親から遺産を相続することになったものの、美術品や骨董品が含まれており、扱いに困っているという方もいるのではないでしょうか。
美術品や骨董品は、相続税の課税対象になります。
適切に処理しなければ損したり、税制上のペナルティを受けたりする可能性もあるので、相続上の基本知識を押さえたうえで手続きを進めることが重要です。
本記事では、美術品や骨董品が相続財産に含まれているときに、評価額を確認する方法や生前にできる相続税対策を解説します。
記事を最後まで読めば、美術品や骨董品の扱いに困らずスムーズに相続手続きを進められるでしょう。
相続財産に美術品があったときは、以下の3つが相続手続きのポイントになります。
それぞれの注意点などを詳しく解説します。
美術品や骨董品は相続税の課税対象です。
例えば、以下のようなものを相続した場合は、慎重に相続税の計算を進める必要があります。
詳しくは後述しますが、本来の価値よりも少ない金額で申告したり、申告そのものを怠ったりすると、税金逃れとみなされペナルティを受けるおそれがあります。
くれぐれも、ペナルティを受ける行為をおこなわないよう注意しましょう。
美術品の評価額を算出する際は、相続開始時点の時価を参考にします。
購入時ではなく、被相続人が亡くなったタイミングでの価値が重視される点に注意しておきましょう。
例えば、購入価格が100万円でも、被相続人が亡くなった時点で10万円の価値しかなければ評価額は10万円です。
反対に、購入時は数万円で手に入れたものでも、年月とともに価値が上がり、被相続人が亡くなった時点で1,000万円の値がついていれば、評価額は1,000万円になります。
とはいえ、時価の算定は、なかなか自力でできるものではありません。
古美術商などプロに鑑定してもらうのがもっとも確実で早いでしょう。
美術品や骨董品の評価額が5万円以下なら、申告の際に家庭用財産として一括計上できます。
つまり、個別に申告する必要はありません。
申告書には、家電や家具などとまとめて「家財一式50万円」などと記載することになります。
美術品の評価方法は、主に以下の2つです。
具体的にどのように評価されることになるのか、それぞれ解説します。
美術品を評価する際には、精通者意見価格を参考にするケースが一般的です。
鑑定士や古美術商に依頼し、鑑定評価書を発行してもらいます。
専門家の査定をもとに評価額を計算するため、正確性を担保しやすい点が大きなメリットといえるでしょう。
特に、同等の美術品が市場に出回っておらず、相場さえもわからないような場合には精通者意見価格を用いるのがおすすめです。
ただし、専門家に鑑定を依頼するには以下の費用がかかります。
なお、鑑定評価書は相続税の申告書に添付します。
鑑定評価書を添付し、鑑定結果どおりの査定額を申告書に記入すれば、税務署の指摘を受けることも基本的にありません。
ただし、美術品の精通者意見価格は評価者によって変動することもあるので、どこに依頼するのかが重要です。
依頼先に迷ったときは、税理士や日本税理士協同組合連合会への相談をおすすめします。
美術品を評価する際には、購入価格や市場に出回っている同等品の販売価格などから評価額を推定する「売買実例価格」を採用するのもひとつの方法です。
以下に当てはまるなら、売買実例価格を採用してもよいでしょう。
とはいえ、高額の美術品は一点物が多く、同等品が存在しないこともあるでしょう。
より確実なのは、やはり鑑定士や古美術商に鑑定を依頼することです。
費用はかかりますが、税務調査で追徴課税を受けないための対策として、できる限り専門家の鑑定を受けることをおすすめします。
相続開始後に美術品の節税対策をおこなうことは困難です。
そのため、節税対策は生前におこなうようにしましょう。
例えば、以下のような節税対策があります。
具体的にどのような対策ができるのか、それぞれのポイントを解説します。
高額な美術品を所有している場合は、生前に売却しておくのもよいでしょう。
現金化しておくことで、相続の際に時価を調査したり鑑定を依頼したりといった手間がかからなくなります。
また、現金であれば公平に分割しやすいため、もめにくいでしょう。
そのほか、相続税の納税資金として利用できる点もメリットです。
ただし、売却によって利益が生じたときは、譲渡所得に対して所得税が課税される点に注意が必要です。
譲渡所得の基本的な計算方法は、以下のとおりです。
譲渡所得=売却金額ー(取得費+売却に直接かかった費用)ー特別控除(最大50万円) |
