もし被相続人の財産の中に海外資産があった場合、残された相続人たちはどのような相続手続きをおこなっていけばよいのでしょうか。
近年、海外で銀行口座を開設したり、資産価値になる不動産を購入したり、金の保有などをおこなうケースも増えています。
こういった海外で得た資産を相続する際、被相続人や相続人の住んでいる住所や国によって手続きが異なる場合も多く、税金の有無も違います。
本記事では、海外資産の相続を控えた方の参考になるように、国際相続の手続きや相続税の扱いなどについて解説します。
海外資産の相続手続きは国際相続が得意な弁護士へ相談するのがおすすめ |
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海外の資産相続がからむ『国際相続』は、被相続人の国籍などによって、日本の法律なのか、海外の法律で進めるのかが変わります。どちらの法律で処理するか、海外資産の相続手続きをどのようにおこなうのかは、国内相続の実務知識はもちろん、海外での実績もある弁護士でないと対応できません。海外資産の相続問題でお困りの方は、弁護士へご相談ください。 |
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国際相続の基礎知識 |
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まずは、海外に資産がある場合の相続手続きとして、通常の相続とどういった点が違うのかを紹介します。
ちなみに、人や相続財産が海外をまたぐ相続のことを、一般的に「国際相続」と呼んでいます。
遺産相続は通常「被相続人」基準で適用法律が決まります。
たとえば、日本国籍を有する被相続人が亡くなった場合、本国法に基づき日本の法律(民法)に則って相続がおこなわれることになります。
本国法とは、基本的にはその人が国籍を有する国の法律ですが、二重国籍の場合など、簡単に判断できないこともあります。
(相続)
第三十六条 相続は、被相続人の本国法による。
引用元:法の適用に関する通則法第36条
逆に、外国人が日本で亡くなった場合はその外国人の本国法が適用され、日本の民法は適用されません。
しかし、これも外国の本国法の内容によっては、日本の民法が適用されるケースもありえます。
先ほど紹介した「法の適用に関する通則法第36条」に記載のあった「相続は被相続人の本国法による」というのは、日本人なら日本の本国法(民法)が相続の「準拠法※」となり、相続人の範囲や順位、相続分の規定を、被相続人の本国法にしたがって決めるという規定です。
※準拠法とは |
ある法律関係について適用される法律のことを「準拠法」といいます。国際的な法律関係については、どの国の法律を準拠法とするかが問題となり、準拠法を決める規範は「国際私法」と呼ばれます。 |
たとえば、被相続人が複数の国籍を有する場合(日本とアメリカなど)、どちらかの国の中に、被相続人の常居所地(じょうきょしょち:人が通常居住している場所)があれば、その国の法が本国法とされ、相続の準拠法になります。
ちなみに、常居所地に法律上の明確な定義はありません。
「相当時間滞在する地」とされているケースが多いですが、法務省の通達(平元:10・2民二3900号法務省民事局長通達)では、外国人の場合は日本での在留資格や住民登録などを基準に、常居所を認定するようです。
参考文献:遺産分割・遺言の法律相談|相続・遺言研究部(青林書院)
遺産の種類に関係なく被相続人の本国法を相続の準拠法にする制度です。
たとえば被相続人が外国人で大韓民国の国籍を有していた場合、大韓民国の法律が適用されます。
このような法制度の国は、日本以外にも、いま例に挙げた大韓民国をはじめ、ドイツ、イタリアなどが挙げられます。
遺産の中に不動産があった場合は「不動産の所在地の法律を準拠法」とし、「それ以外の動産は被相続人の住所地法(※)または本国法を相続の準拠法とする」制度です。
※住所地法とは |
当事者居住する国の法律。住所地法を準拠法とすべきであるとする「住所地法主義」を採用する国も存在する。 |
相続統一主義の国の例 |
・被相続人の最後の住所地を基準とする住所地法主義 |
・被相続人の国籍を基準とする本国法主義 |
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相続分割主義の国の例 |
アメリカ、イギリス、フランス、中国 など |
上記の表はあくまで参考程度であり、詳細は異なります。
実際に国際相続が発生した場合、さまざまな法律を見比べたうえで判断する、非常に高度な相続手続きが要求されることになります。
実際に国際相続が発生した場合は、弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
検認裁判(プロベート)とは、被相続人の財産をどう分けるべきか、裁判上で決めていく手続きのことをいいます。
