相続開始日とは、「被相続人が死亡した日」のことです。
民法上、被相続人が死亡したタイミングと同時に相続が発生するというルールが定められています。
ただし、「被相続人が死亡した日」をどのように判断するのかは状況によって異なります。
たとえば、入院中に病院で息を引き取ったような自然死亡のケースなら、死亡診断書の日時がそのまま「被相続人が死亡した日=相続開始日」として扱われます。
その一方で、失踪して行方がわからないような事案では失踪宣告制度による死亡擬制がおこなわれます。
そこで今回は、各相続手続きの起算点になる相続開始日の内容や、「相続の開始を知った日」との違いなどについてわかりやすく解説します。
相続手続きの多くには期限が設けられており、この期間を遵守しなければペナルティを受けなければならない可能性もあります。
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民法上、相続は「被相続人の死亡」によって開始すると規定されています(民法第882条)。
相続開始日は被相続人が亡くなった日(死亡日)と同日であり、相続人が死亡の事実を知っていたかどうかは問いません。
相続人が相続するかどうかにかかわらず、財産の相続は被相続人が亡くなるとすぐに開始されます。
つまり、被相続人が死亡して財産の分割や相続の放棄をしてはじめて相続開始となるのではなく、被相続人の死亡とともに相続が開始し、分割や相続の放棄などの手続きをおこなうということになります。
これには、被相続人の死亡と同時に相続開始とすることで、財産の所有者が不明となる不安定な状態に陥ることを防ぐという意図が含まれています。
相続開始日は「被相続人が死亡した日」ですが、「被相続人が死亡した日」をどのように理解するかについては、事案によって以下のとおり分けて考える必要があります。
自然死亡とは、医学上の死亡のことです。
具体的には、けが・病気・老衰などが原因で死亡したケースが挙げられます。
自然死亡のケースでは、医師による死亡診断書が作成されるのが一般的です。
死亡診断書の死亡日欄には「医師が死亡を確認した日時」が死亡日として記載され、死亡診断書の記載内容に基づいて作成された死亡届が役所に提出されます。
したがって、被相続人が自然死亡の場合は、死亡診断書の死亡日が相続開始日となります。
認定死亡は、事故や災害などによって死亡したことは確実であるものの、遺体が見つからない場合に適用されることがあります。
このような場合、調査や捜索にあたった警察署などの官公署が死亡を認定し、自治体へ報告することで戸籍に死亡日が記載されます。
つまり、戸籍に記載された死亡日が相続開始日ということになります。
なお、死亡届が提出された被相続人の生存が後日明らかになった場合、生存していることを証明できれば戸籍の死亡欄を訂正することが可能です。
擬制死亡とは、失踪宣告を受けたときの扱いのことで、普通失踪・特別失踪の2種類に分かれます。
普通失踪とは、不在者の生死が7年間明らかでないときに、利害関係者からの請求に基づき家庭裁判所が不在者を死亡したものとみなす制度のことです(民法第30条第1項)。
普通失踪の場合、不在者の生死が不明になってから7年が経過した時点で死亡したと扱われます(民法第31条前段)。
つまり、普通失踪の場合の相続開始日は「生死不明になってから7年が経過した日」となります。
もし、失踪から7年以上の期間が経過していたとしても、相続開始日の考え方は変わりません。
特別失踪(危難失踪)とは、自然災害や戦争などの危難によって行方不明となり、危難が去ってから1年間生死が明らかでない場合に家庭裁判所より認定される制度のことです(民法第30条第2項)。
特別失踪の場合、「危難が去った日」を亡くなられた日とし、その日が相続開始日となります。
特別失踪では、「危難が去った時点」を死亡時と擬制します(民法第31条後段)。
相続に関するさまざまな手続きや権利行使の期限に関する起算点は、「相続の開始を知った日」に設定されることが一般的です。
そのため、相続に絡んで関係者間でトラブルが生じたときや、被相続人が死亡してからある程度の期間が経過したにもかかわらず、必要な相続手続きに着手していないときには「相続開始日」「相続の開始を知った日」がいつになるのかが問題になります。
ここでは、「相続開始日」「相続の開始を知った日」の違いについて解説します。
「相続開始日」とは、多くの場合において「被相続人が死亡した日」です。
