代償分割は、遺産分割方法のひとつです。
一般的な分割方法よりも公平に遺産を分け合えるのがメリットですが、遺産分割協議書を作成する際や、代償金を決める際に注意すべきことがいくつかあります。
本記事では、代償分割する際の遺産分割協議書の書き方や代償金の決め方、代償分割のメリット・デメリットなどを解説します。
代償分割を検討している方や、遺産分割協議書の記載方法を知りたい方はぜひ参考にしてください。
代償分割とは何か、ほかの遺産分割方法とどのような違いがあるのかわからない方もいるでしょう。
まずは、代償分割やそのほかの遺産分割方法について解説します。
代償分割は、遺産を多く相続した人がほかの相続人に代償金を支払うことで、差分を調整する遺産分割方法です。
例として、以下のケースで考えてみましょう。
上記のケースで、仮に長男が不動産5,000万円、次男が預金2,000万円を相続したとします。
法定相続分に従うと、長男と次男は本来3,500万円ずつ相続できるはずですが、この分割方法では次男にとって不利です。
この場合、代償分割をすれば、長男が次男に1,500万円の代償金を支払うことで、兄弟の相続分が平等になります。
代償分割は、上記のケースのように遺産の多くを不動産が占める場合に利用するのが一般的です。
代償分割以外の遺産分割方法には、以下の3つがあります。
遺産分割の方法 | 概要 |
---|---|
現物分割 | 相続財産を現物のまま分割する |
換価分割 | 相続財産の売却金を相続人の間で分配する |
共有 | 相続財産を相続人同士で共有する |
それぞれの方法に関する詳細については、以下の記事も参考にしてください。
代償分割にはどのようなメリット・デメリットがあるのか、ご自身のケースで代償分割を利用すべきなのかわからない方もいるでしょう。
ここでは、代償分割のメリット・デメリット・向いているケースを紹介します。
代償分割を利用するメリットは、主に5つあります。
代償分割のメリットは、遺産を公平に分割しやすいことにあります。
相続財産が不動産しかない、もしくは不動産が多くの割合を占めている場合、通常の分割方法では相続人同士で平等に遺産を分け合うことができません。
その点、代償分割を利用すれば、代償金を支払うことで公平に相続できます。
平等な遺産分割が難しいとされるケースでも、公平に遺産を分け合うことができるでしょう。
代償分割を利用することで、スムーズな遺産分割が可能になります。
現物分割や共有分割では分け方が不平等になってしまう場合でも、代償分割なら平等に分け合うことが可能です。
相続人同士でトラブルになりづらく、相続を円満に終えられるでしょう。
代償分割を利用すると、「小規模宅地等の特例」を最大限に活用できます。
小規模宅地等の特例は、一定の相続人が自宅の敷地を相続すると、相続税評価額が最大80%減額される制度です。
小規模宅地等の特例を使って自宅敷地を相続する場合、相続人同士で共有分割するよりも、代償分割をしたほうが相続税を抑えられる可能性があります。
小規模宅地等の特例の利用条件を満たしている場合は、代償分割を検討するとよいでしょう。
不動産を売却せずに済むのも、メリットのひとつです。
遺産を平等に分けようとして換価分割を選んだ場合、不動産の売却金を相続人同士で分け合うことになります。
不動産に被相続人との思い出が詰まっている場合や、先祖代々大切にしてきた不動産である場合、手離すことに強い抵抗を感じることもあるでしょう。
代償分割を選べば、大切な不動産を売却することなく遺産を分割できます。
事業用資産や自社株などを1人の相続人に集約できるのもまた、代償分割のメリットです。
事業に関わる財産を複数の相続人に分割してしまうと、その後の事業運営に支障をきたすおそれがあります。
しかし、代償分割を利用すれば、事業用の財産を1人の相続人が受け継ぎつつ、公平な相続を実現できます。
これにより、事業運営も相続もスムーズに進められるでしょう。
代償分割のデメリットは、主に以下の3つです。
遺産を多く受け取った相続人は、代償金を支払わなければなりません。
代償金は、相続人自身の財産から支払うことになるので、支払う側の相続人にとって大きな負担になる可能性があります。
代償金を支払えないとほかの相続人とトラブルになるおそれがあるため、代償金を支払えるほどの財産がないなら、代償分割は避けたほうがよいでしょう。
代償金の金額を決める際に、ほかの相続人と揉めるおそれがある点にも注意しましょう。
代償金は、相続する不動産の評価額を基に決めるのが一般的です。
しかし、代償金の決め方について法律で定められているわけではないので、代償金をいくらにするかで相続人どうしが揉めてしまうことがあります。
代償金がなかなか決まらず、相続が滞ってしまう可能性があるでしょう。
代償金に贈与税や所得税が課される可能性がある点にも注意しましょう。