日本でのみ相続手続きをおこなう場合なら、一般的に、相続人全員による遺産分割協議をし、法定相続分に則った遺産割合で分けるだけで済む場合も多いです。
しかし、国際相続手続きが起こる場合、英米法系の国を中心に、検認裁判(プロベート)が必要となるケースがあります。
日本でも、自筆証書遺言の場合には検認手続きが必要ですが、この場合のプロベートはそれとは全く異なる複雑な手続きです。
この検認裁判(プロベート)がおこなわれた際、現地(たとえばアメリカ)では被相続人本人が相続税や費用を支払うことになりますが、亡くなった方は支払うことができないので、故人を代理する遺産財団が作られることになります。
検認裁判の流れとしては下記のようになります。
プロベートは、早ければ数ヵ月、長い場合は年単位でかかることも考えられます。
また、日本での相続税申告は「相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内(国税庁)」とされているため、この期限が過ぎてしまった場合の相続税の扱いも不明な部分ではあります。
期限を伸ばす手続きも用意はされていますが、このあたりの具体的な進め方は、税理士などの専門家に相談しましょう。
次に、相続の手続きをどのように進めればよいのかについて、解説していきます。
日本の場合、被相続人の財産は、死亡届を提出すると自由に処分できなくなります(銀行に被相続人の死亡の旨を伝えると被相続人名義の銀行口座は凍結されます)。
そのため、遺産分割を早急に進めるのが、その後の相続手続きを考えるうえで重要なポイントになります。
一番確実なのは被相続人の残した遺言書を確認することですが、ない場合には、被相続人の遺品整理をおこなうことからはじめてみましょう。
海外の資産、たとえば預金が発見された場合、それを引き出すための手順は複雑です。
相続人であり、かつ権利者であることを証明するため、まず日本の法律を説明し、また日本の相続に関する書類(戸籍、遺産分割協議書など)を英訳する必要があります。
そのうえで、ご自身で現地に赴いて交渉することが困難な場合には、現地の弁護士に代理してもらう必要があります。
いずれにしても、海外資産を処分するのは専門家でないと難しい部分も多くあります。
特に不動産は、弁護士の他、ブローカーなどの協力を得る必要もありますので、迷わず相談されることをおすすめします。
海外に資産がある場合でも、被相続人が日本人であれば「遺産分割協議」をして遺産相続をおこなうという基本的な流れは同じです。
ただし、海外にある財産は日本の法律にしたがって遺産分割をしても、必ずしも遺産分割の効力が認められるとは限りません。
相続財産について、日本では動産・不動産またその所在の区別なく、日本の民法を適用するという相続統一主義を採用しています。
しかし、国際相続の場合は、これらを区別して考える「相続分割主義」を採用している国もあることを考慮する必要があります。
という手順で把握する必要があります。
また、被相続人が在日外国人である場合には、遺産分割については、被相続人の本国法を調べてみないと手続きが進まないと考えていただければよいかと思います。
遺産分割協議で話し合いがまとまると、相続人同士で話し合った内容を「遺産分割協議書」にまとめておくとよいでしょう。
書式や書き方に特定の指定はありませんが、書いておくべきポイントや注意点があります。
下記の記事を参考に、作成方法や注意点をご確認ください。
国際相続では日本の税務署へ申告する作業と、海外の税務署へ申告する2つの作業が発生します。
ただし、海外の税務署へ申告するのは現地の税理士でないと難しいでしょう。
海外の税理士につてがあればよいのですが、ない場合は、国際相続を専門的に取り扱っている法律事務所を頼るのがおすすめです。
これから紹介する内容は、あくまでも令和2年度の税制改正で定められたものになります。
税金関係の法令は比較的頻繁に改正されるため、今後も改正がありうることにご留意ください。
原則、遺産相続が起きた際に相続人の住所が日本にあった段階で、国内外の全ての資産が相続税の課税対象となります。
このとき、納税の義務を負った相続人のことを「無制限納税義務者」と呼びます。
「無制限納税義務者」には、財産を取得したときに日本国内に住所を有する「居住無制限納税義務者」と、財産を取得した時に日本国内に住所を有しない「非居住無制限納税義務者」という二つの区分があり、日本国内に住所を有しないケースでも「非居住無制限納税義務者」に該当する場合は、国内外の全ての資産について相続税の課税対象になります。
(1) 居住無制限納税義務者
相続又は遺贈により財産を取得した次に掲げる者であって、その財産を取得した時において日本国内に住所を有するもの。
イ 一時居住者でない個人
ロ 一時居住者である個人(その相続又は遺贈に係る被相続人(遺贈をした人を含みます。)が、一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合を除きます。)
