精神疾患や認知症などによって判断能力が欠けている人がいる場合、成年後見制度を利用すれば、被後見人に代わって財産管理や身上保護などの対応を進めてもらえます。
しかし、なかには「成年後見人による被後見人の財産の使い込み」などのトラブルが起こることもあります。
実際に成年後見人との間でトラブルが生じ、どのように対処するべきなのか悩んでいる方もいるでしょう。
本記事では、成年後見人による代表的なトラブルやトラブルの回避方法、トラブル時の解決手段などを解説します。
成年後見人とのトラブルにお悩みの方へ
成年後見人とのトラブルに悩んでいませんか?
結論からいうと、成年後見人とのトラブルでお悩みなら、弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- 使い込まれた財産を取り戻す方法がわかる
- 成年後見人の解任に必要な証拠がわかる
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成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や精神障害などによって判断能力が欠けている状態の人を保護・支援するための制度です。
本人に代わって財産管理や法律行為をおこなう後見人などを選任し、日常生活の諸手続きや介護のサポートをおこないます。
ここでは、成年後見制度の中身について解説します。
成年後見制度は2種類に分けられる

成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類に大きく分けられます。
以下では、それぞれの特徴を解説します。
法定後見制度

法定後見制度とは、すでに十分な判断能力を有しておらず、自分では財産管理や法律行為などが難しい方を対象に保護・支援をおこなう制度のことです。
法定後見制度の場合、裁判所が本人の判断能力の程度を考慮して補助人・保佐人・後見人のいずれかを選任し、本人に代わって必要な支援がおこなわれます。
本人が結んだ不要な契約を取り消すこともでき、すでに本人が判断能力を失っている状態でも適切な財産管理などが望めるという点が大きなメリットです。
任意後見制度

任意後見制度とは、まだ十分な判断能力を有している方が、病気や事故などで判断能力が衰える前に後見人になってもらう人を探して契約しておく制度のことです。
任意後見制度の場合、被後見人が後見人になる人を選択できるほか、代理行為の範囲を契約で決められるなどの点がメリットといえます。
なお、代理行為には「財産管理」と、被後見人の日常生活や介護をサポートする「身上監護」が含まれます。
また、任意後見が開始されると、家庭裁判所によって選任された任意後見監督人が仕事状況などをチェックするため、不正などが起こりにくいというメリットもあります。
成年後見人のトラブル件数は年間約200件、被害額は約8億円にのぼる
以下の図は、2025年に裁判所が公表した後見人などによる不正に関する資料です。

引用元:後見人等による不正事例(平成23年から令和6年まで)|裁判所
2024年に発生した後見人などの不正事例は188件、被害額は約7億9,000万円となっています。
ともに2014年のピーク時に比べると大きく減少しているものの、ここ5年間は一定のペースでトラブルが発生しています。
成年後見人とのトラブル事例4選
ここでは、成年後見制度を利用した場合に起こりうる、成年後見人とのトラブル事例について解説します。
1.成年後見人が財産を使い込む
成年後見人によるトラブルとしては「後見人として選任された親族が財産を使い込んでしまう」というのが代表的です。
本来、成年後見人は適切に財産管理しなければならず、十分な責任感や判断能力が求められます。
しかし、なかには成年後見人としての意識が希薄だったり、「少しぐらいなら使っても大丈夫だろう」などと考えてしまったりしてトラブルに発展することもあります。
成年後見人による財産の使い込みについては、たとえ親族でも業務上横領として刑事罰が科される可能性があります。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
引用元:刑法253条
実際のところは親族以外が選任されるケースのほうが多く、2024年に選任された内訳は「親族が17.1%、親族以外が82.9%」となっています(成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)|裁判所)。

引用元:成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)|裁判所
上図は、どのような人が成年後見人などに選任されたのかを示したものです。
親族以外の内訳としては司法書士が34.7%と最も多く、次いで弁護士が25.7%となっています。
大多数の専門家は適切に成年後見人などの業務を遂行しており、トラブルが発生するリスクは親族が選任された場合に比べて少ないといえます。
もっとも、専門家の成年後見人によって被後見人の財産が横領されるという事件も起きています。
2.成年後見人が報酬だけ受け取って仕事をしない
「成年後見人が報酬だけを受け取って仕事をしない」というトラブルも、よくある事例のひとつです。
成年後見人に選任されると、定期的に財産目録や収支報告書を作成し、裁判所に提出する必要があります。
