子どもや孫のために名義預金をおこなっている方は多いでしょう。
名義預金は自分以外の名義口座に預金をするため、一見手軽に贈与ができる手段のように思えます。
しかし、実際には名義預金を利用していると贈与税が発生する可能性があり、仕組みやポイントを理解することが大切です。
そこで本記事では、名義預金で贈与税が発生する条件や申告手続き・申告漏れによるペナルティなどについて詳しく解説します。
なるべく税金をかけずに贈与したいという方は、ぜひ参考にしてください。
名義預金とは預金した人、つまり口座の管理者と口座の名義人が異なる預金のことです。
名義預金は口座名義人の財産ではなく、預金した人物の財産になります。
そのため、たとえ口座名義人であっても、名義預金からお金を支払うと実際には自分のものではない財産を使ったことになり、預金した人から贈与を受けた扱いとなります。
名義預金からお金を勝手に使ってしまうこと自体に問題はありません。
また、勝手に使っただけで銀行や税務署などから連絡が来るようなこともないでしょう。
しかし、使った金額や預金残高によっては、贈与税を申告したり、納税したりする必要があるため注意しましょう。
なお、名義預金を作った段階では贈与自体は成立していないと考えられます。
そのため、預金口座にいくら入っていたとしても、名義預金が作成されただけでは口座名義人が贈与税を支払う必要はありません。
名義預金に関連して贈与税が発生する条件には、以下の3つがあります。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
たとえ口座の名義人になっていたとしても、名義預金が存在するだけでは、まだ贈与を受けたとは捉えられません。
口座名義人が、当該預金を使用してはじめて預金の管理権限が口座名義人に移転します。
なお、使用していなくても名義人が通帳・印鑑・キャッシュカードなどを自分自身で管理している場合も、財産が名義人本人に移転しているとみなされるケースがあります。
口座名義人が名義預金を使用して贈与が確定したとき、あるいは名義人が通帳・印鑑・キャッシュカードなどを管理しており財産が移転しているとみなされるとき、預金残高が110万円を超えていると贈与税がかかる可能性があります。
贈与税は、基礎控除額として年間110万円が設定されています。
これは、暦年課税と呼ばれる制度です。
暦年課税における基礎控除は、該当年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基準として考えます。
1年間に110万円までの贈与を受けても贈与税は支払う必要がなく、申告も不要です。
しかし、基礎控除額を超えて贈与がおこなわれた場合は贈与を受けた側が贈与税を申告して、納税しなければなりません。
年間110万円を超えても、生活費や教育費など生活に必要なお金に対しては、贈与税はかかりません。
結婚費用・出産費用・祝儀金・弔意金・見舞金などについても、贈与税はかかりません。
贈与税は、基礎控除のほかにもさまざまな特例や制度による控除が適用できます。
たとえば、次のような費用は、適用条件を満たしていれば、非課税です。
たとえば、住宅の購入資金であれば2021年4月1日以降に住宅を購入するための贈与がなされた場合、最大1,000万円まで非課税です。
非課税限度枠は住宅の購入時期だけでなく、消費税率・耐震性やバリアフリーなどの性能によっても異なります。
また、配偶者に対する自宅の贈与については、婚姻期間が20年以上の夫婦なら、居住用の不動産やその購入資金が2,000万円まで非課税になります。
それぞれの用途によって条件は異なるので、詳しくは税理士や弁護士などの専門家に相談するのがよいでしょう。
いずれの非課税枠も暦年贈与と併用することが可能です。
そのため、これらのほかに110万円未満の贈与を受けられます。
ただし、これらの非課税となる特例を利用するには、まったく贈与税がかからない場合であっても贈与税の申告自体はおこなわなければなりません。
なお、名義預金を経由して受け取った場合、贈与を受けた方が申告をしなければなりません。
名義預金を受け取ったことで贈与税の申告をしなければならなくなった場合、どのような手続きをすればよいのでしょうか。
以下で、詳しく説明します。
まずは、贈与税を申告するために必要な書類を準備しましょう。
申告書は税務署で入手可能です。
また、必要書類は国税庁のホームページでもダウンロードできます。
「贈与税の申告書等の様式一覧」ページから該当の書類を手に入れましょう。
ただし、準備しなければならない申告書や添付書類は、課税方式や適用を受ける特例によって以下のように異なります。
申告内容 |
必要な申告書 |
暦年課税を申告する場合 |
申告書第1表 |
相続時精算課税を申告する場合 |
申告書第1表+申告書第2表 |
住宅取得等資金の非課税+暦年課税を申告する場合 |
申告書第1表+申告書第1表の2 |
住宅取得等資金の非課税+相続時精算課税を申告する場合 |
申告書第1表+申告書第1表の2+申告書第2表 |
なお、各種特例の適用を受けるにあたっては、申告書のほかに添付書類が必要です。
受ける特例によって、たとえば次のような添付書類を用意しましょう。
次に、贈与税の算出をしましょう。