(2) 非居住無制限納税義務者
相続または遺贈により財産を取得した次に掲げる者であって、その財産を取得した時において日本国内に住所を有しないもの。
イ 日本国籍を有する個人であって、①その相続または遺贈に係る相続の開始前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがあるもの、または②その相続または遺贈に係る相続の開始前10年以内のいずれの時においても日本国内に住所を有していたことがないもの(その相続または遺贈に係る被相続人(遺贈をした人を含みます。)が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)。
ロ 日本国籍を有しない個人(その相続または遺贈に係る被相続人(遺贈をした人を含みます。)が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)。
引用元:国税庁
日本と海外の両方で相続税の課税対象となることがあります。
このような場合に外国税額控除が適用できる場合があります。
外国税額控除とは、相続税の二重課税を防止するために設けられた特例制度です。
日本と海外の両方で相続税が課せられたときに、海外で支払った相続税の一部を日本で支払う相続税の金額から控除できます。
控除できる具体的な金額は以下の計算式のうち、いずれか少ないほうの金額が適用されます。
外国税額控除を活用することで、相続税の二重課税による不利益を回避することができるでしょう。
被相続人や相続人の住所や国籍次第では、海外資産の相続手続きがより複雑になる場合があります。
特に、以下のケースに該当する場合トラブルになる可能性があるため、注意しましょう。
被相続人が外国籍である場合、基本的には被相続人の国籍に基づいた法律が適用されます。
そのため、日本の法律だけではなく、その国の相続法について理解していなければ、被相続人の遺産を相続できないおそれがあります。
また、外国の法律が絡むことで「反致」と呼ばれる国際私法の原則に留意する必要があります。
「反致」とは、はじめに外国の法律が適用されるものの、最終的には日本の法律が適用されることです。
対象となる外国法で「日本の法律を適用すべき」と規定されていた場合に、適用される法律が再び戻ってきます。
この国際私法における原則は、海外資産の相続において非常に複雑な問題を引き起こします。
被相続人が外国籍である場合には、トラブルを避けるためにも、弁護士に相談したほうがよいでしょう。
相続人に外国籍や海外居住者が含まれる場合も注意すべきです。
なぜなら、日本の相続手続きに必要な書類を準備できないケースがあるからです。
相続人が在住する国によっては、戸籍謄本や住民票、印鑑証明書など、日本の相続手続きで必要になる書類自体が存在していない場合があります。
そのため、代わりとなる書類を準備しなければなりません。代用できる書類には、以下のようなものがあります。
署名証明書は、サイン証明書とも呼ばれる印鑑証明書の代わりとなる書類です。
また在留証明書は、住民票の代わりとなる書類であり、大使館や領事館で入手することができます。
相続人に外国籍や海外在住者がいる場合には、これらの書類を代わりに準備するように注意しましょう。
ここまで解説してきたとおり、国際相続が発生した場合に、いち個人が対応するのはかなり難しいといえます。
法律の問題もそうですが、手続きをおこなうだけでも一苦労でしょう。
国際相続に注力している弁護士であれば、海外資産の絡む相続手続きにも慣れていますので、弁護士費用はかかるものの、依頼をしたほうが結果的にスムーズに進むかと思われます。
国際相続は深い相続知識が求められます。
基本的には以下の項目を参考にしながら、遺産相続が得意な弁護士かどうかを判断いただくのがよいでしょう。
ハワイの不動産を処分し約1億4000万円を依頼者へお渡し |
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依頼者 |
ハワイに不動産を保有されていたご主人を亡くした日本人女性(70代)の奥様 |
事務所の対応 |
・現地の弁護士の協力を得て、不動産の名義を奥様へと変更。現地で売却し現金にて奥様にお渡し。 ・不動産に付随する物品の処分。 ・現地と日本での税務申告。必要な書類を整え、税理士に依頼。 |
結果 |
不動産は円ベース約1億9000万円で売却。税金や諸費用を控除した後、約1億4000万円を奥様にお渡しできました。 |
国際相続は、調べるほどに手続きが複雑かつ、非常に手間のかかることがおわかりいただけたかと思います。
もし外国に財産がある場合や相続人・被相続人が外国籍の場合は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
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