特別受益とは、一部の相続人のみが被相続人から得た利益のことをいいます。
生前贈与や死因贈与、遺贈などにより特別な利益を受けた場合は、特別受益にあたる可能性が高いです。
実際に、ほかの相続人が被相続人から不動産などを引き継いでいることに対し、特別受益にあたるのではないかと疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、特別受益の基礎知識から不動産の特別受益を主張するポイントまで詳しく解説します。
本記事を読めば、特別受益にあたる贈与がどのようなものかわかり、公平な遺産分割をおこなうことができます。
「特別受益」とは、一部の相続人だけが被相続人から特別に得ていた利益のことです。
特別受益があった場合には、特別受益を考慮して相続額を計算し、公平な遺産分割ができるようになっています。
不動産の遺贈・贈与が特別受益に該当するかどうかは、下記の4つの条件にあてはまるかどうかで判断されます。
上記の条件にあてはまらない場合には、特別受益にはなりません。
そのため、各条件についてしっかり確認しておきましょう。
特別受益が認められるには、被相続人から相続人に対して遺贈や贈与がおこなわれている必要があります。
なぜなら、特別受益は、相続人間の不公平な遺産分割を防止するためのものだからです。
例えば、被相続人が不倫相手や友人・知人に多額の贈与をしていたとしても、相続人でないため、特別受益にはあたりません。
ただし、遺留分の侵害に関しては問題になる可能性があります。
特別受益の対象は、遺贈または贈与によるものでなければなりません。
「遺贈」とは、誰にどんな財産をどのくらい渡すか遺言書で指定し、譲渡することをいいます。原則、遺贈は全て特別受益にあたります。
「贈与」は、被相続人の生前と死後とで扱いが分かれています。
生前贈与の場合、特別受益にあたるのは、婚姻・養子縁組のための贈与や生計の資本として受けた贈与などに限定されます。
他方、死亡後の死因贈与は、原則特別受益にあたります。
このように、被相続人から相続人に財産が譲渡され、利益を得たとしてもその全てが特別受益にあたるとは限りません。
なお、居住用不動産の贈与は「生計の資本として受けた贈与」といえるため、基本的には特別受益にあたります。
「おしどり贈与」とは、配偶者のための贈与税の非課税制度のことです。
婚姻期間が20年以上の夫婦が利用できる特例のため、おしどり贈与と呼ばれています。
配偶者に対して居住用不動産もしくはそれを取得するための金銭の贈与がおこなわれた場合、最大2,000万円まで控除できます。
贈与税の基礎控除である110万円も併用して利用できるため、合計2,110万円の控除を受けることができます。
そして、おしどり贈与によって配偶者が引き継いだ居住用不動産は「特別受益による持ち戻し」の対象外です。
おしどり贈与では、被相続人が「特別受益として持ち戻す必要はない」と意思表示したうえで、居住用不動産を贈与したものと推定されることになっています。
そのため、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をおこなっていないことが立証されない限り、特別受益には該当しません。
持ち戻しの免除がされていないことも、特別受益が認められるための条件のひとつです。
相続における「持ち戻し」とは、特別受益を相続財産に加えたうえで、相続分の計算をおこなう方法のことを指します。
そして、「持ち戻しの免除」とは、特定の相続人に対する特別な利益を相続財産に加算する必要がないと意思表示することです。
つまり、被相続人の意思で特別受益の対象外にします。
贈与契約書や遺言書の中で意思表示するケースが一般的ですが、被相続人と受贈者・受遺者との間に特別な事情がある場合などは、明確な意思表示がなくても持ち戻し免除がおこなわれることがあります。
特別受益の持ち戻しがおこなわれると、生前贈与や遺贈などが相続財産に含まれてしまい、特定の相続人に多くの財産を残すことができなくなります。
そこで、持ち戻しの免除を認め、故人の意思が尊重されるシステムになっているのです。
「持ち戻し」とは、特別受益を相続財産に含めて、遺産分割の対象を計算することをいいます。
持ち戻しの手順は以下のとおりです。
特別受益の持ち戻しをするためには、ほかの相続人に対して特別受益があったことを主張する必要があります。
遺産分割は基本的に相続人同士の協議によっておこなうものであり、単独で持ち戻しを進めようとすると、トラブルになりかねないので注意しておきましょう。
しかし、相手方を納得させることは簡単ではないので、贈与や遺贈によって特別な利益を得ていることを、以下のような証拠を集めて主張しなければなりません。
証拠の種類 |
例 |
---|---|
贈与があったことがわかるもの |
契約書・メールでのやり取り・受取証などの合意資料 預金通帳・振込用紙の控えなどの送金資料 |
生計の資本としての贈与があったことがわかるもの |
預金通帳などの被相続人の資力を示す資料 メモ・日記・手紙などの贈与の動機を示す資料 |
特別受益の価格を証明するもの |
振込用紙の控え・固定資産評価証明書・査定書など |
被相続人の預金通帳がない場合は、銀行に対して取引明細書の発行を依頼するとよいでしょう。
取引履歴であれば、相続人単独でも取得できます。
相続財産がいくらになるのか、相続財産の総額の計算が必要です。
相続財産を計算する際は、不動産、動産、預貯金、株式などの遺産に特別受益にあたる生前贈与や死因贈与、遺贈によって譲渡された不動産などの財産を加算します。
この全てを合わせた相続財産の総額を「みなし相続財産」といいます。
