相続税対策として生前贈与している方の中には、「贈与財産に所得税はかからないのか?」と気になっている方もいるでしょう。
贈与税と所得税の課税対象は異なっていますが、税制の仕組みがわかりにくいため、以下のような疑問も少なくないようです。
贈与税と一部の所得税は確定申告が必要になるため、課税対象を間違えると申告ミスにつながってしまいます。
また、贈与税は税率が高いので、節税対策も考えておくべきでしょう。
ここでは、贈与税と所得税の違いや、贈与税がかからない方法などをわかりやすく解説していきます。
贈与税は資産を移転するときにかかる税金なので、所得税の課税対象ではありません。
一定額を超える贈与には贈与税がかかりますが、所得税との二重課税にはならないので安心してください。
ただし、贈与税は相続税との関連性があるため、場合によっては以下のように相続税がかかるケースもあります。
相続財産が一定額を超えると相続税がかかるため、贈与によって子どもや配偶者に資産を移しておけば、効果的な相続税対策になります。
ただし、国は個人の資産に課税する機会を失ってしまうことから、一定額を超える贈与については贈与税を課税しています。
贈与税は相続税を補完する税金なので、贈与によって相続税を逃れようとしても、その先には贈与税の網が張られているという仕組みです。
なお、不動産については、購入するときに不動産取得税と登録免許税がかかり、所有している間は固定資産税や都市計画税、移転時には贈与税または相続税がかかります。
財産の種類によっては何重にも課税されるため、高額な財産があるときは、何らかの節税対策が必要になるでしょう。
贈与税は以下のようなケースに課税されるので、財産を受け取った受贈者が申告・納税することになります。
贈与したときの状況によっては、贈与税ではなく相続税がかかるので注意してください。
預貯金などの金銭や、株式や不動産を移転した場合、一定額を超えていると贈与税がかかります。
ただし、基本的には個人間の財産移転が課税対象になるため、法人から受け取った財産は所得税の課税対象になり、贈与税はかかりません。
また、香典や見舞金、一部の給付金なども贈与税は非課税になっています。
贈与税には年間110万円の基礎控除があるので、1年間の贈与額が基礎控除を超えたときは、超過部分に対して贈与税がかかります。
また、贈与税率には一般税率と特例税率の2種類があり、父母や祖父母が18歳以上の子どもや孫に贈与した場合、特例税率が適用されます。
未成年者が贈与を受けると、金額によっては税率や税額が高くなるので、受贈者の年齢を考慮しておくとよいでしょう。
贈与は双方の合意によって成立するため、「贈与する」「贈与を受ける」の意思表示が明確であれば、口約束でも贈与契約を結んだことになります。
したがって、贈与者と受贈者双方の合意があり、1年間の贈与額が110万円を超えたときに贈与税がかかります。
なお、財産の移転があっても双方の合意がなく、贈与の成立が認定されなかった場合、その財産は贈与者が亡くなったときの相続財産に加算され、相続税の課税対象になります。
財産の移転が一方的なものであったり、受贈者が贈与されたことを知らなかったりすると、税務署は贈与を否認する可能性が高いでしょう。
贈与の対象となる財産は現金や預貯金、株式や不動産などが一般的です。
ただし、直接的な財産の受け渡しではなくても、以下のように贈与とみなされる「みなし贈与」があるので注意が必要です。
親が子どもの借金を肩代わりした場合、子どもは現金をもらったことと同じ状況になるため、みなし贈与が成立します。
肩代わりしてもらった金額が110万円を超えたときは、必ず贈与税の申告・納税を済ませてください。
極端に低い金額で不動産などを取得すると、市場価格との差額が贈与とみなされ、贈与税がかかる可能性があります。
父母から子どもへ、または祖父母から孫へ不動産を譲渡する場合、身内だからという理由で、低額譲渡するケースは少なくないでしょう。
子どもや孫へ不動産を譲渡するときは、市場価格とほぼ同額、または8割以上の譲渡価格に設定してください。
親族から低利子や無利子でお金を借りた場合、一般的な貸付利子との差額が贈与とみなされ、贈与税が課税されるケースがあります。
