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事業承継後の消費税納税義務はどうなる?各種税金の節税方法も解説!

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相続で事業を承継した場合、真っ先に心配になるのが「相続税」ですが、亡くなった方の生前の消費税の対象となる金額(「課税売上高」といいます)によって、これまで消費税とは無縁だった相続人にも消費税の納税義務が生じる場合があります。

また相続でなくとも、生前の事業承継の際に自社株などを親族や第三者へ贈与するケースでは「贈与税」が課される場合があり、事業承継を行うとどうしても税金の問題が付きまとうことになります。

これだけ聞くと不安に思われるかもしれませんが、事業承継の税金についてはいくつかの支援政策があり、一定の手続きを経ることで相続税や贈与税の納税が猶予される特例がありますので、納税資金や手続きの準備をしておけば税金問題も怖くありません。

事業承継で最も大切なことは「スムーズに事業承継を完了させる」ことですから、各種税金についての対策が重要なカギとなります。

今回は、事業承継に関わる相続税・消費税・税制改革など、事業承継と税金についての様々な制度をご紹介いたします。
参考:事業承継とは|事業継承を行う際に押さえておく5つの知識

*本記事の専門家による監修日は2023年6月28日です。

この記事に記載の情報は2023年10月11日時点のものです

事業承継における税金の関係

事業承継の際に問題となる税金は、大きく分けて「贈与税」「相続税」「消費税」の3種類が考えられます。

「贈与税」は現経営者から後継者へ事業承継を行う際に、自社株や事業地の贈与をしたなどの場合に発生し、「相続税」は被相続人である親が死んだ後で、相続人である子どもが事業承継をしたなどの場合に、「消費税」は前々年・前年の課税売上高によって課されるかどうかが決まります。

ここでは、事業承継における税金についての基礎知識をご紹介いたします。

税金の種類と支払い時期

私たちが負担する税金には様々なものがありますが、事業承継の場合、贈与によって事業を承継した(株式を取得した)場合には「贈与税」が、相続によって事業を承継した(株式を取得した)場合には「相続税」がかかり、事業の売上高によってはそれらに加えて「消費税」が課されます。

 

誰に対して払うか

地方自治体
(県・市町村)

誰が払うか

個人

・所得税
・消費税
・相続税
・贈与税

・住民税
・地方消費税
・固定資産税

法人

・法人税
・消費税

・事業税
・法人住民税
・地方消費税
・固定資産税

  • 贈与税は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに申告・納税を行います。

  • 相続税は、相続があった日から10ヶ月以内に申告・納税をしなければなりません。

  • 消費税は、個人事業主の場合は翌年3月31日(申告期限は2月1日~3月15日)まで

参考:国税庁|申告と納税
法人の場合は事業年度終了日翌日から2ヶ月以内に確定申告・納税をしなければなりません。

このとき、前年度に支払った消費税額が48万円を超える場合には、法人税と同様に「中間申告」「中間納税」の制度があります。

事業承継の税金は誰が払うのか

事業承継の申告義務者・納税義務者とは、「事業の財産を取得した人」になります。

すなわち、贈与によって事業を承継した人や、相続によって事業を承継した人が税金を払う人になり、必ずしも法定相続人だけが納税義務者というわけではありません。

事業承継の税金は、納税猶予・納税免除の一部例外を除いて原則として金銭で一括納付となりますから、承継の際には納税資金についても考えておく必要があります。

事業承継の税制とは

事業承継の際に支払う税金については、非上場会社の承継支援のため、事業承継税制が設けられています。

ここでは、事業承継税制についてご紹介いたします。事業承継税制は、大きく「非上場株式に係る贈与税の納税猶予・免除制度」と「非上場株式に係る相続税の納税猶予・免除制度」の2種類を内容としています。