もっとも、財産が高額な場合やさまざまな財産がある場合には、相続財産の調査が必要になるかもしれません。
そのような場合は、生前贈与などが特別受益にあたるかどうかも含め、弁護士に相談するようにしましょう。
上記(2)でみなし相続財産の計算ができたら、各相続人の具体的相続分を求めることになります。
具体的相続分とは、特別受益をはじめ、個々の調整要素を反映したあとの相続分のことを指します。
特別受益がある場合の具体的相続分は、以下の計算式で求めるケースが一般的です。
例えば、みなし相続財産が1億2,000万円あり、配偶者と子ども3人で相続する事例を想定してみましょう。
子1に1,000万円、子2に500万円の特別受益が認められた場合の具体的相続分は、以下のようになります。
|
法定相続分 |
具体的相続分 |
---|---|---|
配偶者 |
2分の1 |
1億2,000万円×2分の1=6,000万円(特別受益なし) |
子1 |
6分の1 |
1億2,000万円×6分の1-1,000万円=1,000万円 |
子2 |
6分の1 |
1億2,000万円×6分の1-500万円=1,500万円 |
子3 |
6分の1 |
1億2,000万円×6分の1=2,000万円(特別受益なし) |
なお、法定相続分を乗じて算出した金額を特別受益が上回っている場合、特別受益者が受取る金額は計算上マイナスになりますが、実務においては「0円」とみなされます。
そのため、遺留分を侵害しているケースなどを除き、ほかの相続人に対して返還する必要はありません。
生前贈与された不動産の特別受益を主張する場合には、どのような財産評価をするかによって、特別受益としてみなされる額が変わります。
そこで、不動産の財産評価のポイントを解説します。
贈与時に比べて不動産の価値が大幅に変わっている場合は、現在の価値を不動産会社に算定してもらいましょう。
実務上も、不動産の生前贈与の評価は、被相続人の相続開始時の価値を基準にする「相続開始時説」が一般的です。
例えば、特別受益を受けた当時は5,000万円の土地だったとしても、相続開始時に1億円の不動産評価を受けているのであれば、1億円の特別受益があったとして算定します。
生前贈与された不動産がすでに売却されている場合、特別受益を受けた相続人は所有者ではなくなっています。
しかし、実務上、売却された不動産は今も特別受益者が所有しているものとして、相続開始時の価値を基準に遺産分割をおこないます。
そのため、売却されてしまっている場合であっても、不動産の評価額が遺産分割に大きな影響を与えます。
なお、特別受益で譲渡された不動産が受贈者の行為によって取り壊された場合なども、天災や延焼といった不可抗力の原因があるケースを除き、残存しているものとして算定します。
住宅ローンを負担することを条件にした不動産の譲渡があった場合には、特別受益の額の計算が難しくなるため注意が必要です。
住宅ローンなどの負担を引き受ける代わりに、財産を譲り受けることを「負担付贈与」といいます。
負担付贈与では相続開始時の不動産の価値から、負担したローン額を現在の価値に直して控除し、その差額を特別受益として評価します。
例えば、現在5,000万円の価値がある不動産を1,000万円の住宅ローンを支払うことを条件に生前贈与されたとしましょう。
この場合、住宅ローン1,000万円を貨幣価値の変動を考慮した額に換算し、仮に1,200万円の価値と評価されれば、5,000万円−1,200万円=3,800万円の特別受益があったということになります。
もっとも、不動産の価値を評価し、特別受益を主張するには、専門的知識が必要になるため、弁護士に相談することをおすすめします。
被相続人が「特別受益の持ち戻し免除の意思表示」をしている場合は、遺留分侵害額請求ができないかどうか検討しましょう。
遺留分侵害額請求とは、兄弟姉妹・甥姪以外の法定相続人に認められた最低限の取り分「遺留分」の返還を求める手続きです。
遺留分の割合は以下のとおり、法律で定められています。
持ち戻しが認められなくても、遺留分の計算においては特別受益を反映させることができます。
仮に遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求により返還を求めてください。
ただし、贈与による特別受益の場合、遺留分の計算に反映させられるのは相続開始前10年以内のものに限られます。
遺留分を受け取れるのではと疑問がある方は、下記の関連記事を参考に弁護士に相談してみましょう。
特定の人物に不動産が贈与された場合などは、遺産相続でトラブルになってしまうケースも少なくありません。
不公平な遺産相続になるのであれば、特別受益を主張し、遺産分割に反映させるべきです。
しかし、不動産の生前贈与や遺贈が特別受益にあたるかどうか、どの程度遺産分割に影響するのかを法律の知識のない素人が判断することは難しいでしょう。
そのため、特別受益が疑われる場合は弁護士に相談することをおすすめします。
相続問題が得意な弁護士であれば、特別受益を主張するための証拠収集や相手方との交渉などを円滑に進められます。
また、特別受益によって遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求のサポートもおこなってくれるはずです。
相続問題は、時間が経てば経つほど複雑化していきます。
無料相談に対応している法律事務所も多いので、少しでも不安や疑問があれば、弁護士にアドバイスを求めるようにしましょう。
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