贈与税は申告納税方式になっているので、税額計算と申告書の作成は自分で対応しなければなりません。
また、贈与税の計算方法はあまり知られていないため、子どもや孫などに生前贈与するときは、以下のような疑問も生じるでしょう。
贈与税の税率などは「贈与税の速算表」をみるとわかるので、誰でも贈与税を計算できるようになります。
基礎控除や特例贈与を活用すると、非課税贈与が可能になるでしょう。
ここでは、贈与税の速算表の見方や、贈与税の計算方法などをわかりやすく解説していきます。
贈与税は超過累進課税方式なので、贈与額に応じた税率が段階的に適用されます。
たとえば、最高税率55%が適用される3,000万円超の贈与があった場合、200万円までは税率10%、200万円超~300万円までは15%など、8段階の計算が必要です。
かなり非効率な計算になるため、国税庁では贈与税の速算表を公開しており、贈与税の計算を簡略化しています。
速算表を使うとスピーディに贈与税を計算できるので、以下を参考にしてください。
贈与を受ける子どもや孫が18歳未満のときは、一般贈与税率が適用されるため、以下の速算表で税率などを確認します。
基礎控除後の課税価格 |
200万円以下 |
300万円以下 |
400万円以下 |
600万円以下 |
1,000万円以下 |
1,500万円以下 |
3,000万円以下 |
3,000万円超 |
税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
控除額 |
‐ |
10万円 |
25万円 |
65万円 |
125万円 |
175万円 |
250万円 |
400万円 |
贈与税の計算式は「課税価格×税率」ですが、課税価格が3,000万円を超えると、200万円以下の部分から3,000万円超まで8段階で計算し、すべて合計しなければ税額がわかりません。
しかし、「課税価格×税率」から速算表の控除額を差し引くと、1回の計算で贈与税がわかる仕組みになっています。
なお、贈与税の速算表にある「基礎控除後の課税価格」とは、贈与税がかかる部分の価格を指しており、後述する基礎控除を差し引いて計算します。
贈与を受けた年の1月1日時点で、受贈者となる子どもや孫が18歳以上だったときは、以下の速算表で課税価格に応じた特例税率などを確認します。
基礎控除後の課税価格 |
200万円以下 |
400万円以下 |
600万円以下 |
1,000万円以下 |
1,500万円以下 |
3,000万円以下 |
4,500万円以下 |
4,500万円超 |
税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
控除額 |
‐ |
10万円 |
30万円 |
90万円 |
190万円 |
265万円 |
415万円 |
640万円 |
速算表の見方は一般贈与財産用と同じですが、贈与税の計算は1,000未満を切り捨てるので、課税価格が300万1,000円以上になると、税率が一般贈与税率よりも低くなります。
贈与税がかかるケースは、贈与額が基礎控除を超えており、贈与契約が成立している場合です。
具体的には以下のような条件になりますが、当事者が贈与だと認識していない「みなし贈与」に注意してください。
贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、1年間の贈与が110万円を超えた場合のみ課税されます。
また、1年間の贈与が110万円を超えた場合、全額が課税対象になるわけではなく、基礎控除を超えた部分の課税価格のみ贈与税がかかります。
なお、贈与税は財産を受け取った受贈者に課税されるので、同じ年に父親から100万円、母親から50万円の贈与を受けると、基礎控除を超えるので注意してください。
贈与税は基礎控除を超えたときにかかりますが、贈与契約が成立していることも条件になります。
基礎控除を超える場合は必ず贈与税申告をおこなってください。
一般的な贈与は現金や預貯金、不動産などの移転ですが、みなし贈与が基礎控除を超えたときも贈与税がかかります。
現金などの現物を贈与していなくても、以下のように経済的利益が発生したときは贈与とみなされ、贈与税の課税対象になります。
