通常、被相続人が亡くなった際は遺産分割協議などをして相続をおこないますが、財産を引き継ぐ人がいなかったり相続人全員が相続放棄したりすると、残された財産はどうなるのでしょうか?
もし被相続人に借金などがあれば債権者側は「返済してほしい」と考えるはずですし、被相続人の家が死後も放置されることになれば、老朽化して景観を損ねたり倒壊したりするなどのリスクも生じます。
そのようなリスクを避けるためにも、相続人がいない場合に選任されるのが相続財産清算人ですが、「誰が相続財産清算人になるのか」「費用はいくらかかるのか」など、詳しく知らない方も多いでしょう。
本記事では、相続財産清算人の役割などの基礎知識や、相続財産清算人の選任が必要なケース、選任を申し立てる際の必要書類や費用などを解説します。
なお、2023年4月1日の民法改正によって「相続財産管理人」は「相続財産清算人」へ名称が変更され、選任後の手続きなども一部変更されました。
まずは、相続財産清算人に関する基本的な内容を解説します。
被相続人の財産を管理・清算するのが相続財産清算人の主な役割で、債務がある場合は債権者に返済したり、残った財産があれば国庫に帰属させたりします。
相続財産清算人の具体的な対応内容については、「相続財産清算人(相続財産管理人)が選任されたあとの流れ」で後述します。
相続財産清算人は家庭裁判所が選任します(民法952条)。
選任の流れとしては、被相続人の利害関係人または検察官が申し立てをしたのち、裁判所が「この人が適切である」と判断した人を相続財産清算人に選びます。
相続放棄をした人などが「この人がよい」と自由に決められるわけではありません。
相続財産清算人になるために特別な資格などは必要ありません。
相続財産清算人の選任を申し立てる際は候補者を申請でき、その候補者が選ばれることもあります。
候補者がいない場合や、裁判所が「候補者は適任ではない」と判断した場合などは、被相続人と利害関係のない弁護士や司法書士などの士業が選ばれるのが一般的です。
家庭裁判所によっては、候補者の申請を受け付けず、管轄都道府県弁護士会の名簿から利害関係のない弁護士を選ぶというケースもあります。
ここでは、どのような場合に相続財産清算人の選任が必要になるのかを解説します。
被相続人の財産を引き継ぐ人がいなければ、相続財産清算人の選任を申し立てるのが一般的です。
ただし、必ずしも相続財産清算人の選任が必要なわけではありません。
たとえば「被相続人が財産をほとんど残していない」というような場合は、財産の処分・清算をする必要がなく、申し立てをせずに済ませることもあります。
なお、「行方不明の状態で生存しているかどうかわからない相続人がいる」というような場合は、行方不明者の代わりに財産管理をおこなう「不在者財産管理人」を選任してもらう必要があります。
相続人全員が相続放棄をした場合も、「被相続人に相続人がいない場合」と同様に相続財産清算人の選任が必要です。
なお、「被相続人名義の家に住んでいる相続人がいる」というようなケースでは、相続放棄後も相続財産清算人に財産を引き渡すまで保存義務が残ります。
相続財産の保存義務から免れるためにも、相続財産清算人の選任を申し立てて対応を引き継いでもらう必要があります。
特別縁故者とは、以下のように被相続人と特別な関係があった人のことです。
被相続人に相続人がいる場合は、基本的に特別縁故者は財産を受け取ることができません。
被相続人に相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合などに相続財産清算人が選任されれば、申し立てをおこなうことで相続財産の全部もしくは一部を受け取ることができます。
相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合も、債務自体はなくなりません。
だからといって、債権者が勝手に被相続人の財産を処分することは認められないため、相続財産清算人の選任を申し立てて、相続財産清算人を介して支払ってもらう必要があります。
ここでは、相続財産清算人の選任を申し立てる方法を解説します。
相続財産清算人の選任の申し立ては、「被相続人の利害関係人」と「検察官」しかできません。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
引用元:民法第952条
以下では、利害関係人と検察官について解説します。
利害関係人とは、直接の当事者ではないものの、法律上の利害関係を有する人のことです。
たとえば、以下のような人が該当します。
検察官とは、犯罪の捜査や公訴などを担当する国家公務員のことです。
被相続人に相続人がいない場合、債権者への弁済などをしたのち、財産が余っていれば国庫へ帰属します。
しかし、そのためには相続財産清算人が必要になるため、検察官による相続財産清算人の選任の申し立てが認められています。
相続財産清算人の選任の申し立てをおこなうためには、以下で解説する書類や費用などの準備が必要です。
申し立てる際に必要な書類は以下のとおりです。
上記のうち、申立書や財産目録などは「相続財産清算人の選任の申立書|裁判所」でダウンロードできます。
ただし、戸籍関係の書類は本籍地の市区町村役場で取得しなければいけません。
弁護士であれば収集対応を代行してくれるため、手間なくスムーズに準備を済ませたい場合は依頼することをおすすめします。
申立書や財産目録は、以下のような書式になっています。
【以下の各リンクからダウンロードできます】
申し立てる際の費用は以下のとおりです。
