家族を立て続けに亡くし、再び相続手続をおこなうとなると、心労が重なるなか「また相続税を納めなくてはならない」と不安になる人もいるでしょう。
もしも今回の相続が、前回の相続から10年以内に発生しているのであれば、「相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)」という制度が適用される可能性があります。
制度が適用できれば、前回の相続で課税された財産に再び相続税がかかるところ、税負担を軽減できる控除が受けられます。
本記事では、相次相続控除の適用要件や計算方法、申請手続について解説するので、ぜひ参考にしてください。
相次相続とは、10年以内に相続が2回以上おこなわれることです。
たとえば、2010年に父が亡くなった際の相続税申告や納税が完了してから、5年後に母が亡くなり再度相続手続をする、というのが相次相続です。
ちなみに、最初の相続を一次相続、次の相続を二次相続といいます。

相次相続は、一定の要件を満たすと二次相続の相続人が適用できる「相次相続控除」という税額控除を利用できます。
一定の要件を満たすことで、支払うべき相続税の金額から一部控除できるので、税負担の軽減が期待できます。
対象となるのは、相続・遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人の相続税額です。
相次相続控除を適用するには、3つの要件を全て満たす必要があります。
自身のケースが当てはまるか、ひとつずつ確認していきましょう。
相次相続控除の適用対象者は、被相続人の相続人に限定されます。
相続の放棄をした人や相続権を失った人がたとえ遺贈により財産を取得しても、この制度は適用されません。
具体的には相続人が相続放棄をして生命保険の保険金だけを取得したケースなどが考えられます。
また、相続人ではない方が遺言書により財産を相続した場合も、相次相続控除の対象にはならないため注意してください。
相次相続控除の適用には、今回の相続の開始日(被相続人の死亡日)が、前回の相続の開始日から10年以内であることが必須です。
例えば、2018年3月1日に一次相続が発生した場合、二次相続が2028年3月1日までに発生しなければ、控除を受けられません。
今回の相続開始日と、前回の相続開始日を正確に確認し、期間要件を満たしているか確認しましょう。
相次相続控除を適用するには、今回の相続で亡くなった人が、前回の相続の際に相続税を納めている必要があります。
前回の相続で財産を取得していても、次のようなケースでは要件を満たさないため、相次相続控除の対象外となります。
仮に、一次相続で夫が亡くなった場合、妻が配偶者控除を適用して相続税が0円になったことで、相続税の納税をしなかったとしましょう。
この場合、一次相続で相続税を納めていないことになるため、10年以内に妻が亡くなったとしても、二次相続における相続人は相次相続控除を適用できないというわけです。
一次相続で相続税の納税をしたかどうかが重要となることを把握しておきましょう。
それでは、相次相続控除の計算方法と、実際に数字を当てはめてみたシミュレーションをみていきましょう。
相次相続控除の控除額は、一次相続で課税された相続税を1年間に10%ずつ減らした金額です。
【相次相続控除の計算式】

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相次相続控除額=A×C/(B-A)×D/C×(10-E)/10 |
イメージをしやすくするために数字を当てはめて説明します。
今回のケースでは、祖父と父で4年6ヵ月の間に相次相続が起こったと仮定しましょう。
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1,300万×1億/(8,000万-1,300万)×4,000万/1億×(10-5年)/10 =388万0597円 |
計算の結果、388万0597円が相次相続控除額となるため、この金額を相続税額から控除することができます。
本来の純資産4,000万円を相続する場合の相続税は600万円ですが、ここから388万0597円を差し引いた211万9,403円が今回の相続で支払うべき相続税です。
また、こちらの計算式を見ていただいてわかる通り、二次相続までの年数が短ければ短いほど控除額が大きくなる特徴があります。
相次相続控除を適用するには、通常の相続税申告の手続きの中で申請をおこないます。
相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内におこなわなければいけません。
期限内に、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署へ、相続税申告書と必要書類一式を提出してください。
相次相続控除を受けるための申請期限も、相続税の申告期限と同じです。
期限を過ぎてしまうと、延滞税などのペナルティが発生するだけでなく、適用できるはずの控除が受けられなくなる可能性もあります。
短期間に相続が続き、精神的にも時間的にも余裕がない状況の人もいるでしょうが、期限をしっかりと意識し、計画的に準備を進めることが非常に重要です。