たとえば、子どもの借金が300万円残っており、親が全額を肩代わりした場合、子どもは300万円の贈与を受けたことと同じ状況になります。
また、親子が2分の1ずつ出資して不動産を購入し、親の共有持分を4分の1、子どもを4分の3に設置すると、持分割合2分の1が親から子どもへの贈与とみなされます。
みなし贈与は当事者が気付いていないケースが多く、贈与税の計算から漏れやすいので注意してください。
贈与税の速算表を使うと簡単に税額を計算できるので、200万円と1,000万円の贈与について、贈与税がいくらになるかシミュレーションしてみます。
子どもの独立開業資金や孫のマイカー購入資金など、100万円や1,000万円単位の贈与を予定している方は、ぜひ参考にしてください。
200万円を贈与したときの贈与税がいくらになるか、贈与税の速算表を使ってシミュレーションしてみましょう。
【一般贈与税率の場合】
【特例贈与税率の場合】
200万円を贈与した場合、一般贈与税率・特例贈与税率ともに10%の税率が適用されるので、贈与税はどちらも9万円になりました。
つまり、贈与額が200万円であれば、贈与税は受贈者の年齢に影響されないということです。
では次に、1,000万円を贈与したときの贈与税がいくらになるか、以下の2パターンを計算してみます。
【一般贈与税率の場合】
【特例贈与税率の場合】
1,000万円を贈与したときは適用税率が変わるため、受贈者が18歳に達しているかどうかで贈与税に54万円の差額が生じます。
高額な財産を贈与する場合、贈与する年の1月1日時点で18歳に達していれば、節税効果は大きくなるでしょう。
贈与税の課税方式には以下の2パターンがあるので、目的に応じて選択しましょう。
暦年課税制度とは、必要に応じて贈与をおこない、その都度贈与税を申告する課税方式です。
ただし、暦年課税制度には年間110万円の基礎控除があるので、受贈者が1年間で受け取った財産が110万円以下であれば、贈与税の申告・納税は不要です。
なお、基礎控除以下の贈与で非課税になる場合でも、贈与契約書は作成しておいたほうがよいでしょう。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母が18歳以上の子どもや孫に贈与する場合、最大2,500万円の特別控除を適用できる制度です。
2,500万円を超える贈与には課税されますが、いくら贈与しても一律20%の税率が適用されるため、高額な財産を贈与するときには有利でしょう。
ただし、相続時精算課税制度には以下の特徴があるので、活用するときは十分な検討が必要です。
相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度には戻せないので注意してください。
なお、令和6年1月1日以降は110万円の基礎控除が新設されるので、暦年課税制度と併用できないデメリットはある程度解消されます。
贈与税が発生するときは、定められた時期に申告・納税が必要です。
期限後の申告や無申告にはペナルティがあるので、以下の申告方法を参考にしてください。
基礎控除を超える贈与があったときは、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日の間に申告・納税が必要です。
申告先は受贈者の住所地を管轄する税務署になるので、住所や連絡先がわからないときは国税庁ホームページを参照してください。
なお、期限後の申告や無申告、過少申告したときは以下の追徴課税があります。
贈与税の無申告が意図的な脱税とみなされた場合、最高税率50%の重加算税が発生するので注意してください。
また、相続時精算課税制度を選択しているときは、1万円などの少額贈与であっても申告が必要です。
贈与税を申告するときは、以下の必要書類を管轄税務署に提出します。
【共通書類】
【暦年課税制度で贈与した場合】
【相続時精算課税制度で贈与した場合】
必用書類は郵送提出やe-Taxによる電子申告でも提出できますが、申告が初めての方は窓口提出をおすすめします。
また、贈与税申告書は税務署の窓口、または国税庁ホームページで入手できます。
受贈者の税負担を軽くしたいときは、以下の方法を参考にしてください。
子どもや孫に金銭などを渡しても、扶養義務の範囲となる生活費や教育費などは贈与税がかかりません。