そして、通常、相続人は被相続人が死亡した日にその事実を知ることになるので、「相続の開始を知った日」も「被相続人が死亡した日」と扱われることになります。
たとえば、被相続人が病気を患って入院しており、院内にて息を引き取った場合、相続人はそれを看取ったり、看取った親族から同日内に連絡をもらったりするでしょう。
このような実態を踏まえると、自然死亡の事案の大半は、「相続開始日」「相続の開始を知った日」が「被相続人が死亡した日」と一致することになります。
ただし、「相続開始日」と「相続の開始を知った日」が必ずしも一致するとは限りません。
ここでは、「相続開始日」と「相続の開始を知った日」にズレが生じるケースについて具体的に見ていきましょう。
まず、被相続人が死亡した事実を後日知ったような事案では、「相続開始日」と「相続の開始を知った日」の日付が異なります。
被相続人が死亡した事実を後日知るケースとして、以下のものが挙げられます。
このような事案では、「相続開始日」は「被相続人が死亡した日」ですが、「相続の開始を知った日」は「相続人が実際に被相続人から連絡をもらい、死亡の事実を知った日」と扱われます。
たとえば、以下に挙げたようなケースの場合には、被相続人が死亡した時点ではなく、被相続人の死亡から一定期間経過後に相続権を取得することもあり得ます。
相続放棄の事例について考えると、時系列では「①被相続人の死亡日 → ②ほかの相続人が相続放棄をした日 → ③ほかの相続人による相続放棄の事実を知った日」という流れを経ます。
「被相続人の死亡日(①)」が「相続開始日」であることに違いはありませんが、「相続の開始を知った日」が「ほかの相続人による相続放棄の事実を知った日(③)」と扱われるため、関係者の連絡頻度などによってはでは、「相続の開始を知った日」が相当後ろにズレる可能性もあるということです。
各種相続手続きには期限が設けられているものがあり、その多くの起算点が「相続開始日」「相続の開始を知った日」に設定されています。
ここでは、期間制限が設けられている主な相続手続きを紹介します。
相続放棄および限定承認については、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内」という期間制限が設けられている点に注意が必要です(民法第915条第1項)。
この3ヵ月の期間は熟慮期間と呼ばれます。
熟慮期間内に相続放棄および限定承認の申述をしないと、単純承認したことになってしまうため注意が必要です。
特に、相続財産の内容が複雑だったり、被相続人の財産関係を示す証拠などが手元に一切残っていなかったりする場合には、熟慮期間が経過するまでに十分な相続財産調査が終わらないリスクも生じます。
相続放棄や限定承認の意思表示はあとから撤回できないのが原則なので(民法第919条第1項)、はじめから相続問題に強い弁護士へ相談をしてサポートを受けることを強くおすすめします。
なお、相続財産の調査に時間を要する場合などでは、家庭裁判所が熟慮期間の伸長を認めてくれることがあります(民法第915条第1項但書)。
また、熟慮期間経過後に通常の調査能力では発見できなかった借金の存在が明らかになったような事案では、例外的に熟慮期間経過後であったとしても相続放棄・限定承認の申し立てが許可される可能性も否定できません。
準確定申告はその年の1月1日から、被相続人が死亡した日までの所得を対象としておこないます。
被相続人に確定申告の義務があった場合、相続人が代わりに「準確定申告」をおこなう必要があり、申告・納付手続きの期限は相続開始の翌日から4ヵ月以内です。
申告・納付手続きの期限を過ぎてしまうと、加算税や延滞税といったペナルティが課されることがあるため、注意しましょう。
このとき、源泉徴収票や保険料の控除証明書など書類の取り寄せに時間を要することもあるため、相続財産の調査などと並行しながら準備を進めるようにしましょう。
被相続人がおこなっていた事業を相続によって承継する場合、相続人本人が青色申告によるメリットを享受したいと考えることもあるでしょう。
ここで注意しなければいけないのが、相続によって事業を承継するとしても、被相続人がおこなっていた白色申告・青色申告をそのまま引き継ぐことはできないという点です。
白色申告・青色申告は個人ごとに判断されるものなので、相続によって被相続人の事業を引き継ぐ場合でも、相続人本人が自身の納税地の所轄税務署まで、別途青色申告承認申請手続きをおこなわなければいけません。
