相続が発生し、遺産分割協議なども終了したものの、相続税を支払えそうになく困っているという方もいるのではないでしょうか。
手放すことで換金できるような財産もなく、現金もないケースも少なくありません。
相続税の延納という方法があることを知り、よく調べて利用してみたいと考えている方もいるでしょう。
どうすれば、苦しい思いをせずに相続税を支払えるか知りたいと考えるのは当然です。
しかし、延納できるとはいえ、どのような場合でも延納が認められるわけではありません。
延納することによるデメリットも存在します。
本記事では、相続税の延納制度の詳細やデメリット、申請方法や延納できない場合の対処法などについて解説します。
相続税は一括払いが原則ですが、一括払いが困難な場合は相続税の延納制度を利用できます。
この制度は、相続税を分割して毎年支払うことができるものです。
利子税が発生しますが、支払いの負担を軽くすることができます。
相続した財産のほとんどが不動産で現金が少ない場合には、この制度が非常に有効です。
相続税は金銭で一括納付することが原則です。
したがって、延納を選択する場合は、その条件や影響をよく理解しておく必要があります。
延納は相続税の支払いを一定期間延長することができますが、利息や担保などの負担もともないます。
そのため、相続税の納付に困難がある場合は、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
それでは実際に、相続税の延納が認められるにはどのようにすればよいのでしょうか?
相続税の延納を希望する際は税務署に申請しなければなりませんが、申請にはいくつかの要件があります。
相続税の延納制度は、相続税金額が10万円を超えていなければ利用できません。
また、延納制度の利用可否判定は相続人ごとにおこなわれます。
そのため、複数の相続人の相続税金額の合計が10万円を超えていたとしても、個人で10万円を超えていなければ利用できません。
また、延納税額は支払い能力を超える金額である場合に限り、分割で納付することができます。
支払い能力とは、相続財産だけでなく、納税者の自己財産も含めた総額から生活に必要な金額を差し引いた残額です。
生活に必要な金額は、納税者の状況に応じて判断されます。
延納税の申請には通常、延納税額と利子税額に見合った担保が必要になります。
しかし、延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下であれば、担保は不要です。
そして相続税の延納申請をする場合は、納期限または納付日(延納申請期限)までに税務署に延納申請書と担保提供関係書類を提出しなければなりません。
相続税の延納制度で担保にできるものとしては、以下のようなものが挙げられます。
相続や贈与で得た財産だけでなく、ご自身や他の相続人の財産も担保にできます。
しかし、税務署が延納を許可した場合であっても延納申請者の担保が不十分だと判断されると、担保の変更を要求されることもあるでしょう。
相続税の延納は、いつまでもおこなえるというわけではありません。
期間はしっかりと定められており、その期間も相続財産の不動産等の内容によって変わってきます。
なお、相続税の延納期間は、それぞれ以下のとおりです。
区分 |
延納期間(最長) |
|
不動産等の割合が75%以上 |
動産等に関わる延納相続税額 |
10年 |
不動産等に関わる延納相続税額 |
20年 |
|
不動産等の割合が50%以上75%未満 |
動産等に関わる延納相続税額 |
10年 |
不動産等に関わる延納相続税額 |
15年 |
|
不動産等の割合が50%未満 |
一般延納相続税額 |
5年 |
相続税の延納制度を利用することで分割払いが可能になるため、支払いの負担は軽減します。
しかし、相続税を延納することによるデメリットもあります。
相続税の延納制度には延納期間が決められており、利子税もかかります。
利子税は延納期間中は常に発生し、納付額に上乗せされます。
そのため、納期限内に一括で支払う場合よりも、納付する金額が増えるというのはデメリットといえるでしょう。
延納期間と利子税については、相続財産の区分や延納期間によって利子税の割合が異なります。
【相続税の延納期間と利子税】
区分 |
延納期間 |
延納利子割合 |
特例割合 |
|
不動産等の割合が75%以上 |
動産等に関わる延納相続税額 |
10年 |
5.4% |
0.6% |
不動産等に関わる延納相続税額 |
20年 |
3.6% |
0.4% |
|
不動産等の割合が50%以上75%未満 |
動産等に関わる延納相続税額 |
10年 |
5.4% |
0.6% |
不動産等に関わる延納相続税額 |
15年 |
3.6% |
0.4% |
|
不動産等の割合が50%未満 |
一般延納相続税額 |
5年 |
6.0% |
0.7% |
特例割合(延納特例基準割合)とは、銀行の新規の短期貸出約定平均金利の年平均に年1%を加えた割合です。
この割合は、相続税の分割納付期間の開始の日の属する年の前々年の10月から9月までの金利を計算に使います。
財務大臣が各年の前年の12月15日までにこの割合を公表します。
なお、各年の延納特例基準割合が7.3%に満たない場合は、以下の計算式で計算されます。
そのため、特例割合は毎年変動します。
相続税の延納制度を利用するには、どのようにすればよいのでしょうか?
延納制度を利用するためには、相続税の納付期限までに延納申請書を税務署に提出する必要があります。
納付期限を過ぎてから書類を提出しても、その申請は無効となってしまうため注意しましょう。
延納申請に必要な基本書類は、以下のとおりです。
相続税の延納を希望する場合は、相続税延納申請書を提出しなければなりません。
この書類には、延納する税額や分割回数、分割納付の期限と金額などを記入します。
さらに、延納の理由を説明するために、金銭納付を困難とする理由書も添付しましょう。
この理由書には、一括納付が困難なことを数字や図表で示します。
基本的に相続税延納申請書や担保提供関係書類は、納付期限までに提出する必要があります。
しかし、何らかの理由で書類を提出できない場合は、関係書類提出期限延長届出書を使って、期限を延長することができます。
この場合、1回の延長は3ヵ月以内で、最大で6ヵ月まで可能です。
【参考元】No.4211 相続税の延納|国税庁
相続税については延納したとしても支払いができなかったり、延納自体ができなかったりする可能性もあります。
その場合、どのように対処したらよいのでしょうか?
主な対処法は、以下のとおりです。
延納によって対処できない場合、物納制度を利用するのもひとつの手段です。
物納制度は、許可された延納額の範囲内で、物納への変更を申請することができる制度です。
物納とは、現金以外の財産を国に納付することを指します。
物納への変更を申請するには、申告期限から10年以内であることが必要です。
また、未払いの相続税額に対してのみ物納が利用できます。
なお、分納期限が到来した相続税額については、物納への変更はできません。
相続税の納付期限が迫っているのに、資金が足りないという場合は、金融機関からの借入を検討するのもいいでしょう。
借入を利用すれば、利息は支払わなければなりませんが、納付期限を過ぎて支払う場合に発生する延納利息に比べて、金利が安い場合が多いです。
そのため、延納するよりも、借入を利用したほうが負担が少ない場合もあります。
相続税は延納制度を利用することで分割払いが可能ですが、いくつかの要件をクリアしなければなりません。
担保も用意する必要がありますし、延納期間も決められています。
延納制度を利用しているあいだは利子税もかかるため、納付金額が増えるというデメリットもあるでしょう。
相続税の区分や延納期間によっても利子税が異なり、全体的な支払い金額についても考慮する必要があります。
手続きも多く、用意しなければならない書類もいくつかあるため、ご自身で全ての作業をおこなうのは難しいこともあるでしょう。
そのため、少しでも不安がある場合は税理士などの専門家に相続税の延納について相談してみてもよいでしょう。
できるだけ早い段階で対処して、負担の少ないかたちで相続税の支払いをおこないましょう。
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