上記のようなことが気になっている経営者の方もいることでしょう。
通常、被相続人になる方に子どもがいる場合は、兄弟姉妹には相続権がありません。
そのため、遺言書を使って兄弟姉妹に会社(株式)を相続させることになるでしょう。
本記事では、兄弟姉妹に会社を相続させようと考えている方に向けて、以下の内容について説明します。
本記事を参考に、円滑に兄弟姉妹に会社を相続させられるようになりましょう。
上図のとおり、被相続人の兄弟姉妹は民法上、第3順位の法定相続人となっています(民法第889条第1項)。
被相続人に子どもや孫、両親などがいる場合は、兄弟姉妹は相続人になることができません。
つまり、兄弟姉妹に会社(株式)を相続させたいなら、現経営者は何かしらの対応をしておく必要があるのです。
ここでは、自分の兄弟姉妹に会社を承継させるための方法を3つ紹介します。
「株式を兄○○に相続させる」などと記載した遺言書を残すことで、兄弟姉妹に会社を相続させられます。
遺言は被相続人が亡くなってから効力が生じるため、生涯現役で活躍したい方におすすめの選択肢でしょう。
また、一度にまとまった株式を移転できるため、株式の分散リスクを軽減できるというメリットもあります。
しかし、遺言書の方式や内容に不備があった場合は、遺言書が無効になるリスクがあるため注意が必要です。
さらに後継者は、相続税の納付や遺留分侵害額請求に備え、まとまった資金を用意しておく必要があります。
対象者 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|
被相続人 |
・自分の意思を相続に反映できる ・亡くなるまで経営権を維持できる ・同時に資金対策に取り組むことができる ・譲渡制限株式でも自由に相続させられる |
・不備がある場合は無効になる可能性がある ・希望通りに相続が実現するかはわからない ・兄弟姉妹に相続を拒否されるリスクがある |
兄弟姉妹 |
・時間をかけずに株式を取得できる ・事業承継税制で税負担を抑えられる |
・通常、相続税の納税資金が必要になる ・相続税の2割加算の対象となっている ・遺留分侵害請求を受ける可能性がある |
経営者と兄弟姉妹(後継者)との間で贈与契約を交わすことで、兄弟姉妹に会社を承継させることができます。
存命中に株式を譲渡できるため、年齢や健康面などを理由に引退を検討している方にはおすすめといえます。
また、贈与する株式数を決めることで、現経営者が経営権を維持したまま事業承継を進めることも可能です。
しかし、生前贈与の場合は、贈与のタイミングや贈与税などが課題になることが多いでしょう。
生前贈与で兄弟姉妹に会社を承継させる場合は、しっかりと計画を立てることが重要です。
対象者 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|
被相続人 |
・存命中に兄弟姉妹に経営権を移転できる ・株式の一部を贈与するなど自由度がある |
・後継者から金銭は受け取れない ・贈与のタイミングを見極める必要がある ・家族や関係者から理解を得る必要がある ・計画を立てて進めていかなければならない ・譲渡制限株式の場合は会社の承認を要する |
兄弟姉妹 |
・110万円まで非課税で受け取れる ・事業承継税制で税負担を抑えられる |
・承継までに時間がかかることがある ・贈与税申告が必要になることがある ・相続時精算課税制度は利用できない ・遺留分侵害請求を受ける可能性がある |
兄弟姉妹に会社の株式を売却することで、経営権を円滑に引き継がせることが可能です。
生前贈与と同じで存命中に譲渡できるため、早期の引退などを検討している方におすすめとなっています。
また、生前贈与と異なり売買ですので、後継者である兄弟姉妹から売買代金を受け取れる点もメリットです。
その分、兄弟姉妹は融資を受けるなど、自分自身で売買代金を用意しなければならないデメリットがあります。
なお、売買による事業承継は、兄弟姉妹などに事業を承継させる親族内承継では一般的ではないとされています。
対象者 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|
被相続人 |
・存命中に兄弟姉妹に経営権を移転できる ・後継者から株式の売買代金を受け取れる ・株式の一部を売買するなど自由度がある |
・売却のタイミングを見極める必要がある ・家族や関係者から理解を得る必要がある ・譲渡制限株式の場合は会社の承認を要する ・譲渡所得税が課されてしまう可能性がある |
兄弟姉妹 |
・税金を負担する必要がない ・相続のトラブルに巻き込まれない |
・承継までに時間がかかることがある ・自身で売買代金を工面する必要がある ・事業承継税制などの特例を利用できない |
ここでは、遺言書を作成して兄弟姉妹に会社を相続させる際の流れを説明します。
一般的な遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
それぞれの特徴は、以下のとおりです。
遺言書の種類 |
遺言書の特徴 |
---|---|
自筆証書遺言 |
✓被相続人が遺言の全文(自筆証書遺言書保管制度を使うことで目録等一部ワープロ可)・日付・氏名を自分で記載し、押印して作成する ✓その場ですぐに作成することができ、内容の修正・変更も簡単にできる ✓自筆証書遺言書保管制度を使うことで法務局に遺言書を保管してもらえる |