また、親族間でお金を貸し借りすると、口約束だけで借用書を作成しておらず、返済期日も決めていない場合があります。
返済期日を決めていなかった場合、当事者同士は貸し借りのつもりでも、税制上は贈与とみなされる場合も注意してください。
親子または夫婦で不動産を共同購入し、出資額を2分の1ずつにした場合、共有持分の割合が異なっていると、持分の贈与とみなされます。
たとえば、親子がそれぞれ3,000万円ずつを出し合い、6,000万円の不動産を購入するケースで考えてみましょう。
本来は共有持分を2分の1ずつにしますが、親の持分割合を4分の1、子どもを4分の3にすると、子どもは4分の1に相当する1,500万円の贈与を受けたことになります。
贈与する意図がなくても、結果的に贈与となるケースは意外に多いので、みなし贈与には十分注意してください。
死亡保険金は民法上の相続財産ではありませんが、相続税の課税対象になっているため、税法上のみなし相続財産として扱われます。
契約形態によっては贈与税や所得税がかかるので、以下の3パターンを参考にしてください。
生命保険の契約形態が以下のようなパターンであれば、被保険者が亡くなったときの死亡保険金は相続税の課税対象になります。
ただし、死亡保険金には以下の非課税枠があるため、最低でも500万円を相続財産から減額できます。
現金や預貯金には非課税枠がないので、同じ金額を相続するのであれば、死亡保険金を受け取ったほうが節税になるでしょう。
以下のような契約形態で生命保険に加入している場合、被保険者が亡くなったときの死亡保険金は贈与税の課税対象になります。
子どもが死亡保険金を受け取ると、母親からの贈与とみなされるため、基礎控除110万円を超えた場合は贈与税申告が必要です。
生命保険の契約形態が以下のようなパターンであれば、死亡保険金は所得税の課税対象になります。
保険料負担者と死亡保険金の受取人が同一の場合、一時金として受け取ると本人の一時所得、年金形式で受け取ったときは、公的年金以外の雑所得になります。
一時所得の場合は、以下の手順で所得税を計算します。
年金形式の場合、その年に受け取った年金額から、支払い済みの保険料を差し引いて所得税を計算しますが、源泉徴収されるので確定申告は不要です。
贈与税の課税方式には以下の2種類があり、適用税率や課税時期がそれぞれ異なっています。
暦年課税制度とは、贈与をおこなった都度、贈与税を申告・納税する課税方式です。
一般的な贈与は暦年課税制度になっており、暦年贈与とも呼ばれます。
暦年課税制度には年間110万円の基礎控除があるので、1年間の贈与額が110万円以下であれば、贈与税がかからず申告も必要ありません。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母が18歳以上の子どもや孫へ贈与した場合、最大2,500万円まで非課税になる制度です。
2,500万円を超える部分は20%の固定税率が適用されるので、贈与財産が高額になるほど贈与税の節税効果も高くなります。
令和5年の税制改正により、相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が新設されることになり、令和6年1月1日以降の贈与に適用できます。
基礎控除を超えた贈与には贈与税がかかるので、受贈者が確定申告をおこないます。
贈与税は申告納税方式になっているため、税額の計算方法や、申告方法は以下を参考にしてください。
贈与税の計算方法は2段階になっており、まず贈与額から基礎控除を差し引いて課税価格を計算し、次に税率を乗じて税額を算出します。
では、18歳以上の受贈者に3,000万円を贈与したと仮定し、暦年課税制度と相続時精算課税制度の贈与税を比較計算してみましょう。
【暦年課税制度の場合】
【相続時精算課税制度の場合】
暦年課税制度は超過累進課税になっているため、高額な財産を1回で贈与すると、適用税率が高くなってしまいます。
なお、贈与税率と控除額は国税庁ホームページを参照してください。
贈与税が発生した場合、受贈者の住所地を管轄する税務署に申告する必要があります。
申告時期は贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までになっており、間に合わなかったときは延滞税などの追徴課税があるので注意してください。
