相続人が複数いる共同相続の場合、相続財産は相続人間の共有(民法898条)となります。
各相続人は共有する相続財産を勝手に処分できず、ほかの相続人の同意を得たうえで相続財産を管理する必要があります(民法251条以下)。
そのため、相続財産をほかの相続人の許可なく独り占めにしたり使い込んだりすることは許されません。
しかし、実際は遺産分割が適切におこなわれず、相続財産を特定の相続人が独り占めにするようなケースもあります。
この記事では、遺産を独り占めにされた場合の対処法について解説します。
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もし被相続人の銀行口座を管理されてしまった場合、有効な対策としては以下の2つがあります。
被相続人が銀行に預けている預金も、相続財産として遺産分割の対象となります(最判平成28年12月19日 Westlaw Japan 文献番号 2016WLJPCA12199002)。
そのため、被相続人の預金口座から相続人の誰かが勝手にお金を引き出すことは許されません。
この場合、被相続人が死亡したことを預金口座のある金融機関に伝えることで、金融機関が預金口座を凍結します。
凍結された預金口座は、基本的に遺産分割協議が成立するまで凍結状態が続きます。
これにより、被相続人の預金を勝手に使い込んだりすることができなくなります。
金融機関に対して、遺産分割の計算に用いるための資料として「相続発生時と現在の預金残高の残高証明書」の発行を依頼するという方法もあります。
両時点の残高証明書を発行してもらうことで、被相続人の預金額と、その後の金額や使い込みの有無などを確認でき、使い込みが判明した場合は責任追及ができます。
使い込まれた遺産やほかの相続人の管理下にある遺産について、回収方法は以下のとおりです。
相続財産の共有状態を解消するため、まずは相続人間で遺産分割協議をします。
遺産分割協議の成立のためには、相続人全員の合意が必要です。
もし遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てます(民法907条2項)。
遺産分割協議や遺産分割調停では、相続人間の合意により、使い込まれた金額についても考慮して遺産分割を進めることができます。
特定の相続人が管理している遺産について、協議などをおこなって自分が取得することになった場合は引き渡しを求めることができます。
「特定の相続人が、被相続人の預金口座から勝手に引き出して私的に使用している」などの使い込みが発覚した場合、不当利得返還請求権(民法703条・704条)もしくは不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)に基づき、ほかの相続人は使い込まれた金額のうち自己の法定相続分に応じた金額を請求できます。
なお、「使い込みの事実が証拠上明らかで、相手方が財産を散逸させる可能性がある」と認められる場合は、保全手続きを利用して相手方の預金口座について仮差し押えをし、債権を保全するという方法もあります。
たとえば「財産のうちX銀行の預貯金を相続人Aに相続させる」という遺言がある場合、基本的にX銀行の預貯金は遺産分割の対象にならず、相続人Aが受け取ることになります。
このように、遺言によって財産の分割方法を指定することを「指定分割」といいます(民法908条)。
指定分割された財産は指定された相続人のものであり、ほかの相続人は原則として取り戻すことはできません。
ただし、遺言によってほかの相続人の遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求により、遺産のうち一定の割合については取り戻すことができます。
遺留分とは、「相続人に対して留保された相続財産の割合」のことをいいます。
指定分割・遺贈・一定の贈与が遺留分を侵害している場合、侵害されている相続人は侵害している相続人に対して、自身の遺留分の取り戻しを請求でき、これを遺留分侵害額請求(民法1046条)といいます。
遺留分があるのは、被相続人の配偶者・子ども・父母や祖父母などの直系尊属といった兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条)。
遺留分侵害額請求権には、「相続の開始と遺留分の侵害を知ってから1年」もしくは「相続が開始してから10年」の時効があるので注意が必要です。
なお、遺留分の請求については「遺留分減殺請求」という名称で知っている人もいるかもしれませんが、2019年に改正法が施行されたことで「遺留分侵害額請求」として名称も制度内容も変更されています。
ほかの相続人が相続財産を使い込んでしまったり、遺言によって全ての相続財産を取得したりしても、不当利得返還請求や遺留分侵害額請求などの手段で取り戻せる可能性があります。
自分の場合はいくら取り戻せるのか正しく理解し、時効が成立する前に適切に対処するためにも、まずは一度弁護士に相談することをおすすめします。
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