相続人側がおこなうべき青色申告承認申請の期限は、以下のように状況によって異なります。
業務を承継した日 |
青色申告承認申請の期限 |
|
被相続人が生前白色申告をしていた場合 |
1月1日~1月15日 |
その年の3月15日まで |
1月16日~12月31日 |
業務を承継した日から2ヵ月以内 |
被相続人の死亡日 |
青色申告承認申請の期限 |
|
被相続人が生前青色申告の承認を受けていた場合 |
1月1日~8月31日 |
被相続人の死亡日から4ヵ月以内 |
9月1日~10月31日 |
その年の12月31日まで |
|
11月1日~12月31日 |
翌年の2月15日まで |
なお、相続人本人が以前から青色申告をしていたときには、相続によって事業承継をする場面において別途青色申告承認申請をする必要はありません。
相続税の申告・納付手続きは、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月月以内」と定められています。
この期限が徒過するまでに相続税の申告・納付を済ませなければ、高い延滞税・加算税がペナルティとして課されるので注意しなければいけません。
なお、相続税の基礎控除額は、【3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)】の計算式によって算出されます。
相続財産の金額が基礎控除額の範囲内に収まって相続税が発生しないケースでは、相続税の申告・納付手続きは不要です。
また、相続税の申告・納付手続きは相続人自身でおこなわなければいけません。
相続財産に不動産や株式が含まれる事案では評価額の算定が難しく、素人では相続税の算出プロセスにミスが生じるリスクが高いので、可能であれば相続問題に強い弁護士・税理士へ相談することをおすすめします。
遺留分侵害額請求権の行使については、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年間」もしくは「相続開始のときから10年間」の期限が設けられています(民法第1048条)。
たとえば、遺留分を侵害するような遺言書が存在するような事案において、相続手続きをしないまま一定期間が経過すると、本来受け取ることができたはずの相続財産を受け取ることができなくなってしまいます。
相続問題に強い弁護士へ相談のうえ、受遺者・受贈者に対して内容証明郵便を送付するなどの方法によって、速やかに遺留分侵害額請求権を行使しましょう。
最後に、相続開始日についてよく寄せられる質問をQ&A形式で紹介します。
脳死とは、脳の活動が永久的になくなった状態のことです。
ただ、脳の機能は停止しているものの、身体は生きている状態を指します。
民法上、脳死は「人の死亡」の基準とはされていません。
脳死を「人の死亡」と扱うのは、臓器の移植に関する法律に基づいて脳死判定をした人物から臓器を移植する場面に限られます。
そのため、あくまでも現行のルール内では、脳死をした事実だけをもって相続開始日とは判断されません。
脳死の場合における相続開始日の確定には、各種調査や手続きが必要になることが多いため、法的に正確かつ迅速な対応をおこなうためにも、弁護士への相談を推奨します。
各相続手続きに定められた期限の起算点は「相続の開始を知った日」に設定されますが、そこから機械的に日数をカウントすると、相続手続きの期限が土日祝日に重なることもあるでしょう。
このように、相続手続きの期限が土日祝日に重なってしまう場合は、その翌日や連休明けの平日を期限最終日にズラすという運用が採られています。
なぜなら、税務署や家庭裁判所などの官公署は土日祝日は閉庁しており、土日祝日がそのまま各種相続手続きの最終日と扱われると、手続きをする相続人が実質的に法定の手続き期間を与えられていないことになってしまうからです。
たとえば、相続手続きの期日が土曜日の場合には翌月曜日が、期日が12月29日だったなら翌年1月4日となります。
大半の相続手続きは、相続開始日を起点として法定された期間内におこなう必要があります。
相続手続きの期限を過ぎてからでは、希望どおりに手続きを進めることができなかったり、重いペナルティが下されたりしかねません。
そのため、被相続人が亡くなった際には、相続開始日を適切に把握したうえで、いつまでにどの手続きを進めるべきかについて丁寧なスケジュールを立て、手続きを遂行する必要があります。
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