ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ) > 相続コラム > 相続税 > 相続税の寄附金控除で節税できる?対象となる団体や計算方法を紹介
更新日:

相続税の寄附金控除で節税できる?対象となる団体や計算方法を紹介

大倉佳子税理士事務所
大倉 佳子(税理士)
監修記事
注目 相続税に関する弁護士相談をご検討中の方へ
電話・メールOK
夜間・休日も対応
累計相談数
9万件超
相続税に対応できる
弁護士から探せる
相続税の相談にも対応
している弁護士を探す

相続税の節税方法として「寄附金控除」という方法が挙げられます。

そもそも、日本の相続税制度は相続人に対してかなり厳しい税負担を強いるものです。

たとえば、節税対策を何もおこなわなければ、被相続人が長年苦労して蓄えた財産から相当額の相続税を差し引いた金額しか相続人に引き継ぐことができません。

相続税の寄附金控除制度を利用すれば、相続によって引き継いだ財産を有効活用して欲しい団体に引き渡すことができますし、上手に寄附金額を調整することで相続税負担を軽減できる可能性も生じるでしょう。

そこで今回は、相続税の寄附金控除制度の内容や要件、寄附金控除制度を利用するメリットなどについてわかりやすく解説します。

寄附金控除をはじめとする相続税の節税方法はいろいろ用意されているので、弁護士や税理士などの専門家に相談のうえ、ご自身の資産状況に適した節税プランを提案してもらいましょう。

相続税の寄附金控除とは

相続税の寄附金控除とは、「相続や遺贈によって取得した財産について、相続税の申告期限までに国・地方公共団体・認定NPO法人などに寄附した場合や、特定の公益信託の信託財産とするために支出した場合は、その寄附をした財産・支出した金銭を相続税の課税対象から外す」という制度のことです。

そもそも、日本の相続税制度では、【3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)】の計算式で求められる基礎控除額を超える相続財産に対して相続税が課されるという仕組みになっています。

寄附金控除は、この基礎控除額に加えて相続税の非課税範囲を拡大する役割を担っているので、相続税の節税対策として効果を発揮すると言えるでしょう。

相続税の寄附金控除を受けるメリット

相続税の寄附金控除制度を利用するメリットは、次の3点です。

  1. 寄附した金額がそのまま相続財産の非課税扱いになる
  2. 相続税だけではなく所得税・住民税の節税効果も有する
  3. 「ふるさと納税」も寄附金控除の対象になる

寄附した分が非課税になる

相続税の寄附控除を受けると、寄附した金額がそのまま相続財産の非課税になります

たとえば、相続人が2人で被相続人の財産が5,000万円の場合、基礎控除額は4,200万円なので(3,000万円 + 600万円 × 2人)、800万円分が相続税の課税対象です。

これに対して、1,000万円分を国・地方公共団体などに寄附をすれば、基礎控除額4,200万円に加えて1,000万円が寄附金控除として非課税になるので、相続税の課税対象になる相続財産が0円になります。

所得税や住民税も節税できる

寄附金控除は相続税だけではなく、所得税・住民税の節税にも役立つことがあります。

ただし、後述するように、相続税における寄附金控除とは異なり、所得税・住民税の寄附金控除については寄附金額に対して控除額に上限が設定されている点に注意が必要です。

「ふるさと納税」も適用になる

ふるさと納税は国・地方公共団体に対する寄附なので、寄附金控除として扱われます。

相続で引き継いだ財産をふるさと納税制度で地方公共団体などに寄附をすれば、相続税・所得税・住民税について節税効果を期待できるだけではなく、返礼品を楽しむこともできるでしょう。

また、ご自身に所縁があったり興味がある自治体の応援にもなります。

相続税の寄附金控除を受けるための要件

寄附金控除制度を利用して相続税を節税するには、以下の要件を満たす必要があります。

申告期限までに寄附すること

相続税の寄附金控除を受けるには、相続税の申告期限までに寄附を完了し、寄附金控除を受ける旨の申告をおこなう必要があります。

まず、相続税の申告期限とは、被相続人が死亡したことを知った日(通常「被相続人が死亡した日」)の翌日から10ヵ月以内です。

期限が土曜日・日曜日・祝日などに該当するときには、これらの日の翌日が申告期限と扱われます。

次に、相続税の申告書の提出先は、「被相続人の住所地を所轄する税務署」です。

相続によって財産を取得した人の住所地を所轄する税務署ではないのでご注意ください。

さらに、相続税の寄附金控除を受けるには、相続税の申告書において寄附金控除の特例の適用を受けようとする旨を記載し、かつ、「その適用を受ける寄附または支出をした財産の明細書(相続税の申告書の第14表)」及び「その他一定の必要書類」を提出しなければいけません。

