相続人不存在とは、「遺産を相続する人がいない」という状態のことです。
相続が発生した場合、亡くなった人である被相続人の遺産は相続人間で分割されますが、必ずしも相続人がいるとはかぎりません。
なかには、独身で兄弟姉妹がおらず両親も亡くなっており、「戸籍上は相続する人が一人もいない」というケースもあります。
そのような場合、「誰がどのような手続きをしなければならないのか」「遺産の行方はどうなるのか」など、わからない方も多いでしょう。
本記事では、相続人不存在となるケースや、相続人不存在が確定した場合の手続きなどについて解説します。
以下では、どのようなケースが相続人不存在にあたるのかを解説します。
通常、遺言などによる指定がない場合、遺産は以下の法定相続分に基づいて分配されます。
法定相続分とは、民法で定められた相続割合のことです。
法定相続人の組み合わせ |
配偶者の取り分 |
子どもの取り分 |
直系尊属(父母・祖父母)の取り分 |
兄弟姉妹の取り分 |
配偶者+子ども |
1/2 |
1/2 |
― |
― |
配偶者のみ |
全て |
― |
― |
― |
子どものみ |
― |
全て |
― |
― |
配偶者+直系尊属 |
2/3 |
― |
1/3 |
― |
直系尊属のみ |
― |
― |
全て |
― |
配偶者+兄弟姉妹 |
3/4 |
― |
― |
1/4 |
兄弟姉妹のみ |
― |
― |
― |
全て |
もし、被相続人に配偶者・子ども・直系尊属・兄弟姉妹などの法定相続人がいない場合は、相続人不存在にあたります。
たとえ相続人がいても、その相続人に以下のような事情がある場合は相続権がなくなり、相続人不存在となります。
相続欠格とは、相続人が民法第891条で定める相続欠格事由に該当する場合、自動的に相続権が剥奪されるという制度です。
たとえば、「相続人が被相続人の命を奪った」「詐欺や脅迫をして被相続人に遺言を強制的に書かせた」などのケースが該当します。
相続廃除とは、廃除事由に該当する相続人がいる場合、家庭裁判所に請求をおこなって相続権を喪失させる制度です。
たとえば、「相続人が被相続人に暴行や虐待をして精神的苦痛・肉体的苦痛を与えた」「重大な侮辱を与えた」などのケースが該当します(民法第892条)。
相続放棄とは、被相続人の遺産の相続権を放棄することです。
相続人は「相続の開始を知ったときから3ヵ月以内」に申立書などを裁判所に提出し、裁判所にて相続放棄が認められれば「はじめから相続人ではなかった」という扱いになります。
「戸籍上は相続人がいるものの消息不明・生死不明」という場合、相続人不存在には該当しません。
このような場合、不在者財産管理人・失踪宣告の規定によって処理されます。
失踪宣告とは、ある人の生死が一定期間不明の場合、家庭裁判所にて失踪宣告の審判を申し立てて審判で容認された時点で「死亡したもの」とみなす制度のことです。
相続人を捜索しても存在しない場合は、被相続人の遺産を管理・清算するための手続きが必要です。
ここでは、手続きの詳細について解説します。
相続財産清算人とは、相続人の代わりに被相続人の財産管理をおこなう人のことで、債権者・受遺者などの利害関係人や検察官が家庭裁判所に申し立てることで選任されます。
相続財産清算人が選任されると、国の機関紙である官報にて「相続財産清算人の選任」や「相続権の主張」などについて公告が6ヵ月以上おこなわれます。
相続財産清算人は、公告後は相続財産の管理をして相続人の申し出を待ちます。
「相続財産清算人の選任」や「相続権の主張」などの公告と並行して、相続財産清算人は債権者や受遺者などに対して、請求申し出の催告を2ヵ月以上おこないます。
相続人不存在の確認手続き中に相続人が現れると、相続財産の管理などの手続きは廃止されます。
しかし、相続人が現れても、その相続人による相続放棄などによって相続人不存在が確定するケースもあります。
公告期間が終了しても相続人が現れない場合、相続人不存在が確定します。
特別縁故者の要件を満たしている人は、公告期間が終了してから3ヵ月以内であれば、家庭裁判所に特別縁故者として相続財産分与の申し立てができます(民法第958条の2)。
特別縁故者が申し立てをする際は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、財産分与審判申立書・申立人の戸籍謄本・被相続人の戸籍謄本などを提出します。
家庭裁判所は、提出内容を確認して相続財産清算人の意見も聞いたうえで、財産分与を認めるかどうかを決定します。
下記のいずれかに該当しないと、特別縁故者として認められません。
財産分与について審判が確定すると、相続財産清算人は特別縁故者に財産を引き渡します。
特別縁故者に財産を引き渡しても残りがある場合や、そもそも特別縁故者による申し立てがない場合などは、財産は国庫に帰属します(民法第959条)。
相続財産清算人が管理終了報告書を家庭裁判所に提出したら、手続きは終了です。
もし、自分に相続人がおらず「誰かに財産を残したい」と考えている場合は、遺言書の作成が有効です。
ここでは、遺言書によってできることや、遺言書の種類などについて解説します。
遺言書を作成することで、以下のようなことができます。
遺産は、原則として被相続人の配偶者や子どもなどの法定相続人に相続されますが、遺言によって内縁の妻や相続人ではない第三者に遺贈できます。
相続人になる予定の人に遺産を渡したくなく、その人が相続廃除の条件を満たしている場合には、遺言にて相続廃除の旨を残しておくことで相続権を剥奪できます。
各相続人の相続分については民法にて規定されていますが、遺言によって相続分を決定したり、第三者に決定の委託をしたりすることができます(民法第902条)。
遺言書は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類あり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
自筆証書遺言とは、財産目録以外の全文を遺言者が自筆で作成する遺言書のことです。
遺言書のなかでも最も手軽な遺言方式で、遺言者が自分で文字を書くことができ、印鑑を所持していればいつでも自由に作成できます。
公正証書遺言とは、公証役場にて遺言者が遺言内容を口授し、それに基づいて公証人が作成する遺言書のことです。
いくつかの手順を踏んで作成する必要があるため手間や時間がかかるものの、遺言書の真正が担保されるという特徴があります。
なお、作成にあたっては公証人が対応するため手数料が発生します。
秘密証書遺言とは、自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的な遺言書であり、以下の方式で作成されます。
秘密証書遺言の場合、間違いなく遺言者本人が作成した遺言書であることを証明でき、かつ遺言内容を秘密にできます。
被相続人が遺言書を作成しても、なかには遺言内容どおりに遺産分割がおこなわれない場合もあります。
被相続人の配偶者・子ども・直系尊属には「最低限の取り分を受け取る権利」が保証されており、これを遺留分と呼びます。
たとえば、「愛人に全ての財産を譲る」という遺言が残されていた場合、被相続人の遺言だからといって赤の他人に遺産を相続されるのは納得いかないでしょう。
そのような場合、遺留分を有する法定相続人は、遺留分侵害額請求をおこなって最低限の金額を取り戻すことができます。
相続人不存在になるケースとしては、「被相続人に法定相続人がいない場合」や「相続放棄などで全ての相続人が相続権を失っている場合」などがあります。
相続人不存在の場合、相続財産清算人の選任を申し立てることで、財産の管理・清算ができます。
弁護士は、相続財産清算人として選任されることもあり、法律相談を利用すれば相続人不存在の場合の対処法などのアドバイスを受けることもできます。
初回相談無料の事務所も多くあるので、疑問や不安がある方は相談してみることをおすすめします。
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