事業承継の税制内容

①非上場株式に係る贈与税の納税猶予・免除制度

後継者が先代経営者(贈与者)から非上場会社の株式の贈与を受け、一定の要件を満たす場合は、贈与前から後継者が既に保有していた議決権株式を含め、発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分について、贈与税の全額の納税が猶予されます。

また、納税が猶予された贈与税額は、先代経営者または後継者の死亡等の一定の要件を満たすことにより、納税が免除されます。

ただし、この制度は贈与者の死亡時において、贈与時の価額で相続財産に加算して相続税を計算するという制度なので、贈与税は免除されても相続税が免除されるとは限りません(相続税が猶予される可能性はあります)。

なお、贈与税の納税猶予の適用を受けられるのは1つの会社で1人だけです。

②非上場株式に係る相続税の納税猶予・免除制度

後継者が先代経営者(被相続人)から相続等により非上場会社の株式を取得し、一定の要件を満たす場合は、後継者が相続前から既に保有していた議決権株式を含め、発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分について、課税価格の80%に対応する相続税の納付が猶予されます。

また、納税が猶予された相続税額は、後継者の死亡等の一定の要件を満たすことにより、納税が免除されます。

事業承継税制の適用を受けるためには、それぞれ所定の要件を満たす必要があり、また納税猶予の適用を受けた後であっても一定の事由に該当する場合は納税猶予が打ち切られ、利子税等とともに猶予税額の全部、または一部を納付する必要があります。

平成29年度の主な改正点のまとめ

事業承継税制は、平成25年にも改正されていますが、平成29年度の改正では更にいくつかの適用要件が緩和および見直されることになりました。

改正項目

税の種類

平成26年までの取り扱い

平成27年以降の取り扱い

事前確認制度の廃止

相続税
贈与税

相続または贈与の前に経済産業大臣の確認を受ける必要あり(平成25年3月31日まで)

事前確認の必要なし

親族以外の者を後継者とする場合の適用

相続税
贈与税

×

後継者は先代経営者の親族のみに限られ、それ以外の者への非上場株式の遺贈または贈与は納税猶予の適用対象外

先代経営者の親族以外の者を後継者として、その者への非上場株式の遺贈または贈与をする場合においても、納税猶予の適用可

役員退任要件

贈与税

先代経営者は株式贈与前に役員を退任する必要あり

×

先代経営者は贈与時に会社の代表権を有していなければ、その贈与時および贈与後に引き続き役員に留まっていても納税猶予の適用可

先代経営者の無給役員要件

贈与税

先代経営者が贈与後に再び役員に就任した場合、5年間以内に役員給与を受けると納税猶予の取消事由に該当する

×

先代経営者が贈与後に役員として給与の支給を受けた場合であっても、納税猶予の取消事由には該当しない

雇用確保要件

相続税
贈与税

納税猶予制度適用後5年間の各年において、相続開始時または贈与時の雇用の8割以上を維持しなければならない

納税猶予制度適用後5年間の平均において、相続開始時または贈与時の雇用の8割以上を維持しなければならない

引用元:平成29年度税制改正の概要について(中小企業・小規模事業者関係)

贈与税の納税猶予

適用要件は贈与時において、対象事業が下記の要件を満たしている必要があります。

①法人(承継する事業)の主な要件

  • 中小企業基本法の中小企業であること(特例有限会社、持分会社も対象になります)

  • 特定特別子会社を含め、上場会社、風俗営業会社でないこと

  • 資産管理会社(有価証券・不動産・現預金等の合計額が総資産額の70%を占める会社や、その資産の運用収入の合計額が総収入金額の75%以上を占める会社などで、事業実態のある会社を除く)に該当しないこと

  • 従業員数が1名以上(対象会社またはそれと支配関係がある法人が外国会社の株式等を有する場合は5名以上)であること

②贈与者の主な要件

  • 会社の代表者であったこと

  • 贈与時に代表者を退任していること(有給役員として残留OK)

