など、遺産相続では、被相続人との同居と別居が原因でさまざまなトラブルが生じることがあります。
本来、同居と別居だけでは遺産相続に関するルールに変更が生じることはありませんが、被相続人が同居人に有利な遺言書を遺すこともあるため、同居人とそれ以外の相続人の間でトラブルが生じるケースがあるのです。
そこで今回は、同居と別居が遺産相続に与える影響や、同居人の存在が原因で遺産分割協議が円滑に進まないときの対処法などについてわかりやすく解説します。
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原則として、被相続人との同居の有無が遺産相続をめぐるルールに影響することはありません。
同居していた方に配慮した遺言書が存在する場合や、例外制度・特例制度を活用できる場合を除き、同居・別居によって民法上のルールが変更されることはないです。
たとえば、法定相続人の範囲や相続分・相続順位のルールは同居・別居とは無関係です。
被相続人と別居していたからといって法定相続人の地位が奪われることはなく、被相続人と同居していた方がそれだけを理由に優先的に相続権を取得することもありません。
また、同居を理由に遺留分の金額が増額されたり、遺留分権利者として認定されたりすることもないです。
遺留分権利者の範囲は「被相続人の兄弟姉妹を除く法定相続人」と定められており、同居・別居によって遺留分の内容は変化しないためです。
「同居と別居は遺産相続に影響しない」というのが民法上の原則的なルールです。
ただし、個別の家族生活の実態を鑑みると、「一緒に住んでいない子どもよりも同居していた相続人に情がわく」「同居していた相続人が経済的に苦労する事態だけは避けたい」などと被相続人が考えるケースは少なくありません。
そこで、相続法制度では、被相続人との同居によって有利な遺産相続を実現できる4つのパターンを想定しています。
ここでは、同居を理由に遺産相続で優遇される可能性があるケースについて具体的に解説します。
遺言とは、相続に関する被相続人の最終的な意思のことです。
遺言書は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれかの形式で作成されます。
「同居していた妻に土地・建物の権利を譲りたい」「同居しながら生活上の世話をしてくれていた長男夫婦のために預貯金全額を遺したい」などの遺言書が作成されていた場合、同居人が遺産相続で有利になるでしょう。
ただし、遺言書の内容が絶対視されるわけではない点に注意が必要です。
たとえば、そもそも不自然な内容の遺言書が作成されていた場合には、被相続人死亡後にほかの相続人が遺言無効確認訴訟などの法的措置をとる可能性があります。
また、遺言書の内容がほかの法定相続人の遺留分を侵害している事案では、同居人がほかの法定相続人に遺留分侵害額請求権を行使された結果、遺言書の内容通りに相続できないケースも想定されます。
そのため、遺言書によって同居人に有利な遺産相続が生じるときには、以下のポイントが重要だといえるでしょう。
同居人が寄与分を主張できる状況なら、遺産相続で有利になるでしょう。
寄与分とは、「共同相続人のうち、被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした者について、貢献した度合いに応じて相続分に加算して受け取ることができる遺産」のことです(民法第904条の2第1項)。
例えば、被相続人の事業に関連して労務や資金を提供したケース、被相続人の療養看護・介護をしたケース、被相続人を扶養して生活を支えて財産の維持・増加に貢献したケースなどが挙げられます。
被相続人の生前、同居人が以下の要件を満たす行為をしていたときには、寄与分が認められる可能性が高いでしょう。
なお、寄与分を決める際には、遺産分割協議の場で相続人同士で話し合いをするのが原則です。
遺産分割協議で意見がまとまらなければ、遺産分割調停、もしくは遺産分割審判という家庭裁判所の法的手続きに移行します。
寄与分の要件を満たすか否か、寄与分としていくらの金額を計上するかなどについては、個別事案の状況を踏まえた判断が必要なので、相続人間で争いが生じるケースが少なくありません。
そのため、同居人の寄与分が争点になったときには、話し合いの段階から弁護士に介入してもらって、早期円満解決を目指すのが合理的でしょう。
なお、2019年7月の民法改正によって、共同相続人には該当しなくても、6親等内の血族または3親等内の姻族に含まれる人物については、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供することによって被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をしたとき、相続人に対して「特別寄与料」を請求することができるようになりました(民法第1050条第1項)。
