遺贈とは、遺言書によって相続人以外に遺産の一部または全部を与えることです。
遺贈によって多くの財産の受け渡しがおこなわれると、税金が発生します。
「相続人以外への受け渡しだから贈与税がかかる?」と思う人もいるかもしれませんが、遺贈で与えられた財産には相続税がかかります。
なお、遺贈でかかる相続税の計算方法は、通常の相続での計算方法と若干異なります。
この記事では、遺贈でかかる相続税の計算方法や、ほかに課せられる可能性がある税金などについて解説します。
相続とは、亡くなった人である「被相続人」が生前に有していた財産上の権利義務などを、相続権をもつ相続人に移転することです。
一方、遺贈とは「遺言書によって法定相続人以外に財産上の権利義務などの一部または全部を与えること」です。
相続でも遺贈でも相続税がかかるという点は共通していますが、計算方法が若干異なります。
遺贈により不動産を譲り受ける場合、法務局へ不動産の登録申請をおこなう必要があります。
その際に発生する税金が登録免許税であり、相続の場合と遺贈の場合では税率が異なります。
原則として、相続の場合の登録免許税は0.4%で、遺贈の場合は2%です。
たとえば「被相続人であるAが5,000万円の遺産を残した」と仮定します。
そして、Aの法定相続人には娘であるBしかおらず、介護士であるZはAの身の回りの世話をしていました。
通常であればBが5,000万円の遺産を全て相続するところ、Aの遺言によってZに1,000万円の遺産が遺贈されることになりました。
このようなケースでZに登録免許税が課される場合、その金額は「1,000万円×2%=20万円」となります。
相続と同様に、遺贈の場合も相続税がかかります。
なお、贈与税は「被相続人の生前に財産を受け渡しする場合」にかかる税金です。
相続税の特性として、被相続人の配偶者・父母・子ども・孫(代襲相続の場合)以外が遺産を受け取った場合、相続税が2割加算されます。
基本的に、遺贈では法定相続人以外が遺産を譲り受けるため2割加算が適用されます。
相続税の計算方法は「遺贈で取得した財産の相続税計算方法」で後述しますが、まず「相続と遺贈で違う登録免許税」で示した例を用いると、1,000万円の遺産を受け取った場合の通常の相続税は32万円です。
しかし、介護士であるZには2割加算が適用されるため、32万円の20%にあたる6万4,000円が加算され、Zは38万4,000円の相続税を支払う必要があります。
「相続と遺贈で違う登録免許税」で示した例を用いて、Zが遺贈で譲り受けた1,000万円の遺産が不動産だったとしましょう。
不動産を譲り受けた場合、相続税だけでなく不動産取得税がかかる可能性もあります。
たとえば、住宅以外の家屋(事務所や店舗など)を取得した場合、4%の不動産取得税がかかります。
Aが経営していた店舗(1,000万円)をZが遺贈で受け取った場合には、「1,000万円×4%=40万円」の不動産取得税がかかります。
なお、2024年3月31日までに取得した宅地や宅地と同等の扱いを受ける土地に関しては、評価額の2分の1が課税標準額になります。
税率は以下のとおりです。
取得日 |
土地 |
家屋(住宅) |
家屋(住宅以外) |
2024年3月31日まで |
3% |
4% |
不動産取得税がかかるのは、下記の条件を満たしている場合です。
そもそも、遺贈は「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類あります。
包括遺贈とは、「全財産を○○に渡します」「遺産のうち半分を○○にあげます」というように、渡す財産を明確に指定せずに配分割合のみを指定する遺贈のことです。
特定遺贈とは、「○銀行の預貯金○万円を○○に渡します」というように、渡す財産を具体的に指定する遺贈のことです。
したがって、Aの遺言書に「所有する○○の土地はZに渡します」などと書かれていた場合は、特定遺贈として不動産取得税がかかります。
ここでは、遺贈で遺産を譲り受けた場合の相続税の計算方法を解説します。
相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除枠が設けられています。
なお、基本的に遺贈は法定相続人以外におこなわれるため、遺贈で遺産を受け取る人は上記の「法定相続人の数」には含まれません。
相続税を計算する際は、遺産総額から基礎控除額を差し引き、この時点で0円になる場合は相続税がかかりません。
「相続と遺贈で違う登録免許税」で示した例を用いると、基礎控除額は「3,000万円+600万円×1=3,600万円」で、遺産総額から基礎控除額を差し引くと「5,000万円-3,600万円=1,400万円」となり、相続税が発生します。
遺贈の場合、基本的に遺産を譲り受けるのは法定相続人以外であり、法定相続人以外の人については基礎控除の計算には含まれません。
相続税の税率は、以下のように遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額がいくらなのかによって異なります。
「相続と遺贈で違う登録免許税」で示した例を用いると、「5,000万円(遺産総額)-3,600万円(基礎控除額)=1,400万円(課税対象額)」であるため、税率15%・控除額50万円です。