成年後見業務の対価として被後見人の財産から報酬を受け取ることになりますが、報酬を受け取りながらも成年後見人がまともに仕事をしないケースもあります。
とはいえ、実際に成年後見人が仕事をしっかりしているのか確認することは難しく、仕事をしていないという疑いだけでは解任しにくいのが現状です。
どうしても解任したい場合には、まず弁護士に相談することをおすすめします。
3.成年後見人を通じて親との面会を拒否される
成年後見人を通じて、被後見人である親との面会を拒否されるというトラブルも散見されます。
成年後見人の選任申立ては、親族全員の同意がなくても手続きを進められます。
つまり「親族内の誰かが勝手に申請を出し、いつの間にか成年後見人が選任されている」というような状況も起こり得るのです。
もし関係性の良くない親族がいる場合は、施設に入居している親との面会を拒否されるなどの嫌がらせを受けるおそれがあります。
4.成年後見人に本人の年金を管理される
成年後見人が選任されると、後見人は被後見人の財産を明確に区別して管理します。
そのため、たとえ配偶者であっても被相続人と共有管理していた年金を勝手に使うことはできなくなります。
もし被後見人の年金から生活費を捻出していたのであれば、ほかの収入で賄う必要が出てきます。
成年後見人が年金を管理することで、結果的に本人以外の家族の生活が苦しくなってしまうこともあります。
成年後見制度がひどいといわれる5つの理由
成年後見制度がひどいと言われるのには、いくつかの理由があります。
ここでは、主な理由を5つ紹介します。
1.後見人を必ず自分で選べるわけではない
後見人は、必ずしも申立人が希望どおりに選択できるわけではありません。
候補者を裁判所に伝えることはできますが、実際に誰にするかの最終的な判断は裁判所がおこないます。
「候補者として記載していた親族ではなく、弁護士や司法書士が成年後見人として選任される」というのはよくある話です。
特に被後見人の財産が多い場合などは親族が後見人となることは難しく、弁護士などの専門家が選任されるケースが一般的です。
2.被後見人が亡くなるまで後見人は原則解任できない
後見人は、一度選任されると原則として被後見人が亡くなるまで解任することは認められません。
希望した人物が選ばれず、選任された後見人が気に入らなかったとしても、不正行為などが見られないかぎり変更することはできないのです。
自由に選任・解任できないというのは、制度を利用するうえで大きなデメリットといえます。
3.後見人の選任申立てや後見開始後に費用がかかる
成年後見人を付ける際は費用がかかります。
後見人の選任申立てには少なくとも1万円程度の実費がかかるほか、選任された後見人が弁護士や司法書士などの場合は、被後見人の財産額に応じて月額数万円程度の報酬を支払う必要があります。
被後見人が亡くなるまで報酬が発生することを考えると、大きな費用がかかることがわかるでしょう。
4.被後見人の財産を自由に使えなくなる
成年後見人が選任されると、被後見人の財産は自由に使えなくなります。
なぜなら、成年後見人が被後見人に代わって財産を管理するようになるからです。
生活費・医療費・介護費用など、被後見人のためになること以外には財産を使えなくなります。
5.生前贈与をするのが難しくなる
成年後見人が選任されると、生前贈与をするのが難しくなります。
そもそも成年後見制度は、被後見人の財産の保護を主な目的としています。
生前贈与は被後見人の財産を減らす行為であり、相続税対策として相続人にとってはメリットがあるものの、被後見人にとっては利益がないため制度上認められていません。
なお、不動産の運用や贈与なども基本的には認められないため注意しておきましょう。
成年後見制度のメリット・デメリット
ここでは、成年後見制度のメリット・デメリットについて解説します。
成年後見制度のメリット
成年後見制度の主なメリットとしては、以下のようなものがあります。
- 被後見人に代わって預貯金や有価証券などを管理できる
- 被後見人に代わって介護施設の契約や医療費の支払いなどができる
- 被後見人が締結した不要な契約を取り消すことができる
- ほかの親族などによる財産の使い込みを防止できる など
たしかに成年後見人とのトラブルは一定数発生しているものの、だからといって危険な制度というわけではありません。
適切に利用すれば、本人が判断能力を失っている状態でも財産の散逸や不正利用を防止できるなどの大きなメリットがあります。
成年後見制度のデメリット
成年後見制度の主なデメリットは「成年後見制度がひどいといわれる5つの理由」でも解説したとおりで、以下のようなものがあります。
- 後見人を必ず自分で選べるわけではない
- 被後見人が亡くなるまで後見人は原則解任できない
- 後見人の選任申立てや後見開始後に費用がかかる
- 被後見人の財産を自由に使えなくなる
- 生前贈与をするのが難しくなる など
なお、成年後見制度が適しているかどうかは状況によって異なり、詳しくは次項で解説します。
成年後見制度の利用が向いているケース
成年後見制度の利用が向いているケースとしては、主に以下のようなものがあります。
- 本人が認知症や精神障害などによって十分な判断能力がない場合
- 本人の判断能力が著しく低下しており、管理が必要な財産を有している場合
- 本人の判断能力が著しく低下しており、医療機関や介護施設での手続きが必要な場合 など
