相続の話ではよく相続税・贈与税について問題となりますが、所得税はかかるのでしょうか。
また、所得税が問題になる場合の確定申告はどうなっているのでしょうか。
本記事では、相続において所得税が問題になるケースと、所得税が問題になる場合の確定申告について詳しく解説します。
遺産相続によって取得した財産は相続税の対象であり、基本的に所得税がかかることはありません。
所得税は、会社の給料や商売などで稼いだ利益といった所得に対してかかる税金です。
相続財産は所得ではないので、遺産相続では基本的に所得税はかからないことになります。
所得が発生しないのであれば、確定申告も必要ありません。
一方で遺産相続の結果として所得が発生した場合は所得税が課税され、確定申告が必要となるケースもあります。
次項では、遺産相続においてどのようなケースで所得税がかかり、確定申告が必要となるかみていきましょう。
遺産相続に関連して、所得税がかかるため、確定申告が必要な6つのケースについて知っておきましょう。
そのうえで被相続人が以下にあてはまるケースでは、相続人が被相続人にかわって確定申告や所得税の納税をしなくてはなりません。
被相続人にかわって相続人がおこなう確定申告のことを「準確定申告」と呼びます。
確定申告の期間は、原則2月16日~3月15日です。
一方、準確定申告は相続開始(被相続人の死亡を知ってから)4ヵ月以内におこなう必要があります。
株式や不動産など相続した財産を売却して利益が発生した場合、その利益に対し所得税がかかります。
そのため相続財産を売却した相続人は、確定申告をおこなう必要がある可能性があるのです。
株式・不動産など を売却して得た利益を譲渡所得と呼びます。
例えば、不動産を売却した場合の譲渡所得の計算方法は以下のとおりです。
一方、株式を売却した場合の譲渡所得の計算方法は次のとおりです。
これら の計算がプラスになれば 利益が発生していることになり、 所得税がかかります 。
ただ、譲渡所得の計算方法は複雑なので、不明点があれば税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
換価分割によって売却益が発生した場合も、譲渡所得税が発生するため確定申告をする必要があります。
換価分割とは、不動産などの遺産を売却して得た現金を相続人で分け合う遺産分割の方法です。
換価分割によって不動産を売却する場合、一般的には不動産の名義を相続人の共有名義にしてから売却します。
そのため売却益が発生した際は、相続人が確定申告をして譲渡所得税を支払う必要があるのです。
賃貸不動産の賃料や株式配当など、相続財産によって収益が発生した場合は所得税がかかります。
そのため、確定申告も必要です。
遺産分割前であれば、遺産に含まれる不動産などは相続人全員の共有財産となります。
そのため各相続人が法定相続分※に応じて負担しそれぞれが確定申告をするのが基本です。
遺産分割協議や遺言書などで相続人が決まったら、その後はその相続人が所得税を負担することになります。
※法定相続分とは、民法により定められた法定相続人ごとの相続割合です。
法定相続分や法定相続人についての詳細は、以下記事で詳しく解説しています。
以下のような契約の生命保険において、相続人が死亡保険金を受け取った際は所得税がかかります。
このケースでは、相続人Aが自分で保険料を支払っていた保険契約の保険金を受け取ったことになります。
そのため相続人A自身の一時所得とみなされ、所得税が課せられることになるのです。
相続人Aは、確定申告をして所得税を支払う必要が生じる可能性があります。
上記ケースで、受取人が相続人Aでなく相続人Bであった場合に課税されるのは贈与税です。
この場合、保険金は契約者である相続人Aから相続人Bに贈与されたものと考えられ、相続人Bは贈与税申告をする必要があります。
なお、一般的に生命保険の契約は以下のように被保険者・契約者ともに被相続人であるケースが多いです。
このケースでは、死亡保険金は契約者である被相続人から相続人Aへ相続されたものとみなされます。そのため相続人Aには相続税がかかるのです。
【死亡保険金の契約関係と課税される税金の違い】
被保険者 |
契約者 (保険料を支払っていた方) |
受取人 |
課税される税金 |
被相続人 |
被相続人 |
相続人A |
相続税 |
被相続人 |
相続人A |
相続人A |
所得税 |
被相続人 |
相続人 A |
相続人 B |
贈与税 |