たとえば、被相続人の息子と結婚をした妻が、同居をしながら継続的に介護に尽くしたケースでは、寄与分ではなく特別寄与料を主張すると、遺産相続時に経済的な利益を獲得できます。
「小規模宅地等の特例(相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例)」とは、相続・遺贈によって取得した財産の中に、相続開始の直前において被相続人または被相続人と生計を同じくしていた被相続人の親族の事業用・居住用宅地等が存在する場合には、当該宅地等の一定範囲について土地評価額を所定の割合まで減額する特例制度のことです。
宅地等の評価額が下がれば相続税の課税対象価額も減額されるので、相続税の節税に役立ちます。
たとえば、被相続人の自宅がある宅地(特定居住用宅地等)については、330平方メートルを上限に、評価額を80%引き下げ可能です。
「本当は土地・建物を相続してそのまま自宅に住み続けたいが、高額な相続税相当額を支払うことが難しい」という状況に置かれている同居人でも、小規模宅地等の特例の適用を受けて相続税の引き下げに成功すれば、被相続人と暮らした環境で生活を続けることができるでしょう。
被相続人と同居していた配偶者が、遺言書や遺産分割協議を経て配偶者居住権を取得すれば、遺産相続手続きにおいて有利になりやすいといえます。
配偶者居住権とは、被相続人の死亡によって配偶者が居住環境の変化を強いられる事態を防止し、かつ、配偶者が相続財産からある程度の現金等を承継することを可能にする制度のことです(民法第1028条第1項)。
配偶者居住権を設定できた場合、被相続人と同居していた配偶者は、原則として配偶者自身が死亡するまで、当該不動産に無償で居住できます。
ただし、配偶者居住権を第三者に主張するためには登記が求められるため、配偶者と居住建物の所有権を取得した方と共同で法務局における不動産登記手続きが必要です。
なお、配偶者居住権と類する制度として「配偶者短期居住権」があります。
配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合に、遺産分割協議がまとまるまでか、被相続人が死亡してから6ヶ月間は、無償で建物に住み続けることができる権利のことです(民法第1037条第1項)。
遺言などによって配偶者以外の方が不動産を取得したとしても、配偶者が次の居住環境を見つけるまでの猶予期間を手にすることができます。
被相続人と同居していた方が存在していたことが原因で生じる遺産相続トラブルの具体例を紹介します。
被相続人の所有する土地・建物に同居していた方がそのまま自宅に住み続けたいと主張したときに、遺産相続トラブルが生じる可能性があります。
たとえば、同居人がそのまま自宅に住み続けるために、土地・建物の所有権の承継を主張したケースについて考えてみましょう。
もし、不動産以外に経済的価値がある財産がほとんど存在しない状況なら、同居人以外の相続人も不動産の権利承継や換価処分した売却益の分割を希望すると考えられるため、同居人と利害が衝突することになるでしょう。
また土地・建物の承継を求める同居人は、不動産評価額の引き下げによって相続税の支払負担を減らしたいと考える傾向がある一方、土地・建物以外の預貯金・株式等を承継する他の相続人等は不動産評価額を引き上げることによる遺産分割時の取り分増加を希望する傾向があり、同居人との利害が衝突するケースがあります。
それぞれの意見が衝突したままだと、遺産分割協議が思うように進まず、遺産分割調停・遺産分割審判を経るまで遺産相続が終了しないことも少なくありません。
一部の相続人が遺産に含まれる財産の一部の権利を率先して主張する状況は遺産分割トラブルの深刻化を招くので、遺産分割協議の初期段階から弁護士に介入してもらうとスムーズでしょう。
民法上のルールでは、原則として同居と別居が遺産相続のルールに直接的に影響を与えることはありません。
ところが、被相続人と同居していた方の中には、普段から寝食を共にして被相続人の面倒をみている自負があり、「同居していた自分が遺産から優先的に相続できて当然だ」と考える方がいます。
遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ成立しない以上、自分の感情や考えだけを押し付ける同居人が遺産分割協議に参加すると、いつまでも遺産の分割方法について合意形成に至りません。
同居人が考えを曲げずに不当な権利主張を続けるほど、遺産分割調停・遺産分割審判を経なければ遺産分割トラブルの解決が難しくなります。
遺産相続の対象は、被相続人に属する全ての権利義務であるため、被相続人の同居人が被相続人の財産を無断で費消・隠匿すると、遺産分割を適正に実施することができません。
