相続税を計算する場合、被相続人の借金や葬式費用を控除できるので、税負担が軽くなるケースがあります。
しかし、葬式費用の内訳はかなり細かくなっているため、何が控除の対象になるのかわからず、以下のように困っている方もいるでしょう。
相続税は課税価格に応じて税率が変わるので、お布施を債務控除できるかどうかで税額が変わる可能性があります。
また、お寺や神社の場合、受け取ったお布施は非課税ですが、用途を間違えると課税対象になり、追徴課税になるケースもあるでしょう。
ここでは、お布施と債務控除の考え方や、お布施にかかる税金の扱いをわかりやすく解説していきます。
相続税の債務控除とは、相続財産から負債などを差し引き、課税価格を算出するための計算です。
亡くなった家族の遺産を相続するときは、まず相続税がかかるかどうかを判定する必要があるので、以下のように相続財産を整理し、課税価格を計算します。
(1)プラスの財産:現金や預貯金、不動産や株式、相続開始前3年以内の贈与など
(2)マイナスの財産:借金や未払金など
(3)非課税財産:墓地や仏壇・仏具の購入費や未払金など
(4)葬式費用:葬儀会社へ支払った費用など
(5)基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
計算結果がプラスになれば課税価格が発生するので、適用税率を乗じて相続税を計算することになります。
なお、葬式費用は被相続人の債務ではありませんが、税制上は債務として扱い、プラスの財産から差し引いてもよいことになっています。
お寺に支払ったお布施や、神社に支払った祭祀料は葬式費用に含まれるので、相続税を計算するときは債務控除の対象になります。
「お布施を差し引いても相続税に影響しないのでは?」と思われるかもしれませんが、お布施の控除により課税価格が発生しなくなるケースもあります。
また、相続税が確実にかかるケースでも、お布施を控除することで、適用税率が1段階下がる可能性もあるので、必ず債務控除に含めておきましょう。
家族が亡くなると、通夜、葬式、初七日法要などが連続するため、遺族の出費が高額になるケースもあります。
全て債務控除の対象にできればよいのですが、税法上の葬式費用は限定されており、基本的には通夜・葬式にかかった費用しか債務控除できません。
葬式費用になるもの・ならないものはかなり細かく分類されているので、以下を参考にしてください。
税法上の葬式費用は以下のようになっており、全て債務控除の対象です。
通夜・葬式では2~3日の間にさまざまな費用が発生するため、喪主の立場では全てチェックできないかもしれません。
何らかの支払いが自分の知らないうちに発生し、親族が立替え払いしているケースも少なくないので、時間に余裕があれば、お通夜の前に打ち合わせをおこなってください。
また、お葬式が終わったあとも、立替払いや未払いの費用が発生していないかチェックしておきましょう。
以下の費用は葬式費用にならないため、債務控除は認められません。
通夜・葬式に直接関係ないものは葬式費用として認められないため、墓地や仏壇などの購入費や、初七日以降にかかった法事の費用は債務控除の対象外です。
また、香典は亡くなった方ではなく遺族に対して渡されるものなので、香典返しにかかった費用も債務控除できません。
なお、葬式と初七日を同時におこなう繰上初七日の場合、葬儀会社からの請求が別々になっているか、全て葬式費用になっているかで判断するケースがあります。
葬式費用になるかどうかの判断に迷ったときは、税理士に相談してみましょう。
相続税を計算するときは被相続人の負債を控除できるので、以下のように借金や未払金などがあれば、必ず債務控除してください。
プラスの財産に思える金銭でも、性質的には負債になっている場合があるので注意してください。
被相続人に以下のような借金や未払金があったときは、相続税の計算から債務控除できます。
