相続税は、被相続人に属した財産(相続財産)全体に課税されるのではなく、法定相続人の数に応じて算出される基礎控除額が課税対象から除外されます。
基礎控除額が遺産総額を上回ると、相続税の申告・納付義務自体が不要になるので、「ご自身の状況で相続税の基礎控除額が発生するのかどうか」をできるだけ早いタイミングで判断しなければいけません。
そこで本記事では、「相続税の基礎控除額の仕組みを知りたい」「基礎控除額以外の控除制度を使いたい」という方のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
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そもそも相続税は、相続財産から基礎控除額を差し引いた残額に対して課されるものであり、遺産総額に対して課税されるわけではありません。
なお、相続財産(遺産総額)は「被相続人が遺したプラスの財産からマイナスの財産(債務・ローン・葬式費用など)を引いたもの」を意味します。
マイナス財産がプラス財産を上回るときには、基本的に相続税の申告・納付義務は課されません(遺産分割の方法によって相続税が発生することがあります)。
相続税は、相続財産から基礎控除額を差し引いた残額に対して課されるものです。
つまり、相続財産が基礎控除額を下回るのであれば、基本的に相続税の申告・納付手続きは不要だということです。
これに対して、相続財産が基礎控除額より大きいときには、相続税を申告・納付しなければいけません。
以上を踏まえると、基礎控除額が高額になるほど、相続税の金額を抑えることができると考えられます。
「相続税を支払う必要があるのか」「相続税をいくら納付しなければいけないのか」を判断するには、基礎控除額を知ることから始める必要があります。
相続税の基礎控除額は、以下の公式によって算出されます。
ここからは、相続税の基礎控除額の計算方法について解説します。
相続税の基礎控除額を導き出すには、まず法定相続人の数をチェックする必要があります。
法定相続人とは、民法の規定に基づいて被相続人の財産を相続できるとされた人物のことです。
法定相続人は、「配偶者相続人」「血族相続人」に分類されます。
まず、配偶者相続人とは、被相続人と法律上の婚姻関係にある配偶者(妻または夫)のことです。
配偶者相続人は、常に法定相続人として相続を受ける権利が与えられます。
ただし、内縁関係にあるだけでは法定相続人の地位は認められません。
一方、血族相続人は、被相続人と血が繋がっている直系家族のうち、法定相続人の地位を与えられる人物を意味します。
血族相続人は順位が定められており、同じ順位の者がいる場合は全員が相続人になり、先順位の人物がいる場合に後順位の人物は相続人になることができません。
民法では、血族相続人について以下の順位を定めています(民法第887条、同法第889条)。
たとえば、被相続人が死亡した時点で配偶者と長男・長女、祖父母が存命の場合には、配偶者相続人である配偶者と、第1順位の血族相続人である子ども2人の合計3人が法定相続人と扱われます。
法定相続人の数がわかったら、相続税の基礎控除額の算定公式に当てはめます。
配偶者と子ども2人の「合計3人」の法定相続人が存在するケースでは、【 3,000万円 +(600万円 × 3人)= 4,800万円】が基礎控除額と導かれます。
つまり、このケースでは相続財産が4,800万円を超えない限り、基本的に相続税の申告・納付義務は課されないということです。
以上を踏まえると、法定相続人の数が増えるほど相続税の基礎控除額が大きくなり、課税対象額が減額されるといえるでしょう。
相続税の基礎控除額を算出するときには、実際の相続で起こり得るさまざまなシチュエーションを踏まえる必要があります。
ここからは、基礎控除額計算ルールの注意事項について解説します。
相続税の基礎控除額の算定基準として考慮されるのは、法定相続人だけです。
そのため、法定相続人以外の相続人は、基礎控除学の計算にはカウントされません。
たとえば、相続人の中に第1順位である子どもが存在するときには、第2順位・第3順位の相続人の数は基礎控除額の算定時には一切影響しないということです。
これに対して、被相続人に子どもがいないときには、直系尊属や兄弟姉妹が法定相続人になる可能性が出てきます。
相続税の基礎控除額を計算するときには、「法定相続人が相続放棄をしたかどうか」という事情は一切考慮されません。
つまり、相続放棄をした人物がいるからその人の分の基礎控除額が減るということにはならないということです。
たとえば、配偶者と長男・長女の合計3名が法定相続人のケースでは、仮に長男だけが相続放棄の意思表示をして相続人が2名になったとしても、基礎控除額算定時の法定相続人の数は常に3人と扱われます。