このようなケースでは、同居人が生前贈与を受けたと評価したうえで遺産分割協議を進めたり、勝手に遺産を使い込んだ同居人に対する損害賠償請求や不当利得返還請求を実施したりする必要が生じます。
また、相続人同士の人間関係が円滑でない場合、別居している相続人が、同居人に遺産の使い込みや隠匿の疑いをかけることもあります。
遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ成立しないため、「同居人が勝手に財産を費消したのではないか」という疑いが生じると、話し合いがまとまりにくくなってしまうでしょう。
被相続人が極端に同居人に有利な遺言書を遺していたケースでも、遺産相続トラブルが深刻化するリスクが生じます。
なぜなら、兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」という権利があり、遺留分は被相続人の意思によっても侵害できないからです。
たとえば、被相続人が「生前献身的に世話をしてくれた同居人に全財産を相続させる」という遺言書を遺していた場合、遺留分を侵害された法定相続人は、同居人に対して遺留分侵害額請求権を行使して、自分の遺留分を確保する必要に迫られます。
同居人が素直に遺留分侵害額請求権の行使に従って財産を引き渡してくれると、紛争は早期に解決します。
これに対して、同居人自身も「生前被相続人の世話をしたのだから、自分が全財産を取得するのは当然だ」などと考えを曲げなければ、家庭裁判所における「遺留分侵害額の請求調停」や地方裁判所での遺留分侵害額請求訴訟に進むことになるでしょう。
このように自身にとって有利になる遺言書を受け取った同居人がいると、遺言書の内容によって遺産相続トラブルが深刻化するリスクが生じます。
そのため、被相続人が将来発生する遺産相続に向けて遺言書を用意する場合には、配偶者や子ども・孫世代がトラブルに巻き込まれないようにするために、弁護士に相談しながら遺言書を用意するように努めるべきでしょう。
最後に、被相続人との同居と別居が原因で相続問題が「争続」に発展したときの対処法を紹介します。
本来、遺産分割の方法や内容については、相続人全員の話し合いだけで決定するのが理想です。
相続人全員が意見を出し合いながら双方の感情や考えを尊重し、それぞれが妥協をし合えば、全員が納得する形で遺産相続を終了できるでしょう。
しかし、「同居人が何か隠しごとをしているのではないか」と別居していた相続人が疑ったり、「同居人として貢献した期間が長いのだから、別居していた相続人よりも自分が優遇されて当然だ」と同居人が主張したりすると、遺産分割協議だけでは遺産相続手続きは終了しません。
このように、同居・別居が原因で遺産分割協議がまとまらないときには、遺産分割調停・遺産分割審判手続きを利用して紛争解決を目指すことになります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所における法的手続きです。
家庭裁判所の調停委員が相続人全員の意見を聴取したり、それぞれからの提出物を確認するなどして、相続人全員が合意形成できるような遺産分割方法・遺産分割内容に関する和解を後押しします。
遺産分割調停で和解が成立すれば、その内容に従って遺産分割が実行されます。
これに対して、遺産分割調停手続きで和解が成立しない場合は、調停不成立と扱われて、遺産相続トラブルは自動的に遺産分割審判手続きに移行します。
遺産分割審判では、家庭裁判所がそれまでの証拠などを前提に、遺産分割の方法や内容について終局的な判断を下します。
遺産分割調停・遺産分割審判を利用すれば、同居していた方と別居していた方との間での遺産相続トラブルが深刻化したとしても、最終的な決着を実現できるでしょう。
被相続人との同居と別居が原因で遺産相続トラブルが深刻化しそうなときや、同居人の存在が原因で遺産相続トラブルが生じるリスクを回避・軽減したいときには、遺産相続問題に力を入れている弁護士へ相談することをおすすめします。
というのも、相続問題に強い弁護士のサポートがあれば、以下のメリットを得られるからです。
遺産相続トラブルは人間関係の感情的な衝突が原因で生じることが多く、紛争が長期化するほど円満な解決が難しくなってしまいます。
そのため、被相続人の同居人が相続に関わるときには、念のために可能な限り早いタイミングで弁護士へ相談しておくと諸々のリスクヘッジとして役立つでしょう。
同居と別居の相続人等が混在する状況だと、遺産相続トラブルが深刻化するリスクが生じます。
相続人の関係性が悪化すると、当事者だけの努力で関係性を修復して、冷静に遺産分割協議を進めるのは現実的に難しいでしょう。
そのため、被相続人の同居人と別居していた人物との間に亀裂が入ったときには、速やかに遺産相続問題の実績豊富な弁護士へ相談することをおすすめします。
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