暦年課税制度の場合は贈与税申告書の第一表、相続時精算課税制度は第一表・第二表を提出するので、税務署窓口か国税庁ホームページで入手しておきましょう。
なお、暦年課税制度は基礎控除110万円を超えた贈与のみ申告しますが、相続時精算課税制度を適用している場合、贈与額が1円であっても申告しなければなりません。
一定額を超える贈与には贈与税がかかりますが、以下のようなケースであれば非課税です。
子どもや孫にまとまった財産を渡しても、通常認められる金額の教育費や医療費、生活費などであれば、扶養義務の範囲になるため贈与税はかかりません。
ただし、特に金額が決まっているわけではなく、贈与者の生活水準によって扶養義務の範囲が変わります。
扶養義務の範囲内かどうか迷ったときは、弁護士や税理士に相談してみましょう。
暦年課税制度の基礎控除以下や、相続時精算課税制度の特別控除以下で贈与した場合、贈与税はかかりません。
納税義務者は受贈者になるので、贈与税がかかるかどうかのボーダーラインは必ず伝えておきましょう。
贈与税には以下の特例措置があるため、一定額までは非課税贈与できます。
それぞれ適用要件が定められているので、活用するときは税理士や弁護士に相談してください。
贈与が成立する要件には当事者間の合意があるため、受贈者が財産の移転を知らなかったときは、税務署が贈与を認めない可能性があります。
贈与とみなされない財産は贈与者死亡時の相続財産になってしまい、相続税の節税効果も低くなってしまうので、以下の点に注意しておきましょう。
贈与契約は口約束でも成立しますが、贈与契約書を作成しておけば、より贈与であったことを税務署に証明できます。
贈与契約書には以下の項目を盛り込み、贈与者と受贈者用の2部を作成しておきましょう。
なお、贈与契約書はパソコンで作成し、プリンターで印刷しても構いませんが、署名は必ず自書でおこない、捺印には実印を使うことがおすすめです。
実印を使ったことの証明として、印鑑証明書も添付しておくとよいでしょう。
子どもや孫に現金を贈与するときは、銀行振込を使って贈与の証拠を残してください。
銀行振込で贈与すると、贈与日・贈与額・振込人氏名が通帳に印字されるので、贈与契約書どおりの贈与であったことを証明できます。
名義預金とは、預金口座の名義人と、実質的な預金者が異なっている預金です。
たとえば、将来的には本人に渡すつもりで、子ども名義の預金口座に親が入金しているケースがあります。
預金通帳やキャッシュカード、届出印を親が管理しており、子どもが自由に引き出せない状況であれば、子どもに贈与した財産とはいえないでしょう。
また、夫が専業主婦の妻に生活費を渡し、妻が自分の口座に入金しているケースもありますが、専業主婦は基本的に収入がないため、妻ではなく夫の名義預金とみなされます。
実質的な預金者が死亡すると相続財産になるので、名義預金にも注意してください。
贈与した財産は受贈者のものになるため、相続税の課税対象にはなりません。
ただし、相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算するルールがあるので、贈与のタイミングは早いほうがよいでしょう。
なお、現在のルールは相続開始前3年ですが、令和5年税制改正で7年に延長されることが決まりました。
7年ルールは2024年1月1日から段階的に適用され、最短では2031年1月1日以降の相続について、過去7年間の贈与を相続財産に加算することになります。
贈与税と所得税は課税対象が違うため、二重課税にはなりません。
扶養義務の範囲であれば、親が子へ財産を渡しても贈与にはならないので、生活費や教育費の贈与税を気にする必要はないでしょう。
ただし、高額な財産の移転には贈与税がかかるので、暦年贈与で少しずつ渡す、または相続時精算課税制度や特例贈与を検討するべきです。
贈与税や一部の所得税は申告納税方式になっているため、税額計算や申告書の作成に不安があるときは、税理士や弁護士などの専門家に相談しておきましょう。
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