「その他一定の必要書類」は、寄附金控除の適用を受けるシチュエーションごとに以下のように定められています。

国・地方公共団体・公益を目的とする事業をおこなう特定の法人に寄附をした場合

  • 国・地方公共団体・特定の公益法人の特例の適用を受けようとする財産の贈与を受けた旨、その贈与を受けた年月日及び財産の明細並びにその法人のその財産の使用目的を記載した書類
  • 特定の公益法人に対する寄附については、その特定の公益法人に該当する旨の地方独立行政法人法第6条第3項に規定する設立団体または私立学校法第4条に規定する所轄庁の証明書類

特定の公益信託の信託財産とするために支出をした場合

  • 特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭の受領をしたその特定公益信託の受託者のその受領をした金銭がその特定公益信託の信託財産とするためのものである旨、その金銭の額及びその受領した年月日を証する書類
  • 特例の適用がある特定公益信託であることについての主務大臣の認定に係る書類(認定年月日の記載があるもの)

認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)に寄附した場合

  • 認定特定非営利法人(認定NPO法人)の特例の適用を受けようとする財産の贈与を受けた旨、その贈与を受けた年月日及び財産の明細並びにその任芸特定非営利活動法人のその財産の使用目的を記載した書類

相続財産をそのままの形で寄附すること

相続税の寄附金控除を受けるには、「相続によって取得した相続財産をそのままの形で寄附すること」が求められます。

たとえば、親から不動産を相続した場合、寄附金控除の対象になるには不動産をそのままの状態で寄附すること、有価証券であれば有価証券のまま寄附する必要があります。

不動産を売却して得た現金を寄附しても寄附金控除の対象外になるのでご注意ください。

対象の団体に寄附すること

相続税の寄附金控除の対象になるには、所定の団体に対する寄附をおこなう必要があります。

どこの誰かに寄附をしても、相続税を節税できるわけではありません。

国や地方公共団体

寄附金控除の対象になる代表例として国・地方公共団体が挙げられます。

基本的には、ふるさと納税制度を活用した節税対策になるでしょう。

公益を目的とする事業をおこなう特定の法人

「教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる公益を目的とする事業をおこなう特定の法人(特定の公益法人)」に対する寄附も相続税の寄附金控除の対象になります。

特定の公益法人は、寄附の時点ですでに設立されているものでなければいけません。

たとえば、公立大学・私立大学・日本赤十字社・ユニセフなどに限られます。

お墓を建てたお寺のような宗教法人は、相続税の寄附金控除制度の対象外です。

認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)

認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)とは、「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定される特定非営利活動法人のうち、一定の基準を満たすものとして都道府県知事または指定都市の長から認定を受けたもの」のことです。

NPO法人ならどこに寄附をしても相続税の寄附金控除制度の対象になるわけではありません。

認定NPO法人については「NPO法人ポータルサイト(内閣府HP)」や各自治体のホームページから確認できます。

遺産を寄附した場合の相続税の控除額の計算式

それでは、相続財産を寄附したときにどのような節税効果を得られるのかについて、具体的に解説します。

相続税の計算式

相続税は以下の計算方法によって算出されます。

  1. 相続税の基礎控除額を求める
  2. 基礎控除額を超える部分について相続税率をかける(くわえて、控除額を減額する)

まず、相続税の基礎控除額は【基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)】という計算式によって算出されます。

次に、基礎控除額を超える財産に対して、財産額に応じて設定される相続税率をかけて相続税を計算します。

相続税率は以下のとおりです。

相続額から基礎控除額を除いた金額

相続税率

控除額

1,000万円以下

10%

なし

3,000万円以下

15%

50万円

5,000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

2億円以下

40%

1,700万円

3億円以下

45%

2,700万円

6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

所得税の計算式

所得税は、所得金額に応じて以下の税率・控除額によって算出されます。

課税される所得金額

税率

控除額

1,000円から1,949,000円まで

5%

0円

1,950,000円から3,299,000円まで

10%

97,500円

3,300,000円から6,949,000円まで

20%

427,500円

6,950,000円から8,999,000円まで

23%

636,000円

9,000,000円から17,999,000円まで

33%

1,536,000円

18,000,000円から39,999,000円まで

40%

2,796,000円

40,000,000円以上

45%

4,796,000円

住民税の計算式

住民税は、以下の計算式に基づいて算出します。

  1. 所得金額 - 所得控除額 = 課税所得金額
  2. 課税所得金額 × 税率10% - 税額控除額 = 所得割
  3. 所得割 + 均等割5,000円 = 住民税額