被相続人が事業をおこなっていたときは、立替金や買掛金、リース料金などを帳簿で確認してください。
また、特別寄与料は令和元年7月1日から債務控除が認められており、特別寄与者に寄与料を支払ったときは、相続財産から控除できます。
被相続人が病院にかかっていたり、老人ホームなどに入居していたときは、治療費や入居費用などの請求書もチェックしておきましょう。
被相続人に課せられた以下の税金について、未納になっていたときは債務控除できます。
なお、相続開始時において、支払いが確定している税金のみ債務控除の対象になります。
被相続人の連帯債務については、以下のように控除できる部分・控除できない部分に分かれます。
【債務控除できる部分】
連帯債務者はそれぞれ負担額や負担割合が決まっているので、被相続人が負担する部分のみ債務控除できます。
【債務控除できない部分】
被相続人が負担する部分を超えた債務については、基本的に債務控除できません。
ただし、別の連帯債務者が弁済不能となり、被相続人が債務を負担した場合、求償しても支払いを受けられる見込みがまったくなければ、その負担した部分を債務控除できます。
被相続人が賃貸アパートや賃貸マンションを経営している場合、入居者から敷金を預かっているケースがあります。
預り敷金は退去時に返還する必要があり、被相続人の個人的な相続財産ではなく負債として扱うため、債務控除が認められます。
なお、預り敷金は専用口座で管理するケースが一般的ですが、小規模な賃貸経営の場合、生活費用の口座で管理している場合があるので注意してください。
口座や帳簿管理がルーズになっていたときは、金融機関に過去の取引履歴を請求しておきましょう。
お布施を僧侶や寺院に渡すときは、以下の点に注意してください。
一般的な相場よりも高いお布施を支払った場合、債務控除が認められないケースもあります。
お布施は僧侶への寄付という性質があるため、領収書を発行してもらえないケースが一般的です。
しかし、領収書が必要な旨を伝えると、すぐに発行してくれるお寺もあるので、葬儀が落ち着いたあとに連絡してみましょう。
どうしても領収書を発行してもらえないときは、以下の内容をメモなどに記録し、相続税申告書に添付してください。
相続税は共同申告になっているので、相続人全員の印鑑もあるとよいでしょう。
なお、印鑑は認印で構いません。
お布施の支払いであれば、原則的には相続放棄に影響しません。
相続放棄を選択する場合、被相続人の借金を支払う、または相続財産を処分するなど、一定の行為があったときは単純承認が成立するため、相続放棄が認められなくなります。
ただし、葬式費用の支払いは相続放棄に影響しないので、喪主がお布施を支払った場合でも、基本的には家庭裁判所に相続放棄を受理してもらえます。
なお、最終的には家庭裁判所の判断になるので、相続財産からお布施を支払うと、裁判所の審理に悪影響を及ぼすかもしれません。
お布施は自己負担で支払っておきましょう。
葬儀関係の費用には一般的な相場があるので、高額なお布施は相続税を逃れる目的とみなされ、債務控除が認められない可能性があります。
葬儀や告別式のお布施は10万~50万円程度が相場になっているため、50万円を超えるお布施は注意が必要でしょう。
しかし、お布施の金額には以下の要素も影響するので、一概に50万円オーバーが高額ともいえません。
檀家総代を代々務めており、寺院との関わりが深い家系であれば、一般的な相場を超えるケースもあります。
「十分なお布施を払いたいが、債務控除が気になる」という方は、税理士に相談してみるとよいでしょう。
通常、一定の収入や資産の移転があった場合、所得税や贈与税がかかるので、場合によっては確定申告が必要です。
では、お寺がお布施を受け取ったとき、または神社が祭祀料を受け取った場合、税金はかかるのでしょうか?