項目 |
金額 |
収入印紙代 |
800円 |
切手代 |
1,000円~2,000円程度(申し立て先によって異なる) |
官報公告料 |
5,075円 |
予納金(相続財産清算人が業務をおこなう際に費用が不足する場合) |
20万円~100万円程度(財産状況などによって異なる) |
切手代については裁判所によって異なるため、「裁判所の管轄区域|裁判所」にて確認しておきましょう。
書類や費用を準備できたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
管轄先は「裁判所の管轄区域|裁判所」で確認できます。
申し立てが完了すると家庭裁判所にて審理がおこなわれ、特に問題がなければ相続財産清算人が選任されます。
なお、場合によっては家庭裁判所から予納金の納付が求められることもあります。
予納金については次の項目で解説します。
予納金とは、相続財産清算人が業務をおこなう際の経費や報酬として支払うお金のことです。
ここでは、予納金が必要になるケースや、金額の目安などを解説します。
相続財産清算人が業務をおこなう際に必要な費用は、被相続人の財産から充当します。
たとえば、被相続人が多くの財産を遺しており、相続財産だけで全て支払える場合、予納金は発生しません。
一方、被相続人があまり財産を遺しておらず、相続財産だけでは支払えない場合、予納金が発生します。
財産状況などによって予納金の金額は変わりますが、一般的には20万円~100万円程度かかります。
相続財産清算人の業務が全て終了しても予納金が余っている場合は、余剰分が返還されます。
基本的に、予納金は申し立て後1ヵ月以内に支払う必要があり、もし金銭的に余裕がない場合は法テラスの民事法律扶助制度が利用できないか確認しましょう。
法テラスとは、法律トラブルの解決をサポートしてくれる公的機関で、経済的に余裕がない方を対象に費用の一時立て替えなどをおこなっています。
法テラスの民事法律扶助制度では50万円まで立て替えてくれて、立て替え後は毎月5,000円~1万円を返済します。
ただし、民事法律扶助制度を利用するには、法テラスが定める資力基準などを満たしている必要があります。
詳しくは「民事法律扶助|法テラス」を確認してください。
相続財産清算人の選任後は、以下のような流れで手続きが進行します。
ここでは、各手続きについて解説します。
まずは、相続財産清算人が選任されたことや、相続人に対して相続権を主張すべき旨などについて官報に掲載されます(民法第952条)。
官報とは「政府が発行する機関紙」のことで、6ヵ月以上公告がおこなわれます。
この期間内に相続人が名乗り出てきた場合、相続人へ財産が渡されて手続き終了となります。
なお、民法改正前は「②相続債権者・受遺者に対する請求申出の催告」のあとに相続権主張の催告をおこなっていましたが、民法改正によって「相続財産清算人の選任」と同時におこなうように変更されました。
次に、相続債権者や受遺者に対して、請求の申し出をするように公告をおこなう必要があります(民法第957条第1項)。
なお、すでに相続債権者や受遺者が判明している場合は、上記の公告だけでなく個別での催告も必要です(民法第957条第2項、第927条第3項)。
公告などは2ヵ月以上おこなわれ、①の公告期間内には終了するように調整しなければいけません。
②が終了したあとは、相続財産清算人が被相続人の財産から相続債権者に弁済をおこなったのち、受遺者に弁済します。
弁済によって被相続人の財産が全てなくなった場合は、そこで手続き終了となります。
①の公告期間が終了しても相続人が名乗り出てこなかった場合、被相続人の特別縁故者は、残っている相続財産の全部または一部を受け取ることができます(民法第958条の2)。
ただし、そのためには「①の公告期間終了後の3ヵ月以内」に、家庭裁判所にて財産分与の申し立てをおこなう必要があります。
残っている相続財産のなかに、不動産などの共有持分になっているものがあれば、その部分はほかの共有者のものとなります(民法第255条)。
これまでの手続きを経ても相続財産が残っている場合は、国庫へ帰属されます(民法959条)。
国庫への帰属が済んだあとは、相続財産清算人が家庭裁判所に管理終了報告書を提出して終了となります。
なかには「現在は独り身で、将来亡くなった際に相続人がいない」という方もいるでしょう。
そのような場合は、生前対策として遺言書を作成しておきましょう。
遺言書にて、遺言内容を実行する「遺言執行者」を指定しておけば、相続財産清算人を選任しなくてもスムーズな財産処分が望めます。
ただし、遺言書作成の知識がない素人では、適切な形式で作成できずに効力が無効になるおそれがあるため、弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、亡くなったあとに相続トラブルが発生しないように考慮しながら、被相続人の希望を遺言書に反映させつつ、適切な形式で遺言書を作成してくれます。
相続財産清算人は、被相続人の財産の管理や清算などを主におこないます。
「相続人がいない場合」や「相続人全員が相続放棄をした場合」などに、利害関係人や検察官の申し立てによって選任されます。
選任を申し立てる際は書類や費用などを準備する必要がありますが、弁護士であれば書類収集などのサポートが受けられるほか、生前対策として遺言書作成を依頼することもできます。
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