相次相続控除を申請するには、前回の相続税申告で提出する書類一式に加えて、相次相続控除の適用するための書類を添付する必要があります。
具体的にどのような書類が必要になるのか、ひとつずつ見ていきましょう。
相次相続控除額の計算書(第7表)は、控除額を具体的に計算するための書類です。
一次相続で課税された相続税額や、その時に取得した財産の価額など、計算に必要な情報は、前回の相続税申告書の控えから転記します。
税額控除額及び納税猶予税額の内訳書(第8の8表)は、相次相続控除を含め、適用する全ての税額控除をまとめて記載するための書類です。
相続税の申告では、相次相続控除のほかにも障害者控除や未成年者控除など、複数の税額控除を併用するケースが少なくありません。
この書類は、複数の控除額や納税猶予税額の内訳を一覧で整理し、税務署に明確に伝える役割を果たします。
前回の相続税申告書の中で以下の書類のコピーも添付する必要があります。
第11表の2と第14表については、相続内容によっては必要ない場合もあります。
あなたの相続で必要になるかどうかは必ず税理士や専門家に相談してください。

相次相続控除は節税効果が期待できる制度ですが、適用する前に把握しておくべき注意点が6つあります。
ひとつずつ解説していきます。
今回の相続で被相続人となる人が、一次相続で相続税を支払っていないケースでは、相次相続控除は受けられません。
夫婦間の相続では、配偶者の税額の軽減特例を利用するケースが多いですが、この制度を利用して一次相続の相続税の納税をしていない場合があります。
この場合、相次相続控除が利用できなくなるので注意してください。
一次相続時の申告書の控えで「納付税額」の欄に具体的な金額が記載されているかを確認すれば、相次相続控除が使えるかどうかを判断できます。
相次相続控除によって算出された控除額の総額は、相続人の間で自由に分配することはできません。
控除額は、各相続人が取得した財産の価額に応じて、法律で定められた計算方法に基づき自動的に按分されます。
「長男の相続税負担が大きいから、控除額は全て長男に適用したい」といった調整は認められないことに留意してください。
相続税の申告期限までに、遺産分割協議がまとまらないケースは少なくありません。
しかし、遺産が未分割の状態であっても、相次相続控除を適用して申告することが可能です。
申告期限までに分割が間に合わない場合、相続人はいったん法定相続分で財産を取得したものと仮定して相続税額を計算し、申告と納税をおこないます。
申告の際に、相次相続控除を適用することができ、控除額も法定相続分で按分して計算することが可能です。
これを「未分割申告」と呼びます。
申告後に遺産分割協議が成立したら、確定した分割内容に基づいて再度正しい税額を計算し直し、修正申告や払い過ぎた税金の還付請求をおこないます。
申告期限を過ぎるとペナルティが発生するため「分割が決まらないから申告できない」と考えるのではなく、必ず期限内に未分割申告をおこなって、相次相続控除を適用しておきましょう。
交通事故や自然災害などで夫婦などが亡くなり、どちらが先に亡くなったか判明しない場合があります。
このような場合、法律上は同時に死亡したものと推定するため(民法第32条の2)、相次相続控除は適用されません。
相次相続控除は、一次相続、二次相続というように、相続が「連続して」発生することが前提です。
しかし、同時死亡と推定されると、亡くなった方々の間では互いに相続は発生しなかったものとして扱われます。
過去10年以内の相次いだ相続で、相次相続控除の適用条件に該当する場合のみ使える制度であることを理解しておきましょう。
相続税の申告時に相次相続控除の存在を知らずに適用を忘れてしまったり、計算を誤ってしまったりした場合でも、すぐに諦める必要はありません。
法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって払い過ぎた税金の返還を求められます。
例えば、申告期限が2024年8月10日だった場合、2029年8月10日まで請求可能です。
また相続税を過少申告していた際に、修正申告をする場合でも相次相続控除は適用できます。
「うちの相続はもう終わってしまった」という方も、10年以内に連続して相続が発生していないか、一度確認してみてください。
期限が迫っている場合もあるため、適用できる可能性に気づいたら、速やかに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
相次相続控除を適用した結果、最終的に納めるべき相続税額が0円になることがあります。
通常は相続税額が0円になれば申告不要ですが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用がある場合は、申告が必要です。
申告を怠ると「無申告」とみなされ、後日、無申告加算税などのペナルティが課される恐れがあります。
「納税額が0円だから申告は不要」と自己判断せず、まずは税理士や弁護士に確認することが重要です。
相続税の負担を軽減できる制度は、相次相続控除だけではありません。
相続人の状況や財産の内容によっては、ほかにも複数の税額控除を併用できる可能性があります。
ここでは、相次相続控除以外にも適用できる可能性がある、代表的な税額控除をご紹介します。