代襲相続とは、相続人が被相続人よりも先に亡くなっている場合、相続人の子どもが代わりに相続になることです。
被相続人が死亡した時点で被相続人の子どもがすでに亡くなっていると、その子ども自身は法定相続人になることはできませんが、子どもに子ども(孫)がいるときには代襲相続によって孫が法定相続人にカウントされます。
ただし、代襲相続が発生すると、法定相続人の数が変動して基礎控除額の計算に影響する点には注意が必要です。
たとえば、被相続人よりも先に亡くなっている相続人(子ども)に子ども(被相続人から見た孫)が2人いたときには、法定相続人の数は子ども1人ではなく、孫2人として扱われます。
そのため、基礎控除額が600万円増えるので、相続税の課税対象額が減額されます。
実子・養子にかかわらず、被相続人の子どもは第1順位の法定相続人にカウントされます。
ただし、相続税の基礎控除額を計算するときには、以下のように養子の数について一定の制限が加えられる点に注意が必要です。
これは、無制限な養子縁組によって基礎控除額が大幅に増やすことができてしまうことを防ぐためです。
「養子縁組は相続税対策に使える」といわれることがありますが、無制限な節税対策ではないので注意しましょう。
欠格事由が存在する相続人や廃除された相続人は、相続税の基礎控除額を算定するときの法定相続人にはカウントしません。
欠格(民法第891条) |
・被相続人や先順位・同順位の相続人に対する殺人罪・殺人未遂罪で有罪になった場合 ・被相続人が殺害されたことを知りながら告訴・告発しなかった場合 ・詐欺や脅迫によって、被相続人の相続に関する遺言に影響を与えた場合 ・相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合 |
廃除(民法第892条) |
・被相続人に対して虐待をした場合 ・被相続人に対して重大な侮辱を加えた場合 ・相続人側に著しい非行があった場合 |
なお、欠格事由を抱える相続人や廃除された人物の子どもが代襲相続をしたときには、代襲相続の基本ルールに沿って相続税の基礎控除額が決定されます。
これは、相続人が抱える悪質性が、相続人の子どもなどの他者に承継されることはないからです。
相続人の人数によって算出される基礎控除額以外にも、相続税の節税に役立つさまざまな控除制度があります。
制度ごとに要件は異なるので、不安な方は相続税の申告期限までに、必ず弁護士・税理士まで相談してください。
「配偶者の税額の軽減」とは、被相続人の配偶者が遺産分割・遺贈によって実際に取得した正味の遺産額が以下2つの金額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税がかからない制度のことです。
配偶者の税額の軽減制度では、配偶者が実際に取得した財産額を基準に適用の可否が判定されます。
そのため、原則として相続税の申告期限までに分割されていない財産は、この控除制度の適用対象外と扱われます。
例外的に、相続税の申告期限後3年以内の遺産分割については、あとから更正請求手続きによって相続税控除の適用を受けることができます。
小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅や事業用として使用していた宅地を相続した場合、一定の要件を満たせば評価額を最大80%まで減額できる制度です。
相続で宅地を相続する場合、この特例に該当すれば相続税の額が大幅に変わり、むしろ課税対象から外れることもあります。
相続税の減額範囲・減額率は、「限度面積200㎡~400㎡」「減額割合50%~80%」の範囲で、小規模宅地などの利用状況によって異なります。
相続税の申告書に「小規模宅地等の特例」を利用する旨を記載し、明細書・遺産分割協議書などの添付書類が必要になります。
さらに、相続人等が2人以上の場合にこの当該特例制度の適用を受けるには、全員の同意が必要、かつ原則として相続税の申告期限までに分割手続きが終了していなければいけません。
債務控除(相続財産から控除できる債務)とは、相続税を計算する際に所定の債務を遺産総額から差し引くことができる制度のことです。
まず、債務控除で差し引くことができるのは、被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務(借入金・未払金)などのうち、確実に存在したといえるものです。
その他、被相続人の葬式にかかった葬儀費用も、当該制度を利用することで遺産総額から控除できます。
たとえば、火葬・埋葬・納骨・葬式・通夜にかかった費用、遺体・遺骨の回送・運搬に要する費用、お寺などに対して支出した読経料などが含まれます。
ただし、被相続人が生前購入した墓地の未払い代金などの非課税財産に関する債務については、遺産総額から差し引くことができないので注意が必要です。