  • 同族で株式を50%超所有していたこと

  • その同族内で筆頭株主であったこと

③受贈者の主な要件

  • 会社の代表者になったこと

  • 20歳以上であり、かつ、役員就任から3年以上経過していること

  • 同族で株式を50%超所有していたこと

  • その同族内で筆頭株主であったこと

④主な事業継続要件:贈与税の申告期限から5年間事業を継続すること

  • 事業承継相続人が代表者であること

  • 雇用の8割以上を維持していること(贈与後5年間の平均)

  • 贈与された株式を継続所有していること

 ※事業継続期間中は毎年1回、経済産業局および税務署に所定の報告書・届出書を提出する必要があります。

引用元:「新しい事業承継税制」の概要

なお、納税猶予の対象株式を継続保有等していれば納税猶予は継続されますが、そうでない場合は納税猶予額の全額、あるいは一部の納付が必要になります。

中小企業基本法の中小企業とは

中小企業基本法の中小企業とは、下記表の資本金または従業員数のどちらかの要件を満たしている企業のことをいいます。

業種分類

中小企業基本法の定義

製造業その他

資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人

卸売業

資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

小売業

資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人

サービス業

資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

引用元:中小企業庁|中小企業・小規模企業者の定義

相続税の納税猶予

適用要件としては、相続開始の時において、対象事業が下記の要件を満たしている必要があります。

①法人(承継する事業)の主な要件

・中小企業基本法の中小企業であること(特例有限会社、持分会社も対象になります)
 ・特定特別子会社を含め、上場会社、風俗営業会社でないこと
 ・資産管理会社(有価証券・不動産・現預金等の合計額が総資産額の70%を占める会社や、その資産の運用収入の合計額が総収入金額の75%以上を占める会社などで、事業実態のある会社を除く)に該当しないこと

②被相続人の主な要件

 ・会社の代表者であったこと
 ・同族で株式を50%超所有していたこと
 ・その同族内で筆頭株主であったこと

③事業承継者(遺贈によって事業を承継した受遺者を含む)の主な要件

 ・会社の代表者になったこと
 ・同族で株式を50%超所有していたこと
 ・その同族内で筆頭株主であったこと

④主な事業継続要件(勤続後5年間)

 ・事業承継相続人が代表者であること
 ・雇用の8割以上を維持していること(相続後5年間の平均)
 ・相続した株式を継続所有していること
 ※事業継続期間中は毎年1回、経済産業局および税務署に所定の報告書・届出書を提出する必要があります。

なお、納税猶予の対象株式を継続保有等していれば納税猶予は継続されますが、そうでない場合は納税猶予額の全額、あるいは一部の納付が必要になります。
参考:「新しい事業承継税制」の概要

事業承継税制を利用する際の注意点

効果が大きく非常に有利な事業承継税制ですが、利用の際には注意が必要な点がいくつかあります。

基本的な4つの注意点 

原則は「免除」ではなく「猶予」

まず第一に、事業承継税制を利用しても原則は「免除」ではなく「猶予」である点です。

それぞれ所定の要件を「完全に」満たさない場合には、満たさなくなった時点で納税猶予されていた税額に利子税を加えて全額、あるいは一部を納付する必要があります。

特に「雇用の8割以上の維持」という要件は、5年間の平均値へと緩和されましたが、厳しい条件であることに変わりありません。

経済産業局にも手続きが必要

第二に、事業承継税制は手続きが複雑になっており、通常税金の手続きは税務署だけで完結しますが、事業承継税制の場合は経済産業局にも手続きが必要になります。

平成27年改正によって事前に経済産業大臣の確認を受ける必要はなくなりましたが、相続税の場合は「相続開始後8ヶ月以内」、贈与税の場合は「贈与日の翌年1月15日まで」に経済産業局へ認定申請を行わなければなりません。