配偶者の税額軽減を適用すると、配偶者が相続した財産のうち、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額まで、相続税はかかりません。
ほとんどの場合、この制度を使えば配偶者の相続税は0円になるか、大幅に税の負担を軽減できます。
ただし、納税額を0円にした場合、その後の二次相続では、相次相続控除の適用要件である「一次相続で相続税を納めていること」を満たせなくなります。
相続財産の状況によっては、一次相続のうちに二次相続のことも見据えて、あえて配偶者が一定の相続税を納めることで、将来の相次相続控除の適用を見込む必要もあるでしょう。
未成年者控除は、相続人が18歳未満の未成年者である場合に適用できる税額控除です。
その未成年者が満18歳になるまでの年数1年につき、10万円で計算した額を相続税から控除できます。
なお、控除額がその未成年者本人の相続税額よりも多くて使いきれない場合もあります。
その場合は、残額をその未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引くことも可能です。
ただし、その未成年者が今回の相続以前の相続でも未成年者控除を受けている場合は、控除額が制限される場合もあります。
障害者控除は、相続人が障害者である場合に適用できる税額控除です。
85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者のときは20万円)が障害者控除として、相続税額から差し引かれます。
なお、障害者控除は、扶養控除の適用がない16歳未満の扶養親族がいる方にも適用されます。
海外に財産があり、その国の法令に基づいて所得税に相当する租税(以下、外国所得税)を納付した、あるいは納付する見込みがある場合、外国税額控除の適用を受けられます。
外国所得税に含まれる税は以下の4つです。
- 超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
- 個人の所得またはその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
- 個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
- 個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税
また、外国所得税であっても、外国税額控除の対象にならない税もあるため、注意してください。
控除を適用できるかどうかの判断は、税理士や弁護士に判断してもらうのがおすすめです。
暦年課税に係る税額控除は、生前に贈与した財産を相続財産に持ち戻して計算する際に、すでに支払った贈与税を相続税から差し引いて、二重課税を防げる制度です。
贈与税の額はその年の1月1日から12月31日までに贈与された金額で計算しますが、基礎控除額として110万円は非課税で受贈できます。
しかし、毎年110万円以内の贈与をしていた場合、死亡日からさかのぼって3年間で贈与された財産は相続税の対象となってしまいます。
そこで暦年課税に係る税額控除を適用し、税の負担を軽減するというわけです。
なお、死亡日からさかのぼる期間は「死亡前3年」から「死亡前7年」へと段階的に延長されていく見込みです。
完全に期間が7年となるのは、2031年1月1日以降のため、これから暦年贈与をしようと考えている人は、相続税に詳しい税理士に相談してから進めましょう。
相続時精算課税制度は、原則60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫へ贈与をおこなう際に選択できる制度です。
この制度を利用すると、2,500万円の控除のほか、年間110万円の基礎控除も適用され、2,500万円を超えた分については贈与税がかかります。
しかし、ここで贈与税を納税しておくと、その分を将来発生する相続税から控除できます。
相続時精算課税制度を選択すると、暦年贈与に変更することはできませんが、財産の種類や規模によっては相続税の負担を軽減できるでしょう。
相次相続控除は節税効果が期待できる一方、適用要件の判断や申告書の作成など、知識がなければ難しい手続きが多くあります。
短期間に家族を亡くして心身ともに大変ななか、手続きをミスなく進めるのは難しいでしょう。
もし、ご自身での手続きに少しでも不安を感じたり、より確実な節税を目指したいとお考えなら、相続問題に強い弁護士や税理士への相談をおすすめします。
相次相続控除の適用可否を正確に判断し、複雑な控除額の計算から申告書の作成などを代行してくれます。
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相次相続控除を利用することにより、通常の相続より相続税額を抑えることができますが、適用するには以下の要件を満たす必要があります。
相続税の納付期限に遅れないためにも、手続きに迷ったり相続争いが発生している場合は、早めに税理士や弁護士に相談してください。
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