寄附金控除の計算例

まず、相続税の寄附金控除は、相続財産全額から寄附した金額がそのまま控除されるので、相続税の基礎控除額以上に課税対象財産を減額できます。

次に、所得税の寄附金控除は、【寄附した金額 - 2,000円】の計算式で求められます。

ただし、「寄附した金額」は総所得の40%までとされている点に注意が必要です。

さらに、住民税の寄附金控除は、基本控除と特例控除の合算で算出されます。

基本控除及び特例控除の計算方法は以下のとおりです。

  • 基本控除:(寄附した金額 - 2,000円)× 10%(ただし、「寄附した金額」は総所得の30%まで)
  • 特例控除:(寄附した金額 - 2,000円)×(90% - 所得税率 × 1.021)(ただしふるさと納税にのみ適用され、個人住民税所得割額20%まで)

このように、相続税の節税目的で寄附金控除制度を利用した場合には、所得税・住民税への節税効果を期待できます。

ただし、実際の節税額は所得状況や相続人の数、利用できるその他の控除制度などによって異なるので、詳しい節税効果は弁護士・税理士などの専門家まで相談ください

相続税の寄附金控除を受ける際の注意点

さいごに、相続税の寄附金控除制度を利用する際の注意点について解説します。

節税効果は大きくない

まず、寄附金控除制度は「寄附をした場合=財産を手放した場合」を対象とする節税方法である点を押さえなければいけません。

たとえば、相続人が「相続財産をできるだけ減らしたくない」という希望を抱いている場合、寄附によって相続財産を減らして相続税率を下げるよりも、最初から寄附をせずに高い相続税を支払った方が手元に残る財産総額が増えてニーズを満たしやすいこともあります。

被相続人が生きている段階(相続が開始する前の段階)から相続税の節税対策を検討すれば、寄附金控除以外のさまざまな選択肢を比較することができます。

できるだけ早いタイミングで弁護士・税理士などの専門家に相談をして、被相続人・相続人の利益を最大化できる節税方法を提案してもらいましょう。

遺言で寄附する場合は対象外

相続税の寄附金控除を利用できるのは、「相続人が相続財産を寄附した場合」です。

たとえば、被相続人の遺言で寄附に関する指示があった場合には、「相続人が相続財産を寄附した」のではなく、「被相続人が寄附をした」に過ぎません。

相続税の寄附金控除を利用したあとに税務署からチェックが入って遺言状を確認された場合、あとから寄附金控除が認められずに相続税を追徴される可能性が生じるので、寄附金控除を利用する際には、事前にかならず弁護士・税理士などの専門家の意見を参考にしてください

不動産の寄附は課税対象になる場合もある

不動産や株式などの相続財産を法人に対して寄附したケースに限って、「みなし譲渡課税」が発生する可能性があります。

みなし譲渡課税とは、「資産を無償または廉価で譲渡した場合に、寄附時の時価相当額で売却したとみなして課税する制度」のことです。

当事者本人が寄附と認識していたとしても、事後的に税務署から「みなし譲渡にあたる」と判断されると時価相当額での収入があったことにされるので、所得税・消費税が課税されます。

みなし譲渡の疑いを払拭するには寄附金控除利用時の手続きを正確に履践する必要があるので、不動産や株式などの寄附を検討している際には、かならず弁護士・税理士などの専門家まで相談ください。

まとめ|相続税の節税で迷ったら専門家に相談しよう

相続税の節税方法は、寄附金控除だけではありません。

ただし、相続税対策を実効的なものにするには、相続発生時になって節税方法を検討し始めるのでは選択肢が限られてしまいます。

相続発生前から中長期的に時間をかけて幅広い視点から節税方法を検討すれば、暦年贈与や各種特例を有効活用によって相続発生時の相続人の税負担を大幅に軽減できるでしょう。

弁護士・税理士などの専門家に相談すれば、被相続人の状況や相続財産の内容によって適切な節税方法を提案してくれるので、できるだけ早いタイミングで問い合わせください

この記事をシェアする
この記事の監修者
大倉佳子税理士事務所
大倉 佳子(税理士)
税務署勤務を経て2017年税理士登録。女性のあれこれや仕事、時間を大事にしたい人と会社を繋ぐW-HEARTコンサルティング運営。税務用語を身近に理解できる税務事務所をめざした大倉佳子税理士事務所運営。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

相続税に関する人気コラム

相続税に関する新着コラム

相談内容から弁護士を探す
弁護士の方はこちら
損をしない相続は弁護士にご相談を|本来もらえる相続対策も、弁護士が適正に判断|あなたの状況に合った損をしない解決方法を、遺産相続に強い弁護士がアドバイスいたします。|お問い合わせ無料