不動産や未上場株式などを相続する場合は、相続税を手持ち資金から用意する必要があります。
短い期間で相次いで親族が亡くなることを想像すると、相続税の支払いに不安が生じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、要件を満たすことにより「相次相続控除」という制度が利用でき、相続税の負担が減る可能性があります。
ここでは、相次相続控除の要件や手続き方法、具体的な計算方法などを紹介します。
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相次相続とは、10年以内に相続が2回以上おこなわれることです。
たとえば、2010年に父が死亡したとしましょう。
被相続人となる父の財産は配偶者である母や子供たちに相続されます(一次相続)。
その5年後に母が死亡した場合、母の遺産は子供に相続されます(二次相続)。
このように10年以内に続けて2回以上の相続が起きることを相次相続というのです。
また、被相続人が遺言書を作成せずに亡くなった場合は、相続人同士で遺産分割協議をおこない、相続内容を決めます。
相続財産の調査から遺産分割まで数ヵ月かかりますが、遺産分割協議が難航すれば調停や審判に発展し数年間に渡り相続が終了しないケースもあるのです。
遺産分割が終了することなく、相続人の一人が死亡して次の相続が発生することを「数次相続」といいます。
相次相続では、「相次相続控除」という制度を利用できます。
控除の対象になるのは、相続・遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人の相続税額です。
要件を満たすことで、支払うべき相続税の金額から一部控除できるので、税負担を軽減する効果に期待できます。
以下では、相次相続控除が利用できる要件を紹介します。
この制度の適用対象者は、被相続人の相続人に限定されます。
相続の放棄をした人や相続権を失った人がたとえ遺贈により財産を取得しても、この制度は適用されません。
具体的には相続人が相続放棄をして生命保険の保険金だけを取得したケースなどが考えられます。
また、遺言書により相続人以外が財産を相続した場合も相次相続控除の対象にはなりません。
相次相続控除は、一次相続発生から二次相続発生までの期間が10年以内である事も要件です。
二次相続の被相続人が一次相続の相続人であったという事実も必要です。
相次相続控除を受けるためには、一次相続の際に相続税が課せられている必要があります。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となっているため、原則的に3,600万円以上の相続財産がなければ相続税自体発生しません。
相続税基礎控除は2015年に改正され、2015年以前は「5,000万円×1,000万円×法定相続人の数」でした。
一次相続が発生した時期が2015年以前の場合は、6,000万円以上の遺産がなければ相続税は発生していません。
また、配偶者への相続では「配偶者の税額の軽減」という制度があります。
この制度を利用すると1億6,000万円(もしくは法定相続分の範囲内)までは相続税が無税になります。
一次相続で配偶者の税額の軽減を活用し、二次相続の被相続人が相続税の支払いをしていなかった場合には、相続税基礎控除は利用できないので注意です。
相次相続控除での相続税の控除額は、一次相続で課税された相続税を1年間で10%ずつ減らした金額です。
それでは、実際に相次相続控除の計算とそれに付随した計算例を挙げていきましょう。
相次相続控除の課税額は、一次相続で課税された相続税を1年間に10%ずつ減らした金額です。
相次相続控除の計算式
【相次相続控除額=A×C/(B-A)×D/C×(10-E)/10】
A:前回の相続時の相続税課税額
B:前回の相続で取得した純資産価額
C:今回の相続での全て純資産価額(遺贈・相続税課税対象の贈与も含む)
D:今回の相続で取得した純資産価額
※純資産価額とは、相続した財産から債務・葬式費用を控除した額です。
E:前回の相続から今回の相続までの期間(1年未満は切り捨て)
イメージをしやすくするために数字を当てはめて説明します。
今回のケースでは、祖父と父で4年6ヵ月の間に相次相続が起こったと仮定しましょう。
A:前回の相続で父が支払った相続時の相続税課税額 1,300万円
B:前回の祖父から父が相続した純資産価額 8,000万円
C:今回の父の全体の相続税の純資産価額 1億円