基本的に代償金は贈与税の対象外ですが、遺産分割協議書に「代償分割によって代償金を支払う」という旨の記載がない場合、贈与税が課されることがあります。
また、現金ではなく不動産を代償金として与えた場合、譲渡所得税が課される可能性もあります。
「思いがけず税金がかかってしまった……」というような事態にならないよう注意してください。
以下のケースに該当する場合は、代償分割を利用するとよいでしょう。
たとえば、被相続人と同居していた方が自宅を相続したい場合、代償分割が効果的です。
自宅を相続する代わりに代償金をほかの相続人に支払えば、自宅に住み続けられるだけでなく公平に遺産を分け合うこともできます。
事業を承継したい場合、事業用の資産や株式を後継者に集約させる必要があります。
代償分割を選択すれば、後継者はほかの相続人に代償金を支払う代わりに、事業に関わる資産を全て相続できます。
これにより、事業承継を円滑に進められる可能性が高くなるでしょう。
遺産を多く受け取る相続人に代償金を支払えるほどの資力がある場合は、代償分割を検討しましょう。
代償金を支払えないと、ほかの相続人とトラブルになる可能性があります。
代償分割を検討する際は、相続人に代償金を支払えるほどの余裕があるかどうかを事前に確認しておくと安心です。
ここからは、代償分割をおこなう場合の遺産分割協議書の書き方と記載例を紹介します。
代償金を金銭で支払う場合は、代償金を支払う旨を遺産分割協議書に記載する必要があります。
加えて、振込先の口座や手数料の負担についても明記しておくとトラブル防止になるでしょう。
具体的な記載例は、以下のとおりです。
遺産分割協議書
(省略)
相続人××は前項に記載された遺産を取得する代償として、相続人△△に対して金◯◯万円を◯◯◯◯年◯月◯日までに、以下の口座に振り込む方法により支払う。その際にかかる振込手数料は××が負担する。
◯◯◯◯銀行 ◯◯支店 普通口座 口座番号 ◯◯◯◯◯◯◯ 口座名義 △△ |
代償金として不動産を譲渡する場合の記載例は、以下のとおりです。
所有権移転登記をいつまでにおこなうかも記載しておくと安心でしょう。
遺産分割協議書
(省略)
相続人××は前項に記載された遺産を首都木臼る代償として、相続人△△に対して××が所有する以下の不動産を譲渡し、◯◯◯◯年◯月◯日までに所有権移転登記手続きをおこなう。
所在:◯◯県◯◯市◯◯町◯◯丁目◯◯番地 地番:◯◯◯番 地目:宅地 地積:◯◯平方メートル |
複数の相続人に代償金を支払う場合は以下のように記載します。
「誰に」「いつまでに」「いくら」払うのかを明確に記載しましょう。
支払い期限を別々に設ける場合は、それぞれの期限を明記してください。
遺産分割協議書
(省略)
相続人××は前項に記載された遺産を取得する代償として、相続人△△に金◯◯◯万円を、相続人◇◇に対しては金◯◯◯万円を、それぞれ◯◯◯◯年◯月◯日までに、以下のそれぞれの口座に振り込む方法により支払う。振り込む際にかかる振り込み手数料は××が負担する。
◯◯◯◯銀行 ◯◯支店 普通口座 口座番号 ◯◯◯◯◯◯◯ 口座名義 △△
◯◯◯◯銀行 ◯◯支店 普通口座 口座番号 ◯◯◯◯◯◯◯ 口座名義 ◇◇ |
代償金は、ほかの相続人が合意すれば分割払いも可能です。
分割で支払う場合は、支払期間と支払日を遺産分割協議書に明記しましょう。
具体的な記載例は、以下のとおりです。
遺産分割協議書
(省略)
相続人××は前項に記載された遺産を取得する代償として、相続人△△に金◯◯◯万円を次のとおり分割して、以下の口座に振り込む方法により支払う。その際に生じる振り込み手数料は××が負担する。
令和◯◯年◯月◯日から令和◯◯年◯月◯日まで、毎月末日までに金◯万円を支払う。
◯◯◯◯銀行 ◯◯支店 普通口座 口座番号 ◯◯◯◯◯◯◯ 口座名義 △△ |
代償分割することを遺産分割協議書に書くことで、贈与税がかかってしまうリスクを抑えられます。
遺産分割協議書に代償分割について記載しないと、代償金の支払いが贈与とみなされ、贈与税がかかってしまうことがあります。
代償金を受け取った相続人に思わぬ税金が課されるおそれがあるため、代償分割を選択した場合は必ず遺産分割協議書にその旨を記載しましょう。
代償分割を選択する場合に問題となりやすいもののひとつが、代償金金額でしょう。
相続人同士で揉めてしまわないよう、代償金の決め方に関する基礎知識を確認しておきましょう。
代償金の決め方について、法律では特段定められていません。
相続人が納得できる金額であれば、どのように決めても構わないのです。
相続人だけでは話がまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判で決めることもできます。
代償金額の決め方は自由ですが、代償分割をする財産が不動産の場合は、以下のいずれかの価格を基に代償金を算出します。