被相続人が受け取る筈だった未支給年金を相続人が受け取った場合も、所得税が発生し確定申告が必要となる可能性があります。
年金が振り込まれるのは、偶数月の15日です。たとえば6月15日には、4月分と5月分の年金が振り込まれることになります。
仮に被相続人が、6月10日に亡くなられたとしましょう。
この場合は年金支給日の6月15日前なので、4月分・5月分は生存していて受け取る権利があったにも関わらず支給されないことになります。
この年金が「未支給年金」です。
未支給年金は、一定の要件を満たす遺族(相続人)が代わりに受け取ることができます。
そうして遺族が未支給年金を受け取ったら一時所得となり、所得税がかかるのです。
なお一時所得には、50万円の特別控除額があります。そのため、未支給年金とほかの一時所得とあわせ50万円以下であれば所得税はかかりません。
遺産相続の際に問題となる所得税についてよくある質問には次のものがあります。
毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告をおこなって、所得税の納付をおこないます。
そのため、遺産相続後に 所得税の確定申告が必要となった場合には、翌年の3月15日が期限となります。
なお、3月15日が土日・祝日である場合には、その翌日が期限となります。
準確定申告については、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内におこないます。
相続の開始を知った日とは、一般的に被相続人が亡くなった日(=被相続人が死亡したことを知った日)です。
まず期限までに確定申告をして納税しなければ、ペナルティとして以下3つの税金が追加で発生する可能性があります。
延滞税とは、期限までに納税しなかった場合に課せられる税金で、納付期限の翌日から実際に納付した日までの日数分税額が加算されます。
延滞税の割合は以下のとおりです。
なお令和6年現在、昨今の低金利を踏まえ市中金利とかけ離れているため、特例で延滞税の税率がおさえられています。
税率の詳細については、国税庁公式サイトの以下記事で確認ください。
無申告加算税とは、期限までに確定申告や贈与税申告をしなかった場合に課される加算税であり、基本的な税率は以下のとおりです。
なおこの税率は、自主的に申告したか、無申告が繰り返されたかなどにより変わります。
(例:自主的に申告した場合は5%減、5年以内に無申告加算税を課されていたときは10%増など)
税率の詳細については、国税庁公式サイトの以下記事で確認ください。
また帳簿や関係書類の改ざん・隠とくなど仮装や隠蔽によって申告しなかった場合、無申告加算税に代えて40%の重加算税が加算されます。
そのほか、故意に申告書を提出せず租税を免れようとすると、刑事責任に問われる可能性もあるので注意してください。
この場合の刑事罰は5年以下の懲役か500万円以下の罰金、またはその両方です。
一方で工作をはかるなどして脱税を試みた場合の刑事罰は、10年以下の懲役か1,000万円以下の罰金、またはその両方となります。
遺産相続をしても翌年の住民税には影響をしません。
住民税の課税は所得に応じて課税されることになっており、所得が増えれば納税する金額も増える仕組みとなっています。
上述したように、遺産相続で財産を得ることは、所得に含まれないため、基本的には住民税の課税金額に影響を及ぼすことはありません。
もっとも、相続した遺産を運用するなどして所得が増えた場合には、住民税の金額が増える可能性はあります。
本記事では遺産相続にあたって所得税がかかるのかについて中心にお伝えしました。
遺産相続で財産を得た場合には基本的に所得税でなく相続税の対象となることから確定申告する必要はありません。
しかし、被相続人が確定申告をする必要があったときには、相続人には準確定申告をする義務があります。
また、相続人が取得した遺産を売却して売却益を上げた場合や、相続人が相続した遺産を運用して利益を上げた場合などは、その相続人自身の所得として所得税の課税が問題となります。
相続にあたっては、法律問題はもちろん、今回問題となった所得税のほかに、相続税・贈与税などさまざまな税金が相続前後で発生することになります。
相続・遺言・遺産分割などに伴う税金については、税理士に相談することをおすすめします。
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