なお、裁判所の公表資料によると、成年後見制度を申し立てる主な動機は以下のとおりです。
最も多いのが「預貯金などの管理・解約のため」で3万8,561件、次いで「身上保護のため」が3万599件、「介護保険契約のため」が1万8,623件と続いています。

引用元:成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)|裁判所
成年後見人とのトラブルを回避するための3つの方法
成年後見人とのトラブルを回避するためには、以下の制度を利用するのが有効です。
- 任意後見制度を利用する
- 後見制度支援信託を利用する
- 家族信託を利用する
ここでは、それぞれの制度内容について解説します。
1.任意後見制度を利用する
まだ本人が十分な判断能力を有している場合は、任意後見制度が有効です。
「成年後見制度とは」で解説したとおり、成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類に大きく分けられます。
任意後見制度と法定後見制度は、主に以下のような点で異なります。
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任意後見制度
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法定後見制度
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選任のタイミング
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被後見人の判断能力が不十分になる前
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被後見人の判断能力が不十分になったあと
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選任する主体
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被後見人本人
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裁判所
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委任の範囲
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ある程度は自由に決められる
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法律で決められている
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任意後見制度では本人が後見人となる人を選択できるため、事前に信頼できる弁護士を探して指定しておくことでトラブルの回避が望めます。
2.後見制度支援信託を利用する
後見制度支援信託とは、被後見人の財産のうち日常生活に必要な分だけを後見人が管理し、残りの財産については信託銀行などに預ける制度です。
信託銀行に預けたお金を払い戻したり、口座を解約したりするためには、裁判所によって発行された指示書が必要となります。
後見人による勝手な財産の使い込みを防止でき、預けたお金は元本保証されているので元本割れの心配もありません。
なお、後見制度支援信託は成年後見・未成年後見を対象としており、補佐や補助、任意後見では利用できないため注意してください。
3.家族信託を利用する
家族信託とは、被後見人が信頼する親族に所有する財産の管理を任せる信託契約です。
信託契約では財産管理の方法を自由に設定でき、被後見人の意思をきちんと反映した内容にすることができます。
家族信託では、本人の判断能力が十分あるうちに、財産を管理・処分する「受託者」と、財産から生じる利益を受け取る「受益者」を設定します。
受託者には信頼できる家族を、受益者には被後見人を設定するケースが一般的です。
家族信託を活用すれば、被後見人の判断能力が低下したあとも身近で信頼できる親族に財産管理を任せられるため、財産の使い込みなどのトラブルを回避できるでしょう。
成年後見人とのトラブルが起きたときの解決方法
すでに成年後見人によるトラブルが起きている場合は、以下の4つの対応を検討しましょう。
1.成年後見人の解任を請求する
成年後見人については、以下の要件にあてはまる場合に解任請求できます(民法第846条)。
- 私的流用や横領などの不正な行為がおこなわれた場合
- 不適切な言動や、裁判所からの指示に従わない行為があった場合
- 病気や引っ越しなどにより成年後見人の業務をおこなえない場合
被後見人の親族であれば解任を請求でき、家庭裁判所にて申立てが認められれば解任となります。
2024年の申立件数は372件で、そのうち94件が認められています(第3表家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数―全家庭裁判所|裁判所)。
なお、成年後見制度の目的は被後見人の保護にあり、裁判所としても明確な理由がなければ動いてくれません。
解任申請する場合は、解任事由にあてはまることを証明する証拠を準備しておきましょう。