ただし、受贈者が生活費や教育費として使わず、ギャンブルや貯蓄、車の購入費などに充てていたときは、贈与税の課税対象になるので注意してください。
暦年課税制度の基礎控除以内、または相続時精算課税制度の特別控除額以内で贈与すると、贈与税はかかりません。
暦年課税制度の基礎控除は毎年の贈与に適用できるので、110万円の贈与を10年間繰り返すと、1,100万円を非課税贈与できます。
贈与税には以下の特例措置があるので、子どもや孫への贈与、または配偶者への贈与は一定額まで非課税になります。
特例贈与は要件が複雑になっており、非課税贈与でも申告だけは必要になるケースがあるので、検討する際には弁護士や税理士に相談しておくとよいでしょう。
家族信託で財産の管理・運用権限を親族に託すと、形式上には財産の移転になりますが、基本的に贈与税はかかりません。
たとえば、賃貸物件のオーナーである父親が委託者兼受益者となり、子どもを受託者として賃貸物件の管理・運用を任せたとしても、子どもが利益を得るわけではありません。
このような信託形態を自益信託といい、子どもは登記上の所有者に過ぎないため、贈与には該当しないことになっています。
家族信託はアパートオーナーなどの認知症対策に活用されていますが、仕組みがわかりにくいので、詳しく知りたい方は弁護士に相談してください。
子どもや孫へ贈与するときは、以下の点に注意してください。
贈与契約は口約束でも成立しますが、書面が無ければ第三者に証明できないので、必ず贈与契約書を作成してください。
贈与契約書に以下の内容を記載しておけば、贈与であったことを確実に証明できます。
贈与税や相続税など、申告納税方式の税金は脱税が起きやすく、税務署も厳重にチェックしているので、基礎控除以下の贈与であっても贈与契約書の作成をおすすめします。
現金を贈与するときは、銀行振込を利用して証拠が残るようにしてください。
銀行振込にすると、振込人の氏名や振込日、入金額が通帳に印字されるので、贈与契約書どおりに贈与であったことを第三者にも証明できます。
贈与した時期が相続開始前3年以内だった場合、贈与額を相続財産に加算する3年ルールが適用されます。
基礎控除以下で贈与していた場合でも、贈与者が亡くなったときには相続財産に加算するので、相続税の課税対象になってしまいます。
また、相続財産に加算する3年ルールは7年に延長されることが決定しており、2024年1月1日から段階的に適用されるので注意してください。
相続税対策として贈与を検討している方は、できるだけ早いタイミングで贈与したほうがよいでしょう。
暦年課税制度の基礎控除以下で贈与するときは、定期贈与に注意してください。
定期贈与とは、最初からまとまった財産を渡す予定があり、贈与税を逃れるために分割して贈与する行為です。
たとえば、毎年100万円を同じ日に贈与していた場合、税務署が定期贈与を指摘する可能性があるでしょう。
定期贈与と判定された場合、贈与した財産全額が課税対象になるので要注意です。
名義預金とは、贈与者が受贈者の名義を借りている状態の預金です。
金融機関では借名預金と呼ばれることもあり、以下のようなケースが名義預金に該当します。
名義預金に違法性はありませんが、実質的な預金者が亡くなったときは、本人の相続財産にカウントされます。
名義預金は税務調査の対象になりやすいので、口座の名義人に通帳や印鑑を渡す、または実質的な預金者に返金するなど、早めに解消しておくとよいでしょう。
不動産や株式を贈与するときは、贈与時の評価額で贈与税を計算します。
評価額計算を間違えると、贈与税の納め過ぎや過少申告が発生するので、土地・建物や株式を贈与するときは、弁護士や税理士などの専門家に評価してもらいましょう。
税務署は過少申告を厳しくチェックしていますが、過大申告を指摘することはほとんどありません。
生前贈与によって子どもや孫に財産を移転させると、贈与者の財産が減少するため、有効な相続税対策になります。
ただし万が一贈与税が発生した場合は受贈者に納税義務があるため、速算表の見方や贈与税の計算方法は、双方が理解しておく必要があるでしょう。
贈与税の計算や申告書の作成に不安があるときは、弁護士や税理士などの専門家に相談してください。
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