公正証書遺言 |
✓2人以上の証人の立ち会いのもと、公証役場の公証人によって作成される ✓作成後、原本は公証役場で保管されるため、紛失・改ざんのおそれがない ✓公正証書遺言を作成する場合は、少なくとも5,000円以上の手数料がかかる |
秘密証書遺言 |
✓自筆が要件ではないため、パソコンや代筆でも作成できる ✓公証人と証人2人以上に、遺言書の存在を証明してもらう ✓相続発生後は家庭裁判所で検認手続きを受ける必要がある ✓秘密証書遺言を作成する場合は、1万1,000円の手数料がかかる |
3つの違いをしっかりと理解したうえで、どの遺言書にするかを決めましょう。
遺言書の種類やそれぞれのポイントは、以下のページで詳しく解説しています。
遺言書を作成する際は、事前に相続人と相続財産を明確にしておきます。
相続人は通常、現在の配偶者(内縁の妻は除く)と子どもがなりますが、場合によっては代襲相続によって孫、ひ孫が相続人になったり、後順位の直系尊属が相続人になったりする可能性があります。
また、相続財産には会社の株式のほかに、現金、預貯金、自動車、貴金属、土地、建物、各種権利、借金などが含まれますので、それぞれの有無を調査したり、必要な資料を用意したりするとよいでしょう。
相続人調査と相続財産調査については、以下のページで詳しく解説しています。
相続人調査と相続財産調査を終えたら、実際に遺言書を作成していきましょう。
有効な遺言書を作成するためには、民法で定められた方式や内容などを守る必要があります。
また、相続後にほかの相続人から兄弟姉妹へ遺留分侵害額請求がおこなわれないよう、対策する必要もあります。
遺言の内容次第で事業承継が円滑になるかどうか変わるので、内容について弁護士に相談しておくのもおすすめです。
相続が発生したら、株式を相続する兄弟姉妹が会社に対して株主名簿の書換え申請をします。
具体的な手続きはそれぞれの会社によって異なるため、担当者の指示に従うようにしてください。
また、株主名簿の書換え手続きを終えたら、会社に対して株主名簿記載事項証明書を交付してもらいましょう。
兄弟姉妹が事業を引き継ぐ場合は、まず株主総会を開いて取締役に選任される必要があります。
そして取締役会設置会社の場合は取締役会で、取締役会非設置会社の場合は定款に定められた事項を経て、後継者である兄弟姉妹を代表取締役として選任してもらいましょう。
なお、兄弟姉妹が新たに代表取締役などに就任した場合は、忘れずに法務局にて役員変更登記をおこなうようにしてください。
ここでは、遺言書を作成して兄弟姉妹に会社を相続させる際のポイントを説明します。
3つの遺言書のうち、公正証書遺言を選ぶことをおすすめします。
公正証書遺言は公証人により作成されるので、方式の不備によって無効になるリスクが低いです。
また、原本は公証役場で保管されるため、遺言書を紛失したり偽造されたりする心配もありません。
兄弟姉妹に確実に会社を相続させたいなら、公正証書遺言を選んでおくと安心でしょう。
遺言書では、被相続人に代わって遺言内容を実現する遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者は未成年者や破産者を除けば誰でもなれますが(民法第1009条)、できる限り相続に詳しい弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士であれば名義変更などをスムーズに進めてくれるため、会社の経営が滞るリスクを抑えられるでしょう。
株式に見合うだけの相続財産がある場合は、遺留分侵害額請求を心配する必要はないでしょう。
しかし、そうでない場合は、ほかの相続人の遺留分を侵害しないよう注意する必要があります。
被相続人側が遺留分侵害額請求に備えてできることには、以下のようなものが挙げられます。
遺留分侵害額請求の対策を進めておけば、相続発生後に円滑に事業承継をおこなえます。
兄弟姉妹を後継者にすることについて、ほかの相続人の理解を得ることが大切です。
理解を得ないまま後継者を決めてしまうと、株式を相続できない相続人が不満を覚え、トラブルに発展してしまうおそれがあります。
場合によっては後継者争いになることもあるので、必ず「なぜ兄弟姉妹を後継者にしたいのか」ということを丁寧に説明し、納得してもらうようにしましょう。
法人版事業承継税制とは、後継者が非上場株式を取得したときにかかる贈与税・相続税が猶予または免除される制度のことです。
本制度の対象者は株式を相続・贈与された後継者であるため、現経営者(被相続人)は後継者に対してこのような制度があることを事前に説明しておくとよいでしょう。
なお、本制度を活用する際は「相続時点で被相続人が会社の筆頭株主であること」などの要件があるため、現経営者も事業承継税制の仕組みについてしっかりと理解しておくことがポイントになります。
兄弟姉妹に会社を相続させたいなら、できる限り早い段階から対策を始めましょう。
兄弟姉妹に承継させる場合、人間関係や金銭面に関するトラブルが生じる可能性が高いです。
後継者を早い段階で決めておけば、時間をかけて説明できるため相続人や関係者から理解が得られやすくなります。
また、遺言書の内容を検討したり、兄弟姉妹の資金対策を進めたりする時間も確保できるので、現経営者が望んだ相続を実現できる可能性が高まるでしょう。
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