また、香典返しや初七日・法事の費用も控除することはできません。
以下に挙げたみなし財産は相続財産に含まれ、相続税の課税対象と扱われるのが原則ルールです。
ただし、これらのみなし財産全てが相続財産に含まれると、高額な相続税負担によって相続人の生活がひっ迫するおそれがあります。
そこで、死亡退職金及び生命保険金(死亡保険金)については、相続税について非課税枠が設けられています。
死亡退職金・生命保険金の非課税枠は【500万円 × 法定相続人の数】です。
たとえば、被相続人の配偶者と長男・次男が法定相続人の場合、死亡退職金・生命保険金の非課税枠は「1,500万円(500万円 × 3人)」と求められます。
未成年控除(未成年者の税額控除)とは、相続人が未成年者のときに、相続税の額から一定額を差し引くことができる制度をいいます。
未成年者控除の金額は、未成年者である相続人が満18歳になるまでの年数1年につき10万円(1年未満の端数期間については切り上げて1年とカウント)のルールで計算されます。
たとえば、14歳9カ月の未成年者が相続をしたときには、満18歳になるまで4年(3年3ヵ月から端数を繰り上げ)なので、40万円の控除を受けることができます。
なお、未成年者控除の適用を主張できるのは、以下全ての要件を満たす未成年者相続人に限られます。
障害者控除とは、納税者自身が一般障害者・特定障害者に該当するときに一定の相続額を控除できる制度のことです。
一般障害者 |
・児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定の判定によって重度の知的障害者とされた人以外の者 ・精神障害者保健福祉手帳の障害認定等級が2級、3級の者 ・身体障害者手帳の障害認定等級が3級、4級、5級、6級の者 など |
特定障害者 |
・児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定の判定によって重度の知的障害者とされた者 ・精神障害者保健福祉手帳の障害認定等級が1級の者 ・身体障害者手帳の障害認定等級が1級の者 など |
障害者控除制度によって控除される金額は以下の公式によって算出します。
なお、障害者控除は相続が発生するたびに利用できたり、相続税額よりも障害者控除額のほうが高いときには障害者である相続人の扶養義務者の相続税額を減らしたりすることも可能です。
相次相続控除とは、10年以内に相次相続が発生した場合、相続税の負担が過重になるのを軽減するために設けられた特例をいいます。
前回の相続において課税された相続税額のうち、1年につき10%の割合で逓減した後の金額を今回の相続にかかる相続税から控除することによって、短期間で相続税納付義務を繰り返し強いられる相続人の経済負担の軽減を目的としています。
相次相続控除制度の利用要件は、以下3つです。
相次相続控除制度による控除額は、次の計算式で求められます。
※(C/B-A)が100/100を超えるときは100/100として計算
相続税の基礎控除額に関するルールは、2015年前後で大きく異なります。
まず、2015年(平成27年)1月1日以降に適用されている現行の相続税の基礎控除算定ルールは、【3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)】です。
一方、2014年(平成26年)12月31日以前に適用されていたルールは、【5,000万円 + (1,000万円 × 法定相続人の数)】でした。
つまり、平成27年の相続税に関する法改正によって、基礎控除額が40%少なくなったということです。
相続税の基礎控除額が少額になるということは、相続税の申告・納付義務を課される件数が増加することを意味します。
実際、以下のデータが示すように、2015年度前後で相続税の課税件数が約2倍に増えています。
年度 |
死亡者数・課税件数等 |
|||||
死亡者数 |
課税件数 |
% |
被相続人1人当たりの法定相続人 |
|||
2007 |
788,594 |
41,655 |
5.3 |
3.9 |
||
2008 |
1,142,407 |
48,016 |
4.2 |
3.17 |
||
2009 |
1,141,865 |
46,439 |
4.1 |
3.13 |
||
2010 |
1,197,014 |
49,891 |
4.2 |
3.08 |
||
2011 |
1,253,068 |
51,559 |
4.1 |
3.03 |
||
2012 |
1,256,359 |
52,572 |
4.2 |
3 |
||
2013 |
1,268,438 |
54,421 |
4.3 |
2.97 |
||
2014 |
1,273,025 |
56,239 |
