相続税は、国から振込用紙が送られてきて納税するのではなく、自分で申告・納税する必要があります。
しかし、相続財産に土地が含まれている場合は、計算方法が複雑になることがほとんどです。
そのため、「どの計算式を使えばよいのかわからない」「損しないポイントを知っておきたい」など、さまざまな不安や疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、相続税申告のための土地評価額の計算方法について解説します。
相続財産に土地が含まれている場合は、相続税の算定時に土地評価額を求める必要があります。
土地の相続税評価額の計算方法は、路線価方式と倍率方式の2種類です。
相続する土地によって適用される方式が異なるので、それぞれ詳しくみていきましょう。
路線価方式は、住宅街や商業地にある土地に対して適用されることの多い評価方法です。
路線価とは、道路に面している土地の1㎡あたりの評価額を指します。
つまり、路線価に土地面積をかけることで、相続税評価額を算出できるわけです。
なお、土地の路線価は国税庁が路線価図のなかで公表しており、毎年7月に更新されます。
倍率方式は、山林や農地などの路線価が設定されていない土地に対して適用される評価方法です。
土地の固定資産税評価額に評価倍率をかけることで、相続税評価額を算出できます。
固定資産税評価額とは、固定資産税を算出する際の基準となる価格のことです。
固定資産税評価額と相続税評価額では、役割が異なる点に注意しておきましょう。
なお、評価倍率は、国税庁が公表している評価倍率表で確認できます。
土地の相続税評価額を計算するためには、事前準備が必要です。
主に2つのステップがあるので、詳しく解説します。
まずは、土地の相続税評価額を算出する際に用いる書類を集めましょう。
主には、固定資産税の納税通知書と登記簿謄本を用意する必要があります。
土地の相続税評価額を算出するには、固定資産税の納税通知書が必要です。
固定資産税の納税通知書をみれば、土地の面積を確認することができます。
4月~5月頃に自治体から送付されるはずなので、大切に保管しておきましょう。
土地の相続税評価額を算出する際には、登記簿謄本も用意しておく必要があります。
登記簿謄本をみれば、土地の持分割合を確認することが可能です。
登記簿謄本は土地の所在地に関わらず、全国の法務局で取得できます。
窓口申請だけでなく、郵送申請やオンライン申請にも対応しているので有効に活用しましょう。
土地の相続税評価額を求める際には、路線価方式と倍率方式のどちらが適用されるかを、まず最初に把握しておく必要があります。
国税庁の路線価図を確認し、土地に面する道路に路線価が記載されていれば「路線価方式」、それ以外は「倍率方式」を適用します。
なお、路線価地域だった土地が、翌年には倍率地域に変更されているケースもあるので、必ず最新情報を確認するようにしてください。
路線価方式の場合、土地の相続税評価額は以下の計算式で算出します。
路線価は、国税庁ホームページにある路線価図で確認できます。
例えば、「150C」と記載された道路に面する土地は、1㎡あたり15万円で評価されているということです。
地積100㎡・持分100%だとすれば「100㎡×1/1×15万円=1,500万円」が相続税評価額になります。
なお、アルファベットは借地権割合を示します。
詳しくは後述しますが、土地を借りている場合は、アルファベットに応じた借地権割合を乗じることで、相続税評価額を減額することができます。
倍率方式の場合、土地の相続税評価額は以下の計算式で算出します。
倍率は、国税庁ホームページにある倍率表で確認しましょう。
土地の地目ごとに記載されている数字が倍率です。
なお、登記簿上は農地となっている土地を宅地として利用しているケースなど、登記地目と現況地目が異なる場合は現況地目が優先されます。
相続税の土地評価額は、上述したような基本的な計算式だけで算出できないケースも数多くあります。
相続税評価額を算定する際には、さまざまな増額補正・減額補正を加味しなければならないためです。
ここでは、代表的な減額要素を解説するので、損をしないためにもぜひ参考にしてみてください。
アパートや貸家の敷地に使われている土地を相続した場合は、相続税評価額が減額されます。
自由に取り壊したり、売却したりできないことから、一定の制限がかかっている土地とみなされるためです。
貸家建付地の相続税評価額は、以下の計算式で算出します。
自用地評価額は、本来の相続税評価額のことです。
借地権割合は、国税庁ホームページの路線価図で確認できます。