美術品の所有期間が5年以内であれば上記の計算式で算出した金額がそのまま譲渡所得になりますが、所有期間が5年を超えていれば、上記で算出した金額を2分の1にできます。
なお、当時の購入金額がわからないときは、売却金額の5%を取得費として扱います。
取得費を5%で計算すると損をする可能性もあるので、売買契約書や登記費用の領収書など、取得費がわかる書類はきちんと保管しておきましょう。
高額な相続税がかかる可能性があるときは、美術品を生前贈与するのもひとつの手段です。
生前贈与では贈与税が発生し、課税方法には暦年課税と相続時精算課税の2パターンが存在します。
暦年課税を選択した場合、贈与される財産が年間100万円以下であれば、贈与税は課税されません。
18歳以上の子どもや孫が父母・祖父母から財産を譲り受ける際は、相続時精算課税も選択することも可能です。
累計2,500万円以下であれば贈与税が猶予され、相続税で精算できます。
また、相続時精算課税には2,500万円とは別に、年間110万円の非課税枠がある点もポイントです。
暦年贈与・相続時精算課税制度については、以下の記事を参考にしてください。
美術品を保有している場合は、美術館と寄託契約を結び、管理・保管を依頼するのもよいでしょう。
重要文化財の美術工芸品や登録有形文化財のうち一定の条件を満たした美術品を寄託しておけば、課税価格の80%にあたる相続税の納付が猶予されます。
さらに、寄託された美術品の相続人が死亡した場合や、寄託された美術品を寄贈した場合などは、猶予されていた相続税が免除されます。
美術品を国や自治体に寄贈すると、相続税が非課税になります。
ただし、必ずしも寄贈が受け入れられるとは限らない点に注意が必要です。
まず、一定の文化的価値をもつ美術品でなければ難しいでしょう。
また、原則として相続税の申告期限である「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内」に寄贈しなければなりません。
なお、美術館や博物館に預ける「寄託」とは異なり、「寄贈」の場合は美術品の所有権が国や自治体に移ります。
美術品が相続財産に含まれているときは、以下の3つに注意しましょう。
あとで後悔しないためにも、それぞれのポイントをしっかりと押さえておきましょう。
美術品の鑑定料は、相続人が全額で負担するのが一般的です。
また、控除の対象にもなりません。
しかし、鑑定士や古美術商に鑑定を依頼し正しく評価してもらうことは、トラブルを回避することにつながります。
追徴課税などのリスクを考えれば、費用をかけてでも専門家に鑑定してもらうべきでしょう。
高額な美術品ほど、税務調査の標的になる可能性が高いことを念頭に置いておきましょう。
美術品は正しい価値の把握が難しいことから、評価額の妥当性が問題になりやすいためです。
税金逃れをするつもりがなくても、評価の仕方や申告の際のミスなどで追徴課税を受ける可能性があります。
とくに高額な美術品がある場合は、相続手続きを慎重に進める必要があるでしょう。
美術品の申告漏れが発覚した場合、以下のペナルティが生じる点にも注意が必要です。
課税される税金 | 税率 |
---|---|
延滞税 | ・自主的に申告した場合:5% ・税務署の調査による通知前に申告した場合:10%~15% ・税務署の調査による通知後に申告した場合:15%~20% |
無申告加算税 | ・納付期限から2ヵ月以内: 年7.3%または延滞時特例基準割合+1%のうち低い割合 ・納付期限から2ヵ月以上: 年14.6%または延滞時特例基準割合+7.3%のうち低い割合 |
過少申告加算税 | ・50万円未満:10% ・50万円超:15% |
重加算税 | ・申告書を提出している場合:35% ・申告書を提出していない場合:40% |
気をつけていても、うっかり申告期限を過ぎてしまったり申告内容に漏れがあったりといったことは起こり得るので、できるだけ早い段階で専門家に相談しておくことが大切です。
美術品は相続税の課税対象となるため、精通者意見価格や売買実例価格などを参考にしながら、評価額を適切に算出しなければなりません。
申告漏れが発覚すると無申告加算税や延滞税、過少申告加算税などが課税され、仮装・隠ぺいがあり悪質であると判断されればさらに重いペナルティである重加算税の対象になります。
気をつけていても、ミスによって追徴課税を受ける可能性があるため、不安な場合はまず税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
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