他者に財産を受け継ぐ方法のひとつに「贈与」が挙げられます。
そして、贈与がおこなわれる際に問題になるのが贈与税です。
特にマンションは財産としての価値が高額になりやすいので、贈与税の負担が大きくなるケースも少なくありません。
しかし、税制度は複雑で理解しにくい部分も多いため、「そもそもどのようなケースで贈与税が課せられるのか」「どのくらい納税しなければならないのか」など、疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、マンションの贈与にかかる贈与税について解説します。
まずは、前提知識として、そもそも贈与とは何を指すのか詳しく見ていきましょう。
贈与とは、特例の人物に財産を無償で引き継ぐ手続きのことを指します。
一般的に、財産は被相続人の死後に「相続」の形で引き継がれますが、生前に贈与すれば相続を前倒しで実行できます。
贈与できる財産には基本的に制限がなく、法定相続人以外に財産を引き継ぐこともできます。
贈与がおこなわれる際には、贈与税の問題を慎重に取り扱わなければなりません。
贈与税とは、贈与によって取得した財産に対して課せられる税金のことです。
生前に財産の引き継ぎを済ませることで、相続税から逃れようとする行為を防ぐ役割があります。
基本的には、贈与の対象となる財産の価値が高いほど、贈与税も高額になります。
ただし、贈与税の算出にあたっては各種控除が適用されるため、正確な金額を把握することは簡単ではありません。
贈与税の申告・納税に不備があるとペナルティを受けるおそれもあるので、最低限の知識を身につけたうえで、専門家のアドバイスを受けることが大切です。
ここでは、マンションの贈与に際して、贈与税の申告・納税が必要になるケースを紹介します。
マンションを無償でもらった場合は、原則として贈与税の申告・納税が必要です。
生前贈与は、基本的にこのパターンに該当します。
マンションの多くは、贈与税の基礎控除額110万円を超える価値を持ちます。
そのため、特例が適用されるケースなどを除いて、基礎控除額を上回る部分に対しては贈与税が課せられることになるでしょう。
単にマンションの名義を変更したという場合も、贈与税が生じます。
名義変更は、不動産の所有権を正式に移転させるための手続きです。
つまり、名義変更によって新たな名義人となった人物は不動産の所有者となり、それは資産の増加を意味します。
そのため、マンションの名義を変更したということは、元の名義人から新しい名義人に対するマンションを贈与とみなされ、贈与税が課税されてしまうのです。
マンションを著しく低い価額で購入した場合も、贈与税の申告・納税が必要になることがあります。
売買価格と時価に大きな差があるときは、贈与とみなされ、差額に対して贈与税が課せられることになっているためです。
例えば、市場価値が1,500万円するマンションを100万円で購入したとします。
この場合、形式上は売買契約でも、実務上は1,400万円分を贈与されたことになってしまいます。
「著しく低い価額」は明確に定義されていませんが、目安としては、時価の8割未満で売買した場合に贈与税の対象となる可能性が出てきます。
マンションの購入資金やリフォーム代をもらった場合も、原則として贈与税が課せられます。
本来、マンションの購入資金やリフォーム代は、所有者自身が支払うべきものです。
親や親族に援助してもらった場合は、その分経済的な負担が軽くなり、実質的に資産が増えることになるので、税金の支払いが求められます。
マンションを買った際の住宅ローンを肩代わりしてもらった場合、贈与税の申告・納税が必要です。
ローンの肩代わりは、金銭の贈与と同じことなので贈与税の対象になります。
親などが金融機関に直接弁済し、自分自身は金銭を受け取っていない場合でも、基本的には贈与とみなされ、贈与税が生じるので注意してください。
贈与税の計算にあたっては、「暦年課税」もしくは「相続時精算課税」の課税制度を適用します。
暦年課税は、相続時精算課税の対象にならない場合や、あえて選択しなかった場合に採用される課税制度です。
相続時精算課税は、60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫が贈与された場合に採用される課税制度です。
いずれにしても、以下のステップに沿ってマンションの評価額を算出し、既定の税率を乗じて贈与税を求めることになります。
では、一つひとつのステップを詳しく見ていきましょう。
まずは、不動産登記簿謄本と固定資産評価証明書を取得します。
不動産登記簿謄本と固定資産評価証明書は、マンションの評価額を計算するための資料として欠かせません。
不動産登記簿謄本とは、マンションなどの不動産の権利関係について記載したものです。
主に、自身が所有している土地の割合を確認するために使用します。
法務局に対して、窓口・郵送・オンラインのいずれかで申請すれば取得できます。
固定資産評価証明書は、課税対象となっている不動産の評価額を証明する書類です。
マンションが存在する市区町村役場や都税事務所で取得できます。
なお、「固定資産税評価額」が確認できるものであれば、固定資産税納税通知書や名寄帳などでも問題ありません。
次にマンションの評価を計算します。
建物と土地で計算方法が異なるので、それぞれ詳しく見ていきましょう。
建物の評価額は以下の計算式で算出します。
固定資産税評価額は、固定資産評価証明書などで確認してください。
区分所有補正率は、区分マンションを贈与された場合に考慮しなければならないものです。
マンションの評価額が市場価額よりも大幅に低くなり、節税対策になることを防ぐために2024年から導入されました。
区分所有補正率の算出方法は国税庁が解説していますが、非常に複雑です。
そのため、贈与税を算出する際は、区分所有補正率の取り扱い方も含めて、専門家にサポートを求めるようにしましょう。
建物の評価額は、路線価方式もしくは倍率方式で算出します。
路線価方式と倍率方式のどちらを適用するかはエリアごとに決められているので、国税庁のホームページで確認してください。
マンション全体の敷地面積や持分割合は、全部事項証明書などに記載されています。
最後に、贈与税額を計算します。
上述のとおり、暦年課税と相続時精算課税のどちらを採用するかによって、計算式が異なります。