D:今回のあなたの相続する純資産価額4,000万円
E:前回の祖父の死亡から今回の父の死亡までの経過年数 4年6ヵ月
1,300万×1億/(8,000万-1,300万)×4,000万/1億×(10-5年)/10 =388万0597円
計算の結果388万0597円が相次相続控除額となりますので、この金額を相続税額から控除することができます。
本来の純資産4,000万円を相続する場合の相続税は600万円ですが、ここから388万0597円を差し引いた211万9,403円が今回の相続で支払うべき相続税です。
また、こちらの計算式を見ていただいてわかる通り、二次相続までの年数が短ければ短いほど控除額が大きくなる特徴があります。
それでは、実際に相次相続控除を申告する手続きを解説します。
相次相続控除は、二次相続以降の相続税申告時におこなわれます。
通常の相続税の申告については以下の記事をご覧ください。
相次相続控除を申告するための書類はシンプルです。
また、相次相続控除の申請にあたり、前回の相続時の書類も一部必要となってきます。
相次相続控除を申告するにあたって特別な書類は、「第7表 相次相続控除額の計算書」です。
相次相続控除の計算式で必要とした金額や期間などを記入します( 「第7表(相次相続控除額の計算書)-国税庁」)。
前回の相続税申告書の中で以下の書類のコピーも添付する必要があります。
この中で、第11表の2と第14表については相続内容によっては必要ない場合もあります。
あなたの相続で必要になるかどうかは必ず税理士や専門家に相談してください。 (【参考】「相続税の申告初頭の様式一覧(平成27年分用)
ここでは、相次相続控除制度を利用する際の注意点を紹介します。
一次相続で、今回の相続で被相続人となる人が相続税を支払っていないケースでは、相次相続控除は受けられません。
夫婦間の相続では、配偶者の税額の軽減特例を利用するケースが多いですが、この制度を利用することにより一次相続で相続税の支払いをしていないと相次相続控除が利用できないので注意が必要です。
相次相続控除の適用額は一次相続で今回の被相続人が相続した遺産額から算出するので、各相続人で適用額の選択はできません。
そのため、相続額が相続人同士異なれば不公平感が生じる可能性があるでしょう。
相続財産が未分割の状態でも相次相続控除は受けられます。
そのため、家族間の遺産分割協議が難航している場合なども相次相続控除の適用を諦める必要はありません。
このような場合では、法定相続割合で相続を分割したと仮定して控除額を算出します。
最後に、相次相続控除以外の税額控除について紹介します。
配偶者の税額の軽減を利用すると、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が1億6千万円または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで相続税はかかりません。
相続人が未成年者の場合は、その未成年者が満20歳になるまでの年数1年につき10万円で計算した額を相続税から控除できます。
障害者として一定の条件を満たす場合は、相続税額からの控除が認められます。
控除額は、その障害者が満85歳になるまでの年数1年に、一般障害者が10万円、特別障害者が20万円を乗じた金額です。
外国の資産を相続し、外国で相続税のような税金を支払っている場合には相続税の控除を受けられます。
贈与税の額はその年の1月1日から12月31日までに贈与された金額で計算しますが、基礎控除額として110万円は非課税で受贈できます。
相続時精算課税制度を利用して贈与をする場合、2,500万円までは非課税ですが、それを超える場合は贈与税を支払います。
このときに支払った贈与税を相続発生時に相続税から差し引くことができます。
相次相続控除を利用することにより、通常の相続より相続税額を抑えることができます。
相次相続控除を利用できる要件は以下の3つです。
夫婦間での相続では、配偶者の税額軽減を利用するなどして一次相続時に相続税の支払いがおこなわれていないことが多いです。
そのため、祖父と父の相続が相次いで発生した場合などに使われることがほとんどでしょう。
相続は手続きや計算が複雑です。
相続税の納付期限に遅れないためにも、手続きに迷ったら早めに税理士へ相談してください。
また、相続争いが発生している場合には弁護士へ相談しましょう。
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