「150C」の「C」のように、数字のあとに続くアルファベットに応じて、以下のとおり借地権割合が定められています。
アルファベット |
A |
B |
C |
D |
E |
F |
G |
借地権割合 |
90% |
80% |
70% |
60% |
50% |
40% |
30% |
借家権割合は都道府県ごとに国税庁が定めていますが、現在は全国一律30%です。
例えば、自用地評価額3,000万円、借地権割合40%、借家権割合30%の土地を相続した場合は「3,000万円-(3,000万円×40%×30%)=2,640万円」となり、本来の相続税評価額から12%減額されることになります。
地主から借りている土地を相続する場合は、「借地権」を相続することになります。
借地権は相続税の課税対象となりますが、相続税評価額の算定時には減額が認められます。
借地権の相続税評価額の計算式は、以下のとおりです。
借地権割合は、路線価図や倍率表で確認できます。
他者に貸している土地を相続する場合も、相続税評価額を減額することができます。
貸宅地の相続税評価額の計算式は、以下のとおりです。
なお、家族などに無償で貸している土地に関しては、本来の相続税評価額をそのまま使用します。
相続税の土地評価額は、土地の形状や接道などによっても変動します。
例えば、以下のような土地は評価額の減額補正を適用するケースが一般的です。
それぞれ減額幅に違いがあるほか、複数の減額補正を適用できる場合もあります。
詳細は、国税庁ホームページで確認してみてください。
とはいえ、相続した土地にどの減額補正を適用できるのか、適切に判断することは難しいでしょう。
減額補正は相続税を節税するための重要な要素なので、専門家のアドバイスを受けることが大切です。
宅地を相続した場合は、「小規模宅地等の特例」を適用できるかもしれません。
「小規模宅地等の特例」とは、被相続人などから自宅用・事業用・貸付用の土地を相続した場合に、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
利用区分 |
具体例 |
特例が適用される 面積の上限 |
減額割合 |
特定居住用宅地等 |
戸建・分譲マンションなどの自宅が建っている土地 |
400㎡ |
80% |
特定事業用宅地等 |
店舗経営などの事業のために使用していた土地 |
200㎡ |
50% |
貸付事業用宅地等 |
不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業などのために使用していた土地 |
330㎡ |
80% |
例えば、被相続人が自宅を建てていた土地150㎡を1億円で一人で相続したとしましょう。
この場合、「特定居住用宅地等」の利用区分にあたり、限界面積に収まっているため、基本的な計算式は「1億円×(1-0.8)=2,000万円」となります。
すると、相続税の基礎控除額3,600万円以下になるため、課税額は0円です。
なお、「小規模宅地等の特例」を適用するには、相続税の申告を期限内におこなう必要があります。
最後に、相続税の土地評価額に関するよくある質問を紹介します。
時価・相続税評価額・固定資産評価額には、主に以下のような違いがあります。
つまり、「時価:相続税評価額:固定資産罪評価額=10:8:7」の法則が成り立つので、いずれかひとつの価格がわかれば、ほかの価格についてもある程度の目安を立てることができます。
私道は用途に応じて「公共の用に供するもの」と「専ら特定の者の通行の用に供するもの」に分類され、それぞれ評価方法が異なります。
私道の用途 |
具体例 |
評価方法 |
公共の用に供するもの |
・公道間を通り抜けできる私道 ・公共施設などにつながる私道 ・バスの停留所などがある私道 |
評価しない(評価額0円) |
専ら特定の者の通行の用に供するもの |
・行き止まりの私道 |
路線価方式または倍率方式で算出した価額に30%を乗じる |
私道は宅地として利用できないため、その分利用価値が低く、相続税評価額も減額されることを覚えておきましょう。
本記事では土地を相続する場合の相続税評価額について解説しました。
しかし、土地の相続税評価額を計算する過程は非常に複雑なので、自力で対応しようとすると、膨大な手間と時間がかかってしまいます。
また、計算を誤ったり、減額補正をうまく適用できなかったりした場合には、必要以上の税金を支払うことにもなりかねません。
そのため、相続財産に土地が含まれている場合は、まず専門家に相談することをおすすめします。
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