不在者財産管理人とは、行方不明の人の財産を管理する人のことを指します。
通常、遺産分割協議は相続人全員が集まり話し合いによって協議します。
しかし、相続人である一人が行方知れずになっており、連絡がつかない場合、遺産分割協議をおこなうことができません。
そのようなケースで、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加するのが不在者財産管理人です。
本記事では、不在者財産管理人の選任条件と選任方法、また、不在者財産管理人の権限について解説します。
不在者財産管理人には弁護士がなることも可能
相続人の中に連絡が取れない人がいて悩んでいませんか?
結論からいうと、相続人の中に連絡が取れない人がいる場合、不在者財産管理人を選任することで遺産分割協議を進めることができます。
不在者財産管理人には弁護士がなることもできるので、一度弁護士に相談・依頼するとよいでしょう。
弁護士に相談・依頼すると以下のようなメリットを得ることができます。
- 不在者財産管理人の申し立て方法がわかる
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不在者財産管理人とは行方不明の相続人に代わって財産を管理する人のこと
不在者財産管理人とは、相続の場面で、相続人が行方知れずになっており、相続を始められない場合に、行方不明の相続人の代理となる人物です。
相続の現場では、必ず相続人全員が集まらなければならないというわけではありませんが、相続人全員の同意がなければ遺産分割協議は終了しません。
相続人が1人揃わなかったからといって、その相続人抜きで遺産分割協議をすることはできないのです。
そこで、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることにより、不在者の相続人に代わって不在者財産管理人が遺産分割協議に参加できるようになります。
なお、不在者本人が既に財産管理人を置いている場合には、裁判所は原則として干渉できません。
同様に、不在者に親権者や後見人などの法定代理人がいる場合も、法律の規定によって不在者の財産が管理されることになるので、特別の措置は必要ありません。
不在者財産管理人に与えられる職務
ここでは、不在者財産管理人に選任された方に与えられる職務を解説します。
不在者の相続財産の管理
不在者財産管理人は、不在者の財産を管理する役割を持ちます。
具体的には、財産の保存行為・利用行為・改良行為に関する権限が与えられます。
一方で財産を処分する行為は認められておらず、不在者財産管理人が不在者の財産を自由に使えるというわけではありません。
不正に使用したことが発覚した場合、不在者財産管理人を解任させられ、損害賠償を請求されたり、業務上横領として刑事罰に問われたりすることもあります。
財産目録の作成
財産目録の作成も、不在者財産管理人に与えられる職務のひとつに挙げられます。
財産目録とは、所有する財産の種類・数量・所在・価額などを整理したものです。
不在者財産管理人は就任後直ちに財産を調査し、財産目録を作成して家庭裁判所に提出しなければなりません。
裁判所に対する財産状況の報告
不在者財産管理人には、裁判所に対して財産状況を報告する役割もあります。
まず、就任後2ヵ月以内に管理状況や管理方針などを記載した「管理報告書」を作成し、裁判所に提出しなければなりません。
その後も、原則として年1回、家庭裁判所から管理報告書の提出を求められるので、財産の増減を細かく記録していく必要があります。
遺産分割協議への参加
遺産分割協議への参加も、不在者財産管理人の役割といえるでしょう。
不在者管理人がおこなえるのは財産の管理だけなので、本来であれば、遺産分割協議に参加して財産の処分に関することを決定する権限はありません。
しかし、家庭裁判所の許可があれば、不在者管理人も遺産分割協議を成立させることができるようになります。
実際に、遺産分割協議への参加を主な目的として、不在者管理人を選任するケースも少なくありません。
なお、不在者管理人が遺産分割協議に参加した場合は、不在者が不利益を受けないように法定相続分を最低限確保することが求められます。
不在者財産管理人に選任される人物
不在者財産管理人は利害関係者からの申立てに基づき、家庭裁判所が選任します。
ここからは、不在者財産管理人に選任される人物について詳しく解説するので参考にしてみてください。
相続に利害関係のない第三者
不在者財産管理人の選任を申し立てる際に、利害関係のない第三者であれば候補者として推薦することができます。
不在者財産管理人は、不在者の財産を守ることが主な役目です。
したがって、相続の際に利害が対立するであろう人物を不在者財産管理人にすることは、原則として認められません。
知り合いのなかから不在者財産管理人を選任したい場合は、相続人でない親族や被相続人の友人などを候補にする手があります。
また、不在者の親族とは連絡が取れる場合、そのまま不在者の親族が不在者財産管理人となるケースも少なくありません。
弁護士などの専門家
申立人が候補者を推薦しなかった場合は、弁護士や司法書士などの専門家から不在者財産管理人が選任されます。
また、候補者を推薦していたとしても、裁判所が適していないと判断した場合には専門家が選任されることになります。
不在者財産管理人の選任を要する主なケース
次に、不在者財産管理人の選任を要する主なケースを3つ紹介します。
遺産分割協議をおこなう場合
まず、遺産分割協議をおこなう場合は、不在者財産管理人の選任を要します。
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければならず、不在者がいるままでは協議を進められません。
そのため、不在者財産管理人を選任し、不在者の代理として遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
なお、遺産分割協議への参加は不在者財産管理人の権限外行為にあたるので、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
不在者に相続放棄させたい場合
不在者に相続放棄させたい場合も、不在者財産管理人を選任する必要があるでしょう。
相続放棄できるには、自身のために相続があったことを知ってから3ヵ月以内です。
被相続人が亡くなってから数年後に不在者が現れたとしても、不在者がそのときはじめて相続があったことを知ったのであれば、相続放棄を選択できます。
つまり、不在者がいる状態では相続人が確定しない状態が長く続いてしまうため、不在者財産管理人を選任し、相続放棄させることを検討しなければならないのです。
なお、相続放棄が認められるのは、不在者の利益になる場合に限られます。
不在者との共有不動産を処分したい場合
不在者との共有不動産を処分したい場合も、不在者財産管理人を選任すれば解決できることがあります。