暦年課税の贈与税率は、父母・祖父母などの直系尊属から18歳以上の子・孫に対して贈与された場合に用いる「特別税率」と、それ以外の「一般税率」に分かれています。
基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
200万円以下 |
10% |
0円 |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
3,000万円超 |
55% |
400万円 |
基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
200万円以下 |
10% |
0円 |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
600万円以下 |
20% |
30万円 |
1,000万円以下 |
30% |
90万円 |
1,500万円以下 |
40% |
190万円 |
3,000万円以下 |
45% |
265万円 |
4,500万円以下 |
50% |
415万円 |
4,500万円超 |
55% |
640万円 |
相続時精算課税制度では、年間110万円の基礎控除を除いた贈与額が、累計で特別控除額2,500万円を超えるまで非課税になります。
ただし、年間110万円の基礎控除を超える贈与をおこなった場合は、超過部分が相続財産に加算され、相続税の課税対象となる点に注意しておきましょう。
暦年課税の場合は、相続開始前7年間で受け取った贈与財産が原則相続財産に加算されます。
マンションは評価額が高額になりやすいので、贈与時に大きな税負担が生じることも少なくありません。
しかし、贈与税にはいくつかの特例があり、うまく活用すれば贈与税額を抑えることができます。
ここでは、マンションの生前贈与で利用できる贈与税の特例を詳しく見ていきましょう。
相続時精算課税制度を活用すれば、贈与税の負担を抑えられる可能性があります。
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子・孫が生前贈与を受ける場合に選択できる制度です。
年間110万円の基礎控除を受けたうえで、累計の贈与額が2,500万円に達するまでは贈与税がかかりません。
マンションをはじめとした高額な財産が贈与された場合には、暦年課税よりも税負担を抑えやすくなります。
なお、相続時精算課税制度を利用する際には、税務署に対する届出が必要です。
一度届出をおこなうと、同じ人物からの贈与に関しては、暦年課税制度を適用できなくなるので注意してください。
夫婦間でマンションを贈与する場合には、「おしどり贈与」を活用できるかもしれません。
「おしどり贈与」とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用の不動産や「居住用の不動産を取得するための金銭」の贈与がおこなわれた場合に適用できる特例です。
基礎控除110万円に加えて、最大2,000万円までの控除を受けることができます。
なお、おしどり贈与の対象は居住用の不動産であり、贈与を受けた配偶者が引き続き居住することが適用条件とされている点に注意が必要です。
直系尊属から贈与された住宅取得資金・リフォーム資金などは、特例の利用により省エネ住宅で最大1,000万円、それ以外で500万円まで非課税になります。
特例の対象となるのはあくまでも住宅の取得などに要する資金であり、マンションそのものが贈与される場合には利用できないので注意してください。
また、特例の対象となるのは、令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間におこなわれた贈与です。
親名義のマンションを子どもが無償利用するケースなどは、原則として贈与税の課税対象です。
ただし、夫と妻、親と子、祖父母と孫などの特殊の関係があるなかで、「課税上弊害がない」と認められる場合には贈与税の対象外となります。
実際には贈与税が生じていないケースも多いですが、「課税上弊害がない」といえるかどうかは個別に判断されるため、該当する可能性がある場合は専門家に相談してみることが大切です。
マンションを贈与された場合、贈与税の確定申告が必要です。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、受贈者が申告・納税手続きをおこなってください。
特例制度を利用する場合は添付書類が必要になるので、早めに手続きを進めましょう。
経済的に一括での納税が難しい場合は、延納を選択するのもひとつの方法です。
一定の条件を満たしていれば、5年以内の分割払いが認められるようになります。
ただし、延納すると利子税がかかるので、実際に利用されているケースは多くありません。
最後に、マンションの贈与を受ける際の注意点を解説します。
マンションの生前贈与については、贈与税以外にも考慮しておくべき税金があります。
マンションの贈与は税金対策としても有効ですが、関連する税金を漏れなく把握しておかなければ、想定以上の出費が生じてしまうおそれがあるので十分注意してください。
節税対策として贈与は有効な方法のひとつになり得ますが、税金に関しては数多くの制度が存在するため、ほかによりよい方法がないかを検討することも重要です。
例えば、相続時精算課税制度を利用すれば、贈与税の負担は軽減できますが、相続時には相続財産として加算されるうえに、小規模宅地等の特例が使えなくなります。
また、おしどり贈与についても、相続税の配偶者控除を利用したほうが得する場合があります。
活用するべき制度は個々のケースごとに異なるため、少しでも不安があれば、税理士や弁護士などに相談するようにしてください。
本記事では、マンションにかかる贈与税について解説しました。
マンションのような資産が贈与された場合、高額な贈与税がかかる可能性が高いです。
そのため、特例の制度が利用できないかの検討が欠かせません。
しかし、税金の取り扱いには専門的な知識・経験が求められるため、自力で最適解を導き出すことは難しいでしょう。
マンションの贈与税に関して悩んだ場合は、まず専門家に相談してください。
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