このように、過去に相続をしたものの相続税の申告をしておらず、税務署からも何も言われていない...という方は少なからずいるでしょう。
通常のお金の貸し借りでは、一定期間が経過すると時効で消滅し、支払い義務を免れますが、相続税の場合はどうなるのでしょうか。
本記事では相続税に時効はあるのか、いつまでが時効なのかについて詳しく解説します。
また、相続税を申告しないことによるデメリットも説明するので「申告していないけど、大丈夫かな」と不安な方は、ぜひ参考にしてください。
まずは、相続税の時効について法律でどのように定められているか確認しましょう。
借金など、通常の金銭の貸し借りについての時効は民法によって定められていますが、一方で、相続税をはじめとする国税の請求権については国税通則法という法律に基づいて定められています。
国税である相続税にも時効の制度は存在するのですが、国税通則法に従った要件によって時効にかかることを覚えておきましょう。
相続税の時効と同時に確認しておくべきなのが、相続税を課す権利である賦課権です。
賦課とは税金の負担を決定することをいい、相続税の場合は相続税の負担額が決定されることを指します。
相続税の賦課権には、除斥期間が規定されており、除斥期間にかかると相続税を課税することはできなくなります。
相続税の賦課権の除斥期間は次のとおりです。
この期間を経過すると相続税の賦課権が消滅し、相続税を免れることになります。
相続税の賦課権は原則として申告期限から5年で除斥期間にかかります。
除斥期間とは、権利を行使しないと権利消滅するまでの期間のことをいいます。
この期間に国税通則法第32条に規定されている賦課決定をおこなわなければ、相続税の賦課ができなくなります。
なお、除斥期間は時効のように更新・完成猶予の制度がありません。
5年の除斥期間の例外として、不正行為などによって全部もしくは一部の税額を免れた場合には、除斥期間が7年とされます。
書類の改ざんや偽造などをおこなったり、相続財産を隠す、架空の債務を作るなどの積極的に相続税を回避するような行為があると、除斥期間は7年となると覚えておきましょう。
なお、単に相続税の申告義務があることを知らなかったような場合には通常通り除斥期間は5年となります。
相続税の賦課決定がおこなわれると実際に相続税を徴収することになりますが、この「徴収権」にも時効が存在します。
それぞれについて、以下で詳しく見ていきましょう。
法定納期限もしくは賦課決定から5年が経過すると、相続税の徴収権は時効になります。
仮に賦課決定が相続開始から4年6ヵ月でおこなわれたとすると、相続開始から9年6ヵ月で時効にかかることになります。
相続税の時効に関しては、援用をする必要がありません。
時効の援用とは、時効の利益を受けることを相手に主張することをいい、通常の民法の原則では時効が成立するためには援用をすることが要件となっています。
しかし、相続税に関しては画一的な処理をするために、援用は不要としています。
相続税の徴収権については時効にかかるので、更新・完成猶予の制度があります。
たとえば、国が督促や差押えをおこなうと、時効が更新されます。
なお、国税の場合は容易に差押えができるので、時効の更新がしやすく、基本的には永遠に時効にかからないと考えておくべきでしょう。
そもそも相続税は申告をしなければなりません。
では、相続税の申告をしなければ、税務署にバレず、賦課決定や督促などもおこなわれず、そのまま時効にかかるのではないのでしょうか。
結論から言うと、税務署は人が亡くなって相続が発生していることの通知を受け、銀行口座を調査することができるため税務署にバレるのがほとんどです。
相続税の申告期限を過ぎても何も連絡がないからといって、税務署にバレていないということはまずないので、速やかに申告手続きをおこないましょう。
まず、人が亡くなったことを税務署は把握しています。
人が死亡すると遺族は死亡届を市区町村役場に提出し、死亡届が提出されたことは市区町村から国税庁に通知されることになっています。
過去の所得税の確定申告などの情報も、KSK(国税総合管理)システムで共有しているため、無申告・過少申告がありそうなときには税務調査を実施することになるでしょう。
税務署は金融機関に取引照会という調査をおこなう権利を持っており、被相続人や相続人・家族などの口座の情報を取得することができます。
預金残高や入出金の履歴を確認すれば、財産の取得状況を確認可能です。
相続人の口座に入金しておくいわゆる名義預金や、現金のまま自宅で保管しておくタンス預金は見逃されることなく調査されると考えておきましょう。
相続税を支払わない場合のペナルティには次のようなものがあります。
相続税の申告を申告期限までにおこなわなかった無申告の場合、無申告加算税が課されます。
無申告加算税の税率は、次のような区分となっています。
相続税額 |
税務調査前に自主的に申告した場合 |
税務署からの調査の事前通知の後に期限後申告をした場合 |
税務署の調査を受けた後に期限後申告をした場合 |
50万円以内 |
5% |
10% |
15% |
50万円を超える部分 |
15% |
20% |
|
300万円を超える部分 (※令和6年1月1日以後に申告期限が到来するもの) |
25% |
30% |
申告自体はおこなっていても、本来の相続税の額よりも少なく申告した場合は、過少申告加算税が課されます。
過少申告加算税は、次の区分で加算がされます。
相続税額 |
税務調査前に自主的に申告した場合 |
税務署からの調査の事前通知の後に期限後申告をした場合 |
税務署の調査を受けた後に期限後申告をした場合 |
50万円以内 |
加算なし |
5% |
10% |
50万円を超える部分 |
10% |
15% |
相続税の申告にあたって、事実を隠ぺい・仮装した場合に無申告加算税・過少申告加算税に代わって課されるのが重加算税です。
重加算税は申告書を提出している、していないによって以下のように計算されます。
申告期限までに申告書を提出している |
35% |
申告期限までに申告書を提出していない |
40% |
さらに次の事情があると、さらに10%の税率が加算されます。
相続税の支払いを延滞していることに対しては、延滞税の支払いが必要です。
延滞税の税率は原則として次の区分となっています。
もっとも、上記の税率は現在の金利と乖離が著しく、特例によって次のように調整されます。
上記の特例は令和4年1月1日から令和7年12月31日までの特例で、金利によって税率が変わることがあるので注意しましょう。
相続税の未申告・未払いが悪質だと判断された場合、刑事罰が課される可能性があります。
実際に2017年8月18日、過少申告によって1億7,676万円余りを脱税した人が、名古屋地方裁判所より懲役1年6カ月、執行猶予3年、罰金2,500万円の判決を受けています。
相続税法第68条は、偽りその他不正の行為により相続税を免れた人に対して、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金刑を規定しています。
相続税額または贈与税額が1,000万円を超えるときは罰金刑は1,000万円を超え、その免れた相続税額または贈与税額に相当する金額以下に増額することもできます。
相続税を免れようとする行為は、刑事罰をも招く可能性があることに注意が必要です。
本記事では相続税の時効について解説しました。
相続税の徴収権については時効により消滅しうるほか、相続税の賦課権については除斥期間という別の法的な制度によって消滅しえます。
しかし、税務者が持つ調査限や、時効の更新などによって、相続税は実際に時効にかかることはまずありません。
むしろ、無申告加算税・過少申告加算税・延滞税が付加されて支払う必要があり、あまりにも悪質であれば重加算税・刑事罰ともなりえます。
ペナルティを避けるためにも、相続税の申告が済んでいない方はすぐにでも申告をおこないましょう。
手続き方法がわからない方は、弁護士や税理士に相談することも検討してください。
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