暦年課税では1年間に受け取った財産のうち、基礎控除である110万円を超えた分に贈与税がかかります。
税率を計算するには、一般税率と特例税率のどちらが適応となるかを把握しなければなりません。
一般税率とは、一般贈与財産にかかる税率のことです。
一般贈与財産とは、特例贈与以外の贈与財産を指し、具体的には兄弟同士や夫婦間の贈与・叔父や叔母からの贈与・親や祖父母から18歳未満の未成年の子や孫に対する贈与などがあたります。
一方、特例税率は特例贈与財産にかかる税率のことです。
特例贈与財産は、親や祖父母から18歳以上の子や孫に対して贈与される財産を指します。
ここでは、親や祖父母からの贈与で適用される特例税率で具体的な税率や金額を見てみましょう。
基礎控除後の課税価格 |
特例税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
0円 |
200万円超〜400万円 |
15% |
10万円 |
400万円超〜600万円 |
20% |
30万円 |
600万円超〜1,000万円 |
30% |
90万円 |
1,000万円超〜1,500万円 |
40% |
190万円 |
1,500万円超〜3,000万円 |
45% |
265万円 |
3,000万円超〜4,500万円 |
50% |
415万円 |
4,500万円超 |
55% |
640万円 |
たとえば25歳の娘に500万円の贈与をしたケースでは、次のように贈与税を算出します。
①500万円から基礎控除額(110万円)を引く 500万円−110万円=390万円 ②390万円に特別税率をかけ、控除額を引く 390万円×15%−10万円=48万5,000円 |
なお、暦年課税ではなく相続時精算課税の場合は、基礎控除額110万円に加えて生涯を通して贈与した金額が2,500万円を超えたら、一律20%の税率がかかります。
2,500万円は特別控除額として控除されます。
相続時精算課税とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に対しての贈与にのみ、適用することができる税制度です。
たとえば、3,110万円の贈与を受けたケースとして考えると、贈与税がかかるのは基礎控除額110万円と特別控除額2,500万円を差し引いた500万円です。
500万円の20%である100万円が贈与税の金額となります。
準備した書類に、それぞれに必要な項目を記入し、申告書を作成しましょう。
たとえば「1.必要書類を準備する」で紹介した申告書第1表に記載するのは、下記のとおりです。
そのほかの申告書も、書式に従って項目を埋めていけば完成します。
何を書けばよいのかわからない場合は、弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。
申告書が作成できたら、必要な添付書類とともに税務署に提出しましょう。
提出は、税務署に持参して直接おこなうほか、郵送や電子申告が可能です。
郵送する場合は、切手を貼った返信用封筒を同封しましょう。
後日、収受印が押された控えが返送されます。
なお、税理士に依頼をすれば、申告は税理士が代行してくれます。
申告書を提出しても、贈与税の納付は完了しません。
申告書の提出と別に納付手続きが必要です。
納付書は、税務署や税務署が管轄する金融機関で入手できます。
裏面に記入見本が掲載されているので、参照して必要事項を記入しましょう。
贈与税は、現金によって金融機関または税務署で納めることができます。
または、電子納税のほか、インターネットバンキングやクレジットカードでの納付も可能です。
ただし、別途決済手数料がかかります。
また、30万円以下であればコンビニで納付することも可能です
贈与税を申告しないままでいると、ペナルティが課されてしまいます。
贈与税の納税が遅れることによる延滞税は、支払いが遅れた分に対する利息のようなものです。
納付期限を過ぎた翌日から2ヵ月以内であれば年7.3%、2ヵ月以上経った場合は年14.6%がかかります。
また、期限までに申告がなかったことに対するペナルティである無申告課加算税も課されます。
税務調査の通知を受ける前に自主的に申告すれば5%で済みますが、税務調査を受けたあとであれば最大20%になります。
税務調査の通知や調査を受ける前後で税率が異なるため、状況に応じて税理士に相談するのがよいでしょう。
また、隠ぺいや偽装が疑われ、悪質な無申告や過小申告だと判断された場合は、より重い重加算税という税金が課せられるため注意が必要です。
名義預金に対して贈与税がかかるのは、名義人が財産を使った場合や特例や制度の控除額を上回っている場合です。
贈与税が発生したら、申告手続きをおこなわなければなりません。
贈与税の申告は、必要な書類の準備・計算・記入など複雑な部分もあります。
非課税特例を利用する際に、申告を忘れないよう注意も必要です。
名義預金に関連する税金について不安なことがあれば、専門家に相談しましょう。
税理士なら、適法に名義預金で贈与税をおさえ、損しなくて済む方法を知っています。
手続きを任せることもできるので安心です。
相続税の税率を求める計算は比較的簡単で、相続税の対象となる課税価格が分かっていれば簡単に求めることができます。今回は税率と計算方法、そして非課税に関して解説しま...