相続税評価額とは、相続税や贈与税を算定する際に基準となる価格のことです。
相続する土地が市街地にある場合は「路線価方式」、それ以外の場合は「倍率方式」によって算出します。
路線価方式の場合、道路ごとに決められた路線価に、土地の面積や補正率などを乗じて相続税評価額を求めます。
倍率方式の場合は、次に紹介する「固定資産税評価額」に一定の倍率を乗じて求めるのが一般的です。
公示価格の80%程度の価格になることが多く、代償金を決める際の最もメジャーな方法といわれています。
固定資産税評価額とは、固定資産税や都市計画税などを算定する際に基準となる価格のことです。
公示価格の70%程度になるケースが多いとされています。
建物や、倍率方式で評価される土地を相続する場合は固定資産税評価額を基に相続税を算出するため、代償金も固定資産税評価額を基準に決めてよいでしょう。
ただし、固定資産税評価額の見直しは3年に1回だけなので、直近で価格変動が起こったとしても代償金には反映できません。
直近の価格を代償金に反映させたい場合は、別の価格を基に代償金を決めましょう。
公示価格は、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年公表している土地価格です。
土地を売買するときや、実勢価格・相続税評価額などを決めるときの基準となります。
毎年見直されるため、直近の価格変動を代償金に反映させやすいでしょう。
ただし、全ての土地に公示価格が定められているわけではありません。
また、毎年3月下旬に公示価格が発表されるので、その前後の時期に代償金を決めるときは、価格変動を考慮するようにしましょう。
なお、最新の公示価格は国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で確認できます。
実勢価格は、公示価格を基に過去の取引額を反映させたもので、時価とも呼ばれます。
公示価格とほぼ同額、または公示価格の110%〜120%程度になることが多いでしょう。
実勢価格は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」内「不動産価格(取引価格・成約価格)情報の検索・ダウンロード」で調べられます。
「不動産取引価格情報」を選択して地域・種類・時期で絞り込めば、相続した不動産のおおよその価格を知ることが可能です。
正確な実勢価格は調べられないので、正確に知りたい場合は不動産会社に査定を依頼しましょう。
ここからは、遺産分割協議書と代償分割についてよくある質問をまとめています。
代償金を分割で支払うことも可能です。
ただし、勝手に分割払いを選択することはできず、必ず代償金を受け取る側の合意を得る必要があります。
合意を得られたら、遺産分割協議書に分割払いをする旨・支払期間・支払日を漏れなく明記しましょう。
代償金を金銭で払うのが難しい場合、代わりに不動産や株式などを譲渡することができます。
代償金と同等の価値がある現物を用意できるなら、必ずしも金銭で支払う必要はありません。
ただし、代償金を受け取る方の合意が必要なので、必ず事前に話し合いをしましょう。
また、譲渡する不動産や株式の評価額を正確に算出しなければならないため、税理士など専門家に依頼するのがおすすめです。
期日までに代償金を支払わないと、受け取る側の相続人が「遺産分割後の紛争調整調停」を申し立てる可能性があります。
調停では、調停委員が代償金を支払う側・受け取る側の双方の話を聞き、解決案を提示します。
調停でお互いの合意が成立すれば調停終了となり、代償金を支払わなければなりません。
調停終了後も代償金を支払わなかった場合、財産を差し押さえられたり裁判に発展したりするおそれがあります。
相続を円満に終わらせるためにも、代償金は決められた期日までに必ず支払いましょう。
代償金を複数の相続人に支払う場合、法定相続分を基に割合を決めるのが一般的です。
しかし、代償金の取得割合について法律で明確に定められているわけではありません。
相続人どうしが合意すればどのように決めても問題ないので、お互いが納得できる割合を設定しましょう。
相続した財産を代償分割する場合は、遺産分割協議書にその旨を必ず記載しましょう。
記載しないと贈与税がかかってしまうことがあるので注意してください。
代償金の決め方や遺産分割協議書の書き方についてわからないことがあれば、弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。
専門的な観点からアドバイスを受けられるので、相続を円滑かつ円満に進められる可能性が高くなりますよ。
ぜひ一度、相談してみてください。
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