なにを集めればよいかわからない場合は、弁護士にアドバイスしてもらうことをおすすめします。
2.使い込んだ財産の返還を求める訴訟を起こす
成年後見人によって財産を使い込まれた場合は、不当利得返還請求や損害賠償請求などの訴訟を起こすという方法もあります。
しかし、訴訟を起こすには書類や証拠などを準備しなければならず、法律知識なども必要になります。
弁護士であれば依頼者の代理人として対応してくれて、法的視点からの的確な主張も望めます。
自力での対応が不安な場合は弁護士に依頼しましょう。
3.後見監督人の選任を求める
後見監督人とは、成年後見人がおこなう業務を監督する人物のことです。
被後見人の親族が、家庭裁判所に対して後見監督人の選任を申し立てることで、適切な人物が選ばれます。
成年後見人の事務を監督する第三者が現れることによって、成年後見人の職務是正が図れます。
4.依頼者見舞金制度を利用する
もし成年後見人となった弁護士が被後見人の財産を不当に利用していた場合は、依頼者見舞金制度の利用を検討しましょう。
依頼者見舞金制度とは、弁護士が業務で預かっていたお金を横領した場合、日本弁護士連合会が被害者に見舞金を支給する制度です。
依頼者見舞金制度の詳細は以下のとおりです。
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支給対象(全て満たす必要あり)
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・依頼した弁護士に横領されて財産を失った人
・横領されたのが2017年4月1日以降であり、被害額が30万円を超えている
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支給額
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被害者1人あたり上限500万円まで
(具体的な支給額は事情を考慮したうえで個別に判断)
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申請方法
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「依頼者見舞金支給申請書」を作成して提出
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申請先
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依頼した弁護士が所属している弁護士会
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詳しくは「依頼者見舞金制度について|日本弁護士連合会」をご確認ください。
成年後見人とのトラブルに関するよくある質問
ここでは、成年後見人とのトラブルに関するよくある質問について解説します。
成年後見人の問題点は何ですか?つけるデメリットは?
成年後見制度の問題点・デメリットとしては、主に以下のようなものがあります。
- 後見人を必ず自分で選べるわけではない
- 被後見人が亡くなるまで後見人は原則解任できない
- 後見人の選任申立てや後見開始後に費用がかかる
- 被後見人の財産を自由に使えなくなる
- 生前贈与をするのが難しくなる など
なかには、成年後見人による財産の使い込みなどのトラブルが起きることもあります。
ただし、だからといって成年後見制度自体が危険というわけではなく、適切な運用や利用者の注意によって回避できる側面もあります。
成年後見人への苦情やトラブルの相談窓口はどこ?
成年後見人への苦情やトラブルなどの相談は、手続きをおこなった家庭裁判所や権利擁護相談窓口などで受け付けています。
相談することで今後の対応をアドバイスしてくれるほか、状況によっては成年後見人に対して指導してくれることもあります。
権利擁護相談窓口とは、認知症や精神障害などで十分な判断能力を有していない方でも安心して生活できるよう、各種手続きのアドバイスやサポートをおこなう窓口のことです。
全国に相談窓口が設置されており、「お近くの権利擁護相談窓口検索」から付近の相談窓口を検索できます。
成年後見人を取り下げたいのですが可能ですか?
家庭裁判所の許可を得れば、申立ての取り下げや成年後見人の解任は可能です。
ただし、許可を得るには正当な理由が必要で、「手続きが面倒だから」「成年後見人との相性が合わないから」というような個人的な理由では認めてもらえないおそれがあります。
もし取り下げや解任などを考えている場合は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
さいごに|成年後見人とのトラブルでお悩みなら、まずは弁護士に相談を
成年後見人によるトラブルとしては、親族による財産の使い込みだけでなく、親族以外の専門家による被害なども起きています。
トラブルを避けるためには、本人の判断能力が衰えてしまう前に任意後見制度や後見制度支援信託などを活用するのが有効です。
すでに成年後見人によるトラブルが起きている場合は、状況に応じて解任申請や訴訟などの対応を進めましょう。
その際は、弁護士のアドバイスやサポートを受けることで早期解決が望めます。
ベンナビ相続では、成年後見に関する対応が得意な全国の弁護士を掲載しているので、まずは相談してみることをおすすめします。