相続税には、障害者控除という制度があります。
障害者のなかには、経済力が乏しくて、親族が亡くなった際に相続財産に頼らざるをえない場合もあります。
そのような人を救済するためにも、相続税には障害者控除が設けられています。
この記事では、相続税の障害者控除を受けるための条件や、控除額の計算方法、申請方法などについて解説します。
相続税の障害者控除とは、相続や遺贈で財産を取得した相続人が障害者の場合、相続税の金額から一定額が控除される制度のことです。
障害者控除は、障害者に対する相続税の負担が大きくならないように抑えることを目的としています。
障害者控除を受けるには、次の4つの条件を満たす必要があります。
相続とは、「被相続人の死亡によって被相続人が有していた財産を相続人が引き継ぐこと」です。
被相続人の財産を引き継ぐ人のことを相続人といい、相続人になれる人は民法にて規定されています。
ちなみに、民法で規定されている相続人のことは法定相続人といいます。
一方、遺贈とは「被相続人が作成した遺言書の内容に従って財産を引き継ぐこと」です。
遺贈は法定相続人以外にも有効ですが、障害者控除は法定相続人に対する遺贈でなければ適用されません。
遺贈の効力は、遺言者である被相続人の死亡時から発生します。
相続人である障害者が財産を取得した時点で、日本国内に住所を有している必要があります。
なお、財産を取得した時点とは、被相続人が死亡して相続・遺贈の効力が発生したときではなく「遺産分割協議が完了したとき」のことをいいます。
もっとも、財産を取得した時点で日本国内に住所がなくても、次の2点に該当する場合は障害者控除を受けることができます。
相続税における障害者については「一般障害者」と「特別障害者」の2種類に分類されます。
特別障害者のほうが障害の程度が重たく、「相続税の障害者控除額と計算方法」で後述するように控除額も大きくなります。
一般障害者と特別障害者の該当条件は以下のとおりです。
|
一般障害者 |
特別障害者 |
① |
ー |
精神上の理由によって、事理弁識能力(物事を理解して意思表示できる能力)を欠く状態にある人 |
② |
・知的障害者更生施設 ・精神保健福祉センター ・精神保健指定医 ・児童相談所の判定 上記によって知的障害者と判定された人 |
左のうち、重度の知的障害者と判定された |
③ |
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定で、精神障害者保健福祉手帳の交付がされている人 |
左のうち、障害等級が1級と記載されている人 |
④ |
身体障害者福祉法の規定で交付されている身体障害者手帳に「身体上の障害がある人」と記載されている人 |
左のうち、障害等級が1級および2級と記載されている人 |
⑤ |
身体または精神に障害のある65歳以上の人で、障害の程度が①・②・④に準ずるとして、市町村長や福祉事務所長の認定を受けている人 |
左のうち、特別障害者に準ずるとして市町村長や福祉事務所長の認定を受けている人 |
⑥ |
戦傷病者特別援護法の規定で、戦傷病者手帳が交付されている人 |
左のうち、障害の程度が恩給法での特別項症~第3項症の人 |
⑦ |
ー |
原子爆弾被害者に対する援護に関する法律の規定で、厚生労働大臣の認定を受けている人 |
法定相続人とは「民法で相続人になることが規定されている人」のことです。
相続では法定相続人が財産を引き継ぎ、その法定相続人が障害者の場合は障害者控除を受けることができます。
一方、遺贈によって法定相続人以外の人でも財産を引き継ぐことはできますが、その人が障害者の場合でも障害者控除を受けることはできません。
ここでは、障害者控除の控除額について解説します。
一般障害者と特別障害者では、それぞれ控除額が異なります。
一般障害者は1年10万円、特別障害者は1年20万円として計算します。
障害者控除の控除額を計算する際は、上記の金額に対象者が85歳になるまでの年数を掛けます。
1年未満の期間については、切り上げて計算します。
たとえば「25歳8ヵ月のAが相続税の障害者控除を受ける」とすると、控除額は以下のように計算します。
なかには、障害者控除によって対象者である障害者の相続税額を超えることもあります。
そのような場合は、障害者の扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。
なお、扶養義務者は配偶者・直系血族・兄弟姉妹・3親等内の親族にかぎられます。
たとえば、上記のケースでのAが一般障害者だと仮定して、「扶養義務者:B(Aの弟)、相続税:A200万円・B500万円」とします。
この場合、障害者控除を使うことで以下のように相続税を減らすことができます。
インターネット上には、相続税の障害者控除について解説するサイトが多くありますが、なかには「一般障害者は6万円、特別障害者は12万円」「障害者が65歳になるまでの年数を掛ける」などと書かれているサイトもあります。
どの情報が正しいのか困惑する人もいるかもしれませんが、上記のような記載は2015年以前の障害者控除であり、現在のものとは異なります。
現在では税制改正によって控除額などが変更されているので、間違えないように注意してください。
ここでは、相続税の障害者控除の申請方法を解説します。
障害者控除を申請するには、相続税の申請時に申請書を添付します。
申請書は、国税庁ホームページの「表6 未成年者控除額・障害者控除額の計算書」からダウンロードできます。
申請時は、さらに障害者手帳などの障害者であることを証明するものが必要です。
「障害者控除額の計算書」は以下のような書類で、各項目の記載方法は以下のとおりです。
上記のA・Bの例を用いると、それぞれの番号に該当する部分は以下のとおりです。
ここでは、障害者控除に関するよくある質問について解説します。
障害者該当の判断時期は、相続開始日である「被相続人が死亡した日」です。
また、相続開始日に身体障害者手帳などの交付を受けていない方でも、相続税の申告書を提出するまでに交付を受けた場合や、交付申請中で一定の要件を満たしている場合なども障害者として判断されます。
障害者控除の適用後に課税対象額が基礎控除以下になる場合、相続税の申告は不要です。
なお、配偶者控除や小規模宅地等の特例などの適用により相続税が0円になる場合でも、適用を受けるためには申告が必要です。
要介護認定を受けているだけでは、障害者控除を受けることはできません。
ただし、住んでいる市区町村役場にて「障害者控除対象者認定書」の交付申請をおこない、一定の要件を満たして交付を受けることができれば、障害者控除を受けることができます。
相続税について障害者控除を受けることができれば、税負担が軽減されて0円になることもあります。
場合によっては、扶養義務者の相続税が軽減されることもあり、適用条件に当てはまる場合は積極的に活用しましょう。
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