共有名義の不動産を処分する場合は、原則として名義人全員の合意が必要になります。
そのため、不在者が名義人の一人となっているときは、不在者財産管理人を選任し、合意してもらうことを選択肢のひとつに入れておきましょう。
なお、不在者財産管理人が不在者の財産を処分する際には、裁判所に対して権限外行為許可の申立てをおこない、認めてもらわなければなりません。
不在者財産管理人選任の申立て手続
ここからは、不在者財産管理人選任の申立て手続きについて解説します。
申立人・申立先・必要費用・必要書類の一覧は、以下のとおりです。
申立人
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被相続人の利害関係者または検察官
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申立先
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不在者の住所地または居所を管轄する家庭裁判所
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必要費用
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・連絡用の郵便切手
・収入印紙800円
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必要書類
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・申立書
・不在者の戸籍謄本
・不在者の戸籍附票
・不在者財産管理人の候補者の住民票もしくは戸籍附票
・不在者の不在を証明する資料
・不在者の財産に関する資料
・申立人の戸籍謄本や賃貸契約書などの申立人との関係性を証明するもの
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では、一つひとつのポイントを詳しく見ていきましょう。
申立人
申立人となるのは、不在者がいることにより利害関係が生じる人物です。
申立人となる主な人物
- 不在者以外の相続人
- 不在者の配偶者
- 不在者の債権者・債務者
- 不在者が所有する不動産の利用者・担保権者
上記のほか、検察官も不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。
申立先
申立先は、不在者の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。
被相続人の住所地を管轄する裁判所ではないので気を付けましょう。
なお、住所地は住民票に記載されている場所、居所地は一時的に居住している場所のことを指します。
費用
不在者財産管理人の選任に要する費用は、主に家庭裁判所への申立費用と専門家が選任された場合の報酬です。
それぞれにかかる金額の目安を詳しく解説します。
家庭裁判所への申立費用
家庭裁判所への申立費用は、収入印紙800円と郵便切手代のみです。
郵便切手代については、申立先の家庭裁判所に詳細を確認してください。
専門家が選任された場合の報酬
不在者財産管理人に弁護士などの専門家が選任された場合は、報酬の支払いが必要です。
報酬額は財産管理の手間や難易度を考慮して、家庭裁判所が決定します。
ケースバイケースですが、月に1万円~5万円程度の報酬が発生するものと考えておきましょう。
なお、専門家への報酬は不在者の財産のなかから支払われます。
不在者の財産では支払えない場合には、申立人が予納金として20万円~100万円程度を支払い、財産管理が終わったあとに残額が返還される流れになります。
必要書類
不在者財産管理人選任の申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 不在者財産管理人の候補者の住民票もしくは戸籍附票
- 不在者の不在を証明する資料
- 不在者の財産に関する資料
- 利害関係を証明する資料
財産に関する資料としては、預貯金・有価証券の残高がわかる書類、不動産の登記事項証明書などが該当します。
利害関係を証明する資料には、賃貸借契約書や金銭消費貸借契約書の写しなどが利用できるでしょう。
ただし、個々のケースごとに用意すべき資料が異なるので、迷ったときは弁護士などに相談してみることをおすすめします。
申立書の記入例は、「不在者財産管理人選任申立書記入例」を参考にしてください。
不在者財産管理人に関するよくある質問
最後に、不在者財産管理人に関するよくある質問を紹介します。
同様の疑問を抱えている方は参考にしてみてください。
不在者財産管理人は選任後に変更できる?
一度家庭裁判所が選任した不在者財産管理人を選任することはできません。
権限外の行為に及んで解任された場合などを除き、基本的には役目を終えるまで、同一の不在者財産管理人が財産管理をおこなうことになります。
不在者財産管理人が選任されるまでの期間は?
不在者財産管理人の選任には、2ヵ月~3ヵ月程度の時間がかかります。
家庭裁判所への申立てをおこなったあと、不在者の確認や選任すべきかどうかの審判、適任者の選定などが慎重に進められていきます。
また、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加したり、不動産の処分を決定したりする際には、家庭裁判所の権限外行為許可を求める必要があり、さらに数ヵ月を要してしまいます。
実際に不在者財産管理人を交えて相続手続きを進められるようになるまでには、半年以上かかるケースも少なくありません。
そのため、時間に余裕をもって、できるだけ早く手続きに着手することが大切です。
不在者財産管理人の職務はいつまで続く?
不在者財産管理人の職務は「不在者が現れたとき」「不在者の死亡が確認されたとき」「不在者について失踪宣言がされたとき」のいずれかになった場合に終了します。
不在者が現れた場合は、そのまま不在者だった人物が財産を管理します。
不在者が死亡、失踪宣言された場合は、不在者の相続人にその財産が相続されることとなります。
まとめ
相続人のなかに不在者がいると、相続手続きがスムーズに進まなくなります。
そのため、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立て、遺産分割協議への参加や不動産の処分などに関与してもらう必要があります。
しかし、不在者財産管理人の制度は、申立て手続きに手間と時間がかかるうえ、全てのケースに適用できるわけではありません。
そのため、相続手続きにつまづいたときは、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。
相続問題が得意な弁護士であれば、不在者財産管理人が必要かどうかも含めて、適切にアドバイスしてくれるはずです。