寺院や神社の経理は特殊な部分もあるので、お布施が収益になるか、税金がかかるかどうかわからないときは、以下を参考にしてください。
お寺が檀家からお布施を受け取っても、税金はかかりません。
祭祀料として玉串料や初穂料を神社が受け取った場合でも、非課税の扱いになります。
お布施や祭祀料は宗教活動による収入となり、寄付や喜捨金として扱われるので、法人税の課税対象からは除外されています。
また、檀家から受け取った戒名料にも税金はかかりません。
宗教活動による収入は基本的に非課税ですが、以下のような収益事業であれば、寺院・神社にも税金が課せられます。
なお、国税庁では宗教法人の税務について資料を公開しており、以下の34種類が収益事業となっています。
【宗教法人の収益事業】
物品販売業、不動産販売業、金銭貸付業、物品貸付業、不動産貸付業、製造業、通信業・放送業、運送業・運送取扱業、倉庫業、請負業(事務処理の委託を受ける業を含む)、印刷業、出版業、写真業、席貸業、旅館業、料理店業その他飲食店業、周旋業、代理業、仲立業、問屋業、鉱業、土石採取業、浴場業、理容業、美容業、興行業、遊技所業、遊覧所業、医療保健業、技芸教授業、駐車場業、信用保証業、無体財産権の提供業、労働者派遣業
詳しくは、国税庁ホームページの「宗教法人の税務」を参照してください。
現在は平成30年版が公開されているので、最新版がリリースされたときは差し替えておきましょう。
法人税が非課税になる寺院・神社であっても、税務調査の対象になる可能性は十分にあります。
お布施や祭祀料を生活費として使うなど、私的な流用の実例もあったため、宗教法人の税務調査も厳しくなっています。
税務調査では重点的にチェックされるポイントもあるので、以下を参考にしてください。
寺院や神社が税務調査の対象となった場合、税務調査官は以下のようなポイントをチェックしています。
【収入や収益の帳簿処理】
税務調査では必ず帳簿類にチェックが入ります。
宗教活動の収入となるお布施や戒名料、初穂料や玉串料が計上されているか、事業による収益と区別されているかなど、徹底的にチェックされるでしょう。
帳簿計上に漏れがあった場合、僧侶や神職が私的な用途に使ったのではないか?と疑われ、全て解明するまで調査が続きます。
【法人と個人の収支の区別】
宗教法人の税務調査では、法人と僧侶・神職の収支が区別されているかどうかチェックされます。
宗教活動による収入は寺院・神社の収入になるため、僧侶や神職の収入とは切り離して会計処理する必要があります。
税金の処理をチェックされる調査なので、税額に影響する経費計上についても入念に調査されるでしょう。
また、宗教法人では僧侶や神職に毎月の報酬を支払うため、法人の収支と区別されていることや、所得税の源泉徴収が適正かどうかも調査対象になります。
個人の税務調査にかかる時間は一般的に半日、長くても1~2日程度ですが、宗教法人の場合はさらに長くなるため、日々のお勤めに影響が出てしまうでしょう。
会計処理がよくわからず、慣例・慣習的に処理している費用などがあれば、早めに税理士へ相談してください。
株式会社や合同会社などの一般的な営利法人と異なり、宗教法人の場合は「領収書がないお金」が動くため、法人と個人の収支が混ざりやすくなっています。
2021年に発生した実例として、和歌山県内のお寺に税務調査が入り、檀家からのお布施1億5,000万円の私的流用が発覚したため、ニュースでも報じられることになりました。
住職がお布施を個人名義の口座に入金したり、私的に使ったりした実態があったことから、重加算税を含む7,000万円が追徴課税されています。
このような前例があると、税務署も「まだほかにもあるはず」と考えるため、宗教法人の税務調査は今後も厳しくなる可能性があります。
僧侶や神職になる過程で財務・会計を学ぶ機会はほとんどないので、現在の会計処理が正しいかどうか、専門家にチェックしてもらう必要もあるでしょう。
税金の処理や収支計上などにわからない点があるときは、税理士にチェックを依頼してください。
お布施は債務控除できるので、相続税の課税価格は低くなりますが、一般的には領収書が発行されないため、自分でメモを残しておく必要があります。
ただし、債務控除できない費用を相続税の計算に含めると、無申告や過少申告になる確率が高いので注意が必要です。
また、お寺や神社が受け取ったお布施は非課税ですが、個人名義の口座に入金したり、私的に使ったりしたときは、所得税を納めなければなりません。
課税・非課税の判断を間違えると税務調査の対象になってしまうので、お布施の扱いがわからないときは税理士に相談してみましょう。
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