したがって、「1,400万円×15%-50万円=160万円」となり、相続税の総額は160万円です。
そして、Aの遺産は「B:4,000万円、Z:1,000万円」の割合で振り分けられているため、相続税についても同様の割合となり「B:128万円、Z:32万円」となります。
あくまでも、これは簡単な計算方法にすぎず、不動産が遺贈の対象となる場合などは計算が複雑になることもあります。
遺贈に似たものとして「死因贈与」という譲渡方法もあります。
死因贈与とは、「被相続人の生前に『死んだら1,000万円の財産を○○に譲る』などと契約を結んでおくこと」です。
死因贈与についても、財産を譲り渡すのは被相続人の死後になるため、贈与税ではなく相続税がかかります。
遺贈の場合も、相続と同様に相続税がかかります。
遺贈で法定相続人以外が遺産を譲り受ける場合は相続税が2割増しになるなど、通常の相続とは異なる点もあります。
なお、遺贈では第三者に被相続人の遺産が分配されるということで揉めごとになることもあります。
遺贈に関するトラブルなどが心配な人は、「遺贈と死因贈与は違うもの!混同しやすい遺贈・贈与・相続の区別とは」の記事を読んで、手続きの進め方やトラブルの回避方法を確認しておきましょう。
相続税の税率を求める計算は比較的簡単で、相続税の対象となる課税価格が分かっていれば簡単に求めることができます。今回は税率と計算方法、そして非課税に関して解説しま...
相続税には配偶者控除(配偶者の税額軽減制度)があり、配偶者が取得した相続財産のうち1億6,000万円または法定相続分相当額のどちらか高い方が控除できるというメリ...
不動産を相続する際に最も気になる相続税も、やり方次第で大きな節税を行うことができます。今回は相続税の計算方法や不動産を相続する際の注意点などをご紹介していきます...
ここでは相続をする人が知っておくべきことを以下の5つのポイントに沿って説明していきたいと思います。
遺産相続をすると税金がかかるのをご存知でしょうか。二次相続は一次相続と違い、配偶者控除を利用できないので多くの相続税を払う必要があります。ここでは、配偶者控除に...
税理士への相談料の相場と、費用が発生するタイミング、そして費用を抑えて賢く税理士を利用するためにはどうすれば良いのかをご紹介していきます。
遺産相続によって相続税の支払いが必要になることは理解しているものの、何から手をつけてよいのかわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。本記事では、相続税...
相続税の申告手続きは、相続人自らがおこなう必要があります。しかし、相続財産の内訳や相続・遺贈の状況、法定相続人の数によって、相続税の申告手続きは異なります。本記...
相続税対策の代表例としては生前贈与が挙げられます。しかし相続や贈与にはさまざまな非課税枠が設けられており、状況に応じた適切な判断が必要となります。この記事では、...
代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)とは、代襲相続が起こった際に本来の相続人に代わって相続人になった「本来の相続人の子」などのことをいい、代襲者(だいしゅうしゃ...
本記事では、親から子どもへの贈与は贈与税の課税対象になること、贈与税が課されないケースや非課税財産として扱われるケース、親子間の贈与で贈与税の負担を軽減できる非...
一定の基準以上の財産を保有していると、亡くなったときに相続税が発生します。この一定基準となるのが基礎控除です。本記事では基礎控除額を超えるマンションなどの財産を...
相続税を申告したあとに申告漏れが発覚した場合、追加申告をおこなわなければなりません。 すでに申告した相続税の計算などが間違っていたときであっても、あとから新し...
相続税は相続人が自ら計算し、申告・納税する必要があります。しかし、相続財産に土地が含まれている場合は評価額の計算が煩雑になるため、手が止まってしまう人も少なくあ...
子どもや孫のために名義預金をおこなっている方は多いでしょう。名義預金は自分以外の名義口座に預金をするため、一見手軽に贈与ができる手段のように思えます。なるべく税...
相続や遺贈によって財産を得た人が支払う可能性がある相続税ですが、相続人が相続放棄をすることもあります。相続放棄をする場合には相続税を支払う必要があるのでしょうか...
相続税の申告は非常に難解かつ複雑で、専門家である税理士に依頼することが多いです。税理士への依頼をする場合に問題となるのが税理士費用です。税理士費用の相場はいくら...
金銭を請求する権利である金銭債権については時効の制度が民法に定めれられています。では同じく国が金銭の支払いを求める相続税については時効の制度はあるでしょうか。ま...
高額な遺産をもっている場合に納める必要がある相続税ですが、家がある場合には相続税はいくらかかるのでしょうか。家がある場合の相続税がかかるかどうかの考え方や、相続...
本来相続人になれない人や、相続税対策として、養子縁組の制度を利用することがあります。養子縁組によって、子として(親としても)相続人となることができるので対策とし...