4.4 |
2.93 |
||
2015 |
1,290,510 |
103,043 |
8 |
2.86 |
||
2016 |
1,308,158 |
105,880 |
8.1 |
2.83 |
||
2017 |
1,340,567 |
111,728 |
8.3 |
2.81 |
||
2018 |
1,362,470 |
116,341 |
8.5 |
2.77 |
||
2019 |
1,381,093 |
115,267 |
8.3 |
2.74 |
||
2020 |
1,372,755 |
120,372 |
8.8 |
2.73 |
||
2021 |
1,439,856 |
134,275 |
9.3 |
2.7 |
平成26年までは、相続税は富裕層をターゲットにした税金という認識が強かった相続税ですが、現在は相続税の負担は中間層にも発生し得るものだと認識する必要があります。
加えて、税制改正によって今後、相続税の基礎控除額がさらに引き下げられる可能性も否定できないでしょう。
そのため、両親や祖父母から不動産や一定の資産などを引き継いだときには、誰もが一度は相続税の課税対象者か否かを検討しなければいけません。
相続税の申告・納付義務を履行しないと追徴課税によって高額の金銭負担を強いられるリスクもあるので、念のために弁護士や税理士までお問い合わせください。
ここでは、相続税の基礎控除額を算定するときの注意点について解説します。
相続税の申告額や、利用申請をした控除制度の適用条件に間違いがあると、相続税の申告漏れや過少申告のリスクがあります。
相続税の無申告や申告・納付ミスについては、以下のようなペナルティを課せられる可能性があるので注意しましょう。
相続税の申告・納付は、期限内に正しくおこなわなければいけません。
相続関係や相続財産の内容が複雑だったり、各種控除制度が適用されるか曖昧だったりすると、申告・納付手続きに過誤が生じる可能性があります。
相続が発生したときや、将来到来する相続に不安を感じたときには、弁護士・税理士などの専門家のアドバイスを参考にしてください。
「少しでも相続税を節税したい」と希望するのであれば、基礎控除額以外の手段での節税方法を検討する必要があります。
そして、以下のような基礎控除以外の方法について検討するなら、実際に相続が発生したときではなく、以下に挙げたように将来生じる相続に備えて今の段階から入念に準備をすることをおすすめします。
「相続税の節税対策」に時間をかけたほうが選択肢は増えます。
素人だけの判断ではご自身の状況に適した手段を見つけにくいので、相続問題に強い弁護士や税理士の意見を参考に、中長期的な節税対策に取り組むことを強くおすすめします。
さいごに、相続税の基礎控除額についてよく寄せられる質問をQ&A形式で紹介します。
相続税の基礎控除額が遺産総額よりも高いときには、相続税の申告手続き自体が不要です。
ただし、「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」「相続財産を公益法人などに寄附した場合の非課税の特例」など、各種控除制度を使うことによって相続税の額がゼロになったときには、相続税の申告が必要になります。
基礎控除額以外の枠組みで相続税の節税を狙うときには、相続人自身だけで判断するのではなく、弁護士・税理士などの専門家のチェックを入れることが推奨されます。
相続税の基礎控除額を計算するときには、「実際に相続をした人数」ではなく、「法定相続人の数」がポイントです。
たとえば、遺言書で長男のみに相続させようとしても、配偶者、次男、長女などの他の法定相続人がいるときには、「全ての法定相続人の数 × 600万円」によって基礎控除額を計算します。
相続税の基礎控除額は【3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)】の計算式で算出されるので、遺産総額が3,600万円以下なら相続税は一切かかりません。
これは、相続人が最小の1人であったとしても、3,600万円の非課税枠が認められるからです。
ただし、相続税がかからない範囲は法定相続人の人数に左右されます。
ご自身の状況で相続税がかからない金額を知りたいときには、法定相続人の数を把握することから始めましょう。
「日本の相続税は高い」といわれることが多いですが、基礎控除額や各種控除制度などを利用することで、一定範囲の相続税を節税することが可能です。
ただし、相続税の申告・納付には厳格な期限が設けられているので、決められた期間内に手続きを履践しなければいけません。
少しでも期限を徒過するとさまざまなペナルティを強いられるので注意が必要です。
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