相続税には配偶者控除(配偶者の税額軽減制度)があり、配偶者が取得した相続財産のうち1億6,000万円または法定相続分相当額のどちらか高い方が控除できるというメリ...
不動産を相続する際に最も気になる相続税も、やり方次第で大きな節税を行うことができます。今回は相続税の計算方法や不動産を相続する際の注意点などをご紹介していきます...
ここでは相続をする人が知っておくべきことを以下の5つのポイントに沿って説明していきたいと思います。
遺産相続をすると税金がかかるのをご存知でしょうか。二次相続は一次相続と違い、配偶者控除を利用できないので多くの相続税を払う必要があります。ここでは、配偶者控除に...
税理士への相談料の相場と、費用が発生するタイミング、そして費用を抑えて賢く税理士を利用するためにはどうすれば良いのかをご紹介していきます。
遺産相続によって相続税の支払いが必要になることは理解しているものの、何から手をつけてよいのかわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。本記事では、相続税...
相続税の申告手続きは、相続人自らがおこなう必要があります。しかし、相続財産の内訳や相続・遺贈の状況、法定相続人の数によって、相続税の申告手続きは異なります。本記...
相続税対策の代表例としては生前贈与が挙げられます。しかし相続や贈与にはさまざまな非課税枠が設けられており、状況に応じた適切な判断が必要となります。この記事では、...
代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)とは、代襲相続が起こった際に本来の相続人に代わって相続人になった「本来の相続人の子」などのことをいい、代襲者(だいしゅうしゃ...
相続税を申告したあとに申告漏れが発覚した場合、追加申告をおこなわなければなりません。 すでに申告した相続税の計算などが間違っていたときであっても、あとから新し...
相続税は相続人が自ら計算し、申告・納税する必要があります。しかし、相続財産に土地が含まれている場合は評価額の計算が煩雑になるため、手が止まってしまう人も少なくあ...
子どもや孫のために名義預金をおこなっている方は多いでしょう。名義預金は自分以外の名義口座に預金をするため、一見手軽に贈与ができる手段のように思えます。なるべく税...
相続や遺贈によって財産を得た人が支払う可能性がある相続税ですが、相続人が相続放棄をすることもあります。相続放棄をする場合には相続税を支払う必要があるのでしょうか...
相続税の申告は非常に難解かつ複雑で、専門家である税理士に依頼することが多いです。税理士への依頼をする場合に問題となるのが税理士費用です。税理士費用の相場はいくら...
金銭を請求する権利である金銭債権については時効の制度が民法に定めれられています。では同じく国が金銭の支払いを求める相続税については時効の制度はあるでしょうか。ま...
高額な遺産をもっている場合に納める必要がある相続税ですが、家がある場合には相続税はいくらかかるのでしょうか。家がある場合の相続税がかかるかどうかの考え方や、相続...
本来相続人になれない人や、相続税対策として、養子縁組の制度を利用することがあります。養子縁組によって、子として(親としても)相続人となることができるので対策とし...
相続税において、政策的な観点などから相続税を軽減する制度が用意されています。夫婦の財産は夫婦の共有財産であることや配偶者の生活を守るという観点から定められている...
相続財産のほとんどが不動産で現金が乏しく、相続人も現金・預金があまりないような場合には、現金の一括納付が原則の相続税の納付ができないことがあります。このような場...