく、その具体的な無効理由を示し、それを裏付ける証拠を提出する必要があります。

たとえば、遺言者の遺言能力の争う場合には、診断書や診療記録などの客観的な証拠をもとに、遺言作成時に遺言能力がなかったことを立証しなければなりません

訴訟手続きに不慣れな方は、どのような証拠をどのように収集すればよいかわからないことが多いので、裁判を有利に進めるのが難しいのが現実です。

また、遺言の無効が認められたとしても、それだけで遺産分割に関する問題が解決するわけではありません。

別途、遺産分割協議を進める必要があり、場合によっては調停や審判に発展することもあります。

相続トラブルが生じた際には、早い段階で弁護士に相談することで、遺言無効確認訴訟から遺産分割協議までの一連の手続きをサポートしてもらえます。

遺言無効確認訴訟に時効はある?

遺言無効確認訴訟に時効制限は設けられていません

しかし、時間が経過するにつれて証拠が散逸し、立証が困難になる可能性があります。

遺言に不自然な点がある場合は、速やかに遺言無効確認訴訟を提起することが望ましいでしょう。

なお、遺言が有効であることを前提とした遺留分侵害額請求は、相続開始および遺留分の侵害を知った翌日から1年以内におこなう必要があるので、注意してください。

さいごに|遺言無効確認請求訴訟を検討しているなら、まず弁護士に相談を

遺言無効確認請求訴訟は、立証が難しく、決着するまでに数年程度かかる場合があります

しかし、遺言の無効が認められた判例も存在するので、諦める必要はありません。

勝訴判決を勝ち取り遺言を無効とするためには、必要書類の収集など、争点に応じた事前準備が欠かせません。

そのため、訴訟に発展すると感じた場合には、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。

弁護士は、相談者の意向を確認したうえで、証拠の収集に関する法的なアドバイスをしてくれます。

また、訴訟手続きに必要な書類の準備、証拠の整理、裁判所への提出などの煩雑な手続きも代行してくれます。

家族間のトラブルであっても、一人で抱え込まず、まずは弁護士に相談しましょう。

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かがりび綜合法律事務所
代表弁護士 野条 健人 (大阪弁護士会)
地元に根差した法律事務所で、地域とのつながりをベースにした親身な対応に定評あり。遺産分割などの相続トラブルのほか、生前対策にも力を入れ、財産管理や「終活」に関する豊富な知見を有する。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
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本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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