申告書と一緒に担保も必要

また、申告書と一緒に適用を受ける書類を提出し、担保も提供しなければなりません。

手続きの流れとしては、贈与または相続があったら、経済産業局へ所定の認定申請を行い、その後に税務署へ税務申告。

以後5年間は毎年経済産業局へ継続報告書を、税務署へ継続届出書を提出することになりますが、経済産業局の認定書面審査には2ヶ月程度時間が掛かるので、相続税の申告期限にも注意が必要です。

事業承継の適用は、制度の周知が進んでいないことや手続きの難しさからハードルが高いという問題点もあります。

平成27年改正で以前よりも利用しやすくなったとはいえ、余裕を持って税金対策をするのが大切といえるでしょう。

納税免除される場合とは

相続税・贈与税ともに、一定の要件を満たすことで猶予されていた税額の納付が免除される場合があります。
猶予額の納税免除がなされるのは、次のような場合です。

要件

贈与税

相続税

現経営者(贈与者)が死亡した場合

×

後継者が死亡した場合

(経営承継相続人が、特例適用を死亡の時まで保有し続けた場合)

相続税の申告期限から5年経過後で、会社が破産・特別清算した場合

(直前5事業年度の配当・過大役員給与を超える猶予税額を免除)

相続税の申告期限から5年経過後で、親族以外の者に納税猶予を受けた会社の株式の全部を譲渡した場合
(譲渡対価を超える猶予税額を免除)

相続税の申告期限から5年経過後で、次の後継者に猶予対象株式を生前贈与して贈与税の納税猶予を受ける場合
(贈与税の納税猶予対象分を免除)

×

参考:『事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予制度』

事業承継と相続税|相続税の節税をする方法

相続税は、取得した財産の価額によって税率・控除額が定められており、最大55%もの税率が課される大きな税金です。

また、相続開始から10ヶ月以内に申告・納税を済ませなければならないため、生前からある程度準備をしておくのが望ましいといえるでしょう。
ここでは、事業承継の際の相続税についてご紹介いたします。

相続税の計算方法

相続税は、分割方法によって相続税の総額が変わらないように、まずは法定相続人の数と法定相続分をもとに相続税総額を計算し、それを各人の取得財産額に応じて按分して実際の納税額を計算することになっており、具体的には下記の方法で計算します。

①課税価格の計算

「各相続人が取得した財産の価額・生命保険金・死亡退職金」-「被相続人の債務・葬儀費用」+「相続開始前3年以内の贈与財産」+「相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産」=課税価格として計算されます。

②課税遺産総額の計算

「課税価格の合計額」-「基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)」=課税遺産総額となります。

③相続税額の計算

各相続人が、民法に定める法定相続分に従って財産を取得したと仮定して、各相続人の取得金額を計算します

。課税遺産総額×法定相続分=取得金額となり、この取得金額に応じた相続税の税率を掛けて算出した「各相続人ごとの仮定の相続税額」をすべて足したものが「相続税の総額」となります。

④納付税額の計算

相続税の総額を、各相続人が実際に取得した財産の課税価格に応じて按分し、それぞれの納税額を計算します。

相続税の3つの節税方法

相続税対策としては、主に3つの対策が考えられます。すなわち、①相続財産を減らすこと、②債務(借金)を増やすこと、③基礎控除を増やすことです。

ただ、いずれもメリット・デメリットがありますので、利用の際には充分に検討する必要があります。

①相続財産を減らす

最も効果が大きいのが①相続財産を減らすことで、方法としては贈与や売買などにより生前に資産そのものを減らすことが効果的です。

また、財産を保有するにしても、相続税評価の上でより有利な財産に変えること、すなわち現金でなく不動産を保有することや貸家を建築するといった方法が考えられます。

具体例としては、以下のものが考えられます。

  • 更地にアパートを建てて賃貸し、土地の評価額を下げる

  • 小規模宅地等の特例を適用し、土地の評価額を下げる

  • 生命保険に加入して、生命保険の非課税限度額を適用する

  • 生前贈与を行い、相続財産を減少させる

  • 墓石や仏壇などの相続税がかからない財産を購入しておき、相続財産を減少させる

②債務を増やす

借金を増やす=浪費をすることではなく、各種ローンを利用して借金を増やしたり葬儀にお金を掛けるという方法になります。

具体的な方法としては、不動産や車の購入などが挙げられますが、税理士によっては債務を増やすことを相続税対策として推奨していないケースもあります。

また、葬儀にお金を掛ける場合は、常識的な支出であるものに限られるので、債務を増やす手段を取る場合は一度税理士に相談しておくとよいでしょう。

③基礎控除を増やす

養子縁組によって法定相続人を増やす方法ですが、無限に増やせるわけではなく、実子がいない場合は2人まで、実子がいる場合は1人までしか法定相続人は増やせません。

また、代襲相続する孫以外の孫を養子にすると相続税が増えてしまいますので(相続税が2割加算されます)、孫養子は節税方法としては適していないといえるでしょう。

事業承継と消費税|消費税の節税をする方法

消費税といえば私たちが日常の買物などの際に支払うものを想像する方がほとんどかと思いますが、個人事業主や法人では売上高によって一般の消費税とは別に「事業の消費税」の納税義務が生じる可能性があります。

ここでは、事業承継の際の消費税についてご紹介いたします。

消費税の納税義務の判定

消費税は、課税期間であるその年に係る基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下である個人事業者の場合は、原則としてその年中の課税資産の譲渡等について、消費税の納税義務が免除されます。

また、個人が新規に開業した場合も、開業した年および翌年は基準期間における課税売上高がないため、通常であれば消費税の納税義務が免除されることになっています。 

簡単に言えば、消費税の課税事業者となるのは前々年の課税売上高が1,000万円を超える個人事業者ですが、相続によってそれを引き継いだ人は、新たに開業して基準期間における売上高がない場合でも、納税義務が免除されないということになります。

相続があった場合の納税義務の免除の特例

相続があった場合、被相続人の事業を承継した相続人の消費税納税義務について、下記の特例が定められています。

①相続発生年度

被相続人の相続が発生した年の基準期間の課税売上高が1,000万円以下である相続人(既に課税事業者である相続人を除く)が、その基準期間における課税売上高が1,000万円超の被相続人の事業を承継した場合は、相続発生日の翌日からその年の12月31日まで納税義務の免除が適用されません。

ただし、被相続人の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合は、相続があった年の納税義務は免除されます。

もっとも、相続人が既に課税事業者である場合は、納税義務は免除されません。

参考:国税庁|相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について

②相続があった年の翌年以後

相続発生年の翌年・翌々年の基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高の合計が1,000万円を超える場合は、消費税の納税義務は免除されません。

逆に言えばこれらの合計が1,000万円以下であれば消費税は免除されるということですが、この場合であっても相続人が課税事業者である場合には免除されません。
参考:国税庁|相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について 

特定遺贈にかかる受遺者等の納税義務の判定

上記の特例の対象となる「相続」には、被相続人からの包括遺贈は含まれますが、特定遺贈や死因贈与は含まれないため、受遺者や受贈者の消費税の納税義務の判定は、これらの人のその年の基準期間における課税売上高のみで行われることになります。

事業承継で税金を減らすためのその他の対策

事業承継で税金を減らすためのその他の対策としては、「自社株対策」と「相続時精算課税制度」が一般的です。

自社株対策とは、言い換えれば自社株の評価を下げて承継の際の課税価格を下げるという方法で、相続時精算課税制度は贈与税の特例と考えれば分かりやすいかと思います。

ここでは、これら2つの方法についてご紹介いたします。

自社株価の引き下げ

優良企業は株価が高くなりますが、株価が高すぎると相続対策が難しくなるのが問題です。

そこで、事業承継の前に自社株式の評価を下げておくのが各種税金への対策となります。

借入と不動産等購入

不動産購入資金を借り入れし、資産としての不動産を購入するという方法です。

不動産は路線価、建物は固定資産評価で相続税評価がなされるため、多くの場合で時価より低額となることから、伝統的に活用されている手法でもあります。

路線価は多くの場合で時価の7割~8割、固定資産価格は建築資金の6割程度で評価されますが、中古建物の場合は固定資産税評価額のほうが高いケースもあるので、この場合は注意が必要です。

自己株式購入

会社が経営者などの自己株式を購入すると、現金が流出して企業価値を下げるため、株価を下げることができます。

ただし、会社が株式を合意で買い取る場合は、株主総会の特別決議を経る必要があり、売却代金のうち利益積立の部分に対応する金額は原則として配当となり総合課税(最高で50%の税率)となるため、注意しましょう。

中小企業投資育成会社の利用

中小企業投資育成株式会社法に基づく投資事業有限責任組合を通じて投資を受け、承継すべき株式の株価を希釈するという方法があります。

利用できる企業には業種の制限はありませんが、資本金3億円以下の株式会社で(※例外あり)、高い成長性が期待でき、設立後7年以内の会社である必要があります。

株式評価方法が財産評価基本通達での原則的評価よりも通常はかなり低いため(株式評価=1株あたりの予想純利益×配当性向÷期待利回り)、資本金調達と株価引き下げに効果的な方法です。

特定同族会社株式の評価減

相続または遺贈により株式を取得した場合で、一定の要件で特定同族会社と評価されると、被相続人が相続開始直前に有していた自社株のうち、相続開始時における発行済株式総数の合計額の3分の2以下の部分(10億円が限度)について、相続税の課税上10%の評価減を得られます。

適用要件としては、相続開始時において上場株式や店頭売買証券ではないこと、その同族会社の発行済株式の時価総額が20億円未満であること、被相続人および被相続人の親族その他被相続人と特別の関係のある者がその会社の発行済株式総額の50%超を所有していること、相続人がその株式を引き続き所有し、かつ、役員としてその会社の経営に従事することを満たす必要があります。

その他

自社株の評価を下げる方法としては、他にも小規模宅地の評価減・広大地の評価減といった特例の活用のほか、業種転換によって類似業種株価の低いところに業種変更をする方法、企業再編によって利益を分散させる方法、身内へ増資(第三者割当増資)をする方法、金融商品の活用や退職金・決算賞与による利益の繰延・放出といった方法も考えられます。

相続時精算課税制度の利用

相続時精算課税制度とは、平成15年改正により新設された贈与税の特例制度で(平成27年1月に改正されています)、贈与者(贈与をする人)と受贈者(贈与を受けた人)の関係を問わない暦年課税とは異なり、一定の直系親族間の贈与にのみ認められた特例です。

この制度では、生前贈与財産について2,500万円の特別控除が設けられており、この範囲までの贈与は非課税となりますが、控除を超える部分については20%の定率で贈与税が課税されることになります。

暦年贈与課税制度では毎年110万円の基礎控除がありますが、相続時精算課税制度では合計2,500万円の控除ということで、一年ごとの控除枠のリセットはありません。

詳しい内容は「相続時精算課税制度のメリットと贈与税対策のポイント」をご覧ください。

以上のことから、相続時精算課税制度を利用する際に気をつけておきたいポイントは下記の4点です

①小規模宅地等の特例と比較する

相続時に小規模宅地の特例の適用が有利な宅地は、贈与をしない方が得になる可能性があります。

②住宅の贈与は現金よりも住宅そのものの方が節税になる

住宅取得資金を贈与するよりも、贈与者が住宅を建てて住宅そのものを贈与する方が財産価値が下がるため、相続税の節税になります。

③住宅は着工時期に要注意

住宅取得資金は贈与の翌年3月15日までに住宅の引き渡しを受け、自宅として居住するといった要件があるため、年末近くからの建築着工の場合は注意が必要になります(引き渡しが間に合わないと、特例の適用ができない場合があります)。

④孫が受贈者である場合、相続税の面で不利になる可能性がある

祖父から孫(代襲相続人でない孫)へ相続時精算課税を適用して贈与をした後で祖父に相続が発生した場合は、孫は相続人にならないため、相続税の2割加算の対象になり、節税効果は薄いといえます。

⑤相続税精算課税制度は一度選択すると暦年贈与に戻すことはできない

相続時精算課税制度は、一度選択するとその贈与者からの贈与については暦年贈与課税制度に戻すことはできないため、適用の前には他の特例なども考慮すると良いでしょう。

納税資金を確保する事も大事なポイント

相続税が多額になってしまうと、退職金や生命保険金を含む金融財産のみでは納税資金が不足するケースが生じてきます。

特に、自社株評価が高い会社の場合には、二次相続まで考えると相続税の納税資金が大抵不足するというのが一般的なのです。

相続税の納税資金の調達には、後継者からの自社株の買取資金、または貸付金による下如金の流出が大きくなり、会社の剰余金等の内部留保金が多額であってもすべて現預金で残留しておらず、ほとんどが設備資金や棚卸資産などの資産に消費されているため、金融機関等からの借入れによるケースが多くなります。

そこで、納税資金の確保対策として、大きく3つの方法が考えられます。

保険料の贈与による納税資金対策

相続発生時に相続人が受け取る保険金は一時所得となり、課税額は(受取保険金-支払保険料-50万円)×1/2となります。

したがって、多少の贈与税を支払っても、相当高額な保険料を支払って生命保険などに加入するのがお勧めです。

例えば、契約者が会社、被保険者が被相続人である社長や役員、受取人が会社である生命保険の場合、退職金の財源や相続人からの自社株式買い取り資金として保険金を確保することができますし、契約者および被保険者が社長個人で受取人が相続人である生命保険は納税資金として保険金が確保できます。

もちろん、契約者が相続人、被保険者が被相続人で相続人の負担する保険料を贈与で賄うという方法も良いでしょう。

なお、死亡保険金は相続人1人につき500万円が相続財産から控除されるので、節税効果も見込めます。

持ち株会社設立による納税資金対策

銀行がよく提案するのが持ち株会社を設立するという方法で、会社の後継者である長男が自分で会社を設立し、社長である親が所有する自社株を長男が設立した会社が買い取るという内容になります。

役員報酬で株式を後継者へ移動すると、最高税率では50%の贈与税がかかってしまいますが、後継者が100%保有する持ち株会社を設立して後継者が生前贈与を受けた自社株を譲渡すると、20%の税率の分離課税(譲渡益課税)だけで資産を移動することができます。

このとき、持ち株会社は買取資金を銀行借入か本体会社からの借入金で調達し、借入金の返済は自社株式の配当金で賄ったり、高収益の不動産物件を本体会社に貸し付けてそのキャッシュフローで長期返済をするという方法があります。

この方法はオーソドックスな手法として、多くの中堅企業で実施されているものでもあります。

最終手段は物納

どうしても納税資金が確保できない場合は物納という手段も使えるため、非上場株式や不動産など、物納が可能な財産をあらかじめ準備しておくという方法も考えられます。

ただし、優良企業では金庫株として会社が変えるので、自社株が換金可能と判断されて物納が認められないこともあり得ます。

まとめ

事業承継のカギは税金対策といっても過言ではありませんので、節税と納税資金の確保という2つの観点から、早めに準備を行うことが大切かと思います。

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この記事の監修者
合同会社芙蓉宅建FPオフィス
大野 翠
FP歴12年、うち6年は保険を売らない独立系FPとして活動。自主企画のセミナー動員数はこれまで500人超。宅建士でもあることから